4階総監室
帝国総監府3階大会議室での軍議を終えた周三は
大会議室の前の廊下で現実逃避してボーっとしていた。
そんな周三であったがアミテルに突然に抱きしめられた。
アミテルの優しさや柔らかさに
触れてちょっと心が癒された。
帝国監督府4階にて
影の国水軍団殲滅作戦についての
各国武官による意見交換が行なわれる事になっていた。
廊下のトイレから出てきた中村と一緒に
周三は4階に向う。
4階は6室あり、その全てが
総監所属の執務室となっていた。
各部屋は中央の総監室から扉で繋がっている。
どの部屋でも総監室から廊下に出ずに
移動することが出来る。
総監室が一番広く。
事務官の働く事務所が2部屋。
総監のプライベートルームが1部屋。
あとは応接室と会議室である。
応接室と会議室は総監室内に併設されている。
総監室の東側が応接室。西側が会議室である。
4つの大きな部屋の南東側の一室には
総監の為のプライベート用の部屋があり
寝泊りする事も可能。
3階から階段を上ると四方に扉があった。
階段を上がって正面にある大きな扉には
「総監室」と大きな看板が扉の横に
設置されていた。
その正面のドアノブを握って周三は扉を開けた。
周三は中村と肩を並べて部屋の中に入った。
「おお! 主役のおでましだぜ。」
ハヤトールが大きな声で反応した。
部屋の中に入ると
とても部屋の調度品が豪華な広い部屋であった。
部屋の奥の大きな机にディアナが座っていた。
ディアナの横には若い女性仕官が1人立っている。
女性士官はディアナと真剣な顔で話をしていた。
中央にあるテーブルの横に置かれたソファーには
リュークとハヤトールとコーラント少将の3名が座っている。
「遅くなりました。」と周三は部屋の皆に向かって声をかけた。
奥の机に座るディアナが周三にジトっとした目を向けた。
「遅かったですね。」とディアナからは
素な感じで声をかけられた。
その場にいた面々から笑いが起こった。
「僕はトイレだったんです。」と
中村はすかさず言い訳をしていた。
ディアナは中村には優しい笑顔を向けた。
「そうですか。
お手洗いならば仕方ありませんね。」
中村はホッとした表情をして
周三を見て周三の肩に右手を置いた。
「では、シュウは何をされてたのですか?」
ディアナの目は笑ってはいなかった。
「ちょっとハシルさんと話をしていたんだ。」
ディアナは周三の目を鋭く真っ直ぐな視線で貫いた。
周三はその視線に心が痛んで
ディアナの目線から目を逸らした。
周三はわざとらしくキョロキョロとし始めた。
「あれ?コウジは来てなかったっけ?」と
周三は話をすり替えようとした。
ディアナは呆れたように
ため息をついて左手を壁に向けた。
「こちらの会議室でコウジ殿下と
シュトム将軍にはお待ち頂いてます。
ところで疑問に思ったのですが
大天使タロウ様とコウジ殿下とは
シュウは以前からのお知り合いなのですか?」
「えっと、、、
昔からの友達やねん。」と周三は答えた。
周三と中村以外の面々はとても驚いた表情を見せた。
リュークは太陽のような眩しい笑顔を周三に向けた。
「シュウくんは友人もすごいのですね。
やはり、類は友を呼ぶのでしょうか。」
ハヤトールは悟ったように笑って
「フッ。ハンパねぇな。」と一言言った。
髭面コーラント少将は髭を小刻みに震わせながら
「ふぉふぉふぉっふぉふぉ」と笑った。
髭で声がこもってるのか? と
思わせるような笑い方だった。
ディアナの横に控える軍服にタイトスカート姿の
女性仕官は羨望の眼差しで周三を見てた。
ディアナの表情が柔らかくなった。
どうやら機嫌が直ったように見えた。
「ご友人ならば、意見交換もしやすいですね。
では、わたしたちも隣の会議室に移りましょう。」
そう言うとディアナは椅子から腰をあげた。
総監室にいる全員が
隣にある会議室に移動する。
会議室に入ると会議用テーブルが中央にあり
東側の縦の列の一番奥に甘根が座り
隣にはシュトムが座っていた。
シュトム将軍は椅子の幅が
お尻の大きさに合わないので
シュトムにはソファーが椅子の代わりに用意されていた。
甘根は眠そうにウトウトしていたが
スッと薄目を開けて周三を見た。
「おお。シュウ!
パツキンのベッピン天使とは
もう話は済んだんけ?」と
甘根は周三に大声で言ってきた。
周三はチッと舌打ちしたくなる気持ちを抑えた。
周三はあくまで冷静を装いながら頷いた。
「うん。
ハシルさんとアミテルさんはもう帰ったよ。」
「そうか。
あのお姉ちゃんは器量よしのええ女やったなぁ。
シュウの事がむちゃくちゃうらやましかったわ。」
甘根はワザとか天然なのかは
わからないが意味深な言い回しをした。
言い終わるとすぐに腕を前に組んで
甘根はまたウトウトし始めた。
いつの間にかディアナは
周三のすぐ横に立っていた。
「コウジ殿下は
何が羨ましかったのでしょうか?・・・」
ディアナがかすかな声で言ったのが周三には聞こえた。
周三はディアナに目線を向けない。
目を見ると見透かされる気がしたからだった。
「さぁね?
コウジも女性の天使様とおしゃべりしたかったんかな。」
周三はそう言ってすぐに一番手前の席に座ろうとした。
周三が椅子を引いた手に
ディアナが手を添えて制止した。
「シュウ。
あなたが一番立場が上なのですから
一番奥の上座に座ってください。」と
周三にディアナは注意をした。
ディアナの言い方が
周三にはトゲトゲしく感じたのは気のせいだろうか。
周三はその事は
今は考えないでおこうと思った。
総監室から扉が開く音が聞こえてきた。
おそらく、ロアンが到着したのだろう。
ディアナが歩いて中央の総監室に戻ると
ロアンを出迎えて会議室に導いた。
「皆様、すみません。遅くなりました。」
皆に謝罪してロアンは会議室に入った。
周三はまだ席に座っていない。
ロアンは周三に歩み寄ると
「シュウ、ごめんなさい。
用事が少し長引いてしまいましてね。
お待たせしたね。」
「ロアンさん。
実は俺も今来たとこなんです。」と周三は返事した。
「そうなんですか。あはは。」と
ロアンは周三に微笑んだ。
ロアンと周三の親し気なやりとりを
ディアナは不思議そうに見ていた。
「もしや、シュウは
ロアン特使ともお友達なのですか? 」
周三にディアナが問いかけた。
「うん。そうだよ。
以前から親しくされてもらっているんだ。」
ロアンの肩に手を置いて周三は答えた。
中村は椅子に腰かけた。
そして、周三を見て
「周三って顔が広いんやな。
感心したわ。」と感想を言った。
ロアンは微笑む。
「シュウとは親しくさせて頂いてます。
シュウとは・・・
そう、お茶飲み友達のような間柄ですね。」
帝国の武官たちは周三の交友関係の広さに
またまた驚いた表情を見せた。
【お茶飲み友達】という単語に
ディアナの眉が上がった。
「そうですか。
各大陸の責任者の皆さまがシュウとは
旧知の間柄という事であれば
意見交換はかなり早く済みそうですね。」
ディアナは吹っ切ったような明るい声で言った。
その場が意見交換会を始める空気になった。
一番奥の上座に周三は座った。
テーブルの縦に西側の列の一番奥には中村が座った。
中村の隣にロアンが座り
ロアンの隣にはハヤトールが座った。
ハヤトールの隣には女性仕官が席についた。
テーブルの縦に東側の列には
甘根、シュトム、ディアナ、リュークの順に座り。
リュークの隣、一番下座に
髭面のコーラント少将が座った。
何気にリュークが
コーラント少将より偉い事に周三は席順で気付いた。
(さすが。
俺が兄と慕っているリューくんだ。)と感心した。
会議用テーブルに
一同が席に着いたのを確認して
ディアナが口を開いた。
「では、軍船の配置について
意見を交換したいのですがよろしいですか?」
皆は頷いて「はい。」と返事した。
「配置についての意見交換は
帝国参謀仕官ミュアン・ヤーコック少佐に
進行をお任せしたいのですが
皆さまはヤーコック少佐に
進行を任せる事に異議はありますか?」
甘根が真っ先に口を開く。
「意義なーーし!」と甘根は言った。
「わたしもかまいません。」と
ロアンも賛成した。
中村は大きく頷く。
「参謀さんが進行してくれたら早く済みそうやな。
賛成や。ヤーコックさんお願いします。」と同意した。
「俺も賛成でよろしく。」と周三は言った。
帝国士官たちはディアナの提案に
最初から異議を唱えるつもりが無い様子だった。
おそらくある程度の打ち合わせしてたのだろう。
シュトムは黙っている。
甘根の意見が自分の意見と言わんばかりだった。
総監室からディアナに
ずっと付き添っていた女性士官が立ち上がった。
「はでぃめまして。
ウチはミュアン・ヤーコックいいます。
まだ駆け出しの参謀ですが
どうぞよろちくおねがいしばす。」
ヤーコックは挨拶で噛みまくっていた。
一同は誰もヤーコック少佐がセリフを噛んだ事に触れない。
一瞬の間が空いたあと、一同は
ミュアンに温かい笑顔を向けて拍手を送った。
(あの仕官のお姉ちゃんは元気よく挨拶したが
かなり台詞を噛んでたな。)と
周三はかなり気になっており
誰もつっこまないことにモヤモヤした。
ミュアンの挨拶に対してハヤトールは必死に笑いを
こらえてはいる様子で口を手で塞いでいた。
我慢できずに声を発さずに大口を開けて笑った。
おさげ髪の小柄な女性参謀仕官ミュアンは
「そこ! 笑わない!
では、あの。えっと、、、今から
軍船の配置について決めていきます。
敵の水軍の陣形もわかりませんので、ええっと。
わたしの考えた中で一番いいのは長蛇の陣形です。
隊列を縦に組んで
みんなで航行した方がいいと思ったからです!
なぜかっていうとですね。えっとですね。
敵を全滅させないといけないからです!
だから軍船を前列に2隊を置いて
後列に2隊ずつ配意して最後尾に
軍艦フェンティーアを配置したらいいんですよ!
どうです? みなさん賛成してくれますか?」
ヤーコック少佐は一同を見渡しながら問いかけてきた。
なんとなくわかるようなわからないような説明に
周三は邪魔くさくなった。
説明を再度してもらっても
ミュアンの片言の説明では理解する自信が周三には無い。
「参謀に任せます。」と言って
ミュアン・ヤーコックに周三は笑顔を向けた。
周三の返事を聞いて
ミュアンは飛び上がらんばかりに
嬉しそうな表情を見せた。
「はい!
絶対そうします!」
「縦一列で並んで航行するのは
全然、的が外れてない案やと思うで。
賛成や。」
中村も賛成した。
中村には作戦を理解できているようだった。
甘根は薄目を開けながら口を開いた。
「ややこしいことは
専門の人に任せるわ。」
甘根は話を最初から聞いていなかったようだった。
ロアンは真っすぐミュアンを見た。
「ミュアン少佐にお任せします。
がんばってください。」とミュアンをロアンは励ました。
周三はロアンからミュアンに目線を戻すと
ミュアンは涙を流して泣いていた。
この場にいる全員が微笑み(苦笑いし)ながら
ミュアンが落ち着くのを待った。
ミュアンはしばらくヒックヒックと言ってから
「みなさまありがとうごぜます。
では、続けて説明します。
隊を2隊ずつに編成することでですね。
どうなるか。
えっと。
敵が前から固まってバァーっと来たら
チョキーン! ってなるんです!」と
ミュアンは軍艦の運用を説明し
両手の付け根を合わせてVの字を作った。
中村はかなり頷いているので
やはり作戦を理解しているようだった。
ミュアンは説明を続ける。
「でも、ですね。
相手の速度も落としたいです。
だから、帝国の大型軍船を
うちらの先頭において
敵の正面にワンパン食らわすんです。
そうすると、相手は、うわ! って
なりますよね。絶対。
そこから鶴翼陣形に移行してですね。
包囲してフルボッコにしてやるんです!
そしたら一番最後尾から
戦艦フェンティーアが
鶴翼陣形の付け根のとこに移動してきてですね。
最後に大砲を、ドキューン!と ぶっぱなしたら
それで試合終了。おつかれさまです。」
ミュアンの説明は終わったようだ。
(なんやろ。
この参謀は感覚に100%頼る天才型なのか?)
周三と疑問に思った。
中村は大きな拍手をしていた。
みんなも大きな拍手をしたんで周三も拍手をした。
(多分この案で大丈夫なんだろう。)と
周三は判断して考える事をやめた。
周三は考えるより感じることを選んだ。
ミュアンは椅子にグッタリともたれながら
一息つくと、目の前に
置かれてるグラスに給水ポットから
水を注ぎ一気に飲みほした。
そして、ミュアンはすぐに席から立ち上がった。
「では、配置を言います。
前列は帝国のディアナ殿下とハヤトール中将でいきたいです。
第二列はリューク大将とシュトム将軍でおねがいしたいえす。
第三列はコウジ殿下と誰かです。
誰かわからないですが炎の将軍を一人おねがい。
帝国の軍船運用はコーラント少将にお願いします。
シュトム将軍はコーラント少将と軍船の連携を決めとくこと。
軍艦フェンティーアは今回の作戦の旗艦です。
ジョージには旗艦フェンティーア号で
作戦指揮をお願いしたいです。
あと旗艦には勇者様とロアン特使とウチが乗る予定です。
タロさんは一番後ろの補給船です。おしまい。」
全部、ミュアンが独断で決めた。
ミュアン以外の出席者はキョトンとしていた。
(なるほど。
もう全部決まってしまったのか。)と
皆が理解して拍手した。
中村は「あの娘は才能あるで!」と
ベタ褒めしていた。
ミュアンはやり遂げた感が顔に滲み出ていた。
ミュアンは自分の椅子に座ると
グッタリしたまま動かなくなった。
意見交換が終ったような空気になった。
ロアンが手を挙げた。
周三は自分が当てていいのかがわからず
とりあえずディアナを見た。
(シュウが指名してください。)という仕草で
ディアナに頷かれたので周三はロアンに目を向けた。
「ロアンさんどうぞ。」と周三が言う。
ロアンが起立した。
「みなさんはフェンティーア北部の
帝国の軍港に行かれるのでしょう。
それでしたらみなさんフェンティーア号に
搭乗して北部の軍港に行きませんか?」と
ロアンは一同に提案した。
甘根は大きく目を開けて
「賛成!」と大きな声で言った。
ディアナは大きく頷くと
「良いとおもいます。」と言った。
ディアナの意見は
帝国側全員の意見と見ていいだろう。
中村は嬉しそうな笑顔だ。
「軍艦に乗ってみたかってん。
僕は部下が1000人いますけど
全員乗れそうですか? 」
中村の質問にロアンが頷く。
「もちろんです。」と応えた。
周三は手を上げる。
「俺ももちろん軍艦に乗ります。」と言った。
周三の言葉にロアンは頷いてから一同を見渡した。
「では、フェンティーア議事堂裏の停泊所に
フェンティーア号は停泊してますので
みなさんご準備が出来ましたら
そちらに来ていただけますか?
すぐに乗船ができるように準備をしておきます。」
「は~い!すぐ行きまーす!」と
甘根は元気よく言った。
「少し準備がありますので
準備が済み次第伺います。」とディアナは返事した。
「僕はアルベルク大聖堂前に部下を
大気させているから
少しだけ時間かかります。」と中村は言った。
「俺はちょっと
下宿先に寄ってから行きます。」と周三は返事した。
「他には意見はありませんか?」と
ディアナは一同に問いかけた。
誰も意見が無いようで皆に反応は無かった。
ディアナは椅子から立ち上がった。
「これで意見交換会はお開きにいたします。
皆様、どうもありがとうございました。」
ディアナは締めの挨拶をしてこの場は解散となった。
こんばんは。




