大陸連合兵力
前回のあらすじ
軍議に出席した周三は
フェンティーアに
接近する第二大陸北西に存在する影の国が
放った水軍の目的について話し合った。
第二大陸の炎の国の将軍シュトムの
持つ情報によって
ある程度、主天使ハシルは
敵の目的の推論ができあがっていった。
しかし、その推論通りなら
敵軍を殲滅する他には
フェンティーアを
救う道は無い。という結論にいきつく。
軍議は敵の殲滅に向けた具体的な話し合いに
移行する事になった。
軍議の議長である主天使ハシルが口を開いた。
「では、これから諸君たちと
作戦立案について話し合っていく事にする。
まず、このフェンティーアを防衛する責任は
フェンティーア都市国家には無い事になっている。
これはフェンティーア都市国家が
カンベインの尽力によって経済大国となった折に
帝国皇帝ゲルグが
フェンティーアが豊富な国家予算で
軍事強化して後の世の
内乱の火種にならぬようにと
カンベイン王に対して帝国は
フェンティーアの国防は
帝国に任せて欲しいと申し入れた事で
結ばれた条約によるものである。
これに相違ありませんか?
帝国軍フェンティーア監督府
総監ディアナ・アルブルド第三皇女。」
ハシルから名指しで質問されて
ディアナは右腕を上げて起立した。
ディアナはアップスタイルの髪型に
煌びやかな軍服を着用していた。
「みなさまはじめまして。
帝国フェンティーア監督総監
ディアナ・アルブルドと申します。
早速ですが議長の
ご質問に対してお答えします。
議長の申される通りで相違ありません。」
ディアナは質問に答えるとすぐに着席した。
ディアナの答えを聞いた主天使ハシルは
頷くとゆるやかに羽の扇を揺らしていた。
「では帝国はどの程度の戦力で
この作戦に臨まれるのかを
ディアナ第三皇女にお聞かせ願いたい。」と
ハシルは質問した。
ディアナは右手を上げて起立した。
「はい。
まず我が兵力の大半は
大陸の中央にある帝国国内にあります。
フェンティーア都市国家からアルブルド帝国は
かなりの距離があり、
すぐには大軍を召集できません。
安全保障の責任は帝国にありますので
軍をフェンティーアに随時駐屯させております。
しかし、すぐに出撃可能な兵力は
フェンティーレ北部にある帝国直轄の軍港に
停泊しております軍船団と
その帝国軍港に併設されております帝国軍用基地内に
駐屯する歩兵部隊と魔術士部隊が
合わせて3000名ほどです。
すぐにでも出撃可能な軍船は大型軍用船2隻と
小型軍船30隻それと補給船5隻です。」
簡潔に答えたディアナは着席した。
主天使ハシルは頷いた。
「よくわかりました。
帝国の出撃可能兵力は3千名ですね。」
シュトムにハシルは目を向けた。
「炎の国はフェンティーア都市国家と
軍事同盟を結んでいるわけではありません。
ですのでフェンティーアに
援軍を送る義理も無いわけですが
今回の作戦に参加される意思が炎の国の国王に
あるのかどうかをシュトム将軍に
この場でお聞かせ願いたい。」
シュトムは右手を上げてソファーから起立した。
「はい。
今回の件に関しまして
敵の水軍が我が国を
狙っておる可能性も十分ございます。
その場合、我が国の戦争にフェンティーアを
巻き込んだ事になってしまいます。
そういう状況下でこちらが兵を出さないとなれば
わたくしどもの国の面子が潰れてしまいましょう。
面子と言えば他にもあります。
わたくしどもの主君は
この国を興したカンベインと義兄弟の間柄。
それゆえに同盟締結の調印を
我が国の王であるイフリートが
『兄者、そんなの水臭いではないか。』と
言ってカンベインに断ったのであります。
もしも、フェンティーアに
何かあれば全力で味方すると
カンベインに命を懸けた口約束をしております。
わたくしどもは今用意できる全兵力で
作戦に参加させる所存です。」
シュトムの返答に対して参加者一同からの
賞賛の拍手が送られた。
主天使ハシルが
右手に持った羽の扇の先をあごに当てた。
「そうですか。
それはありがたい申し出です。
それではシュトム将軍にお尋ねするが
貴国はどの程度の戦力を
即時用意可能でしょうか?」
シュトムは口を開いた。
「大型の軍船30隻と兵力は6000名です。
我が軍は第二大陸の中央付近に
東西に横断する我が国の国境線に
ほぼ全兵力を送り出しております。
動かせる兵力は城を守る近衛兵と
王の親衛隊ぐらいなのが実情です。
親衛隊と近衛兵は我が軍の精鋭ですので
数以上の働きをすることでしょう。」
シュトムの返答に対して
ハシルは疑問の表情を浮かべた。
「それでは貴国の本拠地の
防衛に支障をきたしませんか?」
ハシルの問いかけにシュトムは
自信ありげな表情を浮かべた。
「いえ、全く問題がありません。
我が王はかつてカンベインと共に行った北伐で
イフリート一人で
敵の軍勢100万を
一瞬で焼き尽くした炎の魔人でございますので。
世界最強と謳われたカンベインと戦って
生き残ったイフリート王の強さは
伊達ではありません。
王がひとりで城を守っておれば
特に問題はございませんでしょう。
今回、王はもし戦争になるならば
自らが先頭に立って
出陣するとおっしゃられたのですが
それですと魔人の業火に
味方まで巻き込まれて全員死亡します。
加減のわからない子供のような無邪気で
可愛らしい所が
我が王にはございますので
作戦行動には絶対に不向きと
家臣一同が判断を致しまして
お諫め申し上げました。
ただ、お諌めした際に
王が無邪気にだだをこねまして。
重臣数名が大怪我をするという事態に
陥りましたが
我が軍の総大将にはコウジ王子を立てると
イフリート王に提案を致しましたら
王はご機嫌をなおされて素直に納得して頂けました。
我が軍6000の軍勢は
もうこの国のすぐ北あたりの海域に
到着しておるはずです。」
会場にはおそらく別の意味での安堵の空気が流れた。
主天使ハシルは納得した様子を見せた。
「それはそれは。
さすがはイフリート王は無敵のカンベインと
拳を交えるほどの武闘派の王でありますな。
いまの説明を聞いた事でわたしの中では
影の国の水軍が炎の国の本拠地を
強襲する為であるという可能性はゼロになりました。
例えルシファーの作った闇の空間でも
イフリート王ならば余裕で
生きて帰還されるでしょうな。」
ハシルは微笑みながら
羽の扇をかなりの速さでパタパタさせていた。
しばらく煽いでいたハシルは
ロアンに視線を送って煽ぐのを止めた。
「では炎の国は精鋭6千名ですね。
続いては今回、急遽、軍議に参加される事に
なりました第五大陸の特使ロアン・アースウッド氏に
お訊ねしますが第五大陸は今回の悪魔水軍襲来には
無関係と思われますが
どうしてカノレル海洋貿易会社を通じて
この軍議に参加されようと
思われたのかを説明して頂きたい。」
主天使ハシルの質問を受けて
ロアンは右手を上げて起立した。
「皆様、お初にお目にかかります。
第五大陸特使ロアン・アースウッドと申します。
今回は第五大陸を代表して
この場に参加させて頂きました。
第五大陸の妖精王はイフリート同様に
元フェンティーア国王カンベインと
義兄弟の契りを結んでおります。
同盟の公式文書にもフェンティーアに対して
外敵が侵攻や侵入してきた場合には
同盟軍を派遣すると記載されているはずです。
カンベインから政権と
引き継いだフェンティーア国会とは
第五大陸王家は交流がありませんので
第五大陸への援軍要請の方法も
フェンティーア国会には
無いのではないか? と判断しましたので
第五大陸代表として
この軍議に参加させて頂いた次第です。」
ロアンは着席した。
主天使ハシルが大きく頷くと
目線をザレムに向けた。
「フェンティーア議長
ザレム氏にお訊ねします。
同盟の文書に第五大陸への
援軍要請に関しての記載はありますか?」
質問されたザレムは目線を自分の列の
一番下座に座る自国の官僚に向けて目配せをした。
それに気付いた官僚が席を立って
腰を屈めながら書類を持って
議長ザレムの席の後ろに回りこんだ。
議長ザレムに書類を見せながら
こそこそと話を耳元でしていた。
しばらくしてフェンティーア議長ザレムが
右手をあげて起立した。
「お答えします。
たしかに第五大陸との同盟締結の公式文書に
援軍要請についての記載がありました。
公式文書の書面には
フェンティーア国王からの要請があればと
ありますがフェンティーアは
民主議会制国家になりましたので
議会から要請する形に本来はなるのでしょう。
しかし、第五大陸とフェンティーア議会とは
国交がありませんので
第五大陸への援軍要請について
フェンティーア議会では
議論もされていない状態であります。」
ザレムの答えに対して
ロアンが右手を挙げた。
主天使ハシルがロアンに
目を向けると
「発言をどうぞ。」と扇をロアンに向けた。
ロアンは起立した。
「このフェンティーアと第五大陸との
同盟の文書には妖精王の独断で
フェンティーアに援軍を送れる事に
なっているはずです。」
ロアンは着席した。
ハシルはすぐにザレムに扇を向けて
「それで相違ありませんか?
フェンティーア議長ザレム氏。」
起立したままのザレムは
腰を少し落とすと
また椅子の後ろで
待機している自国の官僚からの話を
耳元で聞いていたが聞き終わると直立した。
「それで間違いございません。」
ザレムはハンカチで汗をぬぐった。
主天使ハシルは納得した顔をした。
「わかりました。
どうぞザレム氏はご着席ください。」
ザレムは着席すると流れ出る汗を
何度もハンカチで拭った。
主天使ハシルはロアン目を向けた。
「ロアン特使。
では第五大陸は今回の件に対して妖精王は
どのようなご意向を示すおつもりですか? 」
ロアンは起立した。
「こちらはすでに援軍をフェンティーアに送る決断を
妖精王がしております。
援軍はもうフェンティーアに向かっております。」
軍議に参加してる人々の口々から
第五大陸の援軍を歓迎する声が漏れていた。
主天使ハシルは一呼吸おいてから口を開いた。
「では、具体的にお訊ねしますが第五大陸は
どの程度の兵力を援軍で
送ってくださるおつもりですか? 」
ロアンは口を開いた。
「妖精王がわたくしどもの
神から賜ったヴァルキリー2000名と
第五大陸の領海防衛の
主戦力であるセイレーン100名。
海に転落した味方軍兵士の人命救助のために
非戦闘員ではありますが人魚500名を
こちらに向かわせています。」
熟睡してる甘根以外の
軍議参加者ほぼ全員からの拍手が巻き起こった。
主天使ハシルも拍手をしていたが手を止めた。
「ロアン特使および
第五大陸妖精王の誠意に深く感謝する。
これで非戦闘員を除けば合計で
11100名の戦力になる。」
大天使中村が突然、右手を挙げた。
主天使ハシルが疑問の顔を浮かべながら
「大天使タロウ、
何か意見があるのか? 発言を許す。」
中村太郎は起立して
軍議参加者を見渡しながら
「はい。僕も直属の天使1000名を率いて
悪魔水軍殲滅作戦に
参戦してもよろしいでしょうか?」
参加者は驚きどよめきたった。
天使が本土防衛戦ではなく
外海で攻撃行動を取るなんて
この世界の常識では考えられないことだった。
そのような事例は第一大陸に
保管されている古代の文献でしか見当たらない。
本土の防衛というのが
天使軍の定位置と考えられており
殲滅作戦に天使が頭数に
入っていないのもその常識があるからだ。
フェンティーア本土を第一大陸の天使軍が
全力で守ってくれるからこそ他の大陸は全軍を
この殲滅作戦に投入できるからだ。
中村に目を向けてハシルはニヤリと笑い
「大天使タロウ。あなたは天使界の革命児と
天界からも期待されておる存在です。
天界のお気に入りであるあなたが
そのような提案をしても
第一大陸では誰も文句を言いますまい。
ただし兵力は
あなたに与えられた部下1000名のみですよ。
それでもいいのであれば
思う存分、暴れて天使の実力を示しておやりなさい。」
意外にもハシルからは
エールを送るような発言が飛び出した。
ハシルに中村は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。
主天使ハシルに心から感謝します。」
中村はハシルに向かって礼を言うと
静かに着席した。
軍議の議長であり
主天使ハシルは戦力が確定した事で
次の議題について話し合う事にした。
「それでは続いての議題は
悪魔水軍殲滅作戦の
総兵力は合計12100名。
大型軍船32隻と
小型軍船30隻と補給船5隻。
この戦力で影の国の小型軍船団約100隻を
殲滅する為の作戦を具体的に
立案することにしよう。
では、まずは
この作戦の指揮官を決めねばなるまい。
連合軍総指令官には誰がふさわしいのでしょう。
この中で一番に階級が高いのは・・・
おお! 勇者殿ですね! 」
主天使ハシルは笑顔で羽の扇を
周三に向けて言った。
主天使ハシルが何を言ってるのかを
周三は理解できずに
自分に向けられている羽の扇を
しばらくぼんやり眺めていた。
こんばんは。




