早朝
周三は敵にも味方にも犠牲が出ない方法を
敵将ギヨクと話し合あった。
そんな時、交渉の場に軍監のカエデが入ってきた。
ギヨクは真剣勝負の一騎打ちで
勝敗を決する事を周三に提案してきた。
周三は剣に自信がないのでギヨクの提案を一蹴した。
別の方法を考える事になりカエデがギヨクに切腹を薦める。
ギヨクは切腹を拒否して一騎打ちで
わざと周三に負けると改めて一騎打ちを提案する。
周三は眠くて早く帰りたい気持ちが強くて
ギヨクのわがままに流される形で承諾したのだった。
「では、勇者殿と
今、確かに一騎打ちのお約束を交わしました。」と
ギヨクは満面の笑みで周三に言った。
周三はふと何か忘れてる気がして考えた。
周三はすぐに気付くとギヨクに
「あの。ギヨク将軍。
もしも真剣勝負を受けて俺が一騎打ちで負けたとしたら
俺の軍は皆殺しにしてしまうつもりでしたか?」と訊ねた。
ギヨク将軍は首を横に振って
「我が軍の全員の命を助けてくれるという勇者殿の誠意を仇で返す気は
わしにはござらん。勇者殿の兵の命は全員保障しますが
しかし手土産も無しに帰国してもわしらの命は保障されますまい。
こんな事を言うのは大変心苦しいのですが
勇者殿の首級だけは頂くつもりでございました。」と言った。
「俺の首をとっちゃう気だったの?」と周三は本気でビビった。
「いかにも。わしはわざと負けるので
その心配はもうありませんな。あはははは!」とギヨクは笑った。
さっきまでピーピー泣いてたと思えば
いきなり好き勝手なことばかり提案してきて
このおっさん本気でしばいたろか!と周三は心の中で憤慨した。
「わかりました。では、どのような形式で一騎打ちをしますか?」と
かなり周三は怒りを抑えながら詳細を訊ねた。
「では、証人を立てねばなりませんが、それは全軍の前で
一騎打ちをすれば証人を立てる必要は無いでしょう。
後日、両軍が相見えた時に
両軍の丁度中間地点の上空で一騎打ちを行ないましょう。
勇者殿に空を飛ぶ手段が無いのであれば
船1隻を中央に出して頂けばわしもその船の上で
戦いまするがいかがなさるか?」とギヨクに問われた。
「ちょっとロアンさんと相談します。」と周三は
ギヨクに交渉の一時中断を申し出てロアンの方を向いた。
「ロアンさん。ギヨク将軍と一騎打ちをする事になりました。
ギヨク将軍は俺にわざと負けてくれるそうです。
一騎打ちは空中で戦うか船上で戦うかの
どちらかを選べってギヨク将軍が言ってるんですが
どっちがいいでしょう?」
「一騎打ち。なるほどそういうことに決まったのですか。
一騎打ちには飛び道具や魔法などの
遠距離系の攻撃は使用可能なのでしょうか?」と訊いてきた。
「魔法だけ禁止だそうです。」
「では間違いなく空中でしょうね。
ギヨク将軍は船の上でも空を飛べますから広く空間を使えますが
シュウは船の甲板の限られた空間しか使えません。
ギヨク将軍にシュウの剣の届かない所からでも
攻撃できる手段があるならこちらがジリ貧になる恐れがあります。
例えばギヨク将軍が
弓の名手などですとかなりやっかいですね。
わざと負けてくれると言っても相手に有利な状況に
自分を置くのはよろしくないでしょう。
相手が不利な状況にあるとギヨク将軍に欲がでて本気で
向かってこないともかぎりません。」と答えた。
「でも、俺は空が飛べないです。」と周三は泣きそうな顔で言うと
「アルフレッドに手伝っていただきましょう。」とロアンは答えた。
「え!?アルフレッドが手伝ってくれるんですか!
それなら助かりますけれど
俺はアルフレッドを操る自信がありません。」
「アルフレッドに空中の位置取りを全て任せればいいです。
シュウは剣術のみに集中していればいいと思います。
アルフレッドは空中戦では百戦錬磨のつわものですので
シュウは鞍から落ちないようにさえしていればアルフレッドは
上空で不利な位置取りは絶対しないはずです。」と
ロアンが自信を有り気に応えた。
「では、それで行きましょう。
まだまだ一騎打ちには時間があるので
上空で鞍から落ちないように
アルフレッドと空中戦の練習をしてもいいですか?」
「もちろんです。」とロアンが応えた。
「ありがとうございます。ではギヨク将軍に
一騎打ちは空中戦にすると伝えます。」とロアンに
言うと周三はギヨクの方を向いて
「ではギヨク将軍。一騎打ちは空中戦でお願いします。」と言った。
その答えにギヨクは意外そうな顔をしたあとにニヤリとした顔で
「勇者殿は空中戦でよろしいのですな。
剣がわしに届くように練習はしてこられた方がよろしい。」
周三はなんか不安になってきた。本当に空でよかったのかな?
ま。しゃあない。決めちゃったし。と気持ちを切り替えて
「もちろん練習してきます。
では、次にお会いする時は一騎打ちですね。
お手柔らかに早く負けてくださいね。
ギヨク将軍は必ずわざと負けてくださいよ。」とギヨクに念を押す。
周三はギヨク将軍にわざと負けてくれる約束の事を
執拗にアピールしていたのだが
「勇者殿、お互い悔いの残らぬよう頑張りましょうぞ!
あっはははは!」とギヨクはご機嫌な様子で笑ってた。
おっさん空気読め!と周三は心の中で強くギヨクを非難した。
このおっさんと話をしていたら調子が狂う。
カエデさんが後でちゃんと約束を守るように言い聞かせるだろう。
そう周三は考えると早く帰ろうと思った。
「じゃ。俺たちはそろそろ帰りますね。」
「勇者殿とお会いしてお話が出来て本当に良かった。
わざわざお越し頂き感謝しております。
勇者殿に大魔法は解除され武人の面目を失ったわしに
男になる機会を与えてくだされた。
ご器量の大きさはカンベインを遥かに凌駕しておると思いましたぞ。
近日、戦場で相見えるのが楽しみでございます。」と
ギヨクは嬉しそうだった。
もしかしたらこのおっさんにハメられたんじゃないか。と
周三は不安が大きくなってきた。
最初の小物ぶりが嘘かのようにギヨクは堂々としていた。
「はい。ギヨク将軍また後日よろしくお願いします。」と
周三は気のない返事すると
「ロアンさん。どっから帰ろうか?もう壁の穴から見える外は
かなり明るいんやけど大丈夫かな。」と周三は自分が魔法で
空けた壁の穴を見ながらロアンに訊ねた。
「では、むしろこの穴から出ましょうか。」とロアンは答えた。
周三はギヨクに向かって「では、ギヨク将軍。
このマントはお借りしていたものなのでお返しします。」と言って
周三とロアンはマントを脱いで床に置いた。
周三は自分の軍服をクンクンと匂うとやっぱり臭くなっていた。
左の壁の穴まで行くとコパンが近づいてきて周三に小声で
「勇者殿。ギヨク将軍は兵士に大変に人気がございます。
勇者殿が勝利したらわが軍の兵が暴挙に出るやもしれません。
くれぐれも油断なきように軍を配置なさってくださいませ。
一兵でも一騎打ちでの作法を破って敵軍と交戦をしてしまえば
わが軍が全滅するか敵軍に勝たなければ
帰国いたしても一騎打ちは無効として敗戦責任を問われまする。
それではわが軍の兵は家族郎党と共に皆、処刑されるでしょう。
一騎打ちに水を差すのは無粋であると理屈ではわかっていても
悪魔は感情や雰囲気に流されやすい。
特に下級兵士は勢い任せにその場の感情で暴発しかねません。」と
困った顔をして言ってきた。話が重たいなぁ。と周三はうんざりした。
「そうならないようにギヨク将軍やコパンさんの
指導力に期待します。そこまで俺は面倒みきれません。
すんません。」と周三はコパンに返事した。
「いえ、敵軍の将である勇者殿に話すべき事ではありませんでした。
ただの愚痴だとお聞き流しください。はははは。」とコパンは笑った。
じゃあ最初から言うなよ。と周三は心の中で少しだけイラっとした。
カエデが椅子から立ち上がると周三の側に立った。
「気をつけて帰りなよ。この戦いが終わったら
勇者殿に会いに行ってもいいかい?」
「もちろんです。カエデさんは好きなので。」
「うれしいねぇ。フェンティーアには
2度行ったことがあるんだよ。美しい国だよね。
久々にフェンティーアを観光したい。」
「ご一緒しますよ。たぶん、戦いが終わったら俺は暇なので。」
「楽しみにしてるよ。あと、ギヨクにはわざと負けるように
よく言い聞かせておくがわたしも所詮はよそ者なんでね。
あいつは何しでかすかわからないとこがあるから
警戒だけはしっかりとしておくんだよ。」
「ありがとうございます。
ギヨク将軍はわざと負けると言い切ったのですから
その約束を守らない時は軍艦の機関砲で蜂の巣にしますね。
カエデさんはもしもギヨク将軍が約束を破って
自分勝手な行動をして全軍が戦闘状態に
突入したらどうされるのですか?」
「わたしは軍の監督役だから遠めの位置に
自分の船を置いて傍観するよ。
本国に報告するのがわたしの仕事だから
この軍がどうなろうとも
最後まで見守って本国に帰還するつもりさ。」
「では、カエデさんの船だけは見逃すので安心してください。」
「それは助かる。勇者殿、これからもよろしく。」
「こちらこそ。」
そういってカエデと周三は固い握手を交わした。
「では、シュウ。
この穴から飛び降りて頂いて大丈夫です。」とロアンが言った。
それを聞いた周三は
「では、ギヨク将軍、コパンさん、カエデさんさようなら。」と
挨拶すると自分で作った壁の穴から海に飛び降りた。
ロアンはギヨク、コパン、カエデの3人に会釈すると周三に続いた。
周三は飛び降りてみると海面から結構な高さであった。
周三は着地の衝撃で膝をやられるのではと心配したが
海面に着地してみると海面はクッションが効いていて助かった。
ロアンの精霊魔術で海面は床のように足をつけて立っていられた。
ロアンも海面に着地すると周三とロアンの周囲の水が
浮き上がって2人を包み込むと球体状なった。
球体は2人を包んだまま海に沈んだ。
空気を閉じ込めた状態で海中を軍船団の進行方向を
逆行して軍船団の後方へと移動している。
海中を移動したのは
ほかの軍船に自分たちの姿を目撃させないためだった。
「水の精霊さんのチカラは便利ですね。
これはかなりロマンのある移動方法だと思います。」と周三は
朝日が差し込む海中の景色を見ながら言った。
「気に入ってもらえたならうれしいです。」
軍船団が前方へと遠くになると球体が海面に浮き上がった。
球体は弾けて2人はまた海面の上に足をつけた。
ロアンが首にかけていた小さな笛を
胸元から取り出して、ピーっと勢いよく吹いた。
するとグリフォンが遠くから飛んできて
海面の上空で止まりゆっくりと海面に降りてきた。
辺りはだいぶ朝日が昇っていて明るい。
周三とロアンはヘルメットとゴーグルを装着すると
グリフォンの背に乗った。
また何時間も過酷な空の移動が待ってるのかと思うと
周三はゾッとする思いがした。
ロアンが周三の腰のベルトに命綱を取り付けた。
「では、いきましょう!
シュウは取っ手の手すりをしっかり持っていてください。」
ロアンの出発の合図に
グリフォンはゆっくりと空に上昇していった。
そしてある程度の高度に上昇すると前方にものすごく加速し始めた。
周三は両手で馬具の取っ手を握り締めた。
グリフォンは敵軍船団を上空からあっという間に追い越すと
フェンティーア北部にいるであろう連合軍軍船団の
旗艦である軍艦フェンティーア号に向かって飛行した。
周三は眠気と疲労に耐えながら
ふと、一騎打ちをするって事は実はものすごく大変な決断を
したのではないかと後から恐怖がこみ上げてきたのだった。
こんばんは。




