チカラ
最初の休み時間。
羽生は首藤の席の横に立っていた。
首藤が漫画をノートに書いているのを興味深く見ている。
HRで空席について生徒達が騒いでいたはずなのに
何故かその話題を口にする生徒はいなかった。
「面白い絵画だ。」と羽生は首藤に話しかけた。
「え。そう?
僕の絵の良さをわかってくれるとはうれしいねぇ~。
僕の名は首藤秀樹。漫画王になる男だ。
羽生くんはどんな漫画とか読んでる?」
首藤は羽生の顔を見上げた。
「ん。漫画は読んだ事は無い。」
「マジ!?
それは人生を損してるでしょ。
俺の漫画コレクションの中からおすすめを見繕って貸そうか?」
「ぜひ。」
首藤の表情が華やぐ。
「絶対に明日持ってくるわ!」
真柄幸雄が羽生の横に立って
羽生の肩に手を置いた。
「羽生。
俺は真柄。これからよろしく。」
「よろしく。」
羽生は無表情に会釈を返す。
真柄はニヤッと笑みを浮かべて羽生を見た。
「最初に話かけたのが首藤ってのは羽生君も
オタク趣味があるんか?」
首藤が首を横に振った。
「羽生君は漫画を読んだ事が無いんだってさ。」
「マジで?それは珍しいな。
親が厳しいんか?」
「きっかけがなかった。」
羽生が無表情に答える。
真柄はなるほどと頷いた。
「それやったら首藤の絵に興味沸くのもわかるわ。
こいつめっちゃ萌え系のエッチな絵が上手いからな。
自作の漫画とか描いて同人誌っていうのを作っとんねん。」
「おまえ!真柄!あんまそういうの言うなよ。」
「なんでやねん?女の裸ばっかり描いてるからか?」
「それは否定はできん。
エロの無い同人誌を僕は買ったりせん!
自分が買わないものを描く道理がないやろ。
しかし!!!
それを初対面の人に主張しても理解はされんやろが。」
真柄は首藤の言葉に呆れた。
「羽生は女子じゃないんやから。
何を気にしとんねん。
そういうとこがオタクっぽいって言うねんぞ!」
「オタクで何が悪い!!!
そうやってオタクは差別される生き物なんじゃ!
誤解とかされたくないやろ。」
羽生は興味深げな表情を見せる。
「そうか。性描写がある絵か。
そういう絵を描くのは芸術と言って良いと思う。」
「ええんかい!」と真柄が羽生にツッコミを入れた。
首藤は席から立ち上がると羽生を抱きしめた。
「あんた、ええ奴やなぁ。
BLへの目覚めを僕の中で感じたで!」
羽生の首藤たちとの和気藹々とした雰囲気に
最初、羽生に話しかけづらいと思っていた女子たちが
羽生の周囲に集まり出した。
羽生に群がる女子たちの光景に
首藤はブスッと不機嫌そうな顔をしたが
それは羽生に対してではなく
女子に対して向けられたものであった。
羽生は女子たちに引っ張られるような形で
首藤の席から離れていった。
「羽生。モテモテやな。」
真柄は呆れた素振りを見せる。
「羽生君には、鈍感キャラとして
リアルギャルゲーを実現できる才能がきっとある。
それはギャルゲマスターの
異名を持つ僕が太鼓判を押すわ。」
首藤は自分でつけた異名を口にして
根拠の無い自信たっぷりに太鼓判を押した。
2時限目の休み時間。
「田中君。学校を案内してほしい。」
羽生に学校の案内を頼まれた。
周三は「ああ。ええよ。」と了承した。
教室を出ようとする田中と羽生の行く先を
女子たち数人が駆け寄って立ちふさがった。
「羽生君!ひどいじゃない!
私たちで学校を案内するって約束したのに!」
「うん。ごめん。
昼休みにゆっくりと案内してよ。」
羽生は申し訳なさそうに女子たちに言った。
「じゃあ、お詫びに
わたしらと一緒にお弁当食べようよ。」
「わかった。」
羽生の返事で女子たちはあっさり引き下がった。
「女子たちに案内された方がええんちゃう?」
周三は羽生にそう言った。
「田中周三。君はそうおもうのか。」
周三は不可解な顔をした。
「誰だって普通はそう思うやろ。」
「そうか。そういうものか。」
「そういうもんやろ。」
周三と羽生は2人で連れ立って廊下に出る。
「田中周三。
屋上に案内してくれないか。」
「屋上?鍵がかかってて入れへんよ。」
「大丈夫。鍵は持っている。」
「なんで持ってるん?
職員室で借りたんか?」
「そう。借りたんだ。」
「へぇ~。よう借りれたな。
転校生やから屋上見学してもええってことか。
鍵があるんやったら行こう。
でも屋上ってホンマに何も無いで。」
「いい。」
「羽生君がええんやったらええけどな。
でもいきなり屋上?
もっと理科室とか体育館とか
視聴覚室とか優先順位が高い場所がありそうやろ。」
周三はそう思いながらも羽生の希望を優先する。
屋上は何故か鍵が開いていた。
「あれれ???
鍵が開いとる。
誰かが鍵を閉め忘れたんかいな?
それやったら帰りに鍵を閉めておかなあかんな。」
鍵が開いてる事に周三は
さほど不思議とは思わなかった。
屋上は許可が無いと入れない場所なので
屋上には誰もいなかった。
「それにしてもさぁ。
うちの中学に転校してくるなんて驚いたわ。
最近、引っ越してきたん?」
周三は話を切り出した。
「引っ越してきたといえばそうだね。」
羽生は無表情に屋上からの景色を眺めていた。
「昨日の勇者のチカラってのさ。
ちょっとだけ本気にしてもうて
家で色々と試しちゃったよ。
当たり前やけど手からビームとか出んかったわ。」
周三は少し照れた様子でそう言った。
羽生は横目で周三をチラリとだけ目を向けた。
「ははは。
ビームは出ないか。
それは出ないでしょうね。」
羽生は周三に向けて笑みを返す。
「もう!笑うなよ!
羽生が勇者のチカラなんて言うからだろ!」
周三は拗ねた表情で言い返した。
羽生はまた景色に視線を戻す。
チカラがあってもそれを
形にする方法を知らないと
チカラはただの空気のようなものだよ。」
周三は羽生に疑いの目を向けた。
「ホンマにチカラなんかあんの?
ホンマにチカラがあるんやったら
使い方ってやつを俺に教えてほしいわ。」
周三は冗談っぽく言った。
話を全否定するのは簡単だが
別に害のある嘘話でもない。
ただの中二病キャラなのかもしれない。
という親近感に似た安心感から
周三は羽生に好意的な態度を示していた。
「周三にとっての勇者のチカラって
どんなイメージなのかな?」
「え~?
いきなり例えばって言われてもすぐに思いつかんわ。」
「そう。では、例えばこんな感じかなぁ。」
羽生は少し首をかしげて悩みながら
視認した近めの距離にある山を指を差した。
「田中周三、あそこに山がある。」
「ああ、あるね。で?」
羽生は指差す手をピストルのように構える。
「爆ぜろっ!」と普通の声音で言い放った。
周三は、羽生の指先から
小さな光が高速で飛んだのを目撃した。
すぐに
ドゴーーーーーーーーン!!!!!!!!!
ババババーーーーーン!!!!!!と
山から大きな破裂音とともに
巨大な土煙が巻き上がった。
ものすごい轟音と地響きがこだました。
山が爆発し、粉砕される光景を周三は目撃した。
時間差で地面に揺れが起きて
屋上の床も大きく揺れて
コンクリートの床がひび割れる。
周三は屋上の塀の金網を手で掴んだ。
「・・・・・・・・え?・・・・・・
えーーーーー!!!!何なん!これーー!!!」
周三はあまりの出来事に驚きすぎて思考が停止した。
各教室の窓から生徒たちが身を乗り出して
山の方角を指さしたりしながら
土煙を凝視して
「噴火だ~!」と叫んだりしている。
非常ベルが鳴って学校内は騒然とし始めた。
羽生は、いたって平静を保っていた。
「ま、周三はこういったイメージを
持っていると思うが・・・」
淡々と話を進めようとする羽生に
周三は近寄って羽生の両肩を両手で掴む。
「え!?これってマジで羽生がやったん?
爆破とか洒落にならん!マジで。
マジでヤバいやん!
死人とか出てるかもしれへんで。
これってテロってやつやん!!!」
羽生は無表情に首をかしげる。
「田中周三。。。。驚いた?」
「馬鹿!そりゃびっくりするわ!
これどうしたらええんや?!」
周三は慌てふためいた。
「どうするかか?
では、今のはあくまで
一つの例なのでとりあえず無かった事にしよう。」
羽生の言葉に周三は口を開けて驚く。
「え!?無かった事ってどうすんねん?
漫画みたいに謎の組織とか使ってもみ消せるんか?」
「え?できるよ。」
あくまでも冷静な羽生がパンッと両手のひらを
叩いて打つと景色が灰色になって時間が止まった。
すぐに映像の巻き戻しのような事が始まって
爆砕した山があっと言う間に元通りになっていた。
灰色の景色に色が戻る。
校舎の非常ベルの音がしない。
生徒たちの叫び声も止んでいる。
いつもの日常が戻った。
「おいおい。
どういうこと?
さっきのはなんやったんや?」
唖然とした様子の周三。
「時間を少し巻き戻しただけ。」
羽生は衝撃の事実を軽い感じで口にした。
「ええ!そんなんできんの?」
周三はポカンとした表情を羽生に向けた。
「時間の巻き戻しは周三にはまだ無理かなぁ。
時間の完全な操作は神のチカラにあたるチカラだから。
でもそれに近い事は周三も出来るようになってる。」
あくまで冷静な様子で羽生は言った。
「・・・・羽生って・・・
もしかして神様なん?」
「正確には違うけれどそうとも言えるね。」
「曖昧やなぁ。
神様やったら敬語使わなあかんかなって
思うたけどまぁええわ。
それは今はとりあえず置いておく。」
周三は目を輝かせてワクワクしている。
「俺もそんなん出来るようになるん?
時間は操作できんかもしれんけど山は吹っ飛ばせるん?」
「やり方をおぼえたらすぐ出来るようになるよ。」
「マジか。」
周三は嬉しそうにガッツポーズをした。
「それでは本題に入ろう。」
「ん。本題?」
「田中周三はこういうチカラって必要と思う?」
「う~~~ん。
普段はそんなチカラを使うタイミングは無いやろな。
考えてみたらすげぇ無駄なチカラやと思うわ。
戦時中とかなら役に立つかもしれんけど。」
「そうだね。
こんなチカラは平和な日常には必要が無い。
でも上手に使えば世界を支配できたりする。
世界征服とかに田中周三は興味があるかい?」
「まったく興味無い。」
「でも、もしも、
こんなチカラを持った魔王が現れて
この世界を征服し始めたらどう思う?」
「それはかなり嫌かも。」
「でも人間にはこのようなチカラに抗う術は無い。」
「そりゃ確かに軍隊とかミサイルとかは
あんな意味不明なチカラには無意味っぽい気はする。」
「君にチカラを与えたのは可能性があるので与えた。」
「可能性?魔王とか現れるの?
なんで俺なん!?俺の可能性って何?」
「君は選ばれたのだから適正がある。」
「え!?俺が地球を守る?
そんなん絶対に無理やわ!
だって俺は普通のどこにでもいる中学生やで!」
「無理だと思うなら守らなくていい。
チカラをどう使うかは君の自由だから。
抗うチカラを人間側が持っているのに
行使しないのは
人間側の選択なのだからそれでいいんだ。」
「え~~~?
なんかそう言われ方をすると
俺が責任とか義務を放棄した感じがして嫌だな。」
「チカラについて知りたいなら
チカラに詳しい場所にでも行ってみるかい?」
「なにそれ?どっかに行くの?」
「うん。
知らないと選択はできないようだからね。」
「それは興味はあるけど。」
キーンコーンカーンコーン
校舎にチャイムの音が響きわたった。
周三はチャイムの音に目を丸くした。
「うわ~~!!!
休み時間が終ったやん!
急いで教室に戻らなあかん。」
「わかった。
それなら時間を少し戻そう。」
羽生が目を瞑ると
世界の時間が5分ほど巻き戻った。
「そのチカラ。
いまの俺にも必要なチカラだと確信した!」
「さすが、田中周三。
選ばれしものだね。」
羽生は周三に微笑んだ。
「選ばれしもの。
それが俺の運命やったんやなぁ。」
「ふふふ。」
「あはは。」
2人は笑いあいながら
屋上の入り口に向かって歩き出した。
よろしくおねがいします。




