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選ばれた勇者らしい。  作者: Cookie
18/118

勝負

 前回のあらすじ 


帝国の監督府の裏にある剣術修練場に


剣術の稽古に来た周三は


ディアナとハヤトールとの


試合形式の練習を魔眼で観察した。


周三はディアナの剣術を分析できた事で


周三は打倒ディアナに


なにか手応えのような物を感じたのだった。






 修練場の壁に横並びに置いてある椅子に


周三とディアナは並んで座っている。


横で何か考え事をしている周三を


ディアナは見つめた。


「シュウ、そろそろ剣の稽古をしましょう。


わたしが剣術の初歩から教えますから。」


周三にディアナは稽古を促した。



 「あ。うん。


でももうちょっとだけ待って。」


頭の中で、考えがまとまった周三は


椅子から腰をあげて立ち上がる。


ディアナに向かって周三は


「ウォーミングアップのために


ちょっと外に出て、


修練場の周りをグルッと走ってくる。


怪我しないように運動してから


稽古したいねん。」と言った。



 ディアナは納得した表情をした。


「そうですか。


でしたら、わたしもお付き合いしましょう。」



 ディアナの言葉に周三は慌てて


「いや、ディアナの気持ちはうれしいけれど


さっきのディアナの試合を


頭の中でイメージをしながら走るから


できればひとりで走りたい。」と


ディアナの申し出を周三は断った。



 「なるほど。


準備運動をすることは良い事だと思います。


シュウの体が温まったら稽古を始めましょう。」


ディアナは納得したようだが


どこか寂しげな様子が伺えた。






 修練場から、外に出た周三は


修練場の周囲をゆっくり走りながら


体の使い方をイメージしていく。


「なんで俺は


こんな体育会系の


部活動みたいなことをしているんだ?


俺は根っからの帰宅部やぞ!」と周三は


なんにも誇らしくない事を自慢げにつぶやいた。



 しばらく走ってから周三は


修練場の裏手で立ち止まる。


「はぁ~、すぅ~、はぁ~、すぅ~、はぁ~。」と


周三は大きく深呼吸をしはじめた。


周三は大きな深呼吸を何度か繰り返した後に


「ふむ。ふむ。そうや!


ディアナやハヤトールさんが


使っていた体内エネルギーって


俺の中にもあるのかな?


こっちの世界の人間にしか無い力やったら


俺には使えない力ってことになる。」と


周三は初歩的な疑問に立ち返った。


魔眼を開いて自分自身の体を周三は見渡してみた。


「お。あるわ。


俺にもなんとかディアナの使ってた力がある。」


ホワホワとした光が自分の体の中で


薄っすらだが光っているのを周三は確認できた。


「今はとりあえずハヤトールさんの使ってた呼吸法を


ちゃんと練習して自分のものにするのと


ハヤトールさんの振り下ろしの動作を


剣を持ったつもりで素振りをして体に憶えさせよう。」


周三はロアンさんから


もらった木材を外に持ってきていない。


修練場の備品である木剣も周三は持ってきていない。


その理由はディアナに極力怪しまれないためである。


少しでもディアナに警戒されると


周三の微々たる勝利の可能性が


限りなく(ゼロ)になってしまうことを周三は恐れた。


今朝、ハウルに間合いの取り方の練習に


付き合ってもらった事で


周三はなんとなくだが


間合いのコツを得たような気がしている。


その感覚を意識しながら


右手に剣をもったつもりで素振りをした。


周三はこの世界に来てから


もっとも真剣に物事に


取り組んでいる気がしていた。



 呼吸を意識しながら素振りするうちに


周三はハヤトールが使っていた呼吸法も


ハヤトールが


多用していた剣の振り下ろしの動作も


付け焼刃だが


なんとか最低基準をクリアしたと判断した。




 修練場に周三は戻った。



ディアナは先ほど座っていた椅子にそのまま座っている。


ディアナは自分の髪をほどいて


アップスタイルにまとめなおしている途中だった。



 ディアナのそんな姿を見て周三は


(剣術なんかやめて女の子らしくしていたら


ディアナをお嫁さんに欲しいって


みんなが言いそうやのになぁ。


ディアナは剣術をしている事で


女性としては損してるんちゃうやろか。)と思った。



 外から帰ってきた周三をディアナは見た。


ディアナは急いで髪をまとめ終えて


ご主人様をまるで部屋で


待っていた子犬のごとく、


ディアナは嬉しそうに周三に小走りで近づいた。


「シュウ戻ったのですね。


では稽古をはじめましょう。」と


周三にディアナは言った。



 「ん。うん。はじめよか。」と


ディアナに周三は返事をした。


修練場の壁に立てかけておいた木材を


周三は手に取った。



 「変わった得物を使うのですね。」


周三の木材を見てディアナがそう言った。



周三は「うん。


これが使いやすいねん。」とだけ答えた。


周三はディアナの横に立つと


「昨日、ディアナに


教えてもらった上段からの打ち込みを


練習したいんやけどいい?」とディアナに提案した。



 ディアナは「ええ、いいでしょう。」と頷く。


まずは上段からの打ち込みの練習をしましょう。


シュウは、まずは、剣を振り下ろす素振りから


始めたらどうですか?」と言った。



 ディアナの提案に、


周三は不服そうな表情で首を横に振った。


「なんていうか、感覚的なものを鍛えたいから


俺の剣撃をディアナは剣で受けてみてよ。


その方が気合いが入るからさ。」と周三は提案した。



 周三の言葉をディアナは素直に受け取った。


「シュウのやる気があがるならば良い事です。


わたしが剣でシュウの剣を受けましょう。」と応えた。



 周三はロアンからもらった木材を両手で握る。


「さぁ、やるか。」と言って、


木材を上段に構えると、木材を振り上げて


真っ直ぐディアナに振り下ろした。



 周三の振り下ろしに反応して


ディアナは中段の構えから


自分の木剣を少し斜めにして


周三のいう方向へ半歩踏み込む。


周三の木材をディアナは


自分の木剣の刃の部分で上に弾いた。



 ディアナの木剣に


木材を弾かれた周三は後ろに体勢を崩す。


しかし、周三はその反動を利用して


速やかにまた上段の構えに戻した。


(この練習は楽でいいぞ。)と周三は思った。


(稽古の初日にこんなぬるい練習を


ディアナに提案されていたら


俺はこんなにも悩まずに済んでいたのになぁ。)と


周三はなんだか気が抜けてしまった。


周三は張り詰めた気持ちがゆるんでしまって


もうディアナを打倒しなくてもいいかなと思い始めた。


振り下ろしの練習を2人で反復してると


学校の休み時間の生徒たちの


キャッチボールのような雰囲気になってきた。


同じリズムの繰り返しなので会話がしやすいのだ。


「ディアナって午前は稽古してるけれど


午後は何してんの? 」



 「午後は監督府の仕事をしています。


書類の作成や整理などする事務作業が多いですが


その他にも来賓と謁見して


会談をすることもあります。


重要な会議などは大抵は午後からおこなっています。


こう見えても、わたしは結構忙しいのですよ。」と


周三にディアナは飾らない笑顔で答えた。



 「そうなんやぁ。


そんなに忙しいなら、休みとかないの?」



 「あります。日曜日は休みです。


わたしは特にはやることが思いつかずに


時間を持て余してしまうので


休日は、ここで剣術の稽古ばかりしていますね。」



 「へぇ。


街に買い物とかにで出かけたりせぇへんの? 」



 「あまりしません。


街には公務以外では滅多に出ませんね。」



 「ふ~ん。街では遊んばへんのか?」



 「ええ。遊びで街に行くことはないですね。」



 「今度、一緒にどっか行く?」



 「え・・・それはどこかにわたくしを


エスコートしてくださるのですか?」



 「まぁ、お茶くらいならいつでも行けるよ。」



 「はい。それならぜひご一緒したいです。」



 「えっとね、話は変わるんやけど


なにげにちょっと気付いたんやけどさぁ。」



 「はい。 何に気付いたのでしょうか。」



 「訊いていいかはわからんのやけど


ここにいる人たちってみんな偉い人なん?」



 「シュウ、よく気付きましたね。


ここにいる面々は帝国軍の士官です。」



 「やっぱりそうなんやね。


リューくんは将軍って聞いていたし


ハヤトールさんも王太子やんか。


ここはそういう人が集まってるんかなって思ってん。」



 「そうです。


フェンティーア都市国家は帝国にとっても


とても重要な役割を果たしている国家です。


帝国軍の有力な士官は必ず一度は


フェンティーア監督府に赴任するのが帝国軍の通例です。」



 「そうなんやぁ。


でもさ、フェンティーアって軍隊は持ってるん? 」



 「いいえ、フェンティーア都市国家には


軍隊と呼べるものはありません。


しかし、フェンティーアは


あくまでも帝国が支配する第三大陸の中の


独立自治国家の一つですので


フェンティーアの安全保障も


帝国が責任を持っておこなっています。


ですが、フェンティーアは


他の大陸とは同盟を結んでいますので


攻め込まれる心配はほぼありませんね。


ですのであくまでも形式的なものと


言えるかもしれません。」



 「なるほどね。


あのね、ちょっと提案があんねんけどいい?」



 「ええ、なんでしょうか。」



 「もしも。もしもやで。


万が一にでも俺がディアナの隙を見つけて


俺が持っている、この丸い木の棒を


ディアナの体のどこかに触れさせる事が


出来たら俺の勝ち。というような勝負を


したいなぁって思ってるんやけどどう? 」



 「ははは。勝負ですか。


わたしは構いませんが


シュウには失礼と思われるかもしれませんが


今のシュウではわたしに勝つのは


不可能だと思います。」



 「言われんでも、そんなんわかってる。


あくまで万が一やんか。


目標があった方が上達するような気がするやん。」



 「わたしを目標にして頂ける事は光栄です。


目標を持つ事でシュウは剣の稽古に


張り合いが持てるならば


わたしは大歓迎です。」とディアナは言った。



 ディアナの返事を聞いた瞬間に


周三は左目の魔眼を発動させた。


周三の中ではディアナ打倒は


実は、もうどうでもよくなっていたが


ディアナ打倒の為に


折角色々考えて努力したのに


試さないというのは惜しい気がしていた。


たとえ失敗してもいいので


自分が苦労して立案した作戦を


試してみたくなっていたのだ。


ディアナを周三は魔眼で見ると


ディアナの体の周囲には


ディアナを中心にして半球状に光が放出されている。


ディアナに敵の攻撃を察知させるこの光のセンサーを


どうにか消すことが出来るかが勝敗の鍵になる。


周三が魔眼で見た分析では


ディアナの集中を乱す事が


センサーを消すことに有効なように思えた。


魔眼の情報は勝手に頭に入ってくるので


その情報を周三は勘と感覚と経験で処理している。


ディアナのセンサーを消す事に


もし成功できれば


(その時は周三は予想を超える動きと


すばやい攻撃で一本取ってやる。)


周三は、そう考えていた。


(ディアナに一瞬でも考えさせる余裕を与えたら


俺の負けが確定する。)と思って周三は気を引き締める。


(ディアナの不意をついて攻撃動作が出来るとしても


通用するのは1回が限度やろう。


さて、ディアナに対して同じリズムで


同じ振り下ろしを繰り返したこの練習が


前フリとして利いてきているはず。


さっきから世間話をダラダラとした事で


無意識にディアナに油断が生じていると思う。


俺がさりげなく宣戦布告をしたのにも関わらず


俺の実力をなめきって本気にしていないのも好都合。


これは絶好のチャンスや! )


ディアナに対して周三は臨戦態勢に入った。


会話のリズムを乱さず、一定のリズムで会話を続けた。


「それでな、


こないだ気付いた事があんねんけどな。」



 「まだ何か気付いた事があったのですか? 」


「こないださぁ。


ディアナが時計をくれたやん。」



「はい。


大切にして頂けるとうれしいです。」



 「時計の蓋の裏に、


『我、勇者の剣となりて


この身の全てを勇者に捧ぐ』って


書いてあってん。」とディアナに周三は言った。



 ディアナの体を包む光のバリアが


パァンッ! と弾けて消し飛んだ。


「そ・・・それは。


いや、ええ、勘違いなさらないでください!


もしかして、シュウは文章の意味を誤解して


受けとってるのではありませんか!


あくまでもそれはですね・・・」


あたふたとした様子で


ディアナが完全に動揺していた。



 ディアナに周三は笑顔を向けたままで


自然な空気を装いつつ


同じリズムを保ったままで


大きく息を吸って木材を振り上げた。


ハヤトールが使っていた体内エネルギーを


爆発させる呼吸法を周三は発動させた。


その刹那せつな、周三の腹の中で


何かが爆発して全身に広がる感覚を感じた。


爆発的に上昇した身体能力で


関節の動きにチカラを乗せながらも


あくまでも同じリズムを保って


ディアナに気取られぬように周三は動いた。


木材を振り下ろした瞬間に


周三は一気に木材を加速させた。



 周三の加速をつけた振り下ろしは


ディアナには予測以上の伸びを感じた。


(っぅく・・対処が間に合わない!)


ディアナはうろたえた。



 周三の発言に動揺した直後のディアナには


周三の振り下ろしが


急激に加速してきたことに対して対応が遅れた。


周三から振り下ろされた木材に対して


ディアナが木剣の刃を合わして弾こうとしたが


木剣の刃が周三の木材に触れた瞬間に


カアァァァァァン!!! と大きな音が鳴った。


振り下ろされた木材の威力が大きすぎて


木材をディアナは木剣で弾くことができなかった。


そのまま木剣で攻撃を受ける形になったディアナは


木剣のヒッティングポイントがわずかだがズレた。


そのため木剣にチカラが思うように伝わらない。



 周三が振り下ろした木材は


ディアナの予想をはるかに超える威力を内包していた。


ディアナは動揺し、油断もしきっていたので


頭の処理が追い付かず冷静さを失っていた。


攻撃への全ての対応が後手後手になってしまった。


しかし、ディアナはこの時は


まだ勝負とは認識しておらず


うっかりした程度の認識だっただろう。


ディアナの油断は継続していたのだ。


だから、ディアナは無理してでも


踏ん張る事はせずに


そのまま前のめりに体勢を崩した。


周三から本気の攻撃をされるなんて思っていない。


たとえ攻撃されたとしても


周三程度の技量ならば


どんな体勢でも対応できる自信が


過信という形になった。



 周三は木材を振り下ろした事で


沈んだ自分のひざの反動を利用して


両手を引いてから直線に木材を突きを出した。



 あまりにも滑らかで無駄の無い周三の動きに


対して、ディアナは心の底から驚愕した。



 周三の突きの攻撃は


剣術の素人とは


とても思えないほどに洗練されていた。


周三の突きはディアナの左のわき腹に


木材を掠らせながらすり抜けた。



 ディアナに後で、当たっていない。と


言い訳されないように


ディアナの脇腹に密着した木材を


周三は少しだけずらすと


ディアナのわき腹に軽く、トンッ と当てた。


ディアナのわき腹に木材が当たった事を


確認した周三は木材を離して床に落とす。


すばやくディアナの左上腕を


周三は右手で支えながら


周三は左腕でディアナをギュっと抱きしめた。


周三がディアナを抱きしめた理由は


ディアナが正気を取り戻した時に


激高して周三に本気の攻撃を加えてくる可能性を


危惧してのことであり


緻密に計算された周三の自己防衛策だった。


ほんの一瞬の出来事に修練場は静まり返った。



 しばらくしてディアナは


周三の体を両腕でギュっと抱きしめ返した。


「シュウ。こんな勝ち方をしてうれしいのですか?」と


周三の左肩に顔をうずめながら


ディアナは問いかけてきた。



 「えっと。


だってさぁ。俺は剣を始めて2日目やで。


ディアナに勝つなんて不可能って


ディアナも自分で言ってたやん。


俺はディアナに正々堂々と勝負するよって


直前に言うたんやから


卑怯みたいに言われるのは心外かな。」



 「そうですか。


わたしは負けたのですね。


そうですか。いいでしょう。


負けは素直に認めます。


油断があったのは事実です。


いまは自分自身に腹が立っています。


でもシュウ。


約束は守っていただけますよね。」と


意味のわからない事をディアナは言ってきた。



 「約束?

そんなんあったっけ?


街にお茶に行く約束?」と


周三はノンキな顔をしながらディアナにこたえる。



 「はい。


もちろんお茶はご一緒しますが


その約束とは別の約束です。


先日約束した通りに


明日から修練場には毎日いらしてください。」


周三の顔をディアナはチラッと見た。



 周三は驚いて「なんでや?! 」と叫んだ。



「ディアナに勝った俺は


今日でこの修練場を卒業するつもりやで! 」



 「いいえ、駄目ですよ。


約束を忘れたのですか?


わたしはシュウが剣に慣れるまでは


厳しくは指導しないと約束しました。


わたしを負かすほどに


シュウは剣術にはもう慣れたのでしょう。


ではこれからは厳しく指導させて頂きます! 」



「えーー!!!!!!マジでーーー?!!!!!」と


周三はディアナを抱きしめながら天を仰いだ。


ディアナを打倒した事は周三にとっては


墓穴を掘る結果になった。


その現実を受け入れる事に周三の心は拒否していた。



 「毎日、修練場で厳しい鍛錬をすれば


試合で正々堂々と


わたしに勝つ事ができるようになります。」と


ディアナは顔をあげると


周三をかなり強くディアナは抱きしめた。


ディアナは周三に笑顔を向けたが


目は全然笑ってはいなかった。

こんばんは。

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