偵察前
周三は敵水軍への飛行偵察前に軍服に
着替えようと思い軍艦に乗り込んだ。
軍艦内に入った周三は高級ホテルのような内装が度肝を抜かれる。
エレベーターでの移動や温水シャワーなど
周三が元にいた世界に近い設備もあった。
周三は温水シャワーを軍服に着替えると
軍服のデザインはまるで
学校指定の黒の詰襟の学生服そのものであったが
着てみるとかなり周三の心の中ではかなりしっくりきていて
学生服そっくりの軍服をたいへん気に入るのであった。
準備が出来た周三はロアンと一緒に
ディアナのいる帝国要人室に向かった。
帝国要人室は周三の部屋である第二艦橋より2つ下の階にある。
軍艦内は空調設備がしっかりしているのかとても快適な温度だ。
照明も所々に設置されていて艦内はとても明るい。
周三とロアンはエレベーターで2つ下の階で下りた。
まっすぐ直線の廊下が目の前にあり側面の壁には
木製の扉が並んでいる。
右側の壁の2つめの扉の前でロアンが足を止めた。
「こちらに大天使タロウ様が
待機されておられると思います。
お声をかけられますか?」とロアンが周三に言った。
周三は「そうですね。」と応えてその扉をノックした。
「はい。少々お待ちください。」と扉の奥から声が聞こえて
すぐに扉が開くと見知らぬ天使が応対に出てきた。
「大天使の中村太郎くんはいますか?」
「はい。おります。あなたは勇者様ですね。」
「はい。はじめまして。勇者の田中といいます。」
「はじめまして。わたくしタロウの隊に所属するソリアルといいます。
これからもどうぞよろしく。
ではタロウを呼んでまいりますので少しお待ちください。」と
丁寧に応えて扉を閉めた。
すぐに扉が開き中村太郎が出てきた。
「おお。ロアンさんどうもです。田中、お前も着いてたんか。
ほんでどないしてん?」と中村に訊かれた。
「ちょっと話があるから帝国の要人室まで今から来てくれへん?」
「おお。わかった。ほな一緒に行くわ。」
中村は自分の待機する部屋から出てきて扉を閉めた。
中村は周三の全身を眺めながら
「あれ?田中、学ラン着とるやん!あははは!
めっちゃ似合うとるやん。どこに売ってたんや?」と言ってきた。
周三は照くさそうに
「軍服や言うて議員さんに渡されてん。」と中村に答えた。
「そうなんか。へぇ~。
まぁ詰襟ってある意味海軍の制服っぽいかもしれんよな。」
周三、ロアン、中村の3人は並んで廊下を歩きだした。
「それにしても軍艦の中はめっちゃ快適でええなぁ。
僕もこれに乗って戦場まで移動したいわ。」と中村が言った。
周三は中村の言葉に深く頷くと
「確かにその気持ちはわかる。
天使は1000人もいてはるんやろ。
みなさんどうしてるん?」と中村に訊ねた。
「ほぼ軍艦の後部にある補給物資搬入用の
ごっつ広いスペースで待機しとる。
敷物とか毛布とか他にも色々と
カノレルさんに用意してもらってて快適みたいやで。
今いた部屋には天使軍の隊長10人と僕が待機してる。」
ロアンは立ち止まると
「タロウ様のお部屋の隣のこのお部屋が帝国要人室なのですが
コウジ殿下はこの部屋の向かいのお部屋なのです。
まずコウジ殿下にお声をかけられますか?」と2人に訊ねた。
周三は他の2人に
「コウジはさっきまで外でご飯食べてたけど
もうコウジも軍艦の中におるかな。」
「ほんなら部屋をノックしておるか確認したらええやん。」と
中村が言ってロアンも中村に賛同した様子だった。
「そやな。」と周三は炎国要人室の扉をノックした。
「はいよ!」と甘根興次の元気な声が聞こえてきた。
しばらくして扉が開くと甘根が出てきた。
甘根は周三の服を見た瞬間に目を輝かせた。
「おい!シュウ!学ランとかマジ渋いやんけ!
わしも1着ほしいわ。あとで売ってるとこ教えてぇや。」と
羨ましそうに甘根は周三の軍服を触りながらさすった。
「これは軍服らしくて議会からの支給品やねん。」と
周三は甘根に説明をした。
甘根は少しがっかりした様子を見せた。
「そうけ。それは議会から貰わなあかんのけ。
わしじゃ貰われへんかもなぁ。残念や。
でも今度、議員さんに聞いてみたら
売ってもらえる可能性もあるよな。
めっちゃほしいわ。
ちょっと裏地に刺繍とかズボンにタックとか入れたいのぉ。
ん。おう!タロウもロアンさんもおるやんけ。って事は
シュウがさっき言ってた大事な話か?どこで話するん?」
「コウジの部屋の向かいの帝国要人室でしようと
思ってるねんけどシュトム将軍は?」と
周三はシュトムの姿が無い事への疑問を訊ねた。
「まだ帰ってきとらへんねん。
軍艦の中まではシュトムと一緒に来てんけどな。
またすぐ部屋を出て行ったきり帰ってこんねん。
またコーラントのお爺さんと船の中の
どっかで酒を飲んどるのかもしれんな。」と甘根は呆れた表情をした。
「そうかぁ。シュトム将軍とコーラント少将は
さっきもベンチで一緒にお酒を飲んでたけれど
2人はすごく仲が良い感じやったもんな。」と周三は
歓送会の会場でのシュトムとコーラントの姿を思い出して言った。
「まぁシュトムも友達が出来てよかったんちゃうけ。」と
甘根は興味なさげな表情で言った。
4人は帝国要人用の部屋の前に立って周三が扉をノックした。
扉の奥から女性の声で
「はい!!!」とびっくりした感じの返事が聞こえた。
扉が開くと小柄でおさげ髪のミュアン少佐が顔を出した。
「あああ!勇者さま!いらっしゃいませ!
皆様お揃いでどうなさったんです?」と
4人をキョロキョロと見ながら目を輝かせて訊ねてきた。
「はい。ちょっと打ち合わせをしようとおもいまして
ディアナにも参加してもらいたいんですがディアナはいますか?」
「はい。姫様は中にいらっしゃいますのでお呼びしますね。」と
ミュアンが部屋の中へ戻ろうとした。
周三はミュアンに「ちょっと待ってください。」と制止して
「あの。迷惑でなければですがこのお部屋の中に
俺たちを入れて頂きたいのですが
お邪魔でしょうか?」とミュアンに訊ねた。
ミュアンは周三に振り返ると前かがみ気味な姿勢で
両手をピストルの形にして指先を部屋の中へ向けて
「ああ。遠慮なくどうぞどうぞ!」と言った。
周三はミュアンのその挙動不審な動きを見て
この人はどこの国の生まれなのだろうと
ミュアンの育ってきた環境に少し興味が沸いた。
「ではお邪魔します。」と周三はミュアンに言って
ロアン、中村、甘根の3人と部屋の中に入ると中は
かなり広めの応接室といった感じの部屋だった。
部屋の中央に大きめのテーブルと
ゆったりと出来そうなソファーが置いてあった。
部屋の奥にはデスクがあり
ディアナがそのデスクの椅子に座っていたが
周三たちの姿を見るとすぐに立ち上がった。
「皆様ご到着されたのですね。さぁソファーへどうぞ。」と
ディアナはソファーに手を差し伸べて皆に座るように促した。
周三のすぐ側までディアナは近づくと周三の目を見つめて
「よくお似合いだと思います。」と小さな声で言った。
周三はディアナの目線にドキドキしながら
「ああ。ありがとう。この軍服は
議会から支給してもらったんだ。俺も気に入ってる。」
「とても素敵です。」とディアナは微笑んだ。
正面左側のソファーの奥にディアナが座り
手前にミュアンが腰かけた。
右側のソファーには奥に甘根が座り
手前には中村が座った。
正面奥のソファーには左に周三が座り右にロアンが座った。
全員が席に着くとまずロアンが口を開いた。
「今からシュウとわたくしで敵の水軍への飛行偵察に
出ようと思っています。」とロアンは切り出した。
周三とロアン以外の他は理解が及ばなかったのか疑問の表情を見せた。
「なぜシュウが偵察にいかねばならないのですか?
総責任者が現場を離れる事には
わたしは納得できかねます。」とディアナが強めの口調で言った。
ロアンも周三もほかの全員も
ディアナの意見にもっともだという表情を見せた。
ロアンはディアナの目を真っすぐ見つめながら
「ディアナ姫のおっしゃる通りなのですが
今回の偵察だけはシュウでなければいけません。」と言った。
突然、甘根が元気良く手を挙げた。
「ロアンさん!面白そうやからわしも一緒に偵察に行きたい。」
周三は甘根に困った顔をしながら
「コウジ。それはあかん。
コウジと偵察に行ったら敵に見つかってすぐ戦闘になると
俺の経験が告げてる。99%やないで100%や。」と言い切った。
コウジは周三に不思議そうな顔を向けながら首をかしげた。
「やっつけたらあかんのけ?」
「あかん。偵察はコソコソとするのがお仕事やから
コウジみたいに紅蓮の翼でビュンビュンと
飛んだりしたら完全にNGや。翼は赤くてもええけど
光ってるもん。絶対あかんわ。」
甘根は戦闘出来ないという事で偵察に興味が無くなったようで
「わしはコソコソとか好かんし偵察には行かんわ。」と言った。
「ロアンさん、今回の偵察は
シュウでないと駄目という理由はなんですか?」と中村は訊ねた。
「はい。それはシュウは魔力を探知する能力が
並外れているからです。シュウの能力で偵察をすれば敵に
大規模な魔法が存在するかがわかると思います。」
「たしかに田中には魔力を探知する能力があるのは
昨日、街で甘根を探した時に田中が甘根の魔力を探知するのを
見たので知ってます。ですけれどそれは天使の僕よりも
高い精度で探知できると言うことでしょうか?」
ロアンは「はい。」とだけ答えた。
中村はその一言で何か察したのか周三の探知能力については
それ以上は深くは訊かずに
「まぁ、敵を知って己を知ってれば
100戦してもあやうからず。って名言があるけれど
確かにこの戦争は敵を知らなすぎますね。
それじゃ勝率が5分5分ですわ。
しかも今回は味方同士が初顔合わせの連合軍。
己も知らないから勝率は5分以下という理屈になってしまう。
ミュアン少佐の作戦は敵がどのような陣形であっても
ある程度は臨機応変に対応できるやろけど
敵の水軍を味方の水軍が包囲した状態で
敵に戦略級の魔法を発動されたら
敵も全滅するけど僕らも全滅してしまうよな。
そんな結末は少なくとも僕は望んでない。
フェンティーアを守るだけやったら
敵も味方も全滅でもええんやろけど
連合軍みんなが死ぬって選択は僕らにとっては許容できへんわな。
特攻なんてするために僕は参加したわけじゃないからな。
全滅を回避するためには
危険がある事も承知で田中とロアンさんが
敵軍の偵察に行くって言うんやったら
僕はそれを止める言葉を持たへんわ。」と言った。
一同が静まり返った。
ディアナの表情は不満そうではあったが代案が思いつかない様子だ。
「その飛行偵察はどのくらいで帰ってこれそうなのですか?」と
中村はロアンに訊ねた。
「わたしたちが飛行偵察の為に乗る神獣は
五大陸の中でかなり上位の速度とスタミナだと思います。なので
これから行って明日か明後日には帰ってこれると想定しています。
敵の位置は第五大陸の人魚が捕捉しているはずなので
わたしたちが海で迷子になる事は無いでしょう。」
中村はロアンの説明に大きく頷くと
「僕は賛成するわ。代案もおもいつかへんからな。」と言った。
「敵を空から見て帰ってくるだけやろ。それやったら
危険も少ないしええんちゃうけ。」と甘根も賛成した。
「そうですね。敵の情報は多いほどこちらは
有利な。。。。。えっと。。。姫さますいません!すいません!」と
ミュアンはディアナに向かって頭を縦に振り続けた。
ミュアンは不器用な性格なのだろう。
前半の言葉でミュアンも賛成の意見だとわかった。
ディアナは不満な表情を滲ませながら
「わかりました。
たしかに我が軍も全滅の危険があるのならば
情報は非常に重要です。
偵察だからと敵に近づくような危険な真似はせずに
敵を空から偵察したらすぐに帰ってきてくださいね。」と
心配そうな目で周三に言った。
「もちろんそのつもりやで。俺も本音を言えば怖いもん。」
甘根が「そりゃ普通は怖いわな。
でもわしは敵なんかちっとも怖くないで!」と自慢げに言った。
「あははは。だからコウジは偵察は無理なんやって!」と
周三が笑いながらつっこんだ。
みんなから笑いが漏れた。
ロアンがソファーから立ち上がると
「では、時間の余裕もあまりありませんので
これからシュウとわたしは偵察に行ってまいります。」
周三も立ち上がると
「俺がいない間はディアナに
全軍の指揮を取ってほしい。」と頼んだ。
ディアナは厳しい顔つきをしながらも
「わかりました。シュウが戻ってくるまでは
わたしが全軍の指揮を責任を持って努めます。
シュウ、ロアン殿、偵察から
必ず無事に帰ってきてくださいね。」と言った。
「うん。絶対に帰ってくるから。」
「ディアナ姫。わたくしが必ずシュウを危険からお守りします。
シュウはこの艦に必ず無事に戻ると
わたくしもお約束しますのでご安心ください。」とロアンは言った。
中村も席を立つと周三とロアンに
「2人ともがんばってな。」と励ました。
甘根もソファーから腰をあげて立ち上がると
「わしは戦争の本番でめっちゃ頑張るからな。
すまんけど偵察は頑張ってな。」と言った。
ミュアンは顔の前で両手を合わせて
「応援してます!お祈りもしてます!断食もします!」と言った。
周三は困った表情をミュアンに向けて
「ちゃんと食べてください。体壊しますよ。」と
心配そうな声でミュアンに言った。
ミュアンはその言葉に感激した様子ですごく目を輝かせた。
「勇者様はうちの心配をしてくれるんですか!
ありがとうございます!ありがとうございます!」と
とても純粋な笑顔を周三に向けてとても嬉しそうに見えた。
ディアナは立ち上がると周三をじっと見つめて
「気をつけていってきてくださいね。」と周三に声をかけた。
周三はディアナに笑顔を向けると
「うん。怪我なく帰れるように全力を尽くすつもりさ。」と応えた。
周三、ロアン、中村、甘根の4人は帝国要人用の部屋を出た。
中村と甘根は周三とロアンの2人に手を振るとそれぞれの部屋に戻った。
「では、シュウ。出発しましょうか。」と
ロアンが周三に微笑みを向けて言うと
「あの~。さっき食べ過ぎたから移動中のトイレとか怖いんで
お手洗いに行ってからでもいいですか?」と周三は不安げに応えた。
ロアンは微笑を崩さずに
「それは絶対に行っておいた方がいいですよ。」と言った。
こんばんは。




