ネヴェシス
前回のあらすじ
帝国監督府の会議室にて軍議に参加した周三は
第二大陸『炎』という国の
将軍シュトムの説明に耳を傾けた。
第二大陸は草木も生えない不毛の土地だから
悪魔の内戦においては領土拡大が戦争の目的ではなく
武力の誇示や食料調達が目的であると
シュトムの口から説明があった。
シュトムは本国で得た情報から
推測する敵の兵力は1万から2万。
フェンティーアへの敵軍の到着予想は
早ければ3日だと言った。
軍議の議長の銀髪の主天使ハシルが
第二大陸『炎』の国のシュトム将軍の説明を
聞き終えて頷いた。
ハシルは右手で羽の扇を持って
自身を扇ぎながら口を開いた。
「シュトム将軍の説明はわかりやすかった。
しかし、今の説明では
敵の水軍がフェンティーアを
標的にしていると断定するには決め手に欠ける。
武力誇示と共食いを戦争の目的にするような悪魔たちが
炎の国の本拠地に奇襲をかけたとしても
不思議では無いと考えられなくもない。
シュトム将軍は影の国の水軍が
フェンティーアを侵攻する目的に
何か心当たりは無いのですか? 」と
シュトムにハシルは再度説明を求めた。
シュトムは先ほど説明を終えて一度着席したが
右腕を上げて
発言する意思を表明すると
シュトムは再び立ち上がり口を開いた。
「わが国の王であるイフリートは
フェンティーアの国内に
影国国王が手に入れたい物が
あるのではないかと申しておりました。
影国国王は天使殿たちもよくご存知の人物だと存じます。
影の国の国王は全大陸戦争で
魔王軍元帥だった堕天使ルシファーです。」と
シュトムが発言すると会場がどよめいた。
主天使ハシルも微かに動揺した様子を見せた。
「ルシファーが影の国の魔王ならば
天使軍の将としても高い功績を残しているルシファーが
無意味で無謀な軍事行動を指示するとは考えにくい。
それにたかが2万弱の軍勢で
補給もままならないくらい遠い国に
遠征して敵の本拠地を攻めるというのも
ルシファーらしくはない。
ルシファーが軍を動かすという事は
そこには明確な目標があり
作戦の結果に大きな戦果が
期待できるという目算があると
考えて行動していると
予測するのが妥当だとわたしも考える。」
ハシルは目を瞑り
何か考えをまとめてからシュトムに目を向けた。
「イフリート王がそう言ったのであれば
影国の王が手に入れたい何かという品物に
何か心当たりがあるのでしょうな。」
シュトムは頷くとハシルに目線を向けた。
「あくまでも憶測ではありますが
500年前の魔王軍の第三大陸遠征の軍師であり
魔王ゼネシスの息女でもあるネヴェシス姫殿下が
第三大陸で捕虜となっておるはずです。
カンベインの手で捕虜されたという事でしたが
ネヴェシス姫殿下のその後の生死については
不明であります。
ルシファーが第三大陸に欲する物があるとすれば
ネヴェシス姫殿下であろうと
わが国の宰相シュユウも申しておりました。」と
その説明に権天使アミテルが
かなりの動揺を見せて手が震えていた。
主天使ハシルは静かに口を開く。
「そうか。なるほど。」と
一言言うとハシルは少し悩んだ表情を見せた。
しばらく間を取ってハシルはまた口を開いた。
「これはわたしの権限の範囲で
話していいものかわかりませぬが
ネヴェシスについて話さねば
軍議が進みませんでしょう。
緊急事態ということで
わたしの責任において
ここにいる関係者の皆様にはお伝えしましょう。
これは第一大陸では第一級の機密に指定されておりますので
機密指定が解除されるまでは
むやみに他言は無用でお願いしたい。」
ハシルはそう付け加えてから
ネヴェシスについて話し出した。
「確かにこのフェンティーアの某所に
ネヴェシスは幽閉されています。
この事は重大な意味を持ちます。
なぜならこの事実を知っている者は
ごくごく少数だからです。
一般の天使にはもちろん知らされておりません。
天界、それに天使の上層部と幹部の一部。
わたしやアミテルはその幹部の一部に類します。
他にはネヴェシス捕獲に関わった人間のみ。
ネヴェシスが捕らえられたのは500年も前ですので
捕獲に関わった人間はもう死亡しておるでしょう。
関わった人間が寿命で死ぬ間際に
ネヴェシスに関する情報を
子孫に書き残したり口伝えした可能性もあります。
影の国の遠征の目的がもしもネヴェシスならば
味方の内部から敵に情報が
漏洩した可能性は十分あるでしょう。
何故なら元々知っていたなら
500年も間を空ける理由が無い。
今、無理に動いたのは
情報が入ったからと考えるのが自然でしょう。
天使が悪魔に接触して機密を漏らすというのは
非常に考えにくいが可能性が0というわけではない。
ただ情報が漏れたのが隣国の炎なら
まだ理解ができるのですが
第三大陸から遥か遠くにある国に漏れるのは想像しづらい。
影の国は第三大陸と交易をしている国でもないので
接点が全く無いにも関らず情報を
行き交わせる手段が思いつかない。
微かな可能性についての例を述べればキリがない。
フェンティーアへの影の国の侵攻の目的にネヴェシスを
仮定したという事は
炎の国も何かしらの情報は持っていそうですね。
イフリート王は勇者カンベインとは親密な間柄。
カンベインから何かしらの情報を
聞いていたのでしょうか。
確かにネヴェシスの情報は
第一大陸の一級の機密ではありますが
現在ここには第二大陸と第三大陸と第五大陸の王侯貴族。
フェンティーアの国家元首や
各国官僚がここにおられるわけですから
この話をここでした時点で
一級の機密としての価値はなくなります。
ですのでどうしても必要にならば他言して頂いても
第一大陸は他の大陸政府に
抗議は致しませんのでご安心を。
ネヴェシスが幽閉されている場所までは
お教えできませんが
ネヴェシスの身柄拘束の責任者はお教えします。
その責任者は書類上では
フェンティーア国王カンベインとあります。
現在はカンベインがこの国の国家元首ではありませんので
ネヴェシスの身柄についての処遇の決定については
カンベインの王権を引き継いだフェンティーア都市国家の
国会が決定権を持つことになるでしょう。
もしも敵国からネヴェシスの身柄を要求された場合には
引き渡す決定権は国会にありますので
この機会に国会で話し合って頂くのもよろしいかと思う。
ネヴェシス奪還作戦が頻繁に起こるような事態になっては
フェンティーアの国家安全保障上の大きな問題となるでしょう。
ザレム議長はこの議題について国会でよくご検討ください。」
フェンティーア都市国家議長ザレムが
右腕を上げたあと立ち上がると
「はい。安全保障上の重大な問題と認識いたしましたので
国会を召集して議論いたします。」と
ハンカチで汗を拭きながら答えた。
ハシルはザレムの返事に頷いた。
「ネヴェシスの情報をルシファーに流した輩が
もしも第一大陸や第三大陸内部にいるのであれば
それは第三大陸に危機的状況をもたらそうと
画策している反社会的な組織勢力が
存在する可能性も出てくる。
第三大陸にそのような勢力が
もしもあるのであれば必ず一掃しなければなりません。
わたしは独自に調査をしましょう。
では軍議の本題に戻りますが
敵の兵力については
予想がつきましたが敵の戦力については未知数。
シュトム将軍に聞かなければならない事が
わたしの頭にひとつ浮かびました。」
シュトムにハシルは鋭い眼光を向けた。
「悪魔の魔法系統は攻撃に特化したものが多い。
しかも影の国の王である堕天使ルシファーは
天使の頃は神にもっとも近い存在と謳われていた程の逸材。
そのような力を持つルシファーが治める影の国には
都市を消滅させるほどの威力を持つ戦略級の魔法が
存在する可能性はありませんか? 」と
ハシルはシュトムに問いかけた。
シュトムは静かに頷きを返した。
会場には動揺が走った。
「確かに影の国に戦略級の魔法は存在はいたします。」
シュトムのその言葉に会場は静まり返った。
こんにちは。




