交渉
周三とロアンは敵の大規模魔法を解除した。
逃走中に敵の将軍ギヨクたちと鉢合わせするが
ロアンの助けもありギヨクを会談の席に座らせる事に成功する。
周三が勇者と名乗るとギヨクは
過去にカンベインから受けたトラウマが蘇り
精神が錯乱状態になって自らの剣で自害しようとする。
ロアンがギヨクの剣を吹き飛ばすことで自害を防いだ。
周三の説得でなんとかギヨクは我を取り戻した。
周三から過去の事情について質問されると
ギヨクは第二大陸が全大陸戦争を起こした背景や
戦争に負けてカンベインに捕虜にされて受けた心無い仕打ちを
語ったあとに子供のように大きな声で泣き崩れるのであった。
ギヨクの話を途中からは黙って聞いていた周三は
カンベインはやりすぎだな。とギヨク将軍に同情した。
それにしてもギヨク将軍の心の傷の深さは尋常ではない。
周三は異世界からこの世界に来たばかりの頃に
先代の勇者カンベインの話を中村太郎やザレムから聞かされて
カンベインというのは絶対に関わっては
いけないタイプの人間だ。と心底思ったのを思い出す。
カンベインを敵に回すなんていう恐ろしい事をして
カンベインに虐待を受けながらも生き残った悪魔が周三の目の前にいる。
周三はギヨクと戦争を避ける交渉を早く進めたかったが
ギヨク将軍に向かってカンベインに関わって生き残れたなんて
すげぇラッキーじゃないですか。ギヨク将軍はすごいっすね。
では話の本題に入りましょう。なんて軽々しくは言えない。
ただ黙って目の前のギヨク将軍が泣き止むのを待つしかない。
ギヨク将軍はしばらく大声で泣いていたが
泣き疲れて今はヒックヒックと言って床に頭を伏せた。
まだギヨク将軍は冷静に話せそうにもない雰囲気だ。
こうしてる間にも朝が近づいている。
もう日が昇りかけてるかもしれない。
ギヨク将軍は帰りの安全は保障してくれたが
口約束なので周三は出来れば外が暗い間に目立たずに帰りたかった。
軍船団内の連絡の不備とかで知らずに攻撃されて怪我するのも嫌だし
敵を傷つけるのもなんだか心苦しいと周三は思っている。
敵の悪魔と接触して直接話した事で周三の悪魔への認識は変わっていた。
悪魔は残虐非道な悪の権化だというイメージを持っていたが
そういう部分もあるのかもしれないが
カンベインに比べたら可愛くも思えた。
もうすでに大規模魔法も解除した事だし悪魔たちには
このまま穏便に影の国へ引き返してもらいたい。と周三は望んでいる。
「挨拶が遅れました。
わたくしは副将のコパンと申します。」と初めてインコ顔の悪魔が喋った。
「どうもです。はじめまして田中周三です。
こちらはロアンさんです。」と周三も挨拶を返した。
コパンは正座した姿勢で背筋をピンと伸ばすと
「ギヨク提督が落ち着かれるまでの間は
わたくしが第三大陸の使者である勇者殿のお言葉を
ギヨク提督に代わってお聞きします。」と言ってきた。
助かった。と周三は思った。
「では、お訊ねしますがこの軍船団の目的地は
第三大陸なのでしょうか?」
「それはお答えしかねます。
とは言ってもこの方向に真っすぐ進めばすぐに第三大陸の領海ですね。
そちらは領海を侵犯すれば攻撃するという旨を伝えるために
使者としてわたくしどもに領海に入らないように
警告をしにきたということで
お話を進めればよろしいのでは?
こちらとしては作戦機密を漏らすわけにはまいりません。」
「そうですね。じゃぁ、そうしましょう。
では、改めて申し上げますが、先ほど申しあげた通り
このまま黙ってご自分の国へ帰ってもらえないですか?」
「お答えします。それは承諾できません。
このまま何の成果もあげずに本国に帰還すれば
わたくしたちは全員が一族郎党とともに殺されてしまいます。
わたくしたちだけならまだしも
家族や親戚までも処刑されてしまいますのでその選択はできません。
わたくしたちは遊びでここに来ているのではありません。
でしたらいっそのこと勇者様が
わたくしたちを全員殺したらいかがですか?
その方が事が丸く収まるのではないでしょうか。」
周三は交渉に慣れてはいない。
すぐには次の言葉が出てこない。
帰ってください。と言って、はい。帰ります。とは
ならないだろうとは思ってはいたが
魔法核が消失した今、その可能性は0ではないと思ったのだ。
コパンの主張も周三はもっともだとも思う。
「では、こちらに降伏することで
生き延びるという選択も本国に残した家族が処刑されるから
選択できないと言うことでしょうか?」
「それは意見が分かれると思います。
降伏なんていう選択は第二大陸ではしません。
しかし、第三大陸では当たり前にある選択のひとつなのでしょう。
武装解除した敵を許して命を助ける。
第三大魔王との異名され恐れられているカンベインでさえ
ゼネシス様たちの命を奪わなかったのですから人間の美徳なのでしょう。
降伏して自分たちは生き残る。
昔の悪魔ならその提案に乗ったでしょう。
ですがわたくしたちはゼネシス陛下の思想に触れてから
家族や友人に対する愛情という概念を知ってしまったのです。
ゼネシス王朝以前の悪魔なら家族や仲間を犠牲にしてでも
自分が生き残る選択をするのが当たり前だったのですが
今の世代の悪魔たちにはその選択は難しいかもしれません。」
周三は戦争回避の交渉は思ったより難しい事に気付き始めた。
戦争回避にはお互いの面子が立つような落としどころが
必要なのかもしれないとも周三は気付いた。
「俺たちはすでに大魔法核を解除しました。
あなたたちの目的はすでに失われています。
それなのにまだ戦うのですか。
戦えばこちらにも犠牲が出ます。
俺は無駄な犠牲は1人も出したくありません。
なんとかそちらもこちらも犠牲が出ない方法はありませんか?」
周三はコパンにすがる様に訊ねた。
「なんと!大魔法核を解除したというのですか。
かなり難解なトラップスペルで外部からの干渉を妨害するように
対策していたはずなのですが
全ての文字を解読して複数術式の仕組みを
すべて理解しないと解除などできません。
わたくしは魔法を多少は使えますが
あの魔法の一部でさえ読み取れません。
だから、わたくしにはにわかには信じがたいですが
実際に大魔法核が消えてしまっているのであれば
それは事実なのでしょう。」と述べたあとに
コパンは黙りこんで考え込むようなそぶりをした。
しばらくして考えがまとまったのかコパンは口を開いた。
「では、勇者殿は分解という超高等魔法をお使いになれますか?
こちらは勇者殿の言う事の全てを鵜呑みにして
重要な物事を決める訳にはいかないです。」
周三はコパンの意見をもっともだと思った。
「いえ、俺は実は魔法を使った事が無いんです。」
「では、そちらに控えておられる御仁が大魔法を解除したのですか?」
周三は首を横に振って「俺が解除しました。」と返答した。
コパンは首をかしげて「それはおかしな物言いですね。
勇者殿はわたくしたちをたばかっておられるのですか?」と当惑した。
まさか大規模魔法を解除した事を
証明しないといけなくなるとは。と周三は困ってしまった。
周三がもし一般的な軍人ならば
大規模魔法が存在しない今、降伏か武装解除しなければ
貴様らの軍を殲滅する。とここで一言言えば
簡潔に終わる話なのに、戦争をしない為の交渉を
軍人がするなるとややこしい話になるなぁ。とウンザリした。
「じゃあ試しに使ってみます。
成功したら信じてくださいね。」と言って指先にマナを集めた。
「はい。わかりました。
あくまで検分の目的なので魔法の威力は控えめで結構です。」
「はい。了解です。俺は魔法を使った事無いので
まだマナを少ししか集められないから
心配しなくてもたぶん規模は小さいですよ。」
マナが指先に少し集まると素早くそのマナで
周三は空中に魔法式を書こうと指を動かす。
魔眼から得た情報を思い出したらわずか一瞬で魔法式を構築できた。
魔法陣が直径1cmほどの青白い球体に変化して
周三の右手の人差し指のてっぺんで浮かんでいる。
青白い球体の周囲には魔法式の帯がいくつも回っている。
「お見事!」とコパンは拍手した。
ロアンも驚いたような表情を見せていた。
ギヨクはずっと両目をこすっているので見ていないかもしれない。
「では、早速、試してみましょう。えい!」と
周三は青白く光る小さな球体を
左側壁に投げるような動作で指先を向けた。
球体は壁に向かって真っすぐに空中をゆっくりと移動した。
壁にぶつかった。しかし、なにも音がしなかった。
しかし、壁には一瞬で直径2mほどの風穴が空いていた。
その穴からは外からの海風がボォーッボォー!と吹いてきた。
「うわ!やった!成功した!やったー!」と周三はガッツポーズしたが
すぐに「壁に穴を開けてしまってすいません。」とコパンに謝った。
「これは驚いた。一瞬で魔法を構築して無詠唱で発動させた。
それは構築式と起動式の両方を魔法式に書き込んでいるからですね。
それはルシカル王の魔法式の特徴と一致します。
普通は魔法式を書きながら詠唱で行なう事で
構築と起動の両方を掛け持ちでおこなって
魔法の段取り時間を短縮するのですが
あの短時間で超高等魔法式の構築と起動式を
一つの魔法陣に書き込んで発動させるとは。流石の一言でございます。
神に最も近いと言われるルシカル王クラスの才能という事ですな。
勇者とはこれほどまでに万能なのかと感心いたしました。
大魔法を解除された事は信じるほかありませんね。
壁はあとでどこかの部屋から余分な板を
外してこちらに貼り付けて修繕しますので気にしないで頂きたい。」
「あはは。たまたまかもですよ。
うまくいって本当によかったとホッとしています。」
「いやいやご謙遜を。しかし、大魔法が解除された事は
わたくしたちは秘密にせねばならないでしょうな。
士気に大きな影響を与えてしまい軍が混乱いたします。
それに勇者殿を疑っているわけではありませんが
万が一という事もありますのでウィザードの詠唱は
停止させる事もできません。
ですから大魔法の解除というのはわたくしたちは
知らないという前提で手段を考えないといけません。
勇者殿は敵にも味方にも一人の犠牲も出したくないとの希望でしたな。
戦争だからと見切りをつけてわたくしたちを殺した方が
簡単でしょうにあなたはお優しいお方だ。
わたくしも出来ればお力をお貸ししたい。」
「コパンさんありがとうございます。
できればこの戦争自体が無かった事になる方向がいいですね。
なんとかお知恵は無いでしょうか?」
ずっとメソメソしながら目をこすっていたギヨクがムクリと顔を上げた。
梟に似たギヨクは顔の羽毛が鼻水や涙でカピカピになっていた。
ギヨクはやっと落ち着きを取り戻したようだった。
ギヨクは照れくさそうに頭を掻きながら
「いやいや。どうも勇者殿には先ほどからお見苦しい所ばかりを
お見せしてしまい申し訳ない。わしはすごく恥ずかしい。
話は聞いておりましたが勇者殿はカンベインと違ってお優しい。
勇者殿のお考えはカンベインの仲間の3人に近いお考えのようですな。」と
ケロっとした顔をして話し合いに参加してきた。
「カンベインの仲間って魔法使いと剣士と槍使いですか?」
「はい。ウルド様がわしに申しておりました。
カンベインが今の世界の常識を壊して
私達3人が新しい常識を作り管理する。
そうすれば5大陸に住むみんなが種族の壁を越えて
仲良くできる未来がきっとやってくると申しておりました。」
「ウルドさんって素敵なこと言う女性ですね。」
「それにとてもお美しい。」とギヨクがはにかみながら笑った。
笑っていたギヨクだがすぐに真剣な表情に顔を引き締めた。
「わしはもはや大魔法核を失った時点で敗軍の将です。
普通なら武人としての意地を見せるために玉砕覚悟で
敵地に攻め込むところなのですが
わしらの命を勇者殿は奪わないたくないと言う。
勇者殿は軍人としては筋が通っておらぬ気がしますが
人間としては筋が通っておるのかもしれませんな。
しかし、これは戦争なので1人の犠牲も無いとは虫が良すぎる。
我が軍の誰も救えませんし救われまい。
だからせめて1人は犠牲は出しましょう。
その1人はわしでどうですかな。」とギヨクが自分を指差して言った。
「おい。ギヨク。わたしに黙って何を勝手な話をしている。」
周三の背後の方向から若い女性の声が聞こえてビクッとした。
周三の隣に座るロアンも相当に驚いた表情をしている。
この部屋に誰かが入ってきた気配がまったく感じられなかった。
ギヨクやコパンは入り口の方向を向いているのに
今まで誰かがいるとようなそぶりもまったく見せてはいなかった。
その女性の声を聞いてギヨクもコパンも気づいたという様子だ。
「これは軍監さま。いらしておられたのですか。」
ギヨクはそう言うと困ったような表情で入り口の方向に目を向けていた。
周三は後ろを振り返ると
そこには軍服を着た人間の女性が床にあぐらをかいていた。
「驚いた。まったく気配を感じさせずに背後を取られるとは
只者ではありませんよ。」とロアンは周三にささやいた。
「後ろからそっと攻撃されたりしたらヤバかったですね。」
周三は攻撃されたりしなくてよかった。と胸をなでおろした。
「軍監さま、こちらのお二人は
第三大陸の使者としてまいられた勇者どのとロアンどのです。」
コパンはその女性に周三とロアンを紹介した。
その女性は立ち上がると周三の横を通り過ぎた。
女性らしい甘い香りが漂った。
女性は正座しているギヨクとコパンを見下ろしながら
部屋に一つしかない大きな椅子に座ると足を組んだ。
「勇者どの、こちらの女性はこの軍の監督役の
カエデ殿と申す。軍監は国王に任命された重役ですので
軍監に黙って勝手に話しを進めるのは問題がありました。
わたくしたちの不手際でございました。
軍監殿にも不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。」
コパンはカエデに深く頭を下げた。
「カエデ殿は別の船に乗っておられたので
ある程度、勇者殿と話がまとまってから事後報告すれば
問題ないと思っておった。すまんかった。」
ギヨクも申し訳なさそうにカエデに頭を下げた。
カエデは黒髪のポニーテールで東洋風な顔立ちをしていた。
カエデは自分の額に手を当てて呆れたような様子を見せた。
「ギヨク、コパン、お前ら2人は素人なのか?
人間であるわたしに、勇者を勇者と認識させるという事が
どれだけ我が軍に不利な状況に陥れるか考えてなかっただろ。
この場合は、わたしに第三大陸の使者とだけ紹介するべきだ。
使者が勇者と知ってしまったわたしはもう戦力にはならんぞ。」
「ははは。ご冗談を。カエデ殿の事ですから
会談の最初からこの場におられたとわたくしは推測いたします。
もしも、今しがた、この場に来られたのであれば
背後から使者殿たちを殺害する事もできたでしょう。
それをしなかったのは勇者様である事を知っておられたからでは?」
コパンは悪びれぬ顔でカエデに言い返した。
カエデはニヤっとした笑顔をコパンに向けた。
「コパン、なかなか鋭いな。素人扱いしたのは詫びようではないか。
しかし、最初からとはわたしを買いかぶりすぎだ。
最初からはここにはいなかったぞ。
わたしには船団が予想外に制圧された時の備えに
大魔法核を遠隔で起動できる起動魔法式を
ルシカル陛下から右手の甲に刻まれていたのだが
いきなり手の甲から魔法式が消えたので驚いた。
旗船に何かあったのではないかとこの船に確認にやって来たんだが
下の広間へ行ったら大規模魔法の核はどっかに消えてしまっていた。
どうなってるんだ?と思い、ギヨクに確認しようと
この部屋を訪ねてみれば、扉の前で兵士がわたしに
ギヨクと勇者が極秘の会談中だと言うではないか。
どんな会談をしているのかと忍び込んで気配を消していたら
ギヨクが昔のトラウマの話をずっとしていて
話に割り込むタイミングを逃してしまったんだ。
だから話が終わるまで待ってやっていたのに
話が終わったらギヨクは号泣してるし。
やっとギヨクがまともな状態になったみたいだから
わたしもそろそろ話し合いに加わろうかと姿をさらしたわけさ。」
カエデは第二大陸の言葉を使っていた。
「軍艦さんは人間なのに第二大陸の言葉を使えるんですね。」
周三は感心しながらカエデにそう言った。
「ああ。そうだ。仕事柄、第二大陸の言葉は勉強した。」
「こちらのロアンさんは第二大陸の言葉がわからないので
ロアンさんに話がある時は第三大陸の言葉でお願いします。」
「そうか。わかった。
勇者殿は天使の指輪でも持ってるのかい?」
「持ってます。」
「さすが勇者殿、貴重なアイテムを持ってるね。
勇者殿、ロアン殿、挨拶が遅れてすまない。
この軍の監視役のカエデ・トビノだ。
それにしても使者が勇者とは恐れ入ったわ。」
カエデは第三大陸の言葉を使って自己紹介した。
「はじめまして。勇者の田中周三です。」
「お初にお目にかかります。
勇者様が率いる連合軍所属の第五大陸軍を
預かるロアン・アースウッドと申します。」
「ほう、第五大陸の軍も勇者殿の下についたのか。なるほどね。」
「あの~。カエデさんって人間ですよね?
なのになんで悪魔軍の偉いさんをやってるんですか?」
「ん。ああ。わたしは暗黒騎士なんだ。
だから、報酬がもらえればどの軍にでも味方するさ。
今回の仕事も傭兵兼雇われ管理職というわけさ。」
「ロアンさん。暗黒騎士ってなんですか?」
「一般的な知識では暗黒騎士とは神の使徒のひとりを崇拝する団体に
所属する戦士なのですがその実態についてはわたしもわかりません。」
「そうですか。カエデさんに聞いてみるしかないですね。」
周三は素直に疑問をカエデにぶつける事にした。
「暗黒騎士って何ですか?」と周三はカエデに問いかけた。
「ん。暗黒騎士か。そんな大層なもんでもないよ。
大昔に第三大陸の神は使徒の一人に騙されて
拉致されてしまい結局は十字架に磔にされてその神は力を奪われた。
その使徒は神の力を奪った事で神となり独立した世界を作ったんだとさ。
その独立した世界を幻の第六大陸というらしい。
そういう神話があるんだがこの世界が作られた頃の話だから
大昔過ぎて真偽はわからない。その使徒の名前はユンディー。
ユンディーはこの世界の理から外れた神として
この世界の理に反感や不満を持つ人間から強く崇拝されてる。
暗黒のチカラを極めれば神の作ったシステムの影響から解放されて
あらゆる神の奇跡に対抗できるチカラを手にできるんだってさ。
言ってる事はすごく大層に聞こえるんだけれど
教団に入信して所属しても給料とか出ないし
教団は組織としてはほとんど機能していないんだ。
入信して所属すると教団のお偉いさんから
暗黒剣っていう剣を渡されて
今日から君は暗黒騎士だから自分の力を磨いて頑張ってね。って
励まされて、あとは、ほったらかしっていうゆる~い集団なの。
所属しても給料が出ないから生活の為に
傭兵とか商店の日雇いの用心棒とかしたり
所帯持ちの奴は本職は真っ当な仕事をして
空いてる時間に副業として暗黒騎士の活動をしたりしてるな。
暗黒騎士は個人個人のライフスタイルにあわせて活動をしてるんだ。
暗黒騎士としての強さを極めると暗黒騎士から
闇黒天っていう半神になれるだってさ。
人間から神族になれるなんて夢がある話だろ。」
「へぇ~。じゃあ、カエデさんは神様になるために
毎日アルバイトをしながら頑張っているんですね。」
「ん。そうそう。その認識であってるよ。」
「そうですか。じゃあ、さっきカエデさんが勇者と知ったら
人間のカエデさんは戦力になれないって言ってましたけれど
人間は勇者とは戦えないんですか?」
「それはロアン殿に訊いたらいいよ。
エルフのロアン・アースウッドと言えば歴史書では
カンベインの弟子って扱いだったろ。
それが本当ならロアン殿の方が詳しいだろ。
じゃあ、まぁ、軽くだけ説明してやろう。
カンベインは第三大陸の人間全てに色んな呪いをかけたんだよ。
カンベインはどこかにいなくなっちまったが
その呪いが今も生きてんだ。
例えばさっき、背後から勇者殿に殺意を向けてたら
わたしは動物の豚になってしまっただろうね。
わたしが子供の頃にさ。
わたしの隣村の子供がおふざけで勇者を侮辱する替え歌を創作して
歌っていたらしいんだがその子供が豚になったと噂になった。
しばらくして軍隊がその村にやってきてその村の住民を皆殺しにした。
領主はカンベインの呪いが領地に広がるのを恐れたからだろう。
第三大陸の人間なら身近な恐怖として当たり前に警戒してるさ。
だから勇者殿は自分は勇者だと名乗っても疑われないだろ。
勇者の偽物なんて存在できないからさ。
普通なら勇者の名を騙る輩が現れても不思議じゃないのに
今までそんな輩が現れたなんて噂は一回も聞いた事がないな。
勇者の真似なんかしたらどんな呪いが発動するんだろうねぇ。
そんな人間がいたらそいつはある意味で勇者だね。
しかし、そんなことも知らないっていうんだから
勇者になりたてというのも嘘ではないらしいな。」
周三はロアンの顔を見た。
「なるほど。その呪いは人間だけに有効なんですか?」
「おそらくね。竜が豚になったって話や悪魔が豚になったって話は
まったく耳にしたことがないからね。」
「なるほど。素晴らしい情報をありがとうございます。
これからは町で悪漢に襲われたら俺は勇者です。って名乗ります。」
「あんた、いま、呪いを試したいって顔してたよ。」
「そんなことないです。人聞きの悪いことを言わないでください。
あくまで平和的な防衛手段としての手段の一つとして考えただけです。」
「そうかい。あんまり呪いを多用すると友達を無くすよ。」
「シュウ、呪いは勇者に対しての不敬に対して発動するんです。
だから、シュウが勇者と知らない人には効果が出ません。
町で悪漢に襲われてからでは怪我をするかもしれない。
だから、知らない町に出かける時は
俺は勇者と大きく書いたシャツを着るのが効果的ですよ。」
ロアンは周三にアドバイスした。
「さすがロアンさん賢いですね。
カンベインの呪いにも詳しいってことは
ロアンさんってカンベインの弟子なんですね。」
「いいえ。違いますよ。」とロアンは首を横に振った。
「違うんだ。」と言って周三はカエデを見た。
「違うのかい!?」とカエデが戸惑った。
ギヨクとコパンは第三大陸の言葉はわからないが
周三の言葉はわかるのでなんとなく話の流れを理解して
「あははははは!!!」と笑った。
カエデの顔が赤くなり「お前ら笑うな!」とギヨクとコパンを叱りつけた。
「市販されてる歴史書にはそう書いてあったんだけどな。」と
カエデは恥ずかしそうにロアンを見た。
「確かに記録ではそういう風に書いてますね。
だからカエデさんは間違った事を言ったわけではありませんよ。
公式な記録が間違っているのです。
500年も前の事なので
事実が脚色されて伝わっているのでしょう。
わたしはカンベインからは何かを習ったり学んだりしていませんので
弟子という表現は間違いです。しいて言うなら知り合い。
もしくは友人くらいの間柄ですよ。」とロアンはカエデに微笑んだ。
「ギヨク!コパン!記録が間違ってるんだってさ。」
「ふむふむ。カエデ殿は知ったかぶりではなかったか。
公式記録なのに間違いなら
キチンとなおさないといけないのぉ。」
ギヨクは自分の顎の羽毛をなでながら言った。
「カエデさんはまだ29歳ですから
500年前は生まれておりませんからな。
公式の記録を信じる他はないでしょう。」
コパンは頷きながら言った。
「コパン、いい加減な事を言うな。わたしは29歳ではないぞ。」
「知ったかぶりをしました。申し訳ありません。」
「おい。それはわたしが30歳くらいに見えるってことか?
なぁ?30歳とは言わずギリギリ20代にしたのがお前の優しさか?」
コパンは返事をしなかった。
「ところでカエデさんって忍者なんですか?」と周三が訊ねた。
「え!?なんでわたしが忍者だと思ったの?」
カエデは周三にふいをつかれた指摘をされてドキっとした。
「それは、えっと、軍服のベルトにクナイが装備されてるからです。
あとは気配の消し方がハンパなく上手だから。」
「そそ。実家の家業が忍者だったから忍者やってた時期もあったね。
だけど、嫌な思いをする仕事ばっかりでさ。
嫌気がさしたから家出したのさ。」
「カエデさんは家出娘なんですね。
あ。抜け忍というのが正しいんですよね。」
「呼び方なんてどっちでもいいよ。どっちも意味はあってるし。
しかし、驚いたね。勇者殿は世間知らずなふりして
案外、物知りだったりするんだね。
忍者なんて職業は第三大陸の中では
極東のごくごく一部の地域にしかないマイナーな職業なのにさ。」
「忍者を知っているのはたまたまですよ。」
「そうなのかい。それじゃあ、世間話はこれくらいにしてさ。
そろそろ本題に入ろうじゃないか。」
こんにちは。




