歓送会
周三は戦艦の停泊所に到着した。
停泊所周辺の広いエリアは戦艦を見物に来た人々で
ごった返しておりまるでお祭りのようだった。
周三はこの世界に来たばかりの頃に
知り合った都議会議員モンテに会う。
都議会議員から議長から送られるはずの鎧の製作が
この戦争に間に合わなかった事への謝罪を受けた。
周三はモンテから鎧の代わりにと軍服を贈られた。
モンテと別れた周三は目の前に聳え立つ軍艦を
マジマジと見たがその大きさ驚いた。
「これはもう近代兵器やろ。」と周三は感想をもらしたのだった。
周三はフェンティーア国会主催の軍艦乗組員の歓送会の場にいた。
周三は夕飯を下宿先で食べてきたのだが
別腹とばかりにテーブルに並んだ歓送会の料理にがっついていた。
色んな種類や味付けのパスタが並んでいたのでそれを食べ比べた。
見たことが無いような珍しい料理をとりあえず一口は試食した。
露店のような作りをしたテントでは
大きな海老や蟹や貝を調理人が網で焼いていた。
すごく美味しそうな海の香りが網の熱気に乗って鼻に運ばれてくる。
客は調理人に声をかけて網の上の海の幸を注文すると
料理人が焼きあがった海の幸を皿に載せてくれる。
周三は蟹や海老を夢中で分解して食べていた。
焼きたてのステーキを小さめに切って
皿に載せてくれるブースがあったので
周三は皿を持つとそのブースの前の行列の最後尾に並んだ。
周三のすぐ後ろに甘根が並んできた。
「シュウもいたんか。ここの料理うまいよなぁ。」
周三は後ろを振り返ると甘根は
ステーキを乗せるための皿を嬉しそうに持っていた。
「コウジもおったんや。
コウジは食事を用意されてると思とったわ。」
「ああ。一応は船内でもわしとシュトムの夕食が
用意されてるみたいやけど
この会場の料理も食べてもいいって言われてん。
それじゃあ普通はまずこっちの料理を食べるやろ。」
「そやな。俺も下宿先でご飯を食べてきてんけど
またここでも食べてんねん。」
「シュウもかなり食い意地張っとんなぁ。
そういえばあの女の軍人さん、ミュアンって名前やったけ。
あの女の軍人さんもさっきまで料理をめちゃくちゃ皿に
山盛りにしてずっと1人でムシャムシャと食っとったけど
帝国の軍人ら数人に引っ張られて連れて行かれとった。
たぶん仕事をサボって抜け出してきとったんちゃうけ。」
その事を思い出したら笑いが込み上げてきたようで
甘根はケタケタと笑った。
「それはミュアンさんらしい気もするな。」と周三も笑った。
甘根は急に別の事を思い出したのか真剣な顔になった。
「ああ、さっき、ここの議員の人が俺に話しかけてきたんやけどな。
ネヴェシス姫の引渡しの件は国会でOKが出たって言うてきたわ。
でも、天使との交渉もあるからとかで戦争が終ってからわしの国に
ネヴェシス姫の身柄は引き渡されるみたいやで。」
「そうなんやぁ。こう言ったら悪魔側の人には失礼かもしれんけど
これで第三大陸は悪魔に狙われんようになるかもしれんな。」
「俺の国は姫さん来たからって別に何も変わらんしええんちゃうか。
シュウ!お前の順番、次やで。」
「おお!次か。」
すぐに周三の順番が来て周三は料理人の人に注文して
一口サイズの牛肉ステーキを皿に10枚載せてもらった。
甘根は料理人に、友達の分も頼まれてんねん。と言って
2枚の皿に牛肉ステーキを20枚ずつ計40枚載せてもらっていた。
周三はそれを見て、俺もその手を使うべきだった。と悔しがった。
ステーキの皿を持って2人は肩を並べて歩き出した。
「シュトムさんはどうしてるん?」と周三が甘根に訊いた。
「ああ。シュトムやったら向こうのベンチで
コーラントのお爺さんと酒を飲みながらずっと喋ってるわ。
おっさん同士はやっぱり気が合うんやな。」
そう言って甘根は西の方を指差した。
「それやったら一応、挨拶に行ってくるわ。」
「ほんじゃ、俺はこの辺で食べとるからな。」
甘根は食事用に用意されているテーブルに向かって歩き出した。
周三は歩きながら手に持った皿のステーキをフォークで刺して食べた。
西に向かって歩いていくと
大きなベンチにコーラントとシュトムが並んで座っていた。
大きなベンチなのでシュトムのお尻もなんとか入る
しかし、ベントは大半のスペースはシュトムのお尻に占領されていて
コーラントは肩を竦めて内股で座っていた。
コーラント少将のキツキツ感が半端ないな。と周三は思った。
「こんばんは。」と周三はシュトムとコーラントに声をかけた。
「あ!どうも!勇者どの!
先日はご迷惑かけもうした。かたじけない。」とシュトムは
大きな体を萎縮させて申し訳なさそうにした。
「どうかその事はお気になさらず。」と周三はシュトムに言った。
「こんばんは。田中提督。提督も軍艦を見ながらお食事ですか?」
コーラントに提督と呼称されて周三は驚いた。
「え!?俺って提督なんですか?」と周三はコーラントに疑問を返した。
「ええ。連合海軍の総司令官ですから普通は提督と敬称します。」
「提督って響きはまんざらでもないですね。」と周三は照れた。
田中提督という響きに周三はなんだかとても新鮮に感じがしたからだ。
「お二人も戦艦を見ながらお酒を飲んでらっしゃるのですか?」
「はい。」とシュトムが「ええ。」とコーラントが嬉しそうに返事した。
シュトムとコーラントの足元には
ウイスキーやワインのボトルが20本以上は転がっている。
コーラント少将は嬉しそうな顔で周三を見た。
「わたしら2人とも海軍の将官なので意気投合をしましてな。
この戦艦は水軍をかじってるものなら夢を感じて憧れます。
帝国にもいつかこんな戦艦が配備されるかと思うと
まだまだ引退はできませんな。ふぉふぉふぉふぉふぉ。」
コーラント少将は髭に声がこもったような不思議な笑い方をした。
「そうですか。」と周三が返事した。
今度はシュトムが口を開いた。
「勇者殿それとですね。
先ほどの軍議で参謀ミュアン殿から
帝国軍と炎国軍の軍船の運用については両軍の水軍の担当責任者が
打ち合わせをするようにとのご指示を受けましたので
コーラント少将とこの場でお互いの軍船の性能についてや
旗信号のサインなどを打ち合わせしていたのでございます。」
「なるほど。帝国軍と炎国軍が連携するのは
この戦いが初めてなんですね。」
「はい。だからやりがいを感じまする。
今回の作戦は連携と隊列運動が重要ですので
軍船の中に帆船が混じっていては軍船団の航行速度が遅くなる。
炎の国は水軍の後進国と思われがちですが
実はイシュエル半島付近に配置された軍船は足の速い船ばかりです。
その理由は我が主君イフラートはごっつくてかっこいいものには
目がないので主君はエンジンの形がかっこいいからと言って
カノレル海上貿易会社から魔導エンジンを搭載した軍船を
沢山購入をしておられるのです。」
「購入の理由は実用性とかではなかったんですね。」
「はい。しかし、利点は大きいですぞ。
なんせ第二大陸は魔石が腐るほど採れますからな。
第二大陸のイシュエル半島周辺の軍船は
全てが魔導動力エンジンを搭載しております。」
「それじゃあ、隊列を組んでも軍船団は速度が出せそうですね。」
今度はコーラントが口を開いた。
「勇者様、帝国の軍船の航行速度も問題ありません。
帝国のフェンティーア駐留の軍船は
帝国から遠い立地という事もあって
航行速度が速い軍船が配備されています。
フェンティーア都市国家に配備されている帝国の軍船は
全ての軍船が魔導エンジンを搭載しています。
両軍の隊列運動の連携はスムーズに行きますな。と
シュトム将軍と話をしていたところなのです。」
「それはよかったです。これでミュアンさんのV字作戦も
うまくいきそうですね。」と周三は笑顔で言った。
コーラント将軍は大きく頷いた。
「この事をきっかけに炎国の水軍とアルブルド帝国水軍が
連携する海上安全保障の実現も可能かもしれないと
少々夢みたいな話をシュトム将軍としておりました。」
「そうなればこの海域はもっと平和になりそうですね。」と
周三は笑顔でコーラントに言った。
シュトムは大きく頷いて口を開いた。
「今、コーラント少将と打ち合わせてる内容は
軍船の性能や軍制の詳細についてなどの
お互いの国の軍事機密も含めた内容なのですが
ある程度は腹を割った話もしないと
いきなりの水軍の連携など出来るはずもありませんからな。」
「そうでしょうね。だからお酒を呑んで友好も深めてるんですね。」
「わたしたちは単なる酒好きなのですよ。」とコーラントが言った。
「間違い無いですな。あはははは。」とシュトムが笑うと皆が笑った。
周三は、この2人はお酒を飲んでるだけではなく
戦争の作戦と連携を話し合っていたんだな。と
さすがプロの軍人さんだと感心した。
周三は2人の邪魔をしては悪いと思った。
「では俺はこれで。またのちほど。」
「勇者どのまた!」とシュトムが右手を挙げた。
「では田中提督またあとでお会いしましょう。」と
コーラントは軽く敬礼をした。
周三はまた料理の並ぶテーブルのエリアに戻った。
周三はデザートが食べたいと思い
デザートの置いてあるテーブルを探してキョロキョロしていた。
背後から「シュウ、少しよろしいですか?」と声をかけられた。
周三はその声に振り向くとそこにいたのは
白い布の帽子を被っているロアンだった。
「はい。ロアンさん。」と返事をした。
「では、あちらに参りましょう。」
ロアンは少し遠い位置にあるベンチを指さした。
「わかりました。」
周三はロアンの顔を見て頷いた。
会場の隅の空いているベンチに向かって2人は肩を並べて歩いた。
こんにちは。




