出発
周三とロアンは軍艦内部の各要人室を訪ねた。
第一大陸要人室で中村を誘い、第二大陸要人室で甘根を
誘うと4人はディアナのいる帝国要人室を訪れた。
帝国要人室内に4人は入れてもらうと
ディアナとミュアンを交えて6人で打ち合わせをした。
ディアナ、中村太郎、甘根興次、ミュアンの4人に
ロアンは周三と飛行偵察に行く事を皆に説明をする。
ディアナは最初は反対したが代案を提示できずに
周三とロアンの飛行偵察にしぶしぶ賛成した。
周三とロアンは帝国要人室を出ると
すぐに飛行偵察に向かおうとしたのだが
周三は夕食を食べ過ぎたので
出撃前にトイレに向かう事にしたのだった。
飛行偵察に向かう前に周三は要人室がある階に
設置されている男性用のトイレルームに入ろうとした。
ロアンは「ではわたしは一度、部屋に戻り
偵察に必要な物など用意してきます。」と言って
エレベーターのある方角に向かって歩いて行った。
この階の各要人室の室内にはトイレが無い。
その為なのか設置されているトイレルームはとても広い。
男性用便器や個室が多く設置されている。
周三はトイレルーム内に入ると入口から遠い個室の扉を開けた。
扉を開けると個室内も余裕のある広さがあった。
「偉いお客さん用のトイレだから
デパートのトイレくらい清潔感があるな。
めっちゃ便器が磨かれててキレイやん。
ウォシュレットが設置されてたら完璧なのになぁ。」
周三は洋式便器の蓋をあげると水洗トイレだったので驚いた。
航海には水はとても貴重なはずだから
周三はとても贅沢な気がしたのだ。
「ウォシュレットは無くても
水洗トイレってだけでも十分うれしいわ。」
気持ちよくトイレを済ませた周三は洗面台で手を洗ってから
トイレルームを出ると正面にロアンが立っていた。
「着替えてきたんですね。」
「ええ。」
ロアンはさっきとは服装が違っている。
全身が灰色で統一されたコーディネイトになっていた。
布の帽子も被っており灰色だ。灰色のマフラーもしている。
「なるほど。偵察なので地味な服装にしたんですね。」
「はい。目立たないようにしませんと。」
いつものように優しく微笑みながらロアンは
手に持っていた灰色のマフラーを広げて周三の首に巻いた。
「ロアンさんありがとうございます。
やっぱ外は冷えますよね。」
ロアンは周三の言葉に頷いてから
「いいえ、それだけではありません。
かなりの速度で移動しますから
風圧もかなりのものになります。
風が直接、鼻や口に当たらないようにしないと
とても呼吸がしずらいです。
飛行中はかならず鼻の上辺りまでマフラーを巻いてください。」
「はい。わかりました。」
ロアンが巻いてくれたマフラーは
素材がいいのかとてもフワッとした感触で肌触りが良かった。
ロアンは「では行きましょう。」と周三に言うと
エレベーターとは逆の方向に歩き出した。
しばらく廊下を歩いていくとロアンは十字路を左折した。
周三もロアンに合わせて左折した。
しばらく歩いてロアンは足を止めると
ロアンは左の壁に設置してある梯子を見上げた。
「この梯子を上ると外の甲板に出れます。」
「了解です。」
ロアンは梯子を上り始めた。
ロアンは梯子を少し上ってから下にいる周三の目を見て
「それでは気をつけてあがってきてください。」と言った。
周三は「はい。」とロアンを見上げながら言うと
ロアンに続いて梯子を上り始めた。
梯子は一番上までかなりの高さがある。
ロアンは梯子を上りきり
天井にある丸い金属の扉の丸いハンドルを回すと
扉を外側に向かって開いた。
開けた扉の向こうには星空が見えた。
「星が見えるって事は天気の心配はなさそうっすね。」
「ええ。天気が大丈夫なら偵察も
すんなりいくはずです。頑張りましょう。」
ロアンと周三は梯子から軍艦の外の甲板に出た。
外は風は強めだが空気は生暖かくもなく湿ってもいない。
ロアンは分厚くて丸い扉を閉めるとハンドルを回しロックした。
周三は目の前に聳え立つ主砲を
見上げながら目を丸くした。
「でっかい大砲ですねぇ。」
「ですね。この主砲は世界最大の大砲だそうです。
魔導砲というのはまだ試験中の技術なので
カノレル海洋貿易会社の軍艦にしか装備されていません。
ですので他国の軍船には大砲は装備されてはいないらしいです。」
「そうなんですね。じゃあ軍船はどうやって戦うんですか?」
「基本的には歩兵は弓を使いますね。
船の装備は外の甲板の側面に多数設置されている「バリスタ」と
呼ばれている固定型の弩の発射台が数台設置されてます。
船の先端に装備された鎖で繋がれている巨大な矢を
発射する為の超巨大な発射台も装備されています。
軍船は基本的に遠距離ではなく敵船に突撃して
自船と敵船を肉薄させて歩兵で白兵戦に持ち込むんで
敵船を制圧するのが一般的な水軍での戦い方です。
ゆえに先端の巨大な弩で鎖が後部についた巨大な丸太のような矢を
敵船に打ち込んで自船と敵船とが
離れないように固定させて戦います。」
「という事は味方の犠牲の出ない水軍戦は難しいって事ですね。
大砲が無いんじゃ船を沈められませんから。」と周三は感想を述べた。
「はい。その通りです。これから魔導砲がどんどん配備されるように
なれば敵軍を全滅させて味方は無傷で
完全勝利するなんていう夢のような事も可能かもしれません。
この戦艦ならもうそれが可能でしょう。」
「この戦艦が1隻あれば海上戦は無敵でしょ。」と周三は感心していたが
ずっと吹き続ける海風の冷たさに少し身震いして
「やっぱり夜は寒いですねぇ。」と愚痴がこぼれた。
2人はしばらく艦の前方に歩いていくと大きな影が見えてきた。
何か大きな生き物が甲板に伏せて寝ているように見える。
「おまたせ。アルフレッド。」とロアンが大きな影に声をかけると
むくりと大きな影が起きて4本の足で立ち上がった。
船外の照明にかすかに照らされてみえた姿は鳥のような上半身と獣の下半身。
「おお!グリフォンですね!かっこいい!」と周三は声をあげた。
「ええ。よく知っておられましたね。
このグリフォンの名前はアルフレッドです。」
続けてロアンがグリフォンに向かって
「アルフレッド。こちらが勇者の田中周三様ですよ。」と周三を紹介した。
グリフォンが鋭い鷲の目の視線を周三に向けた。周三は少し怯えた。
「あなたが次世代の勇者か。我はアルフレッドと申す。」と
グリフォンが周三に挨拶した。
周三はアルフレッドの鋭い目に少し緊張していたが
アルフレッドの優しい声に緊張が和らいだ。
「アルフレッドは言葉が話せるんですね。
アルフレッド。はじめまして俺は田中周三です。シュウと呼んでね。」
アルフレッドは周三をじっと見つめて「勇者様に会うのは
カンベイン殿以来だがシュウ殿にも相当なおチカラを感じますな。」
周三はその言葉にびっくりした。
「アルフレッドはカンベインに会った事があるの!?
カンベインと俺とじゃまったく比較にはならないよ。」と周三は首を振った。
「はははは。シュウ殿は今はチカラの使い方に不慣れなだけでしょう。
いずれはカンベイン殿にも負けないくらいにお強くなられるでしょう。」
周三にはその言葉を信じられず「ありがとう。うれしいよ。」と
アルフレッドの言葉をお世辞として受け取った。
「ではシュウ、このヘルメットとゴーグルをつけてください。」と
ロアンはアルフレッドの馬具に引っ掛けてある白い作業用のヘルメットと
溶接作業用に使われているゴーグルを周三に渡した。
「これどうしたんですか?」と周三が訊くとロアンは
「機関室の作業員の方に借りておきました。」と応えた。
「これをつけないとやっぱり風圧がヤバいですか?」
ロアンは微笑みながら
「目が乾き切って髪の毛もかなり抜けてしまうかもしれません。」と答えた。
「それは困ります。」と周三はキッパリ言うとゴーグルを装着した。
ヘルメットをしっかり被って顎でヘルメットのベルトを固定した。
周三は首に巻いているマフラーを鼻のあたりまで上げると
「準備オッケーです。」と言った。
ロアンもゴーグルとヘルメットを装着するとなぜか腰の剣を鞘から抜いた。
「剣を抜いてどうしたんですか?」
「はい。人魚が捕捉した敵軍をセイレーンが追跡しながら
耳には聞こえない特殊な声で歌を歌う事で
こちらに敵の位置を信号として送ってきてるはずなのです。
長距離離れた場所でセイレーンの声を聞きとるのは
エルフのわたしでも不可能です。
しかし、シルフという風の精霊が可能なので
この剣を使ってシルフを召喚します。」
「召喚するのに剣を使うんですか?」
「この剣は召喚剣と言いまして
第五大陸の4大精霊と契約した証の剣なのですが
この剣の表面に4つの召還魔法陣が刻まれていまして
魔法陣に指を触れるだけで触れた魔法陣に刻まれた精霊を召還が可能です。
召喚儀式がいらずとても便利な剣なのですよ。」と笑顔で言った。
「うわぁ!俺もその剣が欲しいです。」と周三は目を輝かせた。
「4大精霊と契約すればシュウの持っている聖剣白羊も
召喚剣にする事が可能ですよ。」とロアンは微笑みながら応えた。
「本当ですか!今度ぜひ契約の方法を教えてください!」
「はい。よろこんで。」とロアンは応え「ではシルフを召喚します。」と
ロアンは続けて言うと右手に持った剣を正面で切先を上に向けた。
剣の中央に刻まれた4つの召喚魔法陣の切先から3つ目の召喚魔法陣に
左手の人差し指と中指を当てた。
すると剣の切先の上に光が集まって形が形成されていく。
光が四散して姿を現したのは
葉っぱで出来た洋服を着た50cmほどの羽の生えた精霊だった。
その姿を見て周三が「フェアリーっぽいですね。」と感想を言うと
ロアンが「そうですね。雰囲気が似てるかもしれません。」と応えた。
「そうだ。ララーはロアンさんの家でお留守番ですか?」
「いいえ、艦のわたしの部屋にいますよ。
部屋の外に出すのはとある理由で控えています。」
「とある理由?」
「悪魔の皆さんの魔力の波動がフェアリーには影響があるので。」
「なるほど。」
ロアンはシルフを手の平にのせると
「シルフ。セイレーンの声の方角を示してくれるかい。」と言った。
シルフは右腕で西を指差した。
「ありがとう。ではシルフ。
アルフレッドの頭の上に乗ってくれるかい。」とロアンが言うと
シルフ頷いてアルフレッドの頭の上にちょこんと乗って座った。
「シルフは風圧で飛ばされないんですか?」と周三はロアンに問いかけると
「ええ。精霊なので大丈夫ですよ。」とロアンは応えた。
「そうですか。」と周三は、そっか。精霊は大丈夫なのか。と
疑問を理解できたわけではなかったがそのまま納得した。
「ではアルフレッドに乗りましょう。
シュウは馬具の前方に乗ってください。」とロアンが言った。
それを聞いてアルフレッドは体を伏せて
人が騎乗しやすいように低姿勢を取った。
アルフレッドの背中には馬具が装着されている。
「2人乗りできるように急遽、馬具を改造しましたので
乗り心地は悪いかもしれません。ですがシュウを
ベルトで馬具に固定できるようにしておきましたので
落ちる心配は絶対にありません。ご安心ください。」とロアンは言った。
「ありがとうございます。それは助かります。」と
周三はロアンに礼を言ってからアルフレッドの背中にまたがった。
ロアンも周三の後ろ側にまたがると周三の上着のベルトに
馬具に固定されている皮のベルトを絡めて締め上げて固定した。
「これで大丈夫。足は鐙に乗せてから股を内側に締めて
しっかりと体を固定してくださいね。
あと手は馬具の前の方に両手で握れる取っ手を取り付けましたので
ぎゅっと握っておいてください。」とロアンに言われ
「はい。わかりました。」と周三はロアンの支持通りにした。
「ではシュウ、準備はいいですか?」とロアンに確認され
「オッケーです!」と周三が元気な声で言うとロアンは頷いて手綱を持つと
「では行きます!出発!」と大きな声で言った。
その掛け声に反応してアルフレッドは
前足の付け根あたりに生えている大きな翼をゆっくりとはためかせた。
すると強い風が舞い上がりゆっくりゆっくりと
アルフレッドの体は上昇していく。
「浮いてる!浮いてる!」と
周三は同じ事を何度も口にしていた。
下に見える軍艦はどんどんと小さくなっていく。
照明で明るく照られている広場の人々も小さくなっていく。。
飛行機に乗った経験が無い周三は期待に高まる気持ちと
恐怖とが心の中で入り混じっていた。
ゆっくりゆっくりと夜空へと上昇していく。
「ジェットコースターで最初に急降下する直前の感覚に似てるな。」と
周三は自分の気持ちを分析する余裕はまだあった。
しばらくして、かなりの上空で上昇が止まった。
「ん?」と周三は周りを見渡した。
星空がどこまでも広がっている。周三は無意識に月を探した。
「月が青い。あれは衛星なのか?惑星なのか?」
アルフレッドは翼を力強く羽ばたかせて前に進み始めた。
前へ前へとありえない速度でどんどん加速していく。
「うわぁぁぁあ!!!」
周三の体が後ろに強く引っ張られる。周三は耳の中がツーンとしていた。
周三はあまりの速さに驚いて悲鳴をあげたが
「うわぁ!すげぇ!はええ!」と歓喜の声に変わっていた。
風圧でロアンには周三の声は聞こえていないかもしれない。
だんだんと体が速度になれてくると周三の心の中から
恐怖は消えていて心地よい爽快感が胸いっぱいに広がっていた。
こんばんは。




