アン
前回のあらすじ
周三はロアンの家にディアナから勝利した報告に行く。
ディアナの強さの秘密である不思議な
体内エネルギーの正体が
『マナ』と呼ばれるチカラであることや
ハウルからもらった剣が
『白羊』と呼ばれる妖精の国の名剣だと教えてもらう。
カノレル雑貨店に帰宅した周三は
店内のカウンターに座るハウルに
「ただいま。ハウルさん、
俺、こんなすごい剣を
もらっちゃって本当にいいんでしょうか。
知人からこの剣が第五大陸では
有名な剣と聞いたんです。」と言った。
「第五大陸に詳しいご友人がいらっしゃるのですね。
確かにその剣は我が家に代々伝わる剣の一振りですが
勇者が使う剣なのですから
良い剣でなくてどうするのですか。
その剣は年老いたわたしが
持っていても仕方のないものです。
どうぞお気になさらず使ってやってください。」と
ハウルは笑顔で応えた。
「そうですか。ありがとうございます。
大切にします。」とハウルに
周三は礼を言ってから奥にリビングに入ると
リアとアンが座っていた。
アンはハウルとリアの孫で
周三より2つくらい年下に見える。
アンは赤みがかった髪が印象的で
緑の瞳がとてもエキゾチックな雰囲気を与えた。
たまに老夫婦に会いにアンは遊びに来るらしい。
「ただいま。リアさん。
こんばんは。アン。」と
2人に周三は挨拶した。
周三にリアは笑顔で
「おかえりなさい。」と言った。
周三にアンは無表情な顔で
「こんばんは。」と応えた。
周三は階段を上がり
2階部屋に戻ると
靴を脱いで自分のベットに横になった。
周三はハウルからもらった剣を
手に取って眺めながら
「よく考えたら俺って
この剣で誰かを斬る事があるのか?」と
ふと疑問に思った。
この世界に来た当初の目的は
手から稲妻を出せるようになるためだった。
魔法が使えるというファンタジー世界に
対する単なる興味本位と
かくし芸程度には魔法が使えるように
なりたいという自己満足を
満たすためだけの動機でしかなかった。
だから周三は誰かを剣で傷つけたりする事は
全く想定していなかった。
「う~ん。
そうだな。これは勇者にとって飾りみたいなもんだな。
勇者が手ぶらっていうのはおかしい気もするもん。」と
周三は結論付けて持っていた剣を
壁に立てかけると天井をしばらく眺めていたが
次第に眠気に襲われウトウトしてきた。
突然に「トン! トン! 」と
扉のノックする音がしたので
周三は目を開けた。
周三が起き上がって
目を手で擦りながら
扉を開けるとアンがうつむいて立っていた。
「アン、えっと。どうしたの?」と周三が言った。
「少しだけお喋りしたいなと思って。」と
周三にアンは無表情に言ったが
少し緊張しているようにも見えた。
「そう、それじゃあ中に入んなよ。」と
アンを周三は部屋に迎え入れる。
周三は部屋にある机の椅子に座った。
アンはベットに上に腰かけた。
アンは何もしゃべらない。
しばらくすると周三は沈黙に耐えれなくなって
アンに話を振る事にした。
「アンが住んでる家は遠いん?」と
アンに周三は質問した。
「ここからずっと西に住んでる。」
「ふ~ん。じゃあ家は遠いんやね。」
「馬車で来てるからそんなに遠く感じないよ。」
「馬車か。じゃあ夕飯のあとに誰か迎えがくるん?」
「うん。」
「昨日はアンと一緒にご飯食べられなくって
俺も残念やったわ。」
「そう。」
「アンはここには結構くるん?」
「そうね。たまにね。
おじいさまとおばあさまに会いにくる。」
「アンは兄弟とかいるん?」
「兄が2人いる。」
「そうなんや。俺は妹が一人おる。」
「そう。妹がいるのね。妹がいそうな感じはする。」
「そう?」
「うん。」
「学校の友達とどこか遊びに行ったりする? 」
「たまに友達がうちに遊びに来たりする。」
「何して遊ぶん?」
「いろいろ。」
「そっかぁ。色々かぁ。」
「ねぇ? 第三皇女殿下に
剣術で勝ったって本当? 」
「まぁね。」
「すごいね。」
「ありがと。
ちょっとだけ本気を出させてもろたわ。」
「やっぱりシュウは勇者なのね。」
「そうみたい。まぁ実感は無いけどね。」
「才能があるっていいわね。」
「そう?」
「うん。うらやましい。」
「アンにも何か才能があるんちゃうん?」
「たぶん無い。」
「まだ見つかってないだけちゃうん?」
「無いよ。
お兄ちゃんたちは頭もよくて剣とかも強いけれど
アンには何にも無い。
勉強もそんなにできない。運動も苦手。」
「別に勉強が全てでも無いでしょ。」
「でも今は勉強が出来ないとだめなの。」
「ああ。学生やもんね。それはそうかも。」
「でしょ。」
「じゃぁ勉強をがんばらないとだね。」
「実はね。つい先日に、家に魔法学園から
わたし宛に入試案内が届いたの。」
「え? そんな書類が届いたん?
取り寄せたの?」
「違う。なんかね。
魔法の才能がある人に届くんだって。」
「すごいやん。魔法の才能があるからやろ?
アンは魔法の才能があるんやん。」
「え。まだわからないよ。
でも入学試験は受けてみようって思ったの。」
「ええなぁ。俺も魔法学園に入学したいねん。」
「え?じゃあ一緒に受ける? 」
「受けたいけど入試案内は俺のとこに届いてへんよ。」
「届いてる。」
「え? 」
「今日、おばあさまが
シュウの魔法学園の案内が
届いたって言ってた。
食事の時に渡そうと思ってるんだって。
あ。言っちゃだめだった。
おばあさまが驚かそうって
楽しみにしていたのに。
言った事は内緒にして。」
「マジで届いたん!? うわぁ。やったー!
もちろん聞いた事は内緒にしておくよ。
そっかぁ。俺にも魔法の才能があんのかな?」
「きっとあるとおもう。
だってシュウは勇者だもん。」
「じゃあ一緒に試験を受けるわ。」
「うん。一緒に受けよ。」
周三とアンはしばらく部屋で話をしていると
「2人とも~。ご飯の用意が出来たわよ~。」と
1階からリアの声が聞こえた。
周三は部屋の扉を開けると
「はーい!すぐ降ります。」と
大きな声でリアに周三は返事した。
「じゃあ下に降りよっか。」とアンに周三は促した。
周三はアンと1階に下りると
ハウルとリアが既にテーブルに座っていた。
テーブルには具だくさんのシチューと
白身魚のパイ焼きと
シーザーサラダとライスコロッケが置かれていたが
中央には大きな皿の上に
牛肉の大きな肉塊がこんがり焼かれて置いてあった。
その大皿には他にもフォアグラや
大きなエビが載っていた。
「食べきれるかな。」と周三は
笑いながら言ったが
周三は食べきることに自信満々だった。
「シュウへのお祝いだから
張り切りすぎちゃったわね。」と
リアは笑いながら言った。
周三とアンがテーブルの席に腰を下ろすと
皆は両手を握って神にお祈りをして食事を始めた。
シュウは普段は食事前に
畏まってお祈りなどはしないが
みんながお祈りしてる時は
それに合わせてすることにした。
お祈りを終えて食事を始めると
リアが嬉しそうな顔で
「シュウ、今日はね。シュウにお知らせがあるの。
驚かないでね。
魔法学園からの入試案内がシュウに届いたの。」と
周三に言ってリアは立ち上がると
棚から封筒を出して周三に渡した。
「え!? そうなんですか!
魔法を習いたかったんで
すげぇうれしいです!」とリアから周三は
封筒を受け取るとリアに周三は笑顔を向けた。
「それはよかったわ。
アンにも案内が届いたのよ。
だからもしかしたら
2人は同級生になるかもしれないわね。」と
リアは微笑みながら言った。
「そっかぁ。
入試に受かったらアンとは同級生なんだね。」と
周三がアンに向かい言う。
「そうね。同級生になるね。」と
周三の顔を見てアンは言った。
「たしか、魔法学園の上位魔術師が
お忍びで各国に赴いて入試資格のある人材を
探し出すみたいだね。
魔法の才能がある人材を見つけたら
その人の家に入試案内を送るそうだよ。」と
ハウルが説明した。
「へぇ~そうなんですね。
入試っていつくらいにあるのでしょうか?」と
周三がハウルに質問する。
ハウルが記憶を辿った様子で
「ある程度の受験者が確定すると
入試日程の通知が来るらしいのですが
わたしもその辺の事情は詳しくありませんので
また知人にでも訊いていきましょう。」と答えた。
「ありがとうございます。
魔法が使えるようになれると思うと
すごくワクワクします。」と周三が言った。
リアが少し寂し気な顔で
「魔法学園に合格したら
2人とも魔法学園都市で寮暮らしになるから
わたしたちは少し寂しくなるわね。」と言った。
「もし学園に合格したら頑張って
魔法を勉強して
早くここに帰ってこれるように努力します!」と
リアに周三は言った。
その言葉にリアもハウルも嬉しそうな表情を
浮かべて頷いていた。
食事が済んでしばらくすると
馬の足音が聞こえてきた。
アンの迎えが来たようだ。
その音を聞いて
ハウルとリアと周三とアンの4人は外に出た。
大きな馬車の中から男性の老人が出てきた。
うやうやしく皆に向かって
一礼をするとアンに
「ではアンお嬢様参りましょうか。」と
馬車への乗車を促した。
アンはハウルとリアに抱き合いながら
別れの挨拶をすると
周三にもアンは手を広げてそれを求めてきた。
周三はそういう習慣には
慣れていないが女の子と
抱き合うのは嫌いでは無い。
あくまでもこういう習慣には
慣れているフリをしながら
アンと周三は抱き合って別れの挨拶をした。
「またね。」と周三の耳元でアンは言うと
周三から体を離して馬車に乗り込んだ。
執事らしき老人がハウル夫妻と周三に
改めて一礼してから馬車に乗り込むと
アンを載せた馬車はゆっくりと発進した。
部屋に戻った周三は食べ過ぎで
お腹がいっぱいすぎて
苦しくなってベットに横になった。
夕食は食後のデザートに
大きなホールケーキをリアさんが運んできたが
ケーキが3段重ねだったから
ちょっとした結婚式に出てきそうなケーキだった。
すごく美味しかったがさすがに
4人でも食べきれなくて
周三は明日の朝に残った分は食べ切る事にしたのだった。
周三はお腹をさすりながら物思いにふけった。
やっと魔法が習える足がかりをつかんだ事が
凄くうれしくて、入試の問題や傾向について
誰かにあらかじめ訊いておかないといけないな。とか
明日も帝国の剣術修練場に行かないといけないので
どうやってディアナに稽古の
ハードルを下げてもらおうかなど
考えていたが徐々に眠気が強くなってきたので
今日は寝ることにしたのだった。
今日は1日に2話書けたのでうれしいです。




