転校生
少年と会った次の日の朝。
昨日の白髪の男子はなんだったんだろう?
周三は昨日会った少年の事を
朝食の食パンを食べながら考えていた。
昨日、そのまま家に帰った周三は
少年に言われた「勇者のチカラ」というものについて悩んだ。
少年の言葉を疑いながらも
空中に浮いた事実は自分の目で見た真実。
白髪の少年からはチカラの説明が無かったので
自分の部屋の鏡の前でテレビゲームなどで
よく使われてるような定番の呪文を
唱えてみたり、ヒーローの変身の掛け声でポーズを決めてみたり
気合をこめて必殺技を叫んで
手から何かを発射するポーズをしてみた。
中学二年生がよく陥る現実と空想の区別が
ついていないような行動を取ってしまったっていた。
最初は勇者のチカラを確かめるためだったが
鏡の前でポーズを決めていたら
周三は次第にテンションがあがってしまったのだ。
しかし、手から特にはビームも気のパワーも放出はできない。
(やっぱりあの少年は中二病をこじらせてるのかな?)
たしかに白髪の少年は空中には浮いていたが
一夜明けてみたら
何だか狐につままれた気分になった。
白髪の少年が宙に浮く現象も
自分の記憶の間違いとか
錯覚とかではなかったかと
周三は自分の記憶を疑った。
しかし、少年は中二病だったと思えば
結論付けてみれば
なんとなく自分の悩みも解消していく。
白髪の少年に対しても
周三は特には不快な気持ちもなくなった。
愉快な人間だったんだな。と逆に好感が持てた。
そういう結論で納得しようと周三は思った。
周三は一戸建ての自宅に小学校三年生の妹と母との三人暮らし。
父は単身赴任だが週末には必ず帰ってくる。
台所のテーブルで妹の夕美と向かいあって朝食を摂っていた。
「昨日、シュウちゃんの部屋から変な声とかさぁ。
床の大きな音とかすごく聞こえたんだけど。」
夕美は純粋な目を周三に向けてそう言った。
「ゲームで熱くなって声に出てたんやな。
気合いを入れてボタンを連打すると体も揺れてしまうやろ。」
「ふ~ん。」
「ゲームばかりして目が悪くならないかお母さん心配。」
母の美咲は台所から周三に声をかける。
「大丈夫。両目の視力は1.5だから。
まだまだ余力はあるぞ。」
「余力って何?1.0になったら控えるみたいなこと?」
「まぁそんなとこ。」
妹がジト目で兄と母の会話を聴いていた。
「ゲームばっかりしてシュウちゃんオタクなの?」
妹が周三の心を動揺させる発言をしてくる。
「中学生がゲームしたって普通だろ。
むしろ今しかできないやろ。
今やれる事を全力でやるだけさ。」
「あ。京子ちゃんが来た!」
妹の夕美は玄関の物音に気付く。
どうやら夕美の友達がお迎えに来たようだ。
夕美は椅子から勢いよく立ち上がりランドセルを背負った。
夕美は周三に向かって
「シュウちゃん、京子ちゃんが迎えに来たから先行くね!
オタクな事はほどほどにして勉強を頑張らなきゃ駄目だよ!」
そう言って元気よく玄関に向かった。
「俺をオタクと決めつけんなよ!
いってらっしゃい。
気をつけて学校に行くんだぞ。」
その後すぐに
夕美の友達の京子が鳴らしたとおぼしき呼び鈴が鳴った。
毎朝の事なので呼び鈴が鳴る前に夕実は気付いている。
美咲は台所のシンクの前で洗い物をしている。
美咲は専業主婦でおっとりした性格。
子供の教育方針は放任主義と言っていい。
なのに、子育てや家事はしっかりとしてるので
誰からも悪くは言われない。
周三の父の道也は美咲が外で働きたいと
言っても断固として反対している。
「美咲が外で働いたら他の男と喋るやろ。それが嫌やねん」と
周三が幼い頃に道也がアツく語ってたのを周三は憶えている。
そのせいなのか父は仕事を人一倍頑張っているようで
その努力が実って本社勤務で偉いポストについているらしい。
だから、道也はこの不景気なご時勢でも
美咲は専業主婦でいても何も問題が無い稼ぎがある。
箱入り娘というのは聞いた事があるが箱入り嫁だな。と
周三は道也の美咲への一途な愛に
最近は男として尊敬すらしている。
朝食を済ませた周三は「母さんごちそうさま」と一声かけて
学校に行くために家を出た。
周三は母からあまり叱られないせいか反抗期がまだ来ない。
来ないまま大人になりそうだなと周三は確信を持っている。
学校へ登校すると
坂井奈津美が「シュウおっはよん。」と
周三の肩を軽く叩いて挨拶してきた。
続いて小学校からの友人の首藤秀樹が
眠そうにあくびしながら周三の机に腰をかけた。
「2次元嫁たちの相手が忙しくて寝不足やねん。」と
首藤は誰も訊いてもいない事を周三に報告してきた。
同じく小学校からの友人の真柄幸雄が
周三たちの席に近づいてきて
「みんなおっは。ヒデ、お前もう中学生やねんから
2次元からもう1次元増やしたらどやねん。」
首藤に皮肉を言った。
最近は坂井の友人の藤宮という髪の長いおとなしい女子が
坂井の横にさりげなくいる。
少し存在感は薄く目立たないが容姿が非常に整っている。
「周三くんおはよ。」と藤宮は挨拶した。
(いつから俺のことを
下の名前で呼ぶようになったのだろう?)とふと思った。
しかし、友達と思ってくれてるのなら嬉しいと思う。
チャイムが鳴った。
男性の担任教師が教室に入り教壇にあがる。
「おはようみんな。みんなにはいきなりだけどな。
今日は転校生を紹介する。」と言うとクラスはどよめいた。
「女子?」「男子?」と生徒達からは
期待でそわそわする声が漏れていた。
担任教師が軽く机を叩いた
。
「転校生は男子だ。男子にはガッカリだったか。」
担任教師は意地悪な笑みを男子たちに向けた。
担任教師は視線を教室の入口のドアへと向ける。
「さぁ入ってきて。」と教諭がドアの方向に言った。
すると静かに教室のドアが開く。
小柄で中性的な端正な顔立ちの少年が教室に入ってきた。
その少年の姿をボーっと見ていた周三であったが
(え!?昨日の白髪少年やん!!!)と周三は気づいた。
転校生の少年は黒髪であった。
周三は少年を見ながら
(昨日の彼はウィッグでもつけてたのかな?
羽も生えてたしコスプレイヤーなのか?だとしたら
オタクレベルがすげぇ高いよなぁ。
宙に浮いてたのを確かに見た気がするんやけれど
折を見て改めて詳しい話を訊いてみればいいか。)
周三はそう考えた。
「みんなに自己紹介してくれ。」
担任教師は少年に促した。
「はじめまして。
今日からこのクラスに
転校する事になった羽生優斗といいます。
この前までは京都に住んでいました。
これから皆さんどうぞよろしくおねがいします。」
少年はクラスの皆に丁寧に自己紹介した。
生徒達から大きな拍手が起こった。
透明感のある儚げな容姿の転校生に
クラスの女子のテンションが上がってるのが
周三にはなんとなく伝わってくる。
「席は、田中の隣が空いてるのでそこにしよか。
あれ?田中の隣の席って何で空いてるんや?
席って空いていたか?」
生徒たちも首を傾げた。
田中周三の隣の席が空席であった記憶が誰にも無い。
周三も隣の席が空いている事に違和感を覚えた。
隣の席は前田恵子だったような記憶が
あるのだが周三の記憶が曖昧になっていた。
前田は周三の隣の空席のすぐ後ろの席になっている。
前田もどうやら違和感に気付いた様子だった。
「わたしの隣って御子柴くんやったっけ?」
前田は御子柴に訊ねている。
生徒達が空席についてザワメキ始めた。
「もうええ。沈まれ!
どこに席が空いててもええやないか。
田中の隣の席に羽生は座ってくれ。」
担任教師の指示に羽生は頷くと
指示された席に向かって羽生は歩きだした。
羽生は田中とは目を合わせようとはせずに
田中の隣の席に黙って座る。
周三は横目でチラチラと羽生に視線を送ったが
羽生は一度も周三を方を見ることはなかった。
読んでもらえたらうれしいです。




