天使堕とし
前回のあらすじ
周三は悪魔の水軍がフェンティーアに
近づいてる事への対策を
話し合う軍議に出席している。
軍議の議長である主天使ハシルは
炎の国の将軍シュトムに対して
都市を破壊するほどの戦略級の魔法は
影の国にはあるか?と訊ねる。
それに対してシュトムは存在すると答えるのだった。
主天使ハシルの戦略級魔法の有無の質問に対して
炎の将軍シュトムが有ると肯定した事により
大会議場は静まり返って不安な空気が流れた。
議長の主天使ハシルは羽の扇を
テーブルの上に置いた。
「なるほど。
そのような強大な魔法が
影の国にあるのですか。
その魔法があると断定するからには
根拠となる事例が
存在すると思うのですが
シュトム将軍には
戦略級の魔法が
存在するという根拠となる事例が
知っているなら
是非ともこの場でお聞かせ願いたい。」と
シュトム将軍に主天使ハシルは将軍に説明を求めた。
シュトム将軍は「はい。」と
返事をして説明を始めた。
「ルシファーが得意とする魔法の中に
空間転移魔法を応用した『消失』という魔法が
存在する事はご存知でしょうか?」と
ハシルにシュトムは質問した。
ハシルは眉間にしわを寄せた。
「知っている。
あの忌まわしき天使堕としの術を。」と
答えるとハシルは話を続けた。
「あの忌まわしき術で
どれだけの同胞が堕天したかわからぬ。
ルシファーが作り出した闇で充満する空間に
転移させられて無限の闇に
呑み込まれて天使は堕天してしまう。
人間が転移させられると
闇に喰われて存在が消失すると言われている。」
ハシルの答えにシュトムは頷き説明を始めた。
「その通りです。
わたしも魔王軍に所属していた頃は
あのおぞましい術を何度も
目の当たりにしております。
悪魔も人間と同様に
ルシファーの作り出した空間に
転移させられると闇に喰われ消滅します。
高位の悪魔かもしくは堕天使くらいしか
ルシファーが
作り出した闇の空間では存在を保てますまい。
数年前に第二大陸中央付近にあるアブドラン山での
影の軍と我が軍との攻防戦で
その消失らしき魔法が使用されました。
その魔法を使用したのは
影王ルシファーではありませんでした。
影の国のウィザード部隊によって使用されたのです。」
ハシルが驚いた顔をした。
「あのような複雑で高度な魔術を
ウィザードに使えるというのか!?」
シュトムは頷いた。
「そうです。
わが国のウィザード隊の将であるロシクが
のちに現場を検証して報告書を
あげておるのですが
ルシファーの作り出した空間へ
対象を転移させるだけなら
空間への座標指定と
空間への扉を開ける為の鍵になる暗証呪文と
空間へ転移させる魔法の
3つの段階を経るだけで
使用できるのではないかという仮説が
なされていました。
ウィザードでも簡単に
空間転移魔法を使えるようにするために
そのような形に魔法式が
簡略化されたのではないかというのです。」
主天使ハシルは腕を前で組んだ。
「なるほど。
空間を作り出すような高度な魔術ではなく
ルシファーの作り出している空間を
ただ単に利用する事で
術の難易度をかなり下げる事が
できるというのだな。
ルシファーの作り出す空間の利用権を
ウィザードに与えたという事か。
それならば、納得がいく。」
シュトムは口を開いた。
「この仮説が正しいのかは
いまだ検証中でございますが
アブドラン山攻防戦で
『消失』という魔法が戦略級の魔法に変貌しました。
アブドラン山に陣を敷いた我が
軍10万に対して
2万という寡兵の影の国の軍勢は
アブドラン山の
北西の麓から山頂を向けて進軍を開始しました。
我が軍は北西の陣地に堡塁を作り防戦したのですが
防戦中に突然大規模な魔法陣が
周囲一帯に広がったと思った瞬間に
一瞬でその一帯の全ての物が消失しました。
堡塁は元より陣地も兵士もまるで存在しなかったように
消えてしまいました。
現場一帯は地面が大きく抉れていました。
その魔法によってこちらは
総兵力6万のうちの半数以上が失われました。
しかし、同時に敵軍の軍勢2万も
消失したものと思われます。
おそらく我が軍はこの魔法の実験台として
利用されたのかもしれません。
この戦略級魔法が使われたのは
このただ一度きりです。
強大な魔法陣を使ったという事は
それだけの大量の魔力が必要です。
大勢のウィザードが協力して発動したと思われます。
その後の戦いには影の国は一度も
この大規模消失魔法を使っておりません。
この魔法によって貴重なウィザードを
大勢失うのは嫌なのでしょう。
呪文詠唱中の大勢のウィザードを
護衛するための兵力も
大量に失うという意味では
あまりにも汎用性が低い。
諸刃の剣と言える魔法だと思います。」
主天使ハシルが
悩むような仕草をしてから頷いた。
「シュトム将軍どうもありがとう。
席についてくれたまえ。」
シュトムは椅子の代用として
用意されたソファーに大きな腰を下ろした。
主天使ハシルは、「う~ん。」と
唸り声を微かにあげてから扇で顔隠した。
しばらくして右手に持つ扇を
胸の辺りまで下げると
正面に目線を移して口を開いた。
「諸君、すまない。
わたしは大きな誤算や勘違いをしていた。」
会場には疑問の空気が流れた。
ハシルは苦しそうな顔をした。
「この戦いの緒戦の目的は
時間稼ぎではなくなってしまった。
敵軍を殲滅する殲滅戦になる。」
主天使ハシルの口からの出た言葉に
出席者一同に動揺が走った。
ハシルは説明を続けた。
「いまだ推測の域を出ない話では
あるのだが可能性をお話しよう。
影の国が使うという『消失』という魔法は
魔王元帥であった頃の
ルシファーが使用していた頃は
せいぜい半径100メートルくらいの
効果範囲でしかなかった。
それでも天使軍にはかなりの脅威ではあったのだ。
しかし、今回のシュトム将軍の情報では
半径が数km単位だろう。
ルシファーが作り出した空間で
あるためにルシファーが使用しても
ルシファー自身が空間に呑み込まれる事は
無いのでルシファーにはリスクは無かったが
ルシファー以外の魔術師が使用すると
敵味方全てを転移させてしまうというのは
ルシファー以外は全てが転移の対象に
設定されているからだと推測する。
そうしないと魔法の構築式が敵に解読された場合に
敵にも消失の魔法が使用できる事につながるからだ。
まずこの魔法の恐ろしい所は
空間転移させられた天使は必ず堕天してしまう事。
それによって堕天使が大量発生し
敵の戦力や兵力が強化される。
それと、もうひとつ恐ろしい所は
空間転移という無害な魔法式に対しての
防御結界が天使の法術には存在していない事だ。
もしも天使軍の兵力を大量に
フェンティーアに集中させた状態で
この大規模消失魔法に巻き込まれた場合には
大勢の天使が無防備に堕天する結果になる。
以上の事を踏まえて敵の水軍を1隻たりとも
フェンティーアに近づけてはならない。
避難用の小舟一隻であってもだ。
軍船1隻でもフェンティーアの沿岸に到着すれば
フェンティーアの国土の一部と
大勢の国民が消失する恐れもある。
天使軍も大軍での防衛は
危険が大きすぎるので
10万程度の兵力しか用意できなくなるだろう。
それでも天使軍にとってはかなりの危険ではある。
ネヴェシスは高位の魔族なので
消失に巻き込まれたとしても
生存する可能性が高いかもしれない。
敵の作戦は都市を強襲して破壊行動による囚人奪還が
目的という可能性も視野に入れて
対処しないといけなくなった。
敵がフェンティーアに到着するまでの時間はあまりない。
皆には急いで敵殲滅作戦の作戦立案を議題に
話し合って頂くことにしよう。」と
焦りをにじませた表情で
軍議の議長であるハシルが提案したのだった。
こんにちは。




