悪魔
前回のあらすじ
午前中はディアナと剣術稽古をして
昼食のためにカノレル雑貨店に
周三は帰宅するのだった。
昼食は魚のムニエルと
鳥肉のトマトソース煮込みと
サラダと貝のパエリアが食卓に並んだ。。
周三はリアと一緒に奥の間で昼食を取っていた。
リアは思い出したという様子で
両手を叩いた。
「そうだ。さっき午前中に武具屋さんが訪ねて来たの。
シュウは留守にしていて正午に帰宅しますって
武具屋さんに伝えたら
また正午過ぎくらいに伺いますって言ってたわ。
武具屋さんに用件を一応訊いたら
鎧を作るからシュウの体のサイズを測りたいそうよ。」と
周三にリアは伝えた。
「いま!? これから製作なん? 」と
周三はそれを聞いてガッカリした。
「う~ん」とリアは考える仕草をした。
「サイズを測るのだから
これから作るんじゃないかしら。
シュウは鎧を作ってもらう事にしたの?」と
周三にリアに訊いた。
「いや、3日前に議事堂で議長と会った時に
鎧をくれるって言うから
部屋に沢山並べてある鎧の中から
カンベインの鎧を選んで頂戴って言ったの。そしたら
カンベインの鎧は国宝だから
無理だって断られたんやけれど
それでも欲しいって議長に言ったら議長に
じゃあ複製品を明日以降に
届けますって言われたんです。
だから俺はずっと届くのを楽しみにしてたんです。」
周三にリアは同情の目を向けた。
「そうなの?武具屋さんも忙しかったのかしらね。」
「かもしれません。
でも、もらい物なんで文句は言えないです。」と
周三は苦笑いを浮かべた。
午後1時に武具屋の従業員と名乗る若い男性が
一人でカノレル雑貨店に訪ねてきた。
リアは奥のリビングへ武具屋の男性を通した。
奥のリビングには
周三がテーブルの椅子に座って紅茶を飲んでいた。
武具屋の従業員という男性は
巻尺を両手に持つと、緊張した声で
「失礼いたしやす。
勇者様の体の各寸法を測りたいのですが
今よろしゅうございやすか?」と周三に訊ねた。
周三は席から立ち上がって真っすぐ両手を上げて
「よろしくお願いします。」と返事した。
武具屋の男性は巻尺で
周三の体の各部位を詳しく計ると
「ありがとうございやした。
寸法のほうはバッチリです。
鎧は出来上がり次第に
すぐにこちらにお届けしやす。」と
にこやかな表情で周三に言った。
「いつごろ出来上がりますか?」と
周三が武具屋に質問した。
すると武具屋の従業員は
考え込む仕草をしてから
「う~ん。オーダーメイド品なので
普通は時間がかかるのですが
ご注文頂いた鎧は体を覆う部位が
少ないものですので
1週間くらいかと存じあげやす。」と応えた。
周三は安心した顔を浮かべながら
1週間なら、まぁいいかと思った。
午後は天使の中村太郎に会おうと
思い立つと
カノレル雑貨店を出て北に向かった。
商店街の手前あたりの交差点を
右に真っ直ぐ行くと
正面に教会が見えてくる。
教会について周三は中に入ると
正面の奥に神父さんらしき男性が立っていた。
周三は神父さんに近づくと
「天使の中村太郎くんはいますか?」と尋ねた。
「天使ハロウですか?」と聞き返された。
「はい。ハロウです。」と周三は応えた。
すると神父さんは
「しばらくお待ちください。」と言って
教会の奥の右側の扉の中に入っていった。
しばらくして教会の奥の左側の扉から
中村太郎が出てきた。
周三は建物がどういう構造になってるのかが
気になって少し興味が沸いた。
「よう!田中!よう来たな。」と
中村は相変わらず陽気だ。
「おお! 中村、元気してたか?」と
右手を上げて周三が言った。
「まぁな。そっちはどないや?」
「ぼちぼちマイペースに頑張ってるよ。」
「ところであの神父さんは
今日も中村の名前を間違ってたよ。」
「そんなもん気にしたら負けやで。
他人の名前を絶対に
間違えるキャラクターやと思ってたら
腹も立たんよ。」と
中村は相変わらず意に介さない。
「そういうもんかなぁ。
でも今日はタロウの事をカロウではなくハロウって間違えてたで。
それやと『天使さんこんにちは。』って意味になるやん。」
「挨拶やったら別にええやんか。
それにちょっとおもろいやん。」と
中村はまったく気にしていない。
中村は大物なのかもしれないと周三は思った。
中村と周三は教会から出ると
東のアルベルク広場でお茶する事にした。
カフェテラスの椅子に
2人は腰掛けると
カフェの店員が注文を取りにやってきた。
周三と中村は
コーヒーとロールケーキを注文した。
しばらくして店員が店内から
コーヒーとロールケーキを
2セットをトレーに乗せて
運んできて周三と中村のテーブルの上に置いた。
周三と中村は
コーヒーを飲みながら一息つくと
「なぁ、田中、知ってるか?
実はこの世界にもジェラートがあるらしいで。」と
中村が周三に身を乗り出して
コソっと言ってきた。
「マジで!?
どこにお店があんの?」と周三は興味津々に
中村にジェラートの店の位置を訊ねた。
「僕も昨日知ったばかりやねん。
この広場の丁度北側の通りにその店があるらしい。
すごい人気らしいで。」と中村は応えた。
「この世界って魔法使いが氷を
いっぱい作ってるらしいから
アイスクリームとか無いんかなって思っててん。
そのお店にめっちゃ行きたいわぁ!」と周三が
足をばたつかせて
食べたいというアピールをした。
「じゃあ、ここでお茶したら
そのあとにジェラートの店を見に行こうや。」
「行こう!行こう!
めっちゃわくわくするわ! 」と
周三は嬉しそうに言った。
「話は変わるけど実は報告があるんやけどな。
自慢じゃないねんけど僕、出世してん。」と
中村が言った。
「え!? おめでとう!
じゃあお祝いにここは俺がおごるよ。」
「ありがとう。好意に甘えさせてもらうわ。
友達から祝福されるというのは
人間としても天使としてもとてもうれしいもんやな。
僕の天使の階級が1個上がって
『大天使』って言う位階になってん。」
「大天使って天使に詳しくない俺でも
聞いたことあるで!
めっちゃすごいんちゃうん? 」
「どうやろ。
すごいかはまだ実感がわかへんけれど
天界との連絡役みたいな仕事を任されるようになったな。
あとは戦争の時は天使の軍隊の隊長を任されるねんて。」
「うわ!
隊長って責任者やんか! 中村を尊敬するわ。」
「僕、1000人の天使の隊長さんやで。」
「え~!?
1000人!!!
中村すご! すごすぎてちょっとひいたわ。」
「これからも何か困った事があったら
僕に相談してくれたらええよ。」
「わかった。
何かあったら遠慮なく相談させてもらうわ。
それにしても1000人はすごいなぁ。
ほんまに頼もしいわ。」
「だからここはおごってもらうけど
ジェラートは出世して偉くなった僕がおごるわ。」
「うれしいけどええの?」
「田中もこの大陸ですごく有名な剣士と
試合して勝ったらしいやん。
聖職者の間でもすごく話題になってたで。
僕も誇らしかったわ。
だから僕にもお祝いをさせてくれ。」
「ありがとう。
俺なんかは中村に比べたら大したことないけどな。
じゃあ遠慮なくジェラートは
おごってもらうことにするわ。
えっと、実はな俺も中村に報告があんねんけど
今度、魔法学園の入学試験を受ける事になってん。」
「おお! それはよかったやん!
田中は魔法を習いたかったんやろ。
そりゃあホンマによかったやんか。」
「ありがとう。
まだ入試の日取りは決まってないらしいけれど
もし合格したらしばらくは
魔法学園都市で暮らす事になると思う。」
「ええやん。ええやん。
僕もいつ転勤になるかもわからへんからな。
僕らはこの世界で
ちょっとずつ前進出来てるんちゃうか?
お互い忙しくなってなかなか会えんようになっても
それが前向きな理由でなら
すごくええことやとおもうで。」
「この調子で行けば
この世界を持ち上げてる巨人に
お会いして世界を支えてくれてありがとう。って
お礼をいえる日も近いかもな。」
「そやな。
裸の紳士には絶対に会いに行かなあかんな。」
「えっとな、中村、話は変わるけど
さっきからずっと気になってんねんけどな。
なんか広場に真ん中に人だかりができてへん?」
「ん? ほんまやな。
なんやろ? 気になるな。後で見に行こか。」
周三は広場の人だかりに目を凝らした。
「路上パーフォーマンスかなんかかな?」
「その可能性はあるな。
でもあの人だかりは
そんな雰囲気でもなさそうな感じもする。」
「ジェラートの店に向かう時についでに確認しよう。
あ! そうや。今思い出したんやけどな。
中村が前に第四大陸には
今は竜王がおらんって
言ってたけれど実はまだいっぱいおるらしいで。」
「そうなん? いっぱいってどんぐらいおんの? 」
「なんかな、竜の皇帝みたいなのが1匹と
竜王が3匹おるねんて。」
「けっこうおるやん。
まだ僕もこっち来てから日が浅いから
知識に齟齬があるなぁ。すまんな。また勉強するわ。
てことはなんで竜王がおるのに
第三大陸を攻めてこうへんのやろ?」
「カンベインが竜の皇帝を倒したらしい。
でも皇帝は生きてるらしい。
今も生きてるかはわからんけれど。」
「なるほどなぁ。
カンベインなら竜の皇帝を倒したのも納得やな。」
「竜の皇帝は何にも悪い事してないのに
カンベインが倒したらしい。
だから勇者という立場を引き継ぐであろう俺としては
竜の皇帝に申し訳ない気持ちがあるねん。
俺、機会があったら
竜の皇帝に謝りに行こうと思ってんねん。」
「おお、それは大事な事やな。
竜の皇帝は何にも悪い事してないんやろ?
それについて後継者が謝罪に行くというのは
至極当たり前な事やな。」
「そやろ。竜の皇帝が気の毒や。
俺は居たたまれない気持ちやねん。」
「もし1人で行くのが不安やったら
僕を誘ってくれたらええからな。」
「ありがとう。
もしも謝罪に行く時に中村の予定が空いてて
一緒に行けるようやったらぜひお願いするわ。
大天使がいてくれた方が説得力があるから。」
「そうかもしれん。
前にも話したけれど第四大陸には
竜人族っていう新しい竜の種族が
国家みたいなものを作りはじめてると
天使の先輩が噂してた。
竜の人っていうくらいやから
人間っぽい種族かもしれんけれど
国家を作ってるって事は集団で
社会的な行動をしてるって事やろ。
そこに竜王も竜皇帝もおるんやったら
戦争を起こせるだけの
統率力もあるわけやから
無視できない勢力になりそうやな。
近い将来この世界に竜人族が存在感を
あらわにしてくるかもしれん。
その前にちゃんと
関係を修復しておいた方がええやろな。
ん? 竜人族の国は竜王が王様なんやろか?
竜人族の王が竜王とは別におるんやろか?
その辺の事もまた調べとかなあかんなぁ。」
「竜人族って竜の皇帝がカンベインに
叩かれた時に流れでた血から生まれたらしいで。」
「マジか!
それは悲しすぎる誕生秘話やな。
すごく同情してまうわ。
という事は竜の皇帝が竜人族の支配者なんやろか? 」
「そこまでは俺には、わからへんなぁ。」
「それについてもまた調べてみるわ。
竜の皇帝に会いに行くのは
またの機会に計画をするとして
そろそろ、ここの会計をして
ジェラートを食べにいこうか。」
「おお! 行こう! 行こう!」
田中と中村は席を立つと
店員に伝票を渡して
カフェの会計を中村が済ませると
2人は肩を並べて
広場の中央に向かって歩き出した。
周三と中村は
広場の中央の人だかりを
かき分けてながら人だかりの奥に入っていく。
人だかりが取り囲んでいる中心には
身長が3mを超えていそうな大男が
赤い鎧を着た姿で大の字になって寝転がっていた。
「なぁ中村。
この世界にはこんなに身長が高い人がおるんやな。」
「人だかりが出来てるって事は
この世界でも珍しいんちゃう?」
「ほな。人だかりの原因も確認したから
ジェラートのお店に行こか。」
「ふむ。そやな。」と中村は返事をした。
その返事を聞いた周三は
人のだかりの外側に出ようとした。
「ん? おい! 田中ちょっと待て!」と
中村は周三を呼び止めた。
中村は周三に真剣な顔を近づけて小声で
「あの鎧のおっさんの中から
禍々しくて大きなチカラを感じんねん。
ヤバイで! たぶんやけどこのおっさんは
悪魔やじゃないかと思う。」と言った。
周三は驚いた表情をしたあとに、小声で
「えっ!? マジで!?
なんでこんなとこに悪魔がおるん!?
中村、今から一緒に警官を呼びにいこうや。」
「いや、ちょっと待て。
警官を呼んでも、たぶん警官では
返り討ちにあうだけや。
悪魔の対処は天使の僕の領分やろ。
とりあえず、ちょっとこのおっさんに
職務質問をしてみるわ。」
「え!? 危なくないか?
大丈夫? 悪魔のおっさんが
暴れたらたいへんな事になるやん。
」
中村の同僚の天使さん達を
応援に呼んでからにした方がええんちゃう?」
「おう。なるほど。
田中の意見は正論やな。
ちょっと大聖堂に行って
天使の応援を呼んでくるわ。
その間、田中、見張っといてくれるか? 」
「うん。でも悪魔のおっさんが起きたら
俺は丸腰やから対処は無理やで。」
「わかっとる。
すぐ応援を呼んで戻るからな! 」
「早く帰ってきてな。待ってるで! 」
中村は走り出した。
中村は広場の東にあるアルベルク大聖堂に向かった。
こんばんは。




