ギヨク将軍
周三の勇気ある提案により目的を飛行偵察から
敵の大規模魔法の解除に切り替えた。
大規模魔法が搭載されている軍船への侵入に成功した2人は
見事に大規模魔法の解除に成功する。
大規模魔法が置いてあった軍船の下層の広間を
無事に抜け出した2人は階段を上り外に向かって急いでいる途中に
敵である影の国の将軍ギヨクたちとばったりと出くわすのであった。
ギヨク将軍の顔は梟に似た顔、いや梟そのものだった。
ギヨクと配下の兵士が8人。敵は合計9名であった。
「将軍様ですか。あなたがここで一番偉い方ですか?」
周三はギヨク将軍に確認した。
「何を言っとるのだ?ウィザードは軍将の名も知らんのか。
わしがこの船隊の全てを王から任されている提督だ。
よく憶えておけ。
それよりもわしの質問に答えろ。
下の階で何があったのかと聞いておるのだ。」
ギヨクは特には腹を立てる様子もなく下の階の状況を周三に訊ねた。
「下は大した事はありません。それよりも将軍様。
俺と少し話しをしてくれませんか?」
「は?訳がわからん。
お前はわしと一緒に酒でも酌み交わしたいのか?
ウィザードというのはおかしな奴が多いのかのう。」
ギヨクは周囲の配下たちを見渡してそう言うと
将軍の配下たちから大きな笑いが起こった。
「あのですね。実はですね。
俺たち2人は第三大陸の使者としてここに来たんです。」
そう言って周三は深く被ったマントのフードを取り顔を見せた。
その様子と見てロアンはマントの下で
剣をいつでも抜ける準備をした。
周三の顔を見てもギヨクたちには反応は無い。
どうやら戸惑っているようだった。
陸地から遥かに離れた海域の軍船に
第三大陸の人間がたった2人で侵入してくるなど
さすがににわかには信じられない。
ウィザードは広間で魔法漬けの毎日を送っているので
疲労困憊により精神が錯乱して
人間に化けて意味不明の事を言っているのだろうか?
それとも場の空気が読めないウィザードが
冗談でも言っているのか?
ギヨクたちは周三の言葉を鵜呑みにしていない。
ギヨクは目の前のウィザードを叱りつけるべきなのか。
ウィザードがもしも錯乱状態ならば
笑って許して休養を取るように労わるべきか。
ギヨクたちは配下たちと顔を見合わせて反応に困っていた。
「はははは!そうか。お前たちは第三大陸の使者というのだな。
その使者がわしに何を話しに来たのだ?」
ギヨクは冗談っぽく笑いながら周三に言った。
話に乗ったのはウィザードの発言が冗談なのかそれとも
錯乱状態なのかを確かめてから対応を決める事にしたのだ。
周三にはギヨクたちが自分の言葉を信じていない事が
周三に対するギヨクたちの馬鹿にしたような態度でわかった。
「ギヨク将軍がこの船団の責任者というなら
俺も第三大陸の軍の責任者です。
皆さんはこの船はどこに向かっているんですか?
もしも第三大陸に向かっているなら
その理由を教えてもらえませんか。
俺としては軍事衝突は極力避けたいんです。
可能ならこのまま引き返して自分の国に帰ってもらいたいです。」
周三は自分の意見をはっきりとギヨクに伝えた。
ギヨクの目の色が明らかに変わった。
ギヨクたちの表情から笑いが消えて目には殺気が帯びる。
「お前、なぜこの船隊が第三大陸に向かっていると思った?
目的地は幹部しか知らん事だぞ。
第三大陸に向かっているというのは誰から聞いたのだ。」
先程とは違ってギヨクは威圧するような低い声で訊いてきた。
周三は恐怖心で膝が震え始めた。
下の階から足音が近づいてきた。
一人の兵士が階段を上がってきて
周三とロアンを横切ってギヨク将軍の前に跪いた。
「ギヨク提督閣下に報告します!
いましがた大広間にて魔法核が紛失いたしました。
至急、大広間にお越し頂きますようお願い申し上げます。」
兵士は報告が終わるとすぐに立ち上がり下の階へ去った。
ギヨクとその配下たちは周三とロアンを睨み付けた。
「お前らは下の騒ぎは大した事がないと言ったな?
ふざけるな!!!一大事ではないか。
お前らがやったのか?魔法核をどこに隠したのだ。
お前ら2人だけでこんな大それた事をやったというのか。
信じられん。お前らの他にも仲間が潜んでおるのだろう。」
ギヨクとその配下8名はじわりじわりと2人に近づいてきた。
「そう熱くならなくてもいいじゃないですか。
とりあえず落ち着いた場所でゆっくりお話ししませんか?」
周三はじりじりと後ずさりしながらギヨクをなだめた。
しかし、周三の言葉にギヨクは耳を貸さなかった。
「こいつらを捕らえろ!」とギヨクが配下に号令すると
8人の悪魔が剣を抜いて周三とロアンに向かって飛び掛ってきた。
周三は頭を抱えてその場に座り込んだ。
「ロアンさん助けて!!!」
周三がそう叫ぶとロアンが素早く周三の前に立った。
右手に握った剣をマントから出して横に振った。
すると強い突風が巻き起こり
飛びかかってきた悪魔たち全員が後方に吹っ飛び転倒した。
ギヨクも突風でバランスを崩してよろめきながら片膝をついた。
ロアンは召喚剣に刻まれた水の精霊を呼び出す魔法陣に指を触れた。
「お前は敵のウィザードか!?
今の風はなんだ?無詠唱で魔法を使ったのか?
うぐ。うぐぐぐうう。げほっ。げほっ。」
ギヨクは胸を押さえて咳き込み苦しみ始めた。
「胸が。。。胸が締め付けられる。
何をしたんだ。やめろ。ぐああああああ!!!!!!」
ギヨクは悲鳴をあげて転がりのたうちまわった。
転倒していたギヨクの配下も同じように苦しみだした。
「あらら?これってロアンさんがやったの?
すげぇ、やっぱりロアンさんは強いんやなぁ。」
周三はホッとした表情で苦しむギヨクたちを眺めた。
ロアンは周三の耳元で何かをささやいた。
ロアンのささやきを聞き終えると周三がギヨクに声をかけた。
「将軍様、いま、こちらのロアンさんは
あなたたちの体内の水分を操作して
あなたたちの体の中で手のひらを形成したそうです。
水分で出来たその手のひらで
あなたたちの心臓を直接握ってモミモミしているそうですよ。
もしも俺たちと真面目に話をする気が無いのなら
皆さんの心臓を握り潰して
皆さんはこの世からご卒業する事になりますが
ここでこの世をご卒業して来世に進学しますか?
ロアンさんがそのようにおっしゃられておられます。
すみませんが俺たちは急いでいますので
お早めに、はい。もしくは、いいえ。でお答えください。」
ロアンは悪魔の言葉が話せないので
周三に言葉を伝えて周三から悪魔に伝えてもらったのだ。
周三の訳は少しアレンジが加わっているが
意味は合っているのでロアンに特に異論はなかった。
悪魔たちははっきりと心臓に圧力を感じていた。
悪意を感じるほどに手のひらで心臓を揉まれている感触が
強烈に不快でギヨクたちは全身に鳥肌が立ち、額に脂汗が噴出した。
周三の言葉は脅しやハッタリでは無い事は
ロアンから発せられる氷のように
冷たい気配から十分すぎるほどに悟った。
「うっぐぐ。お前らは本当に第三大陸の使者なのか?
何も理由がわからないままで死ねるか!
卒業なんかしない!いいえ。だ!早く魔法を解け!」
周三がロアンに「将軍様は話し合うそうですよ。」と伝えた。
ロアンは頷くと口元が動いた。魔法を解くおまじないだろうか。
ギヨクたちは心臓の圧迫から解放された。
「心臓は楽になったがまだ息苦しい。
なんなのだ。無詠唱で何故こんな事が出来る。
うぐぐぐぐうぅぅ。」とギヨクは悶えながらロアンを睨み付けた。
「きっと、精霊さんのチカラですね。」と周三がギヨクの疑問に応えた。
それを聞いてギヨクの脂汗だらけの顔が真っ青になった。
「その男は第五大陸のエレメントマスターか。。。。。うぐう。
ロアン。。。。エレメントマスターロアン。。。そういうことか。
とんでもない大物が乗り込んできたものだな。
わかった。。。話を聞こう。。。
エレメントマスターが相手ではわしらに勝ち目は無い。」
「ロアンさんって有名人なんですね。大物って言われてますよ。」
「いいえ、大物なんてとんでもありません。
わたしが戦争に最後に参加していたのは
500年くらい前ですので
ギヨク将軍はその戦いに参加していてご存じなのでしょう。」
「500年って!?悪魔も長生きなんですねぇ。
まぁ悪魔が長生きでも何の不思議もないっすね。」
ギヨク将軍たちはだんだん呼吸が整って顔色がよくなってきた。
ギヨクはよろめきながらも立ち上がると
「わしの部屋で話そう。ついて来い。」と周三とロアンに言った。
ギヨクは配下の者たちを連れて廊下の奥に向かって歩き出した。
周三とロアンはギヨクたちについていく。
「大広間の兵士やウィザードたちに
魔法核はもう探さなくてよいから
いつも通りに台座に向かって魔法を唱えさせ続けろ。
魔法核が無いからと言って呪文の詠唱をやめるような者には
厳罰を与えると伝えてこい。」とギヨクは配下の1人に命令した。
命令されたギヨクの配下は周三とロアンの2人を大げさに避けて
横切ると急いで階段に向かって走って行った。
廊下の端には兵士たちが相変わらず寝転がったりしている。
先ほどのギヨクとの戦闘騒ぎにも気付いた様子が無い。
やはり兵士たちは相当に疲れてるのだろうか。
ギヨクが顔だけ後ろを振り返り周三とロアンに声をかけた。
「はははは。平和ボケの第三大陸でも
さすがに備えも無しに使者は送らんか。
ゴホッ。ゴホ!ゴホ!ゴホ!
まさか第五大陸の伝説の精霊使いを雇うとはやることがえげつないのぉ。
あはははは。ロアンか。全大陸戦争の頃の思い出が蘇ったわ。」
咳をしながら苦しそうなのに何故か機嫌良さげな雰囲気でギヨクは笑った。
廊下の行き止まりにある扉の前でギヨクが立ち止まると
素早くギヨクの配下の1人が前に出てその扉を開けた。
「さぁ入れ。」とギヨクは周三とロアンの2人に言った。
部屋で留守番をしていたと思われる1人のインコ顔の悪魔が
部屋の奥から扉近くまで歩み寄り
「ギヨク様、おかえりなさいませ。
下の様子はどうでしたか?」と声をかけギヨクたちを出迎えた。
ギヨクは部屋の中に入ると部屋の奥にある大きな椅子に座った。
インコの顔をした悪魔が周三とロアンを見て驚いた反応を見せた。
「あらら。あなた方はどなたでしょう。まさかお客様ですか?」
インコ顔の悪魔は2人を見て驚きはしたが反応は呑気なものだった。
部屋は学校の教室くらいの広さがあるにもかかわらず
家具はギヨクが座る大きな椅子が一つだけで他には何も無い。
配下の兵士たちは部屋に入ると左右に分かれて壁際の床の上に直に座った。
ギヨクが率いていた8名の悪魔たちは8人ともカラス顔だった。
軍船に潜入してから目撃した翼の生えた悪魔は
皆がカラス顔だった事に周三は気づいた。
周三は、俺の世界でもカラスってどこにでもいるし
悪魔のカラス人口が多いのかもな。と自分なりに分析した。
インコ顔の悪魔はギヨクの椅子の隣に立つと
ギヨクから周三とロアンの2人についての説明を受けた。
周三とロアンは部屋の中央の床にあぐらをかいて座った。
「では、第三大陸の使者からの話を聞こうか。」
ギヨクはだいぶ顔色が良くなって健康状態はかなり回復していた。
周三は周囲を見渡すと
「人払いはしなくていいんですか?」とギヨクに訊いた。
「側近の者だけだから気にしなくていい。」とギヨクは応えた。
「そうですか。」と周三は言ってから
「実は俺は勇者なんです。」と話を切り出した。
その言葉に一瞬で部屋の中の悪魔たち全員の空気が凍りついた。
ギヨクは目を泳がせて明らかに動揺している。
「おい!お前らは外に出てろ!早く早く!駆け足で!」
ギヨクは壁際に座る配下の兵士たちに向かって命令した。
配下の兵士たちは立ち上がるとそそくさと部屋を出て行った。
なんだ?と周三は悪魔たちの過剰な反応に違和感を感じた。
部屋にはギヨクとインコ顔の悪魔の2人だけが残った。
偉そうに椅子に座っていたギヨクが椅子から降りて床の上に正座した。
インコ顔の悪魔もギヨクの横で床の上で正座をした。
ギヨクは相当に落ち込んだ表情をしていた。
「あなたは勇者でしたか。
カンベイン以外にも勇者が存在するとは夢にも思わなんだ。
カンベインが消息を絶って500年近くたって
第三大陸は平和ボケして人の皮をかぶった豚の生息地に
過ぎなくなっておると高を括っておったが
カンベインの後継が軍を率いているとはなぁ。
ロアンほどの英雄を引き連れている事にも納得ができた。」
ギヨクからはどんよりとした重い空気が漂ってくる。
「先ほどのご無礼は大変失礼した。
勇者に対して武人の振る舞いではなかった。心から謝罪する。」
ギヨクは頭を下げて詫びてきた。
ギヨクの隣のインコ顔の悪魔も頭を下げる。
「いやいや、もう気にしてませんよ。」
周三はギヨクの突然の殊勝な態度に戸惑った。
「勇者殿は謝罪しても許してくれないでしょうが
悪魔でも礼を逸した行動を恥じる心は持っておるのです。」
ギヨクは顔を上げると涙目だった。
「話を聞いてましたか?気にしてませんって言いました。」
「わしの気は済みました。
さぁ、殺すなら殺されるがよろしかろう。
わしは殺される覚悟はでき申した。」
周三はまったく意味がわからず困惑した。
「いえ、殺すとか物騒な事ではなくただ話をしたいだけです。」
周三の言葉にギヨクは聞く耳を持ってはくれなかった。
「ロアンさん、ギヨク将軍が、殺すんなら殺せって言っています。
ギヨク将軍が話を聞いてくれなくて俺はすごく困っています。」
周三はロアンに助けを求めた。
ロアンは頷くと納得したような様子だった。
「なるほど。ギヨク将軍はもしかしたらカンベインに
会ったことがあるかカンベインの行動を目撃したのかもしれないですね。
先ほどギヨク将軍は全大陸戦争に参加していたような言動がありました。
カンベインの事を実際の経験として知っているなら
さっさと殺されようと選択するのも理解できます。
カンベインは敵にはとても残酷で残忍で残虐な行為をする人でしたから
ギヨク将軍は勇者というのは皆同じ性格であると勘違いして
屈辱的な拷問で心を壊してからゆっくりとジワジワと殺されると
思い込んでいるのではないでしょうか。」
「ああ。確かにカンベインの伝説は理不尽に彩られてた気がします。
前にカンベインの伝説について軽く話を聞いただけで
俺はカンベインに会いたくないって思いました。
もし会うことがあれば絶対の恭順姿勢で忠誠を誓うって決めてます。」
周三はロアンに胸を張って情けない事を自慢げに言った。
ギヨクはうつむいて床に目線を置いて口を開いた。
「話をするというのはまたあの時みたいに
何日も何日も死ぬ寸前まで暴力をふるった後に
何時間も説教をすることを言っているのか。
そんなのはもう沢山だ。悪魔にだって心はあるのですぞ。」
震えた声でそう言うとギヨクはブルブルと震えだした。
明らかにギヨクの様子がおかしい。
ギヨクは剣を抜くと両手で握って自分の首に刃を当てた。
周三が驚いて立ち上がった。
「やめてください!なにをしてるんですか!
俺はそんな怖いことはしませんよ!
俺らはただ話をしにここに来たんですよ!信じてください!」
ギヨクの目はどこを見てるかわからない。
ギヨクの首から黒い液体が流れ始めた。おそらく悪魔の血であろう。
それを見てロアンは剣を抜いて飛び出して一瞬で間合いを詰めて
ロアンは召喚剣でギヨクの剣を弾き飛ばした。
「やはり死なせてはくれませぬか。やっぱり勇者様は鬼じゃのう。」
ギヨクは天井を見つめながら自分の顔に生えた羽毛をむしり始めた。
ロアンはギヨクの胸ぐらを掴むとギヨクの体を
大きく揺さぶってギヨクを正気に戻そうとした。
周三が立ち上がってギヨクに近づいていくと
ギヨクは周三が近づいてくるの見て体がビクッと反応した。
ギヨクは狼狽しながらロアンを駄々っ子のような動作で振り払った。
「こっちに来ないでくだされ!お願いします!」
ギヨクは土下座をして懇願した。
インコ顔の悪魔が心配そうにギヨクの背中をさすった。
「ギヨク様、落ち着いてくだされよ。
お客人の前でお見苦しいですぞ。
ギヨク様は影の国の代表として勇者と向き合っておられる。
若き日の一兵卒だった頃のギヨク様ではありませんぞ。」
インコ顔の悪魔はギヨクを優しい声でなだめた。
「俺、将軍には近づきませんから安心してください。
あのですね。俺はまだ勇者になりたてホヤホヤなんです。
人様を殺害した経験もありませんよ。
もちろんこれからも殺さないつもりです。
だからわざわざここに来て将軍と話をしに来たんじゃないですか。」
立ち上がっていた周三は先ほど座っていた位置に戻って床に腰かけた。
ギヨクはゆっくり顔を上げると大きく深呼吸を始めた。
「冷静に話しをしましょう。
ギヨク将軍は俺よりも何百年、もしかしたら何千年も年上なんですから
大人としての対応を期待します。お願いします。」
「勇者どの。取り乱してすまんかった。
嫌な記憶が蘇ってのう。精神が錯乱したようだ。
先ほどは勇者どのを錯乱したウィザードだと勘違いして侮ったが
わしが錯乱してしまうとは恥じに恥じを重ね塗りしてしまったわい。
もう落ち着いた。ロアン殿、剣を弾き飛ばしてくれて感謝する。」
ギヨクが落ち着いたのを確認するとロアンも元の位置に腰を下ろした。
ギヨクは自分の首の傷を手で押さえながら目を瞑った。
しばらくの沈黙のあとにギヨクは目を開けた。
「勇者殿とロアン殿は使者としてこの船にお越し頂きましたのに
対応すべき将軍のわしが大変取り乱しお見苦しい所をお見せした。
大変申し訳ない。」とギヨクは平静な声で改めて周三たちに謝罪した。
横で座っているインコ顔の悪魔の肩に手を当てた。
ギヨクはインコ顔の悪魔にも感謝している様子だった。
「意味がわからないんで。よかったらギヨク将軍が
取り乱した事情を話してもらえますか。
もしも、あまりに辛い経験で話したくないって言うなら
全然、話してくれなくて構いませんから無理はしないでくださいね。」
ギヨク将軍はとても苦しそうな表情をしたが
「そうですな。その事情と言うのは
全大陸戦争終結直前の戦闘が背景ですので話は少し長いですぞ。」
「さっきまでは俺たちは急いでましたけれど
もうあまり急ぐ必要はなくなったので問題ありません。
帰りの安全さえ保障してくれるなら長い話しでも大丈夫ですよ。」
「うむ。そうですか。では、帰りの安全は保障しましょう。
むしろこちらの命の保障が勇者殿に握られておるのではと思うが。
さて、次代の勇者に全大陸戦争を伝えるのも
実際に戦争を体験したわしの役目か。それもいい。」
そう言ってギヨクは背筋をピンと伸ばした。
「勇者殿は魔王ゼネシス様について何かご存知か?」
「第三大陸にいきなり攻め込んで来た魔王ですよね。
カンベインに倒されて第二大陸に逃げ帰ったとしか知りません。」
「そうですな。大まかにはそうなりますな。
その戦いにわしはゼネシス様の近衛兵の一人として参戦しておりました。
ところで勇者殿、人間というのは人間同士で殺しあわないそうですね。」
「必ずしもそうは言えないですが
確かに第三大陸はずっと平和で大規模な戦争は無いらしいです。
殺しあわないと断定するのは少し極端すぎると
俺は思いますがそういう表現でも間違いではないのかも。」
「確かにわしの言い回しは極端な表現じゃが
人間同士は殺しあわないという人間社会のルールが
悪魔には信じられないことなのです。
悪魔は同族同士で殺し合う。
酷い時は肉親同士でも殺し合う。
同族を殺してその肉を喰らう。
それは善とか悪とか以前に悪魔の命の営みそのものじゃ。
物心ついた時からそのようにして生きる事が当たり前だから
疑問を最初から持っておらぬ。
悪魔というのは当たり前に殺して当たり前に殺される。
悪魔は殺されるまで殺す毎日が続いていく。
第二大陸とはそういうところなのです。」
「それはつらいなぁ。地獄ですねぇ。」
「それは別の種族が外から見た感想ですな。
第二大陸に生まれたら第二大陸で生きることしか選択肢が
無いのですから環境に疑問を持つ余地などはありませぬ。
その場の環境に順応して適応しなければ生き残れない。」
「確かにその通りだと思います。」
「しかし、そんな第二大陸の環境に疑問を持つ悪魔が現れた。
それが魔王ゼネシス様です。」
「そうなんですか!?」
周三は意外そうな顔をした。
「ええ。第二大陸にかつて無数に存在した小国の中に牙という国が
あったのですがその牙という国の豪族であったゼネシス様が
国内の有力者たちをとある日に自宅に集めると
ゼネシス様は第二大陸の外の世界に目を向けることで
同族同士が殺しあう環境を改善できると唱えました。
その考えは最初は誰にも相手にされず理解もされなかった。
しかし、その思想を一度、耳にしてしまうと
当たり前の事が当たり前ではないのではないか。と
悪魔たちに考えさせるきっかけとなりもうした。
第二大陸の環境に疑問に持たなかった悪魔たちに
疑問の芽が芽生えて育ち始めた。
次第にゼネシス様の考えに同調する悪魔が増え始めた。
わしもその一人だった。この世に生まれて、初めて未来に夢を見た。」
「夢が見れるって生活に張りがでそうですね。」
「うむ。あの頃のわしは自分でいうのもなんじゃが輝いておった気がする。
そういう悪魔の若者たちが自分たちで共感する仲間を
増やして集団を作り、その数が増えると義勇軍となった。
ゼネシス様の思想が瞬く間に第二大陸全土に広がった。
各地の諸侯が我先にとゼネシス様の元に集結しはじめて
ゼネシス様の勢力はどんどんと拡大していった。」
「流行りには乗り遅れまいと意味を全く理解してなくても
とりあえず参加しようって人もいますよね。」
「うむ。勇者様の言う通りで決して一枚岩ではありませんが
ゼネシス様に勢いがある間は空中分解するような問題は起こらなかった。
大勢力となったゼネシス様は第二大陸全土を事実上は統一しました。
ゼネシス様は源と言う名の国を新しく建てて魔王を宣称したのです。
ゼネシス様は魔界から魔王に任命された訳ではなかった。
第二大陸を統一した実力を魔王と自称する事で形として示したのでしょう。
第二大陸の支配者として他の大陸に第二大陸の代表であると
わかりやすく示すことは政治においてとても重要とゼネシス様は
考えたのであって、第二大陸を統一した事を自慢するために
魔王を名乗ったのでは決してありません。」
ゼネシスって自称魔王なんだな。と周三は心の中で思った。
「ゼネシス様が魔王として国家戦略を打ち出した頃が
第二大陸が一番輝かしかった時代でございます。
第二大陸を統一した魔王ゼネシス様は5大陸統一を目標に掲げた。」
「まさにイケイケですねぇ。」
「まさしく勢いにのっておりました。
全軍の士気はとても高く。
ゼネシス様は総兵力4500万という大規模な遠征軍を編成した。
ゼネシス様は宰相のリガイアサンの進言を採用して
宰相リガイアサンを第四大陸に使者に送り
第四大陸の黒竜王と同盟を結んで共同戦線を組みました。」
「あまり悪魔は使者を送らないイメージですけれど
宰相のリガイアサンさんは外交とかするんですね。」
「宰相リガイアサンは他の大陸に友人が多くおられたようで
悪魔の中ではとても革新的なお考えをお持ちになっておられましたな。
五大陸統一戦争の準備が整ったと
判断をしたゼネシスは軍事作戦を決行します。
まず先行軍として1500万の飛行兵で
第三大陸の北西に位置するイゴス港を強襲しました。
元帥ルシカルは1000万の飛行兵で
第五大陸北東部シェンドライト諸島を占領し
そこを拠点に第五大陸本土に侵攻を始めました。
魔王軍は圧倒的な兵力でどんどんと第三大陸北西の城を攻め落として
ロクトアス地方と呼ばれる地域のほぼ全域が魔王軍の占領下となりました。
天使の大軍がロクトアス周辺に到着して人間軍に加わってからは
一進一退の攻防になりましたがこちらの圧倒的兵力に
人間軍も天使軍も防衛戦線を支えきれず敗走した。
わしは五大陸統一は案外簡単にできるとこの時は思っておった。
勢いに乗った悪魔軍はロクトアス北東の山脈に
陣取った天使の大軍を一気に攻めた。
その山脈に陣取った天使軍は大きな声で歌を歌いはじめた。
何の歌かはわかりません。
その歌声はただただ美しい旋律を奏でて
山脈にこだまして響き渡り
その歌声にわしも心を奪われた。
突然、山脈の中腹にある我が軍の前線で血しぶきが上がった。
その血しぶきがどんどんと広がり
遠くだったが我が軍の兵士たちの体が破裂して倒れて行くのが見えた。
最初は天使の歌が原因ではないかと思いましたが
その歌は死者を弔うための歌だと
味方の堕天使がゼネシス様に報告に参りました。
今考えると天使たちは死に行く悪魔軍の為に歌っておったのでしょうな。
200万以上いた山脈攻略の先鋒軍が体が爆発したり
体が突然、真っ二つに引き裂かれ亡くなりました。
山脈から本陣の近くまで味方の無残な死体で埋め尽くされ
死体から流れ出た大量の血液が小川を黒く染め上げました。
折り重なる死体の上を悠々と歩きながら
本陣に向かって近づいてくる銀の軽鎧を着た人間の青年が見えた。
その青年は黒いドレスを着て日傘を差した女と
煌びやかな黄金の鎧を着た金髪の男性剣士と
修道服を着て槍を持った神官とおぼしき男を引き連れておった。
彼らの前方にいる悪魔はどんどんと
体が何かに引き裂かれたようにして死んでいく。
魔王の前方を守る近衛隊も一瞬で体が四散し即死した。
左右に陣取る近衛隊が魔王を守ろうと魔王の前方に
移動するとその瞬間に体が爆発して四散しました。
魔王ゼネシス様の御前までその4人の人間は
悪魔軍の死体を踏みつけてながらゆっくりと歩いてきた。
銀の軽鎧の青年が魔王ゼネシス様に見上げてニヤリと笑いかけた。
その青年の顔は無邪気で可愛らしく青年というより少年でしたな。
そして、後ろの仲間三人に向かって
ここらへんにいる奴ら以外はいらないから
全員、生ゴミにしちゃっよ。手早く頼むね。と言いました。
そこからは何が起こったのかもう訳がわかりませんでした。
剣士が剣を横一閃に一振りすると
剣士の正面に布陣していた数千人の悪魔兵士の体が
真っ二つになっていた。
修道服の槍使いがくるくると回転してながら槍でなぎ払うと
槍使いを軸にして広い周囲で悪魔兵の体が
バラバラ飛び散って亡くなりました。
おそらくは数万人くらいの悪魔兵士が一瞬で戦死した。
飛行兵は空高く遥か上空に飛行しても彼らの攻撃から逃れられないようで
空から地面にボトボトと黒い肉片が落ちてきた。
あたり一面に黒い血の雨が降り注ぎ
地上では兵士の四散した体から血が舞い上がり霧のようになっていた。
極めつけは黒いドレスの女だった。
あの女が杖を天に一度かざすと北に配置していた10個方面軍の
全ての兵士が体内から爆発して肉塊となった。
10個という事は100万以上の悪魔兵が
一瞬で体の内側から爆発して爆死したことになる。
おそらくはあの女は人間では無い気がするのぉ。
他の二人とは破壊力も段違いだったが他にも計り知れない何かを感じた。
魔法の本場は第二大陸じゃからわしも幾度となく魔法というものを
目撃してきたがその女の魔法にはわしは何か違和感を覚えた。
その違和感を言葉ではなんとも言い表せないので詳しく伝えられないのぉ。
魔法を使うというより生み出すというか魔法の段取りが見えんかった。
ロクトアス平原の空にも大地にもひしめいていた悪魔軍が
その女が杖を掲げるたびに、ザバァン!という大きな破裂音が響いて
目に見える景色の全てが真っ黒に染まり
我が同胞たちの数百万の命が黒い肉塊となって一瞬で消え去った。
1500万の大軍が全滅するのに多分10分も時間はかからなかった。
そんなことってありますか。おかしいでしょ。ただの虐殺だった。
わしはそいつらに、お前らちょっとは手加減しろ!と叫びたかった。
本陣で床机に腰掛けておられた魔王ゼネシス様も
その光景にはさすがに動揺なされて足を振るわせておられた。
魔王ゼネシス様の目の前にいる銀の鎧の青年は
地面に胡坐をかきながら魔王軍が全滅していく様子を
膝の上に肘をついてただボーっと退屈そうに見ていた。
あっという間に我が軍の兵力が
魔王ゼネシス様を含め300名ほどになっていました。
もはや軍と呼べる人数ではない。
近衛兵は足がガタガタ震えてただ立ち尽くしていた。
わしもその一人にすぎませんでした。
本当に強すぎる相手に対して弱者は
戦うという選択肢が与えられてはいないのだと痛感した。
銀の軽鎧の青年の元に仲間の3人が疲れた様子も無く帰ってくると
銀の鎧の青年が立ち上がった。そして、魔王ゼネシス様に向かって
おまたせ。さぁ、喧嘩しよっか!と純粋無垢な笑顔で言ったのです。
魔王ゼネシス様はおそらく完全に気持ちは折れていた。
それでもゼネシス様は気合で気持ちを奮い立たせて
床几から立ち上がると、お前は何者だ。と青年に問いかけました。
その問いに青年は、俺はカンベイン。勇者さ。と答えたのです。
そうです。その青年こそ勇者カンベインだった。
その頃は勇者いう呼称があまり知られていませんでしたので
ゼネシス様は、勇者とは何だ?とカンベインにまた問いかけた。
カンベインは邪魔臭そうに、知らん。と答えた。
ゼネシス様はそのカンベインの態度に自分は侮辱を受けたと感じて
ゼネシス様は怒りの形相で8本の腕を駆使して
カンベインに殴りかかりましたがカンベインにはかすりもしません。
カンベインが魔王ゼネシス様の脛を軽く石ころを蹴るように蹴った。
しかし魔王ゼネシス様にはそんな攻撃は通用しません。
何故なら魔王ゼネシス様にはあらゆる攻撃を
無効化する能力が備わっていましたからな。
魔王ゼネシス様はその能力で数々の強敵を無傷で倒してきた。
しかし例外はあるもの。
カンベインがまた脛を軽く蹴ったらゼネシス様の脛は切断された。
魔王様はあまりの激痛に大きな悲鳴をおあげあそばせました。
魔王ゼネシス様の能力は魔力を使って
敵のあらゆる攻撃をも打ち消すのですが
敵が自分の魔力量を上回る攻撃をしてきたら攻撃は無効化はできない。
魔術にはどうしても等価交換の原則がありますので
おそらくは最初の蹴りで魔力を使い果たしたのでしょう。
そこからはただただ酷い光景でした。
子供が石を蹴って遊ぶかのように魔王ゼネシスは蹴られる度に
空中に吹っ飛び大地に落ちて転がりました。
ずっと蹴られ続けて体中がボコボコにへこんでおられた。
ゼネシス様は完全に戦意を喪失しておられた。
ゼネシス様はシクシクと涙を流して鼻をすすっていた。
ごめんなさい。ごめんなさい。と許しを請う姿を見て
わしは恐怖と痛みで精神が子供の頃に返ったのではないかと感じた。
もう無抵抗な魔王ゼネシス様を見てカンベインは剣を抜いた。
とどめを刺すのかと近衛兵たちは息をのんだが
カンベインはゼネシス様の体を浅く切り刻んで皮を剥いで遊んでました。
その残酷な光景は今でも思い出すと身の毛がよだちます。
そしてカンベインは魔王ゼネシス様の皮を剥いで
身がむき出しになったところにまんべんなく光魔法を照射した。
グッタリとして朦朧としていた魔王ゼネシス様が
光魔法が照射されて激痛に吊り上げられた魚のように
地面をピチピチと跳ね回りました。
もうやめてくれ!と叫んでゼネシス様をお助けしようと
飛び出した我が軍の近衛兵は何人かいましたが
その兵士たちは一瞬で両腕と両足が吹き飛んで
芋虫のようになってヒクヒクと痙攣しておりました。
その攻撃はカンベインがしたのか他の三人がしたのかわからなかった。
近衛兵たちは自分たちの不甲斐なさにただ惨めで惨めで
あふれでる涙を止められませんでした。
そこからが地獄の始まりだった。
カンベインは魔王ゼネシス様とわしたちを
縦横に列を作らせて正座させた。
列の間を歩き回りながら気まぐれに
死なない程度にわしらを蹴りながら楽し気に話し始めた。
お前ら弱いのにここに何しにきたの?弱いくせに恥ずかしくないの?
ゴミのくせになんか夢でも見たの?自分は強いとか勘違いしたの?
お前らは弱い者同士で殺しあって共食いしておいしいおいしいって
お腹いっぱいにしていればそれで充分幸せなゴミ虫だろ。
なのに生まれてきた意味とか考えちゃったの?
あははははは!お前らには無えよ。
意味があるとしたらここで生ゴミになるために生まれてきたんだな。
遠くから土の養分になりにきてくれてありがとな。
お前ら今から生まれてきてごめんなさいって10000回合唱な!
それが終わったら次は生ゴミの私たちが人間様に
迷惑をかけてしまってごめんなさい。って10000回合唱しろ!
指示に従わない悪魔を見つけるとカンベインに
その悪魔は内臓をえぐり出されてその上で土足でスキップされた。
そんな事をされたら死亡するはずなのに不思議な事に何故か死なない。
カンベインがどんな魔法を使ってるのかわからないが
明らかに死ぬような怪我をカンベインに負わされても悪魔は死ねなかった。
そして、何度も何度も殴られては屈辱的なセリフを言わされ続けた。
新しいセリフが思いつかないとまた初めのセリフから言わされる。
そうして次の日の朝になりその次の朝まで続きました。
正午くらいに伝令らしき第三大陸の兵士がカンベインの前に跪いた。
第四大陸の黒竜王の軍に
天使軍の防衛線が突破されそうなっている。と報告を受けていた。
カンベインは伝令の報告を聞いても慌てる様子もなかった。
悪魔という種族を否定する言葉をわしたちは言わされ続けた。
次の朝には魔王を含め300名いた悪魔が
50名にまで減っていました。
他の250名は死んではいませんがもう肉片になっていた。
散らばっているバラバラになった頭部や
肉片や腕や足や内臓が動き続けている。
死んではいない。死んではいないが生きているとも言えないのう。
カンベインはどんな呪いをわしらにかけて死ねなくしたのか?
不死身という言葉に誰しも憧れを抱くというが
少なくともわしらは魅力を感じない言葉になってしまった。
わしはこの4人組に対してある感情が込み上げた。
こいつらどんだけ暇人なんだ?と。
その感情は終わりの見えない恐怖そのものでした。
こんな不毛な時間をいつまで過ごさせられるのか。
肉塊になっても蠢き続けて死ねないのか。
心の中は絶望しかありませんでした。
わしは隣でグチャグチャのミンチのようになっている同僚を見た。
原型を留めていないし蠅や蟻が肉に沢山たかっておった。
たまに肉がヒクヒクと動くんじゃ。眼もたまにキョロキョロした。
意識があるのかはわからなかったがそんな同僚を眺めては
休憩ができてうらやましいな。とさえ思いました。
次の日に、また人間の兵士が伝令がカンベインの前で跪いて
第三大陸東方沿岸の防衛線が黒竜王軍に突破されたと報告した。
カンベインはわしらに興味が無くなったような目をしたあとに
爽やかな笑顔をわしらに向けて、お前らもう帰ってよし!と言った。
カンベインはそのあとしばらくしてやってきた竜騎士の竜に同乗して
東の山脈の向こうの空に消えていった。
わしらはやっと正座から解放されました。
自由になった実感が沸かず睡眠不足と疲労で何も考えられません。
もう翼で飛ぶ体力など残ってもいない。
わしらに対するカンベインの執拗なまでのネチネチとした嫌がらせ行為を
今まで黙認していたカンベインの仲間3人がわしらの所に近づいてきた。
黒のドレスの女、黄金の鎧の剣士、修道服の槍使いの3人が
わしらに優しく声をかけてきていたわりの言葉をかけてきた。
3人は温かい食べ物や魔石をわしらの為に用意してくれた。
黒ドレスの女は治癒魔法使って献身的に我々の治療をしてくれた。
3人とも敵であるわしたちに優しくしてくれました。
その優しさに魔王ゼネシス様でさえ涙を流して
その3人に感謝の言葉を述べた。
ゼネシス様は黄金の鎧の剣士と意気投合したご様子で
楽しそうに2人で話しておられるのをわしは目撃した。
肉体をグチャグチャにされても死ねない同胞たちを
黒ドレスの女は同胞たちの肉体から魂を解放して成仏させてくれた。
ドレスの女はわしたちに不死身のトリックを説明してくれた。
そのトリックとは肉体は死んでいるのにその魂が抜けないように
魔法で細工する事で生きていると魂に錯覚させているのだそうだ。
肉体はすでに死んでいるが魂が肉体に宿っているので
肉体の細胞組織にわずかでも機能が残っていれば反応もするし
脳も意識があるのだが実際は死んでいるから
当然、肉体の腐食は進んでいく。
魂と肉体を錯覚させる事で魂に生きていると勘違いさせる技法だそうだ。
死んだあとも魂を痛めつけるためにカンベインが
死霊使いの技術を応用して編み出したのだそうだが
なんとも悪趣味な酷い魔法じゃな。
黒ドレスの女が、キチンと魂を抜けるようにすれば
ちゃんと成仏できるようになるの。と簡単に言っておったが
わしがのちに帰国をして最高位のウィザードと話す機会が
あった時にその魔法について説明したら
魂の操作は高等すぎる技術らしくてな。
ウィザード如きでは魂に干渉などは到底できず
肉体に魂を閉じ込めるのも魂を解放するのも不可能だそうだ。
同僚のネクロマンサーにも質問したのだが
死霊使いというのは魂に干渉するのではなく
魂に似た物を死体に植え付けて
操る技術なので本物の魂には干渉してはいないらしい。
魂っぽいものを死体に宿らせる事で肉体が生きてると
勘違いさせるが実際には魂は宿ってないので
結局は死霊使いが魔法で操る操り人形というわけじゃ。
死体に干渉するのではなく神が管理する魂に干渉しとる事を考えると
カンベインと黒ドレスの女は規格外の能力を持っておるのがわかるのぉ。
3人の看病のおかげで生き残った50名の悪魔の体力は2日ほどで戻った。
わしらはカンベインの仲間の3人に何度もお礼を言った。
黒いドレスを着たウルドという名の女性は
わしにとっては今でも女神のような存在です。
魔王ゼネシス様は体力こそ戻られたが
皮を剥がされたり剣で切り刻まれた傷はまるで呪いのように消えない。
ウルド様に原因をお訊ねしたら
勇者の攻撃にはそういう呪いが付与されちゃうみたいなの。
勇者もこの呪いが解けないのよ。
解けないから呪いっていうんだよ。
だからカンベインと戦うなんて絶対ダメ。
あの子に勝ってもあの子は領地とか財産とか持ってないし
勝っても何も得する事はないよ。
勇者は全ての神々の愛から生まれた子だから
あの子に勝っちゃったら
神様たちから嫌われてすごく運が悪くなるし
死んでも転生は出来なくて地縛霊になっちゃう。
この世界のあらゆる祝福を受けられない悲しい存在になるの。
女の子は特に勇者と逆らっちゃダメだよ。
女の子は男の子をなめてかかる所があるけれど
それはどこかで男性を信頼して女の子には男は本気では
手を出さないと思い込んでる女性って多いよね。
カンベインって性欲があんまりないから男女平等なのよねぇ~。
あの子は生まれたての赤ちゃんでも本気で殴るんだからね。
女の子はお顔に傷が残ったら大変だから
カンベインと関わるのは絶対にダメだって
故郷に帰ったら地元のみんなに教えてあげてね。と
ウルド様は軽い口調で教えてくれたが
それを聞いたわしは今後は勇者とは関わらずに余生を過ごしたいと思った。
わしらは勇者の呪いで傷が癒えぬ魔王ゼネシス様を担いで
翼で飛行して第二大陸に逃げ帰った。
帰国してからゼネシス様は治療の為に
第二大陸の地下深くにあるという液体の魔石が沸く泉に
体をつけて養生する事になった。
今もゼネシス様は療養中のようですが詳しい事は機密になっておる。
わしは今でもあの時の地獄の光景を夢に見る。
カンベインから踏まれたり蹴られたりして体中に出来た細かい擦り傷は
今も治らず傷が開いたままなんじゃ。
羽毛で傷は目立たんがな。たまにチクチクと痛む。
浅い傷じゃがたまに蟲が取り付いて炎症を起こして腫れることもある。
今だにあの時に受けた心の傷も体の傷も残ったままというわけじゃ。
それが先ほどわしの精神が錯乱した原因じゃろう。
生き残れた近衛兵士49名は第二大陸に帰国後に国民から
魔王ゼネシス様を敵から守った忠臣として
英雄のように祭り上げられてわしは今では将軍にまでなった。
今回の任務は大規模魔法を積む事が決まった時点で
死地に赴くだけの任務であるとわかってはいたが
際立った才能があるわけでもないこんなわしを
ルシカル元帥は1軍の将にまで取り立ててくれた。
第二大陸全域に領土と属国を持っていた源帝国も
その勢力はいまやルシカル王の領国である影の国だけになってしもうた。
だがゆえに今もルシカル王は源国元帥であることにはかわりない。
わしは源帝国にもルシカル元帥にも
忠義を立てれると思い、喜んで任務を引き受けた。
最後のお勤めを果たしてあの世であの時死んでいった同胞たちに
わしは生き残って将軍にまでなったんだ。と
自慢ができると思っておったのにそれももう叶いませんな。」と
言い終えるとギヨクは大きな声で泣き始めた。
周三はかける言葉が見つからずただギヨク将軍を見つめていた。
こんばんは。




