名剣
前回のあらすじ
ディアナから勝利した周三は修練場から
カノレル雑貨店に帰宅する。
ハウル夫妻にディアナに周三は勝利の報告をした。
ハウル夫妻はとてもうれしがった。
勝利のお祝いにとハウルは
家に古くからあるという白銀の拵えの細身の剣を
周三に贈った。
周三はロアンにも勝利の報告するために
カノレル雑貨店からロアンの自宅に向かうのだった。
周三はロアンの自宅に向かうために
カノレル雑貨店の南側の交差点を西に向かった。
しばらく歩くと周三は
目の前に見えてきた議事堂を見つめながら
「議長が俺にくれるって
言っていたカンベインの鎧って
いつ届くんやろ?」とつぶやいた。
(鎧なんて戦争があるわけでも無いから
必要は無いけれど、剣をもらったし
鎧も届くのが楽しみだな)という気持ちも
周三にはあった。
(透き通る蒼に塗ってくださいって
注文したけれど
自分でも透き通る蒼って
どんな色か具体的にはわからないな。
海をイメージした色という事で青。
フェンティーアは透き通るように美しい海なので
透き通るような海という意味合いで
透き通る青と言ったけれど
議長にそのニュアンスが絶対に伝わってないとは思う。)
「なんだかナゾナゾとか禅問答に
近い注文をしてしまったな。」と
無責任な注文をした事を周三は今になって反省した。
しかし周三に全く後悔はない。
鎧がどういう色に塗られてくるかむしろ楽しみなのだ。
周三は石畳の道をのんびりと歩きながら
蒼い空と潮風を心地よく感じていた。
周三はロアンの自宅に到着すると
ロアン宅の1階から何か作業をするような音がした。
周三は(ロアンさんは
家具の制作中なのかな。)と推測した。
(でも、1階は仕事場だから
家具の仕事とは無関係な俺は
2階から呼び鈴を
鳴らした方がいいのか? )と周三は迷った。
ロアン宅の1階正面の左側には
人間が出入りする勝手口と
搬入搬出用らしき大きな引き戸の出入り口があった。
搬入用の扉は閉じられている。
周三は(どっちでもいいか。)と開き直り、
1階の勝手口の呼び鈴を鳴らした。
扉の内側から聞こえていた作業の音が止まった。
しばらくして扉の向こうから足音が近づいてきた。
扉が開くと布を頭から顔に巻きつけたロアンが出てきた。
ロアンはエルフの特徴である先の尖った耳を隠すために
ターバンのような被り物をいつも被っていた。
周三をロアンは視認すると
手で顔の布を上へ寄せて素顔を晒すと
周三にロアンは笑顔を向けた。
「やぁ。シュウこんにちは。
よくきてくれましたね。」と
ロアンは周三に声をかけた。
「こんにちは。ロアンさん。
お仕事でお忙しいところすいません。」と
周三が申し訳なさそうに挨拶をする。
「気にしないで。
ちょうどお茶にしようと思っていたところです。
さぁ、どうぞ中に入って。」とロアンに促された。
周三は1階の勝手口から
ロアン宅の中に入ると
入ってすぐの所には
図面を引くための机と
接客用のソファーとテーブルが置いてあった。
1階は部屋を仕切りが無い広いフロアになっており
壁際には大きな木材が沢山置かれていた。
仕事用の棚には色々な工具が整然と並べられており
フロアの中央付近に作業用の大きな台が設置されていた。
周三の前をロアンは歩きながら
「では、2階のリビングに行きましょう。」と
言って、フロアの右端に設置された階段を上がる。
周三は「はい。」とロアンに返事をした。
ロアンの後をついて周三は階段を上った。
ロアンに促されて
周三は2階にあるリビングのテーブルの椅子に座った。
「わーい! シュウ。」とフェアリーのララーが
羽をばたつかせて飛んでくると周三の肩に座った。
ロアンはキッチンに入った。
レンガで組まれた大きな台。
その上の囲炉裏に
薪をくべて薪の下側に燃えた紙を置いて火をつけた。
燃えている薪の上に設置されたハンガーに
ヤカンをつるしてお湯を沸かした。
次にロアンは棚からいくつかの缶を
取り出すと大きな皿の上に
それぞれの缶の中に
入っているドライフルーツや
チョコレートやビスケットを盛り付けていく。
ロアンはその大きな皿を
リビングのテーブルに置くと
紙袋に入った紅茶の葉を用意して
紅茶用ポットを棚から出した。
紅茶葉をポットにセットして
ヤカンから湯を注ぐと
食器棚からティーカップを2客用意した。
丁寧に両手で持ったティーカップを
リビングのテーブルに置いた。
紅茶ポットから
紅茶をティーカップに注いで
周三と自分の前に置くとテーブルについた。
紅茶の香ばしい香りが辺りに広がった。
ララーは熱い飲み物は苦手らしく
ララーの前にはオレンジジュースが
入った極小なサイズのコップが置かれた。
「これはほんの気持ちです。」と
周三はお菓子の入った紙包をロアンに差し出す。
「それはどうもありがとうございます。」と
ロアンは周三に礼を言って丁寧に両手で受け取った。
「さぁ、どうぞ召し上がってください。」
そう言ってロアンは紅茶を勧めた。
「はい。いただきます。」
周三は紅茶に口をつけて一息ついた。
「今朝も稽古場に向かわれたのですか?」と
ロアンがさりげない様子で周三に問いかけた。
「はい。
なんとかディアナから
勝利をもぎとってやりました。」と周三が笑顔で応えた。
ロアンは目を丸めて驚きの表情を見せたあとに
「それはすごい!シュウおめでとう!」と
ロアンは痛快そうな笑顔を見せた。
ロアンは椅子から腰を上げて
周三にロアンは右手を差し伸べた。
周三も椅子から腰を上げた。
ロアンに右手を伸ばして周三は握手すると
「ロアンさんのおかげです。
ありがとうございます。」と礼を述べた。
「勝って俺の剣の実力が認められれば
修練場にはたまに顔を出す程度でよくなると
思っていたのに
何故か毎日、修練場に
通わないといけなくなりました。
くそ! またディアナの術中にはめられた。」と
周三は悔しそうにしながらロアンに周三は愚痴を吐いた。
「そうなんですか。」とロアンは気の毒そうに言った。
「そうなんです。
なんでこうなった?と悩んじゃいましたよ。
きっと、ディアナは
かなりの策士なのかもしれません。」と
周三は自分が墓穴を掘っただけである事に
薄々気付きながらも
その現実を決して認めない事で
自分の心が折れる事を防いでいた。
「しかし、ディアナ姫に勝てたという事は
剣術が短時間で上達ができたのでしょう。
でしたら修練場に毎日通えば
すごく強くなれるのではないですか。」と
周三に微笑んでロアンが言った。
周三は眉間にしわを寄せて
紅茶にミルクと砂糖を足して混ぜながら
「いえ、俺は本当は剣術よりも
魔法で強くなりたいんです。
ディアナに勝てたのはロアンさんが
魔眼を召還してくれて契約させてくれたおかげです。
俺に魔眼のチカラがなければディアナの
あの不思議なほどに異常な強さの秘密を
解読する事はできなかったでしょう。」と言った。
「すると、ディアナ姫の強さの秘密は
わかったのですか? 」と
周三にロアンは問いかけた。
その問いかけに周三は深く頷くと
「ええ、魔眼でディアナを見ると
体内から湧き出ているエネルギーの
ようなものが見えました。
そのエネルギーを自在に操って
攻撃を探知するフィールドを
体の周りに展開させて防御に利用したり
関節の動きを強化して
身体能力を底上げしたりしていました。
俺はディアナってもしかしたら
人間では無い別の生物なんじゃないか?って
疑っていたんですが
実は俺にも
そのエネルギーがあるのが
魔眼で確認できたので
ディアナは人間なんだと思いなおしました。
このエネルギーの正体が魔眼のチカラによって
頭の中では解読できてるのですが
うまく言葉で表現する単語が
思いつかないんですよね。」と首をかしげた。
「おそらくそのエネルギーというは
マナだとおもいます。」とロアンが言った。
その言葉を聞いて周三は目を見開いた。
「ロアンさんはエネルギーの正体を
知ってるのですか?
そのマナってどういうものなんですか?」と
ロアンに周三は訊いた。
「マナは第三大陸の生物や物質に
宿る不思議なチカラの総称なのですが
他の大陸では第五大陸にしかマナは存在しません。
第三大陸の魔術師はマナを使って
魔法を使うそうです。
第三大陸の人間が
第二大陸の魔法の動力源である魔力によって
魔法を使用すると魔素毒によって
術者の心や体が
バランスを崩するらしく
それでも無理して魔力を使い続けると
いずれ術者の身体が崩壊すると
聞いたことがあります。
ですから第三大陸では魔力の結晶体である魔石は
魔導機械のエネルギーとしては使用しますが
魔術師が普段使う魔術では
魔石を用いることはないそうですよ。」と
周三にロアンは説明した。
「なるほど。という事は
ディアナは魔術師だったんですね。」と
周三はチョコレートをつまんで
口に入れて納得した顔をした。
「魔術師ですか。
それは間違っていない表現ですね。
魔術師は呪文や魔法陣で
マナに命令を与えるわけですが
ディアナ姫の剣術は呼吸や型や動作などに
何かしらのマナへの命令が
隠されているのかもしれません。
マナを使う武術は確かに存在します。
ディアナ姫がマナから
かなり緻密で高度なチカラを
引き出しているのなら、
きっと雑念や
動作の乱れがほとんど無いのでしょう。
だからマナが強く正確に
発動するのだとおもいます。」と
周三の言葉に対してロアンは自論を唱えた。
「確かに魔眼でディアナを見た時に
マナは変化して作用してました。
でも、俺が真似するのはかなり難しいです。
俺って雑念が多いというか雑念しかないですし
ディアナみたいに緻密で
正確な動作なんてきっとできないです。
積み重ねたものが無いですからね。」と
周三は諦め顔をして
肘を曲げると
両掌を上に向けお手上げのポーズをした。
ロアンは周三のその仕草を
見てクスっと笑ってから
「そんな事はありませんよ。
きっとシュウはディアナ姫の使った技術を
短期間で習得すると思いますよ。
シュウは勇者としての才能だけではなく
目標に向かって効率的に
努力や工夫をする才能もあると
わたしはおもいます。」と周三を励ました。
「まぁたしかに俺は邪魔くさがりなんで
努力しない為の努力は惜しみませんからね。」と
周三は自慢げに言った。
「ははは。努力しない努力ですか。
それは気の利いた表現ですね。」と
ロアンは声に出して笑った。
「俺の言い回しをロアンさんが
気に入ってくれたのなら
それはそれでうれしいです。
その努力しない為の努力で
一生懸命に練りに練った作戦で
ディアナに勝てたんです。
単調でどうでもいい世間話を繰り返す事で
ディアナの油断を誘っておいて
最後の最後でディアナが集中を乱すだろうと
思う言葉を吐いたらバッチリハマったのが
最大の勝因です。」と
自慢しても他人には
まったく尊敬されないであろう事実を周三は自慢した。
意外にもその周三の言葉に
ロアンは感心した反応を見せていた。
「シュウ、それはとてもすごい事です。
剣術の名人としてディアナ姫は
第三大陸では、とても有名人です。
剣術は遊びではありません。
実戦で実際に使う事を
目的に剣術の練習を積んでいます。
ですから剣の名人であるディアナ姫が
練習と言えども練習中に
気を抜くというのは想像しにくい。
ですのでシュウが意図的に
油断させる事が出来たとすれば
ディアナ姫はそれだけシュウに
心を許していたのでしょう。」と
周三の言葉をロアンは分析して述べた。
「ディアナとは歳が近いから
かなり仲がいいんですよ。」と
ロアンに周三は笑いながら言った。
ロアンの分析を聞いて
周三は何とも言えない罪悪感を感じた。
ディアナの無垢な心を
傷つけてしまったのではないか。
ディアナの周三への信頼を
踏みにじったのではないか。
そんな事が周三の頭をよぎったが
それについて深く考えたら
自分が嫌いになりそうな予感がしたので
すぐに考えない事にした。
「ところで先ほどから
気になっていたのですが
腰に挿している剣はどうなさったのですか?」と
ロアンは突然に剣に話題を振ってきた。
周三は腰の剣を
ベルトから抜き取ってテーブルの中央に置いた。
「この剣は下宿させてもらってるカノレル雑貨店の
店主ハウルさんにディアナに勝ったお祝いにと
先ほど頂いたものなんです。
とても高そうな剣で気がひけましたよ。」と
周三は答えた。
ロアンは剣を凝視すると
「そうですか。
カノレル家がこの剣を所有していたのですね。
この剣はとても素晴らしい一品なのですよ。」と言った。
それを聞いて周三は驚いた様子で
「ロアンさんはこの剣を知ってるんですか?
この剣はそんなに有名な剣なんですか。」と言った。
「ええ。
第三大陸ではこの剣は知られていないでしょうが
この剣は第五大陸ではかなり有名な剣です。
第五大陸で高名な鍛冶職人『アストログ』が
鍛えた剣で剣の名前は『白羊』と言います。
その剣の鞘の端など所々に渦巻きの紋様があるでしょ。
それが羊の角に似ている事と
全体の色が白銀な事から
そう呼ばれるようになったそうです。」と
ロアンが説明した。
「へぇ~。そうなんですね。
ハウルさんはそんなにすごい剣を
俺にくれたのですか。」と
周三は少し申し訳なさそうに言った。
「本当によかったですね。
その剣は第五大陸の
希少な合金『オリハルコン』が使われていて
その剣は鉄や岩石でも両断するキレ味を持っています。」
「マジっすか!?
鉄が切れるってそれはすごいですね!」
「ええ、しかもその剣には逸話がありまして
昔、エルフの国の王子がその剣を川辺の岩の上に置いて
川で水浴びをしていると
たまたまそのあたりにいたフェアリーが
その剣の美しさに惹かれ剣に恋をしたそうです。」
「フェアリーって剣に恋するんですか!? 」
「はい。
でも恋愛の恋とは違うかもしれません。
美しいものに惹かれるという意味での恋ですね。
それからはフェアリーはエルフの王子が住む城に
毎夜、こっそりと剣に会いにくるようになったそうです。」
「なんだか一途ですねぇ。」
「ある日の夜、フェアリーが
剣に会いにエルフの城に行くと
王子の部屋に置いてあった剣が無くなっていました。
剣は王子の手から他人の手に渡ってしまっていて
城にはもう剣はなかったからです。」
「あらまぁ。それはかわいそうですね。」
「ええ、フェアリーはそれからも
毎夜、城に現れては
剣を必死で探しまわりましたが
当然、見つかりませんでした。」
「剣が誰のものになったかを
フェアリーは王子に聞かなかったんですね。」
「たしかにフェアリーが
エルフの王子に直接聞いていれば
早くみつけられたでしょうね。
しかし、エルフの城に
勝手に忍び込んで王子の部屋を
訪れていた事実がバレると
罪に問われる恐れもあるでしょうから
さすがに直接は訊きにくいでしょうね。
その翌年のエルフの祭典の折に
エルフの貴族たちが
城に集まりました。
城に向かう、とあるエルフの貴族が
その剣を腰につけているのを
フェアリーが見つけました。」
「みつかってよかったですね。」
「はい。
それを見かけたフェアリーはその日の夜に
こっそりと、その貴族の部屋に忍び込むと
その剣と2度と離れないように
存在をひとつにする儀式をしたそうです。」
「結婚式みたいなものですか? 」
「まぁ近いですがちょっと違いますね。
剣とフェアリーという2つの存在が
ひとつの存在になったわけです。
ですから、周三が所有するその剣は
フェアリーでもあるのです。」と
ロアンが説明した。
「え!?
この剣にはフェアリーが
入ってるんですか!? 」と周三は驚いた。
その話を聞いていたララーが
「この中にあたしの仲間がいるの?」と
ララーは指先で周三の剣をつっついた。
ロアンは頷くと
「はい。その剣にはフェアリーが宿っています。
その日からその剣に
特殊な効果が発現したそうです。」と言った。
周三はそれを聞いて「特殊効果ですか?
剣を振ったら風の刃とか出るとかですかね? 」と
ロアンに尋ねた。
「いえ、その剣は生命が宿っているので
自己修復するのです。」
「自己修復って事は刃こぼれしても
自然になおるって事ですか? 」
「そういうことです。
手入れをしなくても
いつもベストな状態が保たれているということですね。」
「うわぁ。
なんて俺にぴったりな剣なのでしょうか!」と
剣の手入れが邪魔臭い周三は純粋に喜んだ。
「その剣はわたしが周三に
教えた第五大陸のエルフの剣術で
使用する為に設計されて作られた剣ですので
わたしがお教えした剣術をお使いなられるなら
その剣はすごく使いやすいはずですよ。」と
ロアンは言った。
「なるほど。ハウルさんはもしかしたら
俺の剣術の流派に気付いてこの剣をくれたのかな。」と
周三は感動した様子でテーブルの上に置いた剣を見つめた。
「とても良い剣ですので大事にしてあげてください。
あとその剣には秘められたチカラがあるそうですよ。
フェアリーが眠っているその剣には敵を眠らせる魔法属性が
発動するといいます。
そのチカラの発動方法は伝承されていませんので
シュウが実際に使っていたら
いずれは、わかるかもしれないですね。」
「そうなんですか!
敵を眠らせる事が出来たら
敵を殺さずに済みますね。」と周三と言った。
ロアンは笑顔で頷いてから
「そうですね。
しかし、敵を眠らせて殺せば
最高の暗殺剣にもなります。
要は所有者の使い方次第ですね。」と付け加えた。
「俺は昼に寝すぎて
夜に眠れなくなって
次の日の昼に眠気に襲われる事
が多々あるんですが
そんなときに睡眠薬として使えば健康維持に使えると
いま思いました。」と言って周三は目を輝かせた。
「あははは。それは名案です。」と
ロアンは手を叩いて言った。
「ロアンさん、色々と教えていただいて
ありがとうございました。
すごく勉強になりました。
お忙しいのにお仕事のお邪魔をして
すみませんでした。」
「いえいえ、丁度、お茶の時間でしたので
お気になさらないでください。」
「では、俺はそろそろお暇させてもらいます。」
「そうですか。
では、またいつでも遊びにいらしてくださいね。」
「はい。また来させていただきます。」と
周三は返事を返して
剣を腰に納めて席を立って玄関に向かった。
「シュウまたきてね。」とララーが言った。
「ララーもまたね。
では、ロアンさんさようなら。」
「お気をつけてお帰りください。」
ロアンとララーは玄関先から手を振りながら
周三が帰る姿を見送った。
こんばんは。




