決意
軍艦フェンティーアに隣接したエリアで
戦争関係者をねぎらう為の国会主催の歓送会が催されていた。
歓送会で用意された食事を楽しんでいた周三は
甘根からシュトムとコーラントの2人はベンチで
お酒を酌み交わしていると聞いた。
周三はシュトムとコーラントに挨拶をしようとベンチに向かう。
シュトムとコーラントの2人は酒を飲みながらも
今回の水軍の作戦についての水軍運用方法や軍制の確認などを
打ち合わせていた事を知った。
2人と少し会話をした周三は2人の邪魔をしてはいけないなと
また料理が並べられているテーブルに戻った。
そこでロアンから声をかけられて
周三はロアンと空いているベンチに向かうのだった。
夜なのに軍艦のあたり一帯は照明が照らされて明るい。
夜は出歩かないこの街の人々が沢山集まって
賑やかにしている光景を周三はこっちの世界に来てから初めて目にした。
その雰囲気に戦争に行くという憂鬱さをほんの少しだけ誤魔化せていた。
しかし、ロアンの真剣な顔を見たら現実に
引き戻されて周三の気持ちが戦争という現実と
向き合う気持ちに切り替わった。
周三とロアンの2人は歓送会のエリア内にあるベンチに座った。
ロアンは真剣な表情で口を開く。
「シュウ、偵察の件は考えて頂けましたか?」
「いえ、まだ決心にまでには至っていません。」
周三はモンテ議員にもらった軍服の入った手提げ袋を
自分の手すり側に置いた。
「そうですか。危険な任務ではありますが
この戦争は魔眼での偵察無しでは勝利はおそらく難しいでしょう。」
ロアンは心苦し気に言った。
「ロアンさんの言うとおり偵察は必要だと思いますが
例えば相手を知るだけなら使者を立てるとかの方法はダメですか?」
周三はロアンに疑問を投げかけた。
「第二大陸には使者を送るという習慣がほぼ無いらしいのです。」
「そうなんですか。」と周三はガッカリした。
「5つある大陸はそれぞれ価値観の異なる別の世界が
同じ世界に存在すると考えて頂いた方がいいと思います。
第二大陸は相手を倒すという個人的な闘争を
社会全体で行なう事を戦争と呼んでいる世界です。
降伏や撤退や休戦や同盟などは
第二大陸内ではほぼ無いと聞いた事があります。
炎の国はフェンティーアと交易しているので外交が発達していますが
影の国がどの程度の文化を持っているのかは全くわかりません。
それに第三大陸と第二大陸は言葉も違うので
炎の国の関係者か天使の指輪を所有してる人物に
使者を依頼する形になるでしょう。
もしも使者を敵の水軍に送ったとしても
帰ってこれる保障はどこにもありません。」
「使者を送っても帰ってこれなさそうな雰囲気は俺も感じます。」
「わたしもそう思います。
使者は互いの国が交渉する意思がある事を前提にして送ります。
第三大陸内の国家間では使者は殺さない取り決めを
法律などで定めているでしょう。
互いの国でそういう約束を交わしているから
使者の安全が成立していますが
影の国とは国交がまったく無いので使者を送っても
ただ敵として殺される可能性も十分にあると思われます。
使者を殺されてもルールが定められていないので
こちらからは影の国に抗議する事もできません。」
「なるほど。では第三大陸側からは影の国に対して接触や交渉が
出来ない状態だと考えるべきなんですね。」
「ええ、ただ、ルシカルは元は高位の天使でしたので知性的です。
なので絶対に使者が殺されるとも言いきれはしませんが
こちらの使者が殺される危険は十分にあるでしょう。」
「そうですか。。。。」と周三はうな垂れた。
周三は何かを思い出したかのように口を開いた。
「ああ!大事なことを聞き忘れましたが
どうやって空から偵察に行くのですか?」
「はい。わたしはグリフォンという神獣と契約しており召喚できます。
グリフォンは翼の生えた鷲の上半身と獅子の下半身を持っています。
シュウとわたしとでグリフォンに乗って飛行し
空から水軍に近づいて偵察に行きたいと考えています。」
周三はふと疑問が浮かんだ。
「あの。疑問に思ったんですが召還は空間転移になるのでしょうか?」
「いいえ、違います。厳密には召還では空間転移はしていません。
確かに瞬間移動と言える速さで移動はしています。
その理由は、精霊や神に近い存在は肉体を持ちません。
存在のみの存在なのでこの世の理から外れています。
例えば私たちの目の前に転がっているこの石を東に向かって投げても
遥か東の第四大陸までは当然届きませんよね。
それは重力や空気抵抗など色々な物理的制限が石にかかるからです。
しかし神に近い存在は召還に応じて召喚魔法陣に
転送されている間の速度は光の速さをも超えるのです。
なぜなら神に近い存在は物理的な縛りから外れているからです。
一般的な種族は召還魔法では召喚できません。
一般の天使、一般の人間、最上級以下の悪魔や
知能が低い竜や妖精でも一部の種族は物理法則の干渉を
受けますので空間転移する事でしか瞬間移動などはできないでしょう。
召喚可能なのは、最上級の天使、人間の英霊、魔王、精霊、古龍は
召還が可能な存在だと思います。
もちろん神も召喚可能ですが神を召喚する為の対価を
支払うのは常識的に考えると不可能なので
対象外と考えた方がいいでしょう。
召喚する対象を召喚魔法陣で召還できるかどうかは
相手と召還契約をおこなったあとに
実際に召還してみないとわからないですね。
あと、召還には多大なチカラを消費しますので
同時に大量の対象を召還をする事などは普通はできないです。」
「なるほど。では、さらに疑問なのですが
ルシカルは神に近い存在と言われていて空間を作る事も
転移させる事も出来るのになぜ自国の軍隊を
空間転移で直接フェンティーアに送りこんでこないのですか?」
「それについては憶測の範囲ですが説明ができます。
神はこの世界の空間とは別の空間に存在します。
第一大陸には天界。
第二大陸には魔界。
第四大陸には原竜界。
第五大陸にはヴァルハラ。
この4つの空間にそれぞれ、神、魔神、戦神、竜神が存在します。
神が住まう空間に行く為の神門がこの世界にそれぞれ存在していて
神門から空間転移をして神の住む空間に移動します。
神門は別空間への入り口と出口の座標の決めて設定する魔術です。
ルシカルは自分の作った空間に自分の周辺の対象物を転移させます。
おそらくは出口もルシカルの周辺にしか
転移させれないのではないかとわたしは考えます。」
周三はロアンの説明に納得した。
周三は召還魔法やこの世界の事について興味が沸いてきたが
戦争という本題からそれるので自重した。
「なるほどよくわかりました。
召喚魔法にすごく興味が湧いたので
また今度ロアンさんにゆっくり教えて頂きたいです。」
「ええ、この戦争が終ればいつでもお教えしますよ。」
「ありがとうございます。」
周三は本題に戻した。
「今回の偵察の目的はグリフォンで敵水軍に空から
近づいて大規模戦略級魔法が存在するかを
確認するのが目的なのはわかりました。
ロアンさんの今の説明を聞きながら
別の方法が無いか考えましたが俺も思いつきませんでした。
魔法が有るか無いかを確実に探るのなら魔眼しかないですね。
それでいつ頃に偵察に行く予定ですか?」
ロアンは申し訳なさそうな顔を周三に向けた。
「おそらく連合軍が敵と遭遇する日時を考慮すると
今からすぐに偵察に向かわないとおそらくは
偵察の意味がなくなってしまう可能性が高いです。」
「え!?マジっすか!?」
周三はテンションが下がりまくった。
ロアンに周三は困ったような顔を向けて口を開いた。
「今日は俺はなんだか疲れてしまってるので明日では駄目ですか?」
ロアンは周三の泣き言に対して首を横に振った。
「いいえダメです。せめて今日中に向かわないと
もしかしたら偵察に行って帰ってきたら
すぐ戦闘という事にもなりかねません。
そうなればもしも大規模戦略級魔法が存在しても
対処できずに戦わなければならなくなってしまいます。
それでは偵察の意味がまったくなくなります。
シュウには大変申し訳ないと思っているのですが
どうかわかって頂きたいです。」
周三はロアンには普段から大変にお世話になっているので
無碍にも断れず、断る為の言い訳も思いつかなかった。
「わかりました。ここが踏ん張りどころと思って頑張ってみます。
偵察を頑張ったら後は俺は戦艦の中から一歩も出ませんからね!」
ロアンは笑顔を周三に向けて大きく頷いた。
「はい。それで構わないです。」
「それを聞いて安心しました。」
そう言ってから周三は自分の傍らに置いた軍服の入った手提げ袋を見た。
「じゃあ出発は着替えてきてからでいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。
そのついでにこの戦争の現場責任者には偵察でシュウが
戦艦を不在にする事をきちんと説明をしておきましょう。
総司令官が現場を空けるというのは大ごとですから。」
「はい。そうですね。黙って行ったら心配かけるし
作戦にも悪影響がでちゃうかもしれませんよね。
じゃぁ時間も無い事ですし軍艦に向かいましょうか。」
「ええ。そうしましょう。」
周三とロアンはベンチを立つと戦艦に設置されている階段に向かった。
こんにちは。




