予兆
前回のあらすじ
アルベルク広場の中央で
酔いつぶれていた鎧姿の
大男の正体は悪魔であった。
天使である中村は天使の応援を呼んで対処する。
中村は大男に声をかけると大男は
仲間がいる事をほのめかした。
大男の連れを探すために中村と周三の2人は
大男が指さした西の大通り付近で探索をはじめる。
強い魔力のチカラを探知した2人は
その魔力源の方向に向かった。
そして周三と中村の前に現れた大きな魔力源は
元の世界の同級生の甘根興次であった。
甘根との会話から大男の連れの悪魔であるとわかり
甘根に鎧姿の大男を引き取らせる事により
一般人に被害もなく問題は無事に解決した。
甘根は去り際に迷惑をかけたお詫びにあとで
ジェラートを奢るからここで待っていて欲しいと言った。
アルベルク広場の中央で甘根を待つ周三と中村であった。
アルベルク広場の中央の地べたで
中村は胡坐をかいていた。
「甘根は帰ってくるのがだいぶ遅いな? 」と
中村は周三に愚痴をこぼした。
「飛んで行った割にはかなり遅いよな。」と周三は
地べたに三角座りしていて
ヒザに顔をうずめながら返事した。
「広場の真ん中であんまり長い時間座っているのも
迷惑やから立って待とうか。」と
周三に促すと中村が立ち上がった。
「そやな。」と周三も立ち上がり
ズボンの尻についた埃を
両手でパンパンと払った。
周三と中村は2人とも
胸元で両腕を組んで立っていた。
しばらくして広場の北の入り口から
甘根が手を振りながら
こちらに向かって走ってくるのが見えた。
走ってくる甘根は時々ジャンプをして
周三と中村に対して
『気付いてる?わしやで! 』と
いうようなそぶりで自己主張をしていた。
甘根の様子を周三と中村は
冷ややかに眺めていた。
「なんや。あいつは走ってきたんかい。
飛んで行ったんやったら
飛んで帰ってきたらええやんか。」と
周三はがっかりしたようにボヤく。
中村はため息をついた。
「そやな。
でも甘根なりに目立って騒ぎにならんように
空気を読んだんやろ。
許したろ。」と中村はダルそうに
首を回しながら自分の肩に
手をあててコリをほぐしていた。
周三と中村の前まで来て甘根は足を止める。
「うひょ~!めんご!めんご!待たせたな。」と
甘根はなぜかテンションが高い。
周三と中村の2人と甘根との心の温度差は
炎天下と氷点下ほどの開きがあった。
「別にええよ。ほな。いこか。」と
中村は北に歩き出した。
周三と甘根は中村の後について歩く。
広場の北側にある東西に
延びる大通りに入ると
3人は東に向かって歩いて行った。
3人はしばらく歩いていると
ジェラート店の前に並ぶ行列が見えてきた。
ジェラード店の前で客の行列がジグザグに
折り重なって3列で並んでいた。
隣の店に迷惑にならないように
店員らしき若者が1人で行列を整理してる。
「あの行列の店がジェラートを売ってる店や。」と
周三と甘根に中村は店を指さして言った。
ジェラート店のあたりの様子を見て周三は
「やっぱり人気があるんやなぁ。」と感心して言う。
「フェンティーアではこの店が一番有名らしい。
ジェラート専門店はここら辺では
ここだけやしな。」と中村は説明した。
「おお!
こっちの世界でアイスが食えるとは思わんかったわ。
めっさテンションMAXやわ!」と
甘根は目を輝かせている。
周三と中村と甘根の3人は行列の最後尾に並んだ。
ジェラートの店はショーケースと
ショーケース越しにある注文カウンターのみの
とても小規模な店だった。
3人の若い店員がカウンターに横一列に並んで
それぞれが客から注文を取とると
ショーケースの中に
陳列された各種類のジェラートから
注文を受けたジェラートを
アイススクープで掬い取る。
アイスコーンにジェラートを盛り付けて
客に渡して会計する。
店員はとても手際が良かった。
案外すんなりと周三たちの順番が来た。
「順番が来るの早かったな。」と
周三が感想を言った。
「ダブルとかトリプルとかっていうジェラートを
重ね載せするサービスが無いから
手間がかからへんからな。」と
中村は冷静に見解を述べた。
甘根は中村の言葉に反応して
「重ねられへんのけ! マジけ! 」と
ひざを叩きながら残念がった。
周三たちはカウンターの3人の店員に
それぞれジェラートの注文をした。
周三はチョコチップ味を注文した。
中村はバニラ味を注文した。
甘根はチョコ味とかぼちゃ味の2つを注文して
お会計は甘根が全員分の会計をまとめて支払った。
「ゴチになります。」と甘根に周三が礼を言った。
「ありがとな。」と甘根に中村も礼を言った。
「ええよ。ええよ。
迷惑かけたからな。悪かったな。」と
甘根は笑顔で言うと
両手に持ったジェラートを交互になめ始めた。
「う~ん。体にしみるわぁ~。
この国にはこんな美味いもんがあるんか。
ここ住みたいわ。」と
甘根は上機嫌の様子だった。
甘根と周三に中村は
「この辺りで立ち止まって食べるのは
通行の妨げになるから移動しよか。
もう少し先まで歩いたらベンチが空いてると思うで。
そこで座ってゆっくり食べよう。」と提案した。
「おお! そこにいこけ。」と甘根は同意した。
「そうしよ。」と周三も同意したので
中村は頷くと東に向かって歩き出した。
中村の左右に甘根と周三は肩を並べて歩きだした。
横に広いゆったりしたベンチに
周三と甘根と中村の順に並んで座った。
「いやぁ。
こっちで元の世界の同じ中学の知り合いに
会えるとは夢にも思わんかったわ。
自分らはどっちもこの街で暮らしとんけ?」と
甘根は2人に訊ねた。
「うん。」と周三は一言で返事した。
甘根に対して中村は頷くと
「僕も田中もフェンティーアで暮らしてるで。
甘根は悪魔って事は
第二大陸に住んでるのか?」と甘根に問いを返した。
「ああ。わしは第二大陸ザンギマイトの
イシュエル半島って地域に住んでる。
まだ地理には詳しくはないから
イシュエルのどの辺に住んでるかってのは
南の方ってくらいで、いまいち説明でけへんな。
イシュエル半島はこっからは
まぁまぁ近い距離やと思うで。
それでも海の向こうやから近いって言っても
かなり距離はあるけどな。」と甘根は説明した。
「第二大陸は内戦をしてんのか?」と
中村が甘根に訊いた。
甘根は困った顔をした。
「わしはこっちの世界に来て
そんなに経っとらんけ。
詳しくはわからんけど戦争はしとるみたいやで。
わしはこの世界に来て1週間ちょいくらいやから
まだ戦争には参加してへんし
詳しい事もわからんなぁ。」と応えた。
甘根に目を向けて周三が
ジェラートを舐めながら
「コウジも羽生に誘われたんか?」と軽く訊ねた。
「お! よう知っとんな。
じゃあお前らもけ? 」と甘根は元気よく言った。
「まぁそやな。
でも別人の羽生やけどな。」と甘根に中村は言う。
「別人?なにそれ?」と
甘根が不思議そうに反応する。
「俺は羽生優斗っていう名前の
男子に誘われてん。」と
甘根に周三は応えた。
そのあとすぐに中村が
「俺は羽生陽子って女子に誘われてん。」と
甘根に応えた。
「うちの学校って羽生っていう苗字が多いんけ?
わしは羽生彩香って名前の女子がわしのクラスに
転校してきてんけど彩香の顔が
めっさ可愛いかったから
わしは彩香にわしの女になれへんけ?って
口説いてん。
じゃあ彩香がわしに向かって
『気に入った女性になら
誰にでもそういう事を言うのかしら?
きっとそうやって何人もの女の子を
自分の物にしてきたのね。
あなたは悪魔のような男だわ。
1回本物の悪魔をやってみる気ある? 』って
言われたんやけれど、
冗談やと思って、やったるわ。って
言うたらここに来させられた。」と
羽生とのいきさつを2人に甘根は説明した。
「コウジはモテるからな。」と周三は頷いた。
「ふ~ん。」と中村はそっぽを向いて
アイスコーンをかじっていた。
「そやっ!
こっちでの言葉ってどうしてる?」と
甘根に周三は訊ねた。
「この指輪をもろたら
言葉が通じるようになった。」と
左手の小指につけてる金の指輪を見せた。
「おお!
第二大陸に天使の指輪があるんか!」と
周三は驚いた。
中村は冷静な顔をしながら
「第二大陸は堕天使が多いから天使の指輪を
持っていてもおかしくは無い。でもな。
そんなに他人にホイホイとあげるほどには
価値の低い物でもないで。」と説明した。
「そうなんけ?言葉が通じないってわかると
すぐにこの指輪をくれたけどなぁ。」と
甘根は思い出しながら答えた。
「そうか。
それは疑問の残る答えやな。」と中村が考え込んだ。
「どないしたん。」と中村に周三は訊ねる。
「天界の指示で僕と田中は
天使の指輪を渡されてるやろ。」
「そやったな。」と中村の言葉に周三がうなずく。
「でな。天界と敵対する魔界の管轄下にある第二大陸に
羽生綾香という女子は甘根を送り込んだんやで。」
「それがどうかしたんけ?」と
中村の言葉に甘根は首をかしげた。
「じゃあ僕らはどの勢力にも属さない勢力から
この世界に送り込まれたっていう仮説が
成り立つやろ。」と中村が説明した。
「なるほど。」と周三は頷いた。
「そうなんけ?」と
甘根は意味がわかっていない様子だった。
中村は考え込んだそぶりをしながら
「じゃあ羽生って神なん? 悪魔なん? 」と
2人に問いかけた。
「それは神なんちゃうかな? 」と周三が応えた。
「いやあの女は小悪魔やろ。」と
甘根は周三の答えを否定した。
「どっちの可能性も否定はできへんけれど
羽生は神と悪魔のどちらにも
影響力のある存在と考えると
謎は深まるばかりやな。」と中村は感想を述べた。
「まぁ今のところは別に問題があるわけでも無いし
深く考えなくてもええんちゃう?」と
周三は楽観的に言った。
周三の言葉に中村は頷くと
「ま、今は気にせんでもええな。
でもいずれは
関係してきそうな気もするけど。」と納得した。
「わしは難しい話に興味は無い!」と
甘根はキッパリ言った。
「第二大陸って何も無い土地なんやろ。
甘根は暮らしに不自由はしてへんの?」と
甘根に周三は訊ねた。
甘根は少し難しい顔をした。
「この国よりはむっさ不便やけど別に気にはならん。
わしの国はこの国の商売人と取引してるらしい。
そやから商人の船が来る港があるイシュエルは
かなり発展しとる。
普通の食べ物とかがあるしな。
そやけど北に行くほどホンマもんの地獄らしいから
ちょっとだけビビってるわ。」と
甘根は笑顔で冗談っぽく言った。
「戦争してるんやもんな。
それは怖いな。」と周三は言った。
「甘根はどんなとこに住んでんの?
悪魔の家に下宿してんのか?」と甘根に中村は訊ねた。
「いや、わしはな。
王様に気に入られたみたいでな。
我の養子になれ。って王さんに誘われてん。
わしも王さんを気に入ったから
養子になることに決めた。
だからな。ごっつくて、でっかい城に住んどる。
わしには似合わんやろ?
わしが王子やで。笑うやろ? 」と
照れたような仕草をしながら甘根が言った。
「王子はすごいな。」と周三が素直に感心した。
「さすが羽生が選んだ男やな。
甘根には悪魔の才能があるんやわ。」と
中村は目を丸くして言った。
「親父はめっさ強いねん。
だから、わしは親父から直接鍛えてもろとる。
親父は炎の攻撃が得意やから
炎の魔人とかみんなに言われとるで。
親父に鍛えてもろとるからわしも炎の攻撃が得意や。」と
甘根は自慢げに言った。
「さっきの炎の翼とか
大男を片手で持ち上げる怪力とか
すごかったもんな。」と周三は感心しながら言った。
「たしかに相当なもんやったわ。」と
中村は甘根を褒める。
「そやろ!そやろ!」と
甘根は嬉しそうに無邪気な様子で言った。
「イフリートって悪魔は、たしか、
勇者カンベインの義兄弟って聞いたで。」と
周三は思い出したかのように言った。
「おお、そうなんか?」と
周三の言葉に中村は反応した。
「カンベイン?
誰それ?たしかに親父は
『我がこの世で怖いのは兄貴だけや! 』って
たまに笑って言うてるけどその兄貴け?」と
甘根が言う。
「うん。おそらく。」と周三が応えた。
「親父より強い男なんて
想像できへんわ。」と甘根が言った。
「俺らが想像もつかんほどに強すぎる人みたいやで。
もう伝説上の人物やな。」と中村が応える。
甘根は嬉し気な顔を浮かべた。
「ほなぜひ会ってみたいな。
わしにとっては伯父貴にあたる人やろ?
カンベインって人はいまどこに住んでんの?」と
中村に甘根は訊ねる。
中村は小首をかしげた。
周三は悩んだ様子で口を開いた。
「500年前の人物やし
普通やったら寿命で死んでるんちゃうん?
聞いた話ではカンベインは
自分探しの旅に出たとか言うてたわ。」と
中村にかわって周三が答えた。
中村は唖然とした様子で
「自分探し!?
500年も自分を探してんのか?
でもあのカンベインやしなぁ。
常識では計れへん。
生きてる可能性もゼロではないやろな。
自分探しに出たまま、
まだ帰ってきてないんちゃう?
だから生死不明のままなのかもしれん。」と
可能性を示唆した。
「そんなに強い男なんかぁ。
親父が勝たれへんかった男なんやったら
いずれわしも挑戦したいわ。」と
甘根が目を輝かせて言った。
それを聞いた中村と周三は閉口した。
「どないしたんや。
2人とも黙ってしもて。」と甘根がきょとんとした。
周三は苦笑を浮かべつつ
「いや、甘根はすごいなぁって思ってな。
なぁ?」と言って
中村の目を見て周三は話しを振った。
中村は無表情で甘根の肩に手を置いた。
「甘根。。。。。死ぬなよ。」と
甘根の目を真っすぐ見つめながら
中村は静かなトーンで言った。
「ははははは!」と
甘根は声を出して笑いだした。
「なんや2人とも大袈裟すぎるわ!
あはははははは! 」と笑う甘根。
周三と中村の2人は無言でそれに答えた。
「それはそうと何の用事で
フェンティーアに来たん?」と
甘根に周三はフェンティーアに来た理由を質問した。
中村は深く頷く。
「それ訊きたいな。
甘根は第二大陸の悪魔の王子という立場であるのに
第三大陸の重要都市であるフェンティーアの
首都であるこの街にいる。
ここまでやって来れたのは
この国の入国許可が取れてるからやろ?」
中村の言葉に、うんうん。と甘根は頷くと
「おおそうやで。
わしの国とこの国の商人は商売の取引をしとるねん。
そやからこの国の商人に顔が効くわけや。
そんでな。この国の商人が
色々と手をまわしてくれたおかげで
無事にここまで来れたんや。
その用事って言うのはな。
お前らが同級生やから言うけど。
ここだけの話やで。」と
甘根は急に真剣な表情になった。
「なになに? 」と周三は興味津々になった。
「田中、まぁ待て。」と中村は
甘根の話を周三が聞こうとするのを抑えた。
「その内容が国家機密ちゃうか?
僕らが知ったら
僕らは大変な事に巻き込まれるかもしれんで。」と
周三に中村は自重を促した。
中村の言葉に周三は納得した様子を見せた。
「ああ。国家機密か。
そりゃ、ヤバい情報やったら
俺らは逮捕されるかもしれんよな。」と
周三は身をすくめた。
甘根はにこやかな笑顔を見せながら
「そんな大層な情報でも無いで。
口止めもされてへん。
秘密でもなんでもないねんけど
逆に言いふらした方がいい事やと思ったから
この国に来たわけや。」と説明した。
周三も中村もホっとした表情を見せた。
中村は警戒を解いたように笑顔で
「じゃあ聞くわ。」と甘根に言った。
周三も笑顔で「なんの用事なん? 」と
甘根に訊ねた。
すると甘根は真剣な顔に戻った。
そして2人に
「どうやら第二大陸の北西の国の
軍隊がたくさんの船に乗ってフェンティーアに
攻めて来てるかもしれんねん。」と言った。
中村と周三は
「え~~~~~~~~~!!!!!! 」と
同時に大声で叫んだ。
こんにちは。




