総司令官勇者
前回のあらすじ
フェンティーアに第二大陸の
影の国からの水軍が接近している。
その対策を話し合う軍議に参加している周三。
軍議の議長ハシルは影の国について
炎の国シュトム将軍へ質問した。
シュトムはハシルの質問に対して
影の国について炎の国上層部が
予測する見解を話す。
敵の狙いが魔王ゼネシスの娘、
ネヴェシスの可能性。
敵は大規模な空間転移魔法を
展開して都市を破壊して強襲し
姫を奪還するという可能性。
この2つの可能性がシュトムから示された。
議長ハシルは
このシュトムの説明を聞いた事で
天使軍の作戦への投入兵力の削減と
作戦内容の大幅な変更を決定する。
軍議に参加している各大陸の代表に対して
主天使ハシルは各国がどれだけ兵力が
出せるか? と質問した。
各大陸が出せる戦力の合計は
兵士が12100名。
大型軍船32隻と小型軍船30隻と
補給船5隻とわかった。
主天使ハシルは続いて
この連合軍の総司令官を選出することにした。
この軍議の中で階級が一番高い人物が
最高責任者にふさわしい。
階級が一番高いのは
勇者だと言ってハシルは扇を周三に向けた。
軍議の議長ハシルは扇の先を
勇者に向けたままで
「では、連合軍総司令官を
勇者周三にお願いする。」と発言した。
周三は突然の事で
何が何だかわからずにボーっとしている。
周三の隣に座るディアナは
嬉しそうにテーブルの上の周三の
右手に両手をのせた。
会議の出席者から大きな拍手が鳴り響いた。
周三は総司令官就任を
断れる雰囲気ではなくなっていた。
主天使ハシルも拍手をしていたが
羽根の扇を持って上に掲げた。
静粛にという意思表示なのだろう。
その空気を読んで場は静まり返った。
ハシルは周三を見つめた。
「では総司令官から一言挨拶をお願いする。」
周三は状況はなんとなく理解は
できるようになっていた。
あまりの事に心の整理が
出来ていないままだったが起立をした。
「みなさま。
勇者の田中周三です。
よろしくお願いします。」
周三は自己紹介に続く口上が
思いつかず、すぐに着席してしまった。
参加者たちからは、
それだけ? という戸惑いの空気が流れた。
ロアン一人が拍手をした。
軍議の参加者一同は
ロアンにつられる形で大きな拍手をした。
ディアナは拍手をしながら
周三に笑顔を向けた。
「シュウ頑張ってくださいね。」と
ディアナは周三を小声で励まして
周三の右上腕を両手を添えた。
ハシルはまた羽根の扇を上にあげた。
「では、総司令官は決まったので
これから具体的な作戦を立案していく。」と
ハシルは発言した。
ディアナに触れられた事で
周三はだんだんと現実という実感が
急に芽生え始めてきた。
ちょっと待った!!!
断る!!! と発言が出来る勇気があれば
この場で大きな声で叫びたかった。
しかし、もう議長であるハシルは
次の議題に移ろうとしており
周三が総司令官を断るタイミングは
完全になくなっていた。
ハシルは口を開いた。
「悪魔水軍はフェンティーアを
攻撃目標としていると仮定して
具体的な作戦を立てていくのが建設的であろう。
敵水軍が到着するまでの時間は残り少ない。
軍議では大まかな戦略と
指針を決定するだけにしよう。
詳細な作戦は戦場までの移動中に
総司令官と現場の将校、
それに参謀仕官とで
改めて軍議してもらうこととする。
今回は長距離の移動なので
船を所有していない天使軍と
ヴァルキリー軍の
戦場までの移動方法についてお聞かせ願いたい。」
中村が手を挙げた。
中村にハシルは目を向けた。
「大天使、タロウ発言してくれたまえ。」
中村太郎は起立した。
「今回の作戦で帝国軍は
補給船を5隻出撃させるそうですね。
では、その補給船に
僕の軍を間借りをさせて頂けるのでしたら
僕の軍は戦場まで
海上を移動する事ができると思います。
帝国フェンティーア総監殿どうでしょうか?」
ディアナが右手を挙げてから起立した。
「はい。質問にお答えします。
補給船の管理についてはわたしではなく、
フェンティーアに駐留している帝国軍船団の
責任者に返答して頂く。
ジョージ・コーラント少将、説明をよろしく頼む。」
右手を奥に座っている髭面の老人に向けると
ディアナはすぐに着席した。
ディアナが着席すると
コーラント少将が右手を挙げてから起立した。
「みなさまどうもはじめまして。
今ご紹介にあずかりました帝国海軍士官
ジョージ・コーラントです。
大天使様のご質問について
ご返答と説明をさせて頂きます。
今回の作戦は
日数を必要とする作戦ではないと予測します。
日数がかからないのであれば
補給物資はそれほど積み込まずにすみます。
補給船1隻につき天使様200名が乗る事ができれば
天使様の総勢1000名様が
戦場まで海上を移動できます。
1隻につき200名を搭乗する面積は
十分に確保できるでしょう。」
中村はコーラントの説明に安心した。
「ではコーラント少将に我が天使軍は
補給船の間借りをお願い致します。」
中村はコーラントに顔を向けて頭を下げた。
コーラントも頭を下げた。
「はい。確かに承りました。」
コーラントは中村に返事すると着席をした。
コーラントが着席したのを見て
ロアンが右手を挙げた。
ロアンに主天使ハシルは目を向けた。
「ロアン特使どうぞ。」
ロアンはハシルの言葉を聞いて起立した。
「我が軍の到着日時については
第五大陸からフェンティーアまでの
距離が遠い為に遅くなります。
ヴァルキリー軍は飛行ができる馬に
騎乗して移動してきます。
遅くても海上を移動中の
味方の軍と合流する事は可能でしょう。
セイレーン隊は
その歌声で船を惑わせるという術を
使う事が出来る水属性の種族です。
セイレーンは水中でも活動が可能です。
水中だけではなく
セイレーンには翼があり、飛行も可能です。
セイレーンは船に常時搭乗する必要はないでしょう。
人魚は水中移動ですので
人魚も船の搭乗の必要はありません。
ヴァルキリー軍は
軍事作戦の直接的な戦力ですので
作戦行動には船に搭乗させる必要があると思います。
ヴァルキリー軍が搭乗する為の船は
妖精王はカノレル海洋貿易会社に要請しました。
カノレル当主からの承諾を得たという報告を
わたしは受けております。
民間の船ではありますがカノレル海洋貿易会社から
武装商船として名高いフェンティーア号を
出してもらえる事になっております。」
帝国側の出席者と
フェンティーア議会の関係者がどよめいた。
会場の反応に
疑問を抱いた主天使ハシルは
ロアンに質問する。
「フェンティーア号とはどのような船ですか? 」
ロアンは口を開いた。
「はい。
全長450メートルの大型戦艦です。
カノレル海上貿易会社は
第四大陸の貿易には一番艦カンベイン号、
第二大陸との貿易には二番艦ファイン号、
第五大陸の貿易には三番艦フェンティーア号を
旗艦にした商船団を編成して
交易ルートを航行します。
フェンティーア号は
第五大陸へ交易する商船団の旗艦です。
世界で数少ない超大型魔導エンジンを
搭載しており
魔導砲という超巨大な主砲と
魔導機関砲という連射式の大型射撃砲台を
武装として装備しています。
主砲は巨大な破壊力を持ち、
機関砲は敵を瞬時に
圧倒するだけの火力を誇っておりますので
五大陸最強の海の要塞とも呼ばれています。
船の航行速度も
通常の魔導エンジンを搭載した船と比べて
3倍から5倍の速度が出ますので
圧倒的な機動力なはずです。」
ロアンの説明を聞いた参加者一同からは
驚きの声が漏れた。
ロアンの説明が終わるとハシルは頷いた。
「ロアン特使ありがとう。着席してくれたまえ。」
ロアンはハシルの言葉に頷き着席した。
ハシルは一同を見渡した。
「全軍の移動に問題ないようですな。
これで全軍を戦場に集結させる事が
できる事がわかりました。
以上の戦力で悪魔水軍を迎え撃ち殲滅する。
到着までの時間があまり無い。
情報が乏しい中ではこれ以上は
ここで細かい作戦について話し合うのも
時間の無駄遣いとわたしは判断する。
あとは現場の責任者同士で
状況や情報を分析して
臨機応変に作戦を構築してもらう方が
よかろうと思う。
ここに参加している武官諸君は
これから戦場に向かって頂く訳だが
最後に質問やご意見があれば
今から受け付けるので
どうぞ遠慮なく申してください。
無ければ軍議は閉会し軍事の責任者は
各自で作戦会議の日程や集合場所、
連絡方法などを決めて
よく交渉してから作戦行動を取って頂きたい。」
甘根が突然に右手を挙げた。
参加者一同は甘根に注目した。
『君はずっと寝ていたのに
いきなりどうしたの? 』という空気が流れた。
甘根にハシルは目を合わせた。
「コウジ特使どうぞ。」
甘根興次は起立すると
大きく両腕をあげて背筋を伸ばす。
大きなあくびをした後に
頭を横に振って眠気を少し取った。
「みなさんおはようございます。
甘根興次です。
みなさんの話は
飛び飛びやけど聞かせてもらいました。
ほんでちょっと思ったんやけど
何で悪魔の姫さんが
人間の国のフェンティーアにおんの?
そんなんおかしいやんけ。そう思ったんです。
その姫さんをこちらで
引き取りたいんやけどどうですか? 」
主天使ハシルが口を開いた。
「なるほど。
コウジ特使の提案はよくわかりました。
その提案についての決定権は
フェンティーア国会にあります。
フェンティーア都市国家元首であるザレム氏は
コウジ特使のこのご提案について
どう答えられますか? 」
いきなりハシルに質問を振られて
ザレムは動揺しながらも
右手を上げて起立した。
「それはどうなのでしょうか。
炎国王太子殿下の
お話の意図がわたしには少しわかりかねます。」
ザレムは困惑した様子で答えた。
甘根は無表情な顔で口を開いた。
「えっとな。ザレムさん。
カンベインの伯父貴が捕らえた悪魔なら
伯父貴の義弟であるうちの親父が
預かってもええやろ。
悪魔の姫さんをわしら悪魔側が預かる事で
悪魔同士が悪魔の姫さんを
奪い合って戦争する事になったとしても
それは不自然なことではないやろ。
悪魔は理由が特にはなくても
敵にいちゃもんをつけて戦争をする。
姫さんがわしの国におっても
わしらの日常には影響はないねん。
でもあんたらは違うやろ。
戦争がしたくないんやろ?
だったらおかしいやん。
なんで喧嘩の種を大事に持っとくん?
それは不自然なことやろ。
だから自然な形にしたら
ええやんって言ってんねん。
なんで意味がわからへんの?」
フェンティーア議長ザレムは
甘根の説明を理解して大きく頷いた。
「なるほど。わたくしの理解不足でした。
炎国王太子殿下の
ご提案の意図はよくわかりました。
フェンティーア以外の場所に
ネヴェシス姫を移動して隠すとしても
その場所が第三大陸内では
結局は結果は同じ事ですな。
ネヴェシスを簡単に影の国に引き渡すのは
理不尽な武力による脅迫に
我が国が屈したという事になります。
悪魔の国家である炎の国がネヴェシス姫を
引き取ってくださるのであれば
第三大陸とネヴェシスは
無関係となりますので影の国に狙われる事も
無くなるという素晴らしいご提案だと思います。
ネヴェシスを炎の国にお引き渡す方向で
国会で話し合いますので
国会の承認を得られましたら
すぐに炎の国にカノレル海洋貿易会社を
通じてご連絡いたします。」
ザレムの返答に甘根は頷いた。
「それでよろしく。
わしからは以上です。」
そう言って甘根は着席した。
甘根が着席したのを見てザレムも着席した。
周三は甘根の提案を聞いて
なぜか自分が置いてけぼりを
食らっているような気がした。
中村も甘根も目の前の問題と
向き合ってるような気がしたからだ。
最初は寝ている甘根を見て
周三は妙な安心感を感じていた。
なぜ安心感を感じていたのかという理由に
周三は気付いた。
自分はこの世界の戦争の
部外者でいたいという気持ちが原因だ。
現実と向き合わなかった自分は
現実と向き合う事をスルーした。
現実から逃げた事実から逃げたのだ。
主天使であり
軍議の議長ハシルが参加者一同を見渡した。
「他にご意見はございませんかな? 」
ハシルはしばらく間を取り
参加者一同に反応が無いのを確認すると
「これで軍議は閉会いたします。
皆さまのご健闘とご武運を
心からお祈りしております。」と挨拶した。
参加者一同が一斉に起立した。
これから敵との戦闘に向けての行動が始まる。
(どうしよう?
なんか俺って流されてる気がする。)と周三は思った。
周三の本心は自分の置かれた立場を受け入れていない。
そんな気持ちで戦場に向かう事に
大きな緊張と不安を感じていた。
こんにちは。




