艦長
帝国監督府からロアンと一緒に馬車乗って
下宿先に帰宅する途中の馬車の中で
周三はロアンから、
悪魔水軍の事についてわたしたちは
まだ何もわかっていないと告げられる。
周三はロアンから魔眼による敵の戦略魔法の分析をしてほしいと
願われて敵水軍団に空からの偵察を依頼された。
もう日が暮れて星空が見えている。
周三はカノレル雑貨店の扉を開けて中に入った。
店の中から見知らぬ男性が店を出ようとしていた。
周三の目の前に立った男性は長身で肩幅が広くて
お洒落な服装をしており30代前半くらいに見えた。
その男性はじっと周三の顔を見つめると奥の間に向かって
「お父さん、お客さんだよ!」と叫んだ。
奥の間から出てきたハウルは周三を見ると
「シュウおかえりなさい。」と笑顔で迎えた。
それを聞いてその男性は大げさな驚き方をした。
「そうか!あなたが勇者様か!はじめまして。
ハウル・カノレルの三男でヴォルグ・カノレルと申す。
勇者様今後ともよろしく!」
ヴォルグは挨拶をして周三に握手を求めた。
「はじめまして。田中周三です。」
ヴォルグに挨拶して握手を交わすと
周三はヴォルグからの突然の熱い抱擁を受けた。
ヴォルグの体からは高級そうな香水の香りがした。
周三は不覚にもちょっとドキっとした。
ヴォルグは周三を抱きしめながら周三の耳元で話し始めた。
「あなたに会えてとてもうれしいよ。
アンのナイト様とゆっくりお喋りがしたかったのに
もう、行かなきゃならないなんてね。残念だ。
また後でゆっくり話しましょう。」
ヴォルグは周三の体から離れた。
周三は、この人はイタリアとかに
よく居そうな濃ゆい感じの人かもしれないな。という感想を持った。
「ヴォルグさん、後で、と言われても
俺はもうすぐ出かけるんです。」と返事した。
ヴォルグはキョトンとした後、納得した表情を見せた。
「ああ。おれは軍艦フェンティーア号の艦長なんですよ。
だから、勇者様と一緒に悪魔たちをこらしめにいくんです。」
そう言ってヴォルグは右手の拳の親指を自分自身に向けた。
周三は素直に驚いた。
「そうなんですか!?知らなかったのもので失礼しました。
俺もヴォルグ艦長とのちほどゆっくりお話させてもらいたいです。」
周三はすぐに、軍艦はカノレル海洋貿易会社の所有なのだから
ハウルの息子さんが艦長でも不思議ではないな。と思い直した。
ヴォルグは周三に笑顔を向けた。
「じゃ、おれはお先に行くけどさ。
勇者さまもおれの船に乗っていくのかな?」
「はい。よろしくお願いします。」
「そう!それは楽しい旅になりそうだ。
では、勇者様、またフェンティーア号で!
お父さん!お母さん!アン!またね!」
ヴォルグは大声で奥の間に向かって手を振りながら扉を開けて店を出た。
周三はヴォルグの言葉を聞いて、あれ?アンも来てるのか?と思った。
リアが奥の間から出てきた。
「あれがうちの三男のヴォルグ。明るい子でしょ。」
「そうですね。」と周三はリアに応えた。
ハウルは微笑みを浮かべると口を開いた。
「昔はヤンチャな子だったけれど
ヴォルグは結婚してからだいぶ行動が落ち着いたね。」
「ヴォルグさんご結婚なさってるんですね。」
「はい。」とハウルは周三に返事をした。
「あの子がアンの父親ですよ。」とリアは周三に言った。
周三は今度は本気で驚いた。
「若!めちゃくちゃ若いお父さんですね。」
「そうかしら?普通だと思うけど。」
素な感じでリアは周三に応えた。
この世界は結婚年齢が若いのかもしれないな。
周三はそう自分の中で答えを出して納得した。
「食事をしていく時間はありますか?」とハウルは周三に訊いた。
「ええ。俺は食事をするために帰ってきたんです。」
奥の間のテーブルの南側の椅子にアンが座っていた。
アンは前髪がぱっつんのロングヘアーの赤っぽい髪の女の子だ。
周三より外見は2つほど年下に見える。
テーブルの上には夕食の料理の皿が並べられていた。
「こんばんは。アン。」と周三はアンに挨拶した。
「こんばんは。シュウ。」とアンは周三に挨拶を返した。
アンの声を聞いた周三は
今日のアンはいつもより少し元気が無いような気がした。
ハウルとリアも席に座ると皆で食事前のお祈りした。
お祈りを終えると食事を始めた。
店側の席にハウルが台所側の席にリアが
階段側の席にアンがその向かいの席に周三が座った。
肉厚の牛肉のステーキとカニの身が入ったグラタン、
オリーブオイルで味付けしたカリカリのパンと
アサリが入ったクラムチャウダーとポテトサラダだった。
憂鬱な気持ちを食べてる間は緩和してくれるから良い。と
周三はしみじみと思い、噛みしめて料理を食べた。
周三は、ふと気付いたがアンはずっと無言だ。
周三は小首をかしげた。
リアは周三に話しかけた。
「急に戦争に行かないといけなくなったのかい?」
リアはとても心配そうな様子だった。
周三はどう答えていいのか戸惑った。
「まぁそうみたいです。」
ハウルも心配そうな顔を周三に向けた。
「この500年の間には海上での悪魔との衝突は
数知れずあったようだが
それは戦争というよりも事件という規模のものばかりだった。
それなのにいきなり悪魔が攻めてくるなんてどうなってるのだろうね。」
そう言うとハウルは暗い表情になった。
周三は楽しくご飯が食べたかった。
「すぐに悪魔に勝利して帰ってきますよ。」と周三は笑顔で言った。
リアはパァっと明るい表情になって口を開いた。
「まぁ!頼もしい!さすがシュウは勇者様ね!
シュウがそういうんだったら絶対大丈夫だわ!」
リアは嬉しそうな表情で周三の右腕の右の上腕をさすった。
ハウルも表情が明るくなった。
アンは微妙な表情だった。
ああ。アンのお父さんも戦争に参加するんだ。と周三は気付いた。
ハウルやリアやアンは大切な家族を失う可能性があるのだ。
「実は、連合軍総司令官に俺が選ばれたんです!」
周三は本当は選ばれたくなかったのにわざと嬉し気に皆に報告した。
ハウルは目を輝かせてながら
「シュウ!すごいじゃないか!
総司令官と言えば戦争の総大将でしょう。
そりゃあすごい!」と大喜びした。
リアも笑顔で両手を合わせると
「帝国の皇族や帝国士官ではなく勇者のシュウが
総大将なんてシュウはフェンティーアの誇りだわ。」
リアの目が少し涙で潤んでいた。
アンの目にも少し明るさが戻ってきた。
「シュウ、すごいじゃん。」とアンが笑顔で言った。
「アンも褒めてくれるのか。ありがとう。」と
言って周三はアンに笑顔を向けた。
周三は自慢げな表情で胸を張った。
「俺、剣術始めて2日でディアナに勝った男ですよ。
戦争だって絶対勝ちます。だって勇者ってそういうもんでしょ。」
「あははは。そうだね。勇者は負けないさ。」とハウルは笑った。
皆に完全に笑顔が戻った。
リアは笑顔に涙を浮かべながら
「シュウが帰ってくるのをみんなで待ってるからね。」と言った。
「ええ。安心して待っていてください。」と周三は自信有り気に応えた。
食事が済むと周三はカノレル雑貨店の2階の自分の部屋に入った。
壁に立てかけていた剣を手に取ると腰に納めた。
周三はベットに腰かけると考え事をした。
それにしても空元気というものは虚しい気持ちにさせるものだな。
でも、俺の空元気で3人も安心させられたんだから
絶対に無駄ではなかった。自分で自分を褒めたくなるわ。
着ていく服はブレザーの方が海軍っぽいけど汚れたら嫌やから
こっちの世界で買った私服のままでいいや。
それにしても戦闘になるかもしれないのになんで鎧が無いんや!
海戦やから鎧は別にいらんけれどあった方が気分とかが違うやろ。
まったく。武具屋さんは仕事が遅すぎる!
周三はどうしようもない気持ちの矛先を武具屋に向けた。
トントンと扉をノックする音がした。
「は~い。」と周三は返事をして扉を開けるとアンが立っていた。
「シュウ、もう行くの?」とアンに訊ねられて
「うん。そろそろ行くよ。」と周三は応えた。
「わたしもね。もうそろそろ帰るの。」
「そう。またね。」
「あのね!すぐ馬車が来るんだけど乗らない?」
アンが笑顔で一緒に馬車に乗ろうと誘ってきた。
「フェンティーア号は議事堂の裏に
泊まってるってさっきお父様が言ってたの。
シュウもお父様の船に乗るんでしょ。
じゃあ、行く方向が一緒だよ。」
周三は歩いて議事堂に行くのは面倒だなと内心は思っていたので
「ほんじゃ乗せてってもらおっかな。」とアンの誘いに応じた。
アンがうれしそうに「うん。」と言った。
カノレル雑貨店の前に馬車が止まった。
馬車の音が聞こえたので周三とアンは周三の部屋を出て一階に降りた。
ハウルとリアとアンと周三の4人はカノレル雑貨店の外に出た。
「おじいさま、おばあさま、また遊びに来ます。」
アンはハウルとリアに手を振ると馬車に乗り込んだ。
「またいつでも遊びにおいでね。」とリアはアンに言った。
「気をつけてな。」とハウルはアンに言った。
ハウルとリアは周三に近づいた。
「必ず帰っておいでね。」と
リアは心配そうな顔で周三の手を握って言った。
「いってらっしゃい。ご武運を祈っています。」と
ハウルは微笑みながら周三に声をかけた。
「ありがとうございます。必ず勝利して帰ってきます!」
周三はハウルとリアに元気良くそう言うと馬車の方を向いた。
馬車の扉の横に立っている執事のような男性に周三は声をかけた。
「あの~フェンティーア議事堂まで乗せてもらって大丈夫ですか?」
周三が訊ねるとおそらくは執事であろう白髪の男性は頷いた。
「はい。かしこまりました。どうぞお乗りください。」と
周三に向かって言うと白髪の男性は右手を扉の方向に向けた。
「ありがとうございます。」と
周三は白髪の男性に礼を言うと馬車に乗り込んだ。
執事の男性も馬車に乗り込むと
馬車はゆっくりと動き出して発進した。
後部座席の左側に周三が座り右側にアンが座った。
執事らしき男性は前座席でアンの向かい側の席に座っている。
周三は執事のような男性に声をかけた。
「はじめまして。ではないですが俺は田中周三といいます。」
挨拶するとその白髪の男性は笑顔を周三に向けた。
「わたくしはカノレル家のヴォルグ様にお仕えしています。
マリオ・デナットと申します。
どうぞお見知りおきください。」
周三はアンの目線を感じるので右を向いた。
「ねぇ。いつくらいに帰って来れそうなの?」と
周三はアンに訊ねられた。
う~ん。と周三は考える仕草をしてから
「早くて4日くらい。遅くても1週間以内だと思う。」と答えた。
その答えを聞いたアンは機嫌が良くなったように周三は感じた。
「お父様の船はとっても速いんだから戦争が終ったら
みんなより先に帰ってきたらいいのに。」とアンが言った。
「それはナイスアイデアやな。前向きに検討するわ。」
周三はアンの提案を本気で、アリだな。と思ったのである。
しかし周三は、みんながたとえそれを許しても
たった一人だけそれを許してくれない人がいそうな気がした。
「それにしても戦争なんかよりも
魔法学園の入試を早くしてほしいわ。」と周三がぼやいた。
「そうね。入試っていつなんだろうね。」とアンは相槌を打った。
「戦争に行ってる最中に入試日とかやったらマジへこむ。」
「それは多分ないでしょ。
もしシュウが戦争に行ってるときに入試があったとしても
シュウの入試は待ってもらえるようにわたしが頼んであげる。」
「ホンマか!マジで!?アン頼んだで!絶対やで!」と
周三はアンの肩に手を置いてアンの提案に食いついた。
「うん。任しておいて。」とアンは胸を張って周三に笑顔で答えた。
ゆっくりと馬車が止まった。フェンティーア議事堂に到着したのだ。
執事のマリオが扉を開けて降りて扉の横に待機した。
「じゃあまた近日会おう。」と周三がアンに右手を上げて言った。
アンは寂しそうな顔で両腕を開いて抱擁を求めた。
周三はアンを抱きしめた。周三は外国のこの挨拶は気に入っている。
しかし周三が気に入ってるのは対象が女性の時に限るようだ。
アンは周三の耳元まで口を近づけると
「絶対に帰ってきてね。」と言った。
「アンのお父さんと一緒に早く帰ってくるから。」と周三は答えた。
周三は馬車を降りるとマリオに声をかけた。
「ありがとうございました。」
「いえいえ。では道中お気をつけて。」
マリオは馬車に乗り込むと扉を閉めた。
その後ゆっくりと馬車が発車した。
もう夜なので周りは暗い。
外灯が照らしてくれているので真っ暗ではない。
周三は馬車に手を振りながらしばらくその場に立っていた。
こんばんは。




