ギヨク将軍の決意
周三とロアンは敵の将軍ギヨクと副将コパンと
停戦に向けての交渉を行なう。周三は穏便にこの戦争を
無かった事にできないかと提案するも副将コパンはそれは無理だと言う。
すると将軍ギヨクが自分が犠牲になると提案するのであった。
そこに影の軍船団の監督役の雇われ軍監カエデが会談に参加する。
軍の責任者はギヨクだが軍の監督役のカエデの方が
軍での地位は高いようだった。
周三はカエデと軽く挨拶程度のトークをした。
カエデは「そろそろ本題に入ろうか。」と交渉の再開を促した。
「そうですね。交渉を再開しましょう。」
カエデが交渉の再開を促してきたので了承した。
「よし。じゃ、ロアンさんには悪いが今からは
第二大陸の言葉で話すよ。いいね。」
「どうぞ。シュウが判断に迷う時はきっとわたしに相談するでしょう。
その時に内容をシュウから聞くので問題はありません。」
ロアンはカエデにそう言って微笑んだ。
周三はロアンを見て頷くとギヨクの顔を見た。
「では、交渉を再開します。
ギヨク将軍は自分ひとりが犠牲になると
先ほど発言なさいましたがそれはどういう意味ですか?」
周三はそう言ってギヨクに目を向けた。
ギヨクはなんだか清清しい表情をしている。
思いっきり泣いたのでスッキリしたのだろうか。
ギヨクは周三の質問に答えようと口を開いた。
「勇者殿、それはですな。
本来、この船隊の兵士たちの命の心配をするのは
提督であるわしの役目でしょう。
ですが勇者殿ばかりがわしの部下の命の心配しておる。
おかしな話ではありませんか。
この軍の将としての面目がありませぬ。
それで提案なのですが悪魔の戦いにも
一騎打ちという慣わしがございます。
武将同士が戦って負けた将の兵は無抵抗に殺される決まりなのですが
一騎打ちのしきたりでは負けた将の兵は勝った将に所有権が移る。
ですのでわしと勇者殿が一騎打ちを行ないわしを倒す事ができれば
わしの軍は勇者殿の所有物となります。
勇者殿が所有物をどう扱うかは
ご自由ですので国に帰れと言われれば従うでしょう。
それは軍の所有者がルシカル王から
勇者に移っておりますので帰国しても生殺与奪権は
建前の上ではルシカル王にはありません。
改めてルシカル王がその軍を配下に加えたら
もちろん生殺与奪権はルシカル王に戻りますが
そこから改めて処刑するなんて事にはならないはずです。
敗戦の責任は一騎打ちに負けて兵が勇者殿の所有物になった時点で
わが軍は責任は取ったわけですから
その時点でわしの軍にはもう責任はありませんからな。
この方法なら勇者殿が願う戦争の結末に近い形ではございませんか。」
ギヨクのこの提案に周三はすごく悩んだ。
自分の剣の実力に自信が無いのが周三が悩む原因の9割ではあるが
ギヨクと会話を交わした事で敵意が失せてもう沸いてこない。
ギヨクを斬るなんて覚悟を周三はできそうにないと思った。
そんな覚悟があるなら周三はそもそも話し合いなどしなかっただろう。
戦争としては完全に周三が率いる連合軍が形勢有利だ。
敵の陣形はわかっている。
ギヨクの船隊の陣形は魔法核が消失していても
消失の事実を兵士たちには秘匿するので
魔法陣の陣形を維持し続けなければならない。
手足を縛ったように不自由なギヨクの軍船団を
こちらの連合軍は全軍で包囲して殲滅すればいいだけだ。
だが、圧倒的に連合軍が有利とはいえど
連合軍も無傷というわけにはいかない可能性もある。
周三はギヨクの話を詳しく掘り下げることにした。
「一騎打ちでは将軍の命は奪わないといけないのでしょうか?」
周三はギヨクに一騎打ちについての決め事についての質問した。
「命を奪わないと勝負が決さないのが普通ですな。
わしは真剣勝負を装って、わざと負けたりはいたしません。
武人の誇りにかけて勇者殿と戦いとうございます。
先ほどはお見苦しい姿を勇者殿に見せましたが
これでもわしはカンベインに負けてからも
500年の間、戦場を戦って生きぬいて参りました。
わしは勇者カンベインに恐れて戦う事すらできなかった昔の
わしから決別する為に次世代の勇者殿と本気で戦いたい。
勇者殿には本気でわしと戦っていただきたい。
たとえそれでわしが勇者殿に
一瞬で命が奪われようとわしは恨みなどしません。
一騎打ちの作法は勇者殿にも守ってもらいますぞ。
勇者殿が負ければ勇者殿の軍はわしらの所有物になりまする。
その約束事が交わされて初めて一騎打ちの作法が成立します。
この一騎打ちはわしらの降伏の意思ではござらん。
一発逆転を狙った戦略でもあるとおぼしめしください。
勇者軍を壊滅させたとなればわしらの軍は凱旋帰国できますからな。
一騎打ちはできれば武芸のみの勝負でお願いしたい。
勇者殿に魔術を使われたらわしは
見せ場もなく倒されそうな気がするのでな。
武術でなら勇者になりたての勇者殿には経験の差で
運が良ければ一本くらい取れるやもしれませぬぞ。
この条件では勇者殿はご不満でございましょうか?」
周三はギヨクの一方的な提案に頭を悩ませた。
ここに来てそこそこ時間がたってるので外は朝になっているかもな。
早く交渉を進めていかないとあかんのになぁ。
周三はそう思いながらも一騎打ちへの踏ん切りがつかない。
それは周三には武術の自信が無いからである。
だからと言って魔術の自信があるというわけでもない。
でもここで逃げたら敵にも味方にも死人が出る。
考えてみたら戦争なんだし死人が出るのが当たり前とちゃうん?
もう俺は軍艦の中でのんびり勝ち戦を見物しててもいいんちゃう?
なんか俺だけすごく頑張ってる気がしてきた。
俺は大魔法も解除したし、敵ともこうやって
平和的解決を模索しながら交渉もした。
戦争はチームワークやってロアンさんも言ってた。
あとはうちの連合軍の軍人さんたちを信じて
全てを任せてもええんちゃうやろか。
周三は頭の中で、俺もうゴールしてもいいよね。という気分になった。
期待の目でギヨクは周三の様子を伺っている。
周三はパっと目を開けると口を開いた。
「ギヨク将軍、はっきり言って不満です。
一騎打ちなんてお断りです。他に方法は無いですか?」
周三は悪びれない態度でギヨクの提案を一蹴した。
俺は聖人君子ではない。
もちろん他人の命は大事だ。でも、自分の命はもっと大事だ。
勇者っていうのは勇者が個人的に何かに立ち向かう人の事であって
世界のみんなを愛と慈悲で救う救世主様では無いと思うねん。
ここで一騎打ちを断る事で連合軍と軍船団との直接対決になって
大事な仲間が1人でも死んだりしたら確かに俺は後悔するやろう。
でも、俺が一騎打ちでもし負けたら
誰も救えないし俺は後悔しか残らない。
同じ後悔するなら俺らしい選択をして後悔したい。と周三は思ったのだ。
ギヨクは唖然とした顔で周三を見ていた。
コパンは目を閉じていた。
カエデは笑うのを堪えて肩が震えていた。
その場は沈黙が支配した。
笑うのを堪えていたカエデが耐えきれず大きな声で笑い出した。
「あはははは。ほんとおかしい。あはははは。
勇者殿は素直でいいな。この仕事が終わったら
次は勇者様に雇われたいわ。あははははは。」
ギヨクはカエデに抗議の目を向けた。
「ギヨク、一人で盛り上がってて肩透かしを食らって悔しいのかい。
ギヨクは勇者殿の甘い考えに油断して暴走したんだね。
勇者殿に甘えた事を言うなんてギヨクもまだまだ青いね。」
ギヨクはムッとした顔をした。
「軍監殿、その物言いは失礼ではないか。
わしが勇者殿に何を甘えてると言うのじゃ。
お互いの筋を通すために男同士一対一で
剣を交えようという提案のどこが甘えなのじゃ。」
「それが甘えじゃないの。
勇者殿と剣を交えたい理由が
過去にカンベインに刻まれた劣等感とか言ってるじゃないか。
そんな事は勇者殿に関係の無い話だろ。
それに今の勇者殿の返答でわかったが
勇者殿はもう別にこの軍を
無傷で返さなくてもいいかと思い始めてるのではないか。
勇者殿はその気になればロアン殿に命じて
わたしたちを殺害する事だってできるんだよ。
大将がいなくなればこの船隊は大混乱さ。
各船はもう疲労も限界にきているこの状況で
各船の船将同士が一致団結して
玉砕覚悟でつっこむなんて作戦を決行する気力もないだろうさ。
作戦に必要だった魔法核が消失した時点で
わたしらは勇者殿に命乞いをする立場なんだよ。
なのに一騎打ちで一発逆転を狙うとか宣言しちゃってるし。
あたしら全員の命を保障してくれると言ってくれてる勇者殿に
ギヨクは甘えてるとしかわたしは思えないね。」
「んぐぅ。それではわしは将としての面目がたたぬではないか。
影の国の軍としての意地も見せられぬ。
軍監殿はよそ者だからそのように思うのではないのか。」」
「ほう。じゃあ、コパンはこのことをどう思うのさ。」
いきなりカエデに話を振られたコパンは困惑した表情をした。
「え。わたくしに意見を求められるのですか。
ギヨク将軍の提案は確かに自己中心的な気がしますな。
将として兵を助けたいと言いながら
隙あらば大逆転して武功を挙げたいというのは
兵の命を担保に博打をするようには聞こえます。
考えてみれば勇者殿にわしらの兵に担保的価値はありません。
そのような条件は勇者殿は当然ご不満でありましょう。
ゆえに軍監殿のご意見はごもっともでありますな。
もしもわたくしが勇者殿に
一騎打ちを提案するなら条件としては
一騎打ちでこちらはわざと負ける事で勇者殿に花を持たせる。
こちらは負けはしますがわたくしたちの軍も
勇者に立ち向かったということで軍としての面目も立ちます。
この条件でわが軍の兵のことはどうぞよしなにお頼み申し上げます。
このくらい言うのが将としては普通です。
個人的な面子にこだわるというのはちょっといただけません。」
ギヨクは立ち上がってコパンの胸倉を掴んだ。
「おい!コパン!お前はどっちの味方だ。
軍監も勇者も人間じゃないか!
悪魔のお前までが人間の味方をするのか!
副官であるお前が上官のわしをこけにしていいのか!」
ギヨクはコパンにつっかかった。
「ちょっとギヨク将軍、わたくしの首が絞まって痛いです。
副官とは言いにくい事も進言して上官をお諌めするものです。
副官の意見に逆ギレするのなら副官なんて必要がないでしょう。」
コパンは邪魔くさそうな顔でギヨクにそう言った。
周三はなんだか内輪でもめてるし、もう帰ろうかと思った。
周三はもめているギヨクとコパンに
「ちょっといいですか。」と声をかけた。
「勇者殿、なんでございますか!」とギヨクは声が荒い。
「もう帰ります。俺たちの帰りの安全の保障だけよろしくです。
数日後にまた戦場でお会いしましょう。
たぶん、戦闘中は俺は戦艦の中で寝てますので
邪魔臭いんでもう交渉とかしませんからね。」
カエデは驚いた顔を表彰で「戦艦だって!
勇者殿の軍には戦艦が配備されているのかい?」
「はい。カノレルの商船で使われてる戦艦です。」
「おいおい。マジですか。
このままじゃわたしらはただ虐殺されに行くようなもんだよ。」
カエデは狼狽した様子を見せた。
ギヨクは不思議そうな顔でカエデに向かって
「軍艦とはなんでございます?」と言って
事の重大さには何も気づいていないようだった。
「ギヨクは知らないだろうがね。
カノレルの戦艦っていう軍船はヤバいよ。
ものすごい威力の大砲がついていてね。
あの海の巨大悪魔クラーケンを一撃で
焼きイカにしちまうらしいんだ。
しかもだ。船は鋼鉄で覆われてて船は天使の法力で
対魔法障壁まで鋼板に付与されてるって話さ。
そんなバケモノとこんな古臭い船が戦えるわけないさね。」
「そのような軍船を人間は持っておるのか。
しかし、例え、どのような軍船であろうと
わしらの気合の入った飛行突撃で軍艦とやらに
取りついてしまえばそのまま軍艦の中に突入して
武力制圧してしまえば問題はなかろう。」
カエデはギヨクに軽蔑の目を向けた。
「ギヨク。あんたは一応は戦争のプロなんだろ。
想像で敵を計るなんて愚かすぎやしないかい。
相手を知らずに作戦を立てて勝てるなんて思ってるのかい?
気合いとかって精神論を持ち出してる時点で
現実逃避してんじゃないのかい?
取りついて突入?笑わせるね。
厚い鋼鉄の扉をどうやって破壊すんのさ?気合でかい?」
「わが軍の全兵力を合わせればなんとでもなるであろう。
大勢のウィザードがおるし魔法の火力を結集すれば
鋼鉄の壁くらい破壊出来ないこともあるまい。」
「なるほど、長い航海で疲労困憊の兵士全員で
突撃するんだね。気合で鋼鉄をも貫くと。
魔法障壁で魔法の威力はほぼ通らないんだよ。
まだ魔法核があればうまく立ち回れば戦えたけどね。
あ...そういうことか。なるほどね。。。。
勇者殿はそんな大きな戦力があるのになんでここに来たのか。
大魔法の情報を事前に知ってたんだろ。
最初から交渉が目的ではなく大魔法の排除が目的だったのかい。
脅威が無くなったからお情けで交渉してくださってるわけだ。」
周三は眠そうな目でカエデを見つめると
「まぁ、そうかもしれないですね。」と答えた。
周三がなんだか眠そうな様子なのでカエデは
「勇者殿、なんだ眠いのかい?
なんなら船に泊まっていくかい?」と気を使ってきた。
周三は首を横に振ってから
「寝たいです。でも、この船って布団とかベッドとかないでしょ。
座布団とかもなさそうだから床にそのままごろ寝するのは余計に
疲れがたまっちゃいそうなんで帰ってから寝ます。」と断った。
「そうかい。でも、わたしの船にはベッドもいくつかあるよ。
わたしの軍船には食べ物も沢山あるけれどどう?寄ってくかい?
勇者殿もロアン殿も疲れてそうだから按摩してやろうか?
わたしは按摩がすごく得意なんだ。」
「いや、それは魅力的な提案ですけれどその提案に乗ると
今度は帰るのが邪魔臭くなるでしょ。
まぁ、この船はいずれ味方の軍と遭遇するでしょうから
そこで現地集合って形で味方と合流するのでもいいんですけれどね。
でも、もう話合いとかしててもギヨク将軍が
あんな感じじゃ話が進まなさそうじゃないですか。
俺にも一応は立場ってのがあるんで妥協できない部分もあるし
軍の責任者なので敵の軍船でお泊りして帰るのも
ちょっと味方に不信感を抱かれたり、怒られたりするの嫌なんで。
それにもう俺は話し合いに前向きになれなくなってきてるんです。
話し合いを続けたいのでしたら
そこらへんのところをカエデさんがうまくとりまとめてくれませんか。」
「そうだね。悪魔は理屈よりも感情を優先しがちだから
キチンと理論立てて交渉するのには向かないのかな。
特にギヨクは情緒が不安定だからね。」
「軍監殿、情緒不安定とはなんでございますか。
わしがまだ恋に恋する乙女のようにいうのは無礼であろう。」
「そこまで言ってないよ。乙女ってなんの話だい。
そういう自分を詩的な主人公のように考える所が鼻につくね。
過去のトラウマが原因で
自分とうまく向き合えなくなってるんじゃないのかい。」
「馬鹿な事を申されるな。わしは原寸大の自分と向き合えておるわ。」
「そうかい。ギヨク。じゃあさ。勇者殿も時間がないようだし
ここらへんで話をまとめて建設的な交渉といこうじゃないか。」
「ほう。何か軍監殿にお考えがあるのですかな。」
「コパン、考えがあるのにはあるがその前に
理論的に判断できるように今までの内容をまとめるぞ。」
「はは。」
「はぁ、やっと話が進みそうですね。眠気で意識が飛ぶ前に
前向きな提案を期待しています。」
「ギヨク!」
「はい。軍監殿、なんでございますか。」
「先ほどおぬしは我が軍の犠牲にはわし一人でよいと
勇者殿に申しておったな。」
「はい。確かに我が軍の責任者であるわしが犠牲になるのは
当然の事と思い勇者殿へ一騎打ちを申し込みましたな。」
「そうだな。おぬしは武人の面目のために一騎打ちで
討ち死にする覚悟というのが建前であり
勇者殿に勝てたら敵軍総取りで一発逆転というのが
おぬしの提案であった。
そんなふざけた提案を勇者殿は一蹴して断った。」
「勇者殿は武人でありながら一騎打ちを断るなど
わしには信じられぬことでありますな。」
「まぁ、そういうなギヨク。
勇者殿がギヨクの一騎打ち提案を断った。
それはギヨクに勝てない可能性を考慮したのだ。
天下の勇者がギヨクに恐れをなしたのだ。
そうですね。勇者殿。」
「はい。まだ俺は新米なんでリスクは避けたいです。」
「ギヨク、勇者殿も認められたではないか。
勇者殿は素直に自分と向き合って答えを出したのだ。」
「わしが勇者殿に恐れられた。ははは。わしがか。」
「ギヨク、うれしそうだな。」
「ははは。うれしゅうないわけがなかろう。
わしは武人として絶対なる高みに憧れておったのじゃ。
その高みに君臨する勇者殿を恐れさせるとは
この世界の全ての民に自慢ができるからのぉ。」
「という事はギヨクの武人の面目は立ったわけだろ。
だったら一騎打ちする必要はなくなったではないか。」
「は?軍監殿は何が言いたいのでござる。」
「わたしの国の武人は責任を取る方法として
切腹という作法がある。
西側の国々ではハラキリと呼ばれている。」
「はぁ。それがどうしたのでございます。」
「ギヨクには切腹してもらおうかと思う。」
「は?その切腹とはどういうものでございますか。」
「切腹ですか。それは俺も知ってますが
こっちにもあるんですねぇ。」
「勇者殿もご存知なのですね。ギヨク、説明するぞ。
いま、ギヨクがしているように正座をしてだな。
小刀で横一文字に腹を切り裂くのだ。」
「なんと!自ら腹を切り裂く。そんな馬鹿な事はできませぬ。
そんな馬鹿な真似になんの意味があると申されるのか。」
「自分の責任を取って自分の命で償うためだよ。」
「軍監殿はわしに責任を取って自害しろと申されるのか。」
「ああ。そうさ。さっき、あんたは自分の首に
剣を当てて死のうとしたのをロアン殿が止めたよね。
勇者殿たちはあんたの命の恩人だよ。
その恩人の為に死ねるんだ。本望だろう。」
「ぐぬぬ。それはわしは屈辱を感じまする。」
「屈辱?意味がわからんね。
腹を切ったら痛いから怖いのかい?
だったらわたしが介錯してやるよ。
腹を切った瞬間に首を剣で落としてやる。
介錯っていうのは根性無しの武人の為の救済措置だけれどね。」
「別に痛いから嫌なのではござらぬ。
軍監殿はわしをあなどっておられるようじゃのぉ。」
「そうかい。ギヨクが本物の武人というなら
配下の兵士たちの為に切腹できるだろ。
切腹の道具の事なら心配ないよ。
小刀はわたしのを貸してやる。
介錯の剣はあんたのを使うよ。
愛剣であの世にいけるんだから問題ないだろう。」
「わしの命は勇者殿たちに救われた。
その命は無駄にはできない。
命を粗末にするような事は勇者殿にも失礼ではないか。」
「勇者殿はどう思う?」
「話が早く済むならどっちでもいいです。
ギヨク将軍は命の恩人の命を一騎打ちで奪うと
恥もなく宣言してドヤ顔する人なので
情けをかけるのが馬鹿馬鹿しくなりますよね。」
「勇者殿の許可も下りたよ。さぁギヨク、覚悟を決めな。」
「そんなぁ。勇者殿。。。。少し考えさせてくだされ。」
「ギヨク、あんたって煮え切らない男だねぇ。
だからいまだに独身なんだよ。」
「軍監殿!独身は関係ないだろ!
わしにも夫婦になろうと誓った女子は何人もおってだな。
一番愛した女子は224年前の夏の事じゃが
わしは3000人将として
影の国の南部のオスプルという拠点へ赴任する事になった。
オスプルに向かう前日に我が村で器量よしと
評判のサキュバスの。。。」
「昔話なんて聞いてないよ!年取ると昔話が多くなるのかね。
224年前って細かいね。未練がタラタラで気色悪いよ。
何よりサキュバスってビッチを代表する悪魔じゃないか。」
「なんと!ひと夏の淡い恋の思い出を未練というか!
わしの事はいい。
サキュバスのサセコ・インバイムちゃんの事を悪くいうのは許せん。
わしの愛した女性をビッチなどと愚弄するのか。
そんな言い方しかできんから
人間のくせに29歳にもなって軍監も独身なんじゃ。」
「おい。ギヨク。あんた、自害じゃなくて殺されたいのかい?
あんたを殺してからルシカル陛下には
ギヨクが謀反を起こしたからわたしが殺したって
事後報告してもいいんだよ。」
「軍監殿。。。。心から深く謝罪する。わしが大人げなかった。」
「わかりゃいいんだよ。さっさと死ね。」
「やはり軍監殿は謝っても許してはくださらないのか。」
「勇者殿、ギヨクの首を手土産にお持ちくださいな。
塩漬けにして木箱に密封しますので
血などが漏れませんし匂いの心配もないからね。
敵の総大将の首を持って帰ったら
お味方から賞賛を浴びまくりだろうよ。
わたしたちは失態を全部ギヨクのせいにするんで
処刑される事は絶対にないから。
軍監のわたしの報告が全てなんだよ。
身内が軍監だと都合よく報告を改ざんする恐れがあるから
外部から軍監を雇ってるんだ。
外部の軍監は虚偽の報告をしても
メリットがないから報告は信用される。
これで勇者殿の要望にもこたえることができたでしょ。」
「はい。カエデさんにお任せしてよかったです。
これであとはギヨク将軍が潔く自決するのを待つだけですね。」
「わしの心は決まりもうした。」
「そうかい。じゃあ小刀を渡しておくよ。」
「いや結構。わしは切腹はしませぬ。」
「もう!歯切れの悪い男だね。まだ何かあるのかい?」
「わしは一騎打ちで勇者殿にわざと負けまする。」
「あんた、一騎打ちのことにまだこだわってるのかい?
本当に気持ちの悪いフクロウだね。
勇者殿が一騎打ちは断っただろ。早く死ねよ。マジで。」
「いや、わしはまだ死ねませぬ。
勇者殿はまだ勇者になりたての新米勇者。
一騎打ちで武勇をお味方にお示しあそばすにはいい機会。
わしはその為にこの命を差し出そうではないか。
わしはわざと負ける。武人に二言はござらん。」
「二言言ってる気がするけどね。
勇者殿、ギヨクがこう言ってますがどうです?」
「もうこの将軍と一言も話したくありません。
わざと負けるって言うならそれでいいです。
俺は殺人とかしたくないんで軽く剣で叩くので
ギヨク将軍は海に落ちてください。
あとで救助しますからそれでこちらの捕虜に
なってもらいますがそれでいいのでしたら承諾しましょう。
もちろん、あとでギヨク将軍は影の国に送り返します。」
「勇者殿は本当にそれでいいのかい?」
「だってここで折れないと将軍はずっとごねるでしょ。
俺は早く帰りたいんです。本当に腹立たしいです。
俺は絶対にギヨク将軍のような大人になりたくないです。
ギヨク将軍、わざと負けると約束しましたからね。
この程度の約束さえ守れない大人だと幻滅させないでくださいね。
もしも、俺に怪我でもさせたらこの軍は無傷では
帰れなくなるんですからね。」
「勇者殿、わしを男にしてくださるか。ありがとう。」
「カエデさん、このおっさん本当に理解してますか?」
「あとでよく言っておくよ。
勇者殿、一騎打ちでギヨクを軽く剣で叩くと見せかけて
袈裟切りにして殺しても全然いいからね。」
「嫌です。初めて殺した相手がギヨク将軍というのは
俺のトラウマになりそうなので遠慮します。」
こんばんは。




