家具職人ロアン
前回のあらすじ。
議事堂でフェンティーアの歴史を
議長から語られて
カンベインの鎧のレプリカを
プレゼントしてもらえる事になった。
鎧を配送してもらう事になった周三は
議事堂を出て帰宅する事にした。
帰り道に小腹が空いたので
運河沿いにある露店で
ジャガバターとミルクを購入した。
運河沿いのベンチに腰掛けて飲食しながら
運河や風景を眺めてまったりしていた。
「考えてみれば、
下宿代も払ってない俺にリアさんは
あんなに食事を作ってくれるなんて
雑貨店が繁盛してるから裕福なんだなとは
思ってたけれど
大富豪だとは感じなかったなぁ。
ハウルさんの家が
お金持ちなら、俺は気兼ねなく食事が出来るな。
それにしてもお金持ちならご高齢なんだから買い物とかは
お手伝いさんを雇えばいいと思うんだけどなぁ~。
そういうのはなにかが違うのかな。
下宿代を払おうと思ってたけれど
考えてみれば税金の多くを大富豪カノレル家が払ってると考えたら
俺の給料の大半はカノレル家が支払ってるって事になるんだから
それを下宿代で払うのは何かが矛盾してるような気もする。
よし! 今日の夜にでも下宿代については
リアさんに相談してみよう。
それにしてもこのジャガバターはうまいな。
ミルクは紙コップじゃなくガラスのコップで提供するんだね。
コップ代を払ったけど
コップを返したらコップ代を
返してくれるって露店の店員が言ってたなぁ。
そういう不合理なところがなんかいいなって思う。
ハウルさんもそういう不合理さを楽しんでいるのかな。」
周三が小声でぶつぶつと独り言を言っていると。
「お兄さんは独り言が好きだね。」
小さな声が聞こえた。
周三は気のせいかと思った。
横目でベンチの左の手すりを見ると
羽の生えた手のひらサイズの女の子が
正面を向いて三角座りしている。
髪の毛はブラウンで服は
オレンジ色のワンピースを着ていた。
周三は内心は
妖精らしき少女との出会いに
テンションが急激に盛り上がっていたが
平静を装って目線を正面の運河に戻した。
「俺は独り言が好きなわけではない。
話す相手が今はいないだけだ。」
さびしすぎる言い訳を少し大きめの声でつぶやいた。
そっと横目で手すりを見ると
小さな手のひらサイズのその女の子が
目を見開いて驚いた様子でこちらを見ている。
「お兄さんってあたしの事が見えるの?」
嬉しそうに言ってきたが
周三はあえて知らんぷりをした。
すると手のひらサイズの女の子が
周三の肩にまで飛んできて座ると周三の耳元に口を寄せた。
「あたしの事が見えるの?」ともう一度言ってきた。
周三は目線を下に向け自分の足元を見ながら
小声で「見えるよ。」とささやいた。
手のひらサイズの女の子が飛び上がって喜んだ。
「え!?お兄さんあたしが見えるってお兄さんって妖精なの?」
「俺って妖精みたいな所もあるな。
って、ふと、感じる時はある。しかしな。
俺はいたってノーマルなただのヒューマンさ。」
周三は妖精の少女の目を見ながら微笑みつつこたえた。
「お兄さんって妖精の国の出身じゃないの?」
周三は首を小さく横に振って否定を示した。
「もっとも~っとずっと遠い所からきてん。」
「そんなに遠い所からきたの。
お兄さんって旅をしてるの?」
手のひらサイズの少女は純真無垢な目で訊いてきた。
「そやな、俺は旅人なのかもしれん。」
「ふ~ん。お兄さんにあたしが見えるんだったら
あたしが話し相手になったげるよ。
だから独り言を言わなくてよくなるね。」
「ありがとう。
でもね。君は他の人間には見えないんだろ。
君と俺とのおしゃべりは他人から見たら
俺の独り言にしか見えないだろうね。」
手のひらサイズの少女は
「あっ そっか。」と残念そうに
うつむいたが、すぐに笑顔を周三に向けた。
「でも、お兄さんはさみしくはなくなるでしょ。」
そう言ってくれた少女の気持ちが周三には嬉しかった。
「そやな。それじゃあ、お嬢ちゃん。
もしもよかったら、うちの子にならへんか。」
周三は怪しい不審者のような台詞を口走っていた。
手のひらサイズの女の子は
少し意地悪な微笑みを周三に向ける。
「お兄さん、あたしの事がほしいの?」
小さな少女は大人びた言い回しをしてきた。
周三は空に目線を向けた。
「フフフ。お嬢ちゃんはおませさんやな。
俺はうちの家の子供にならへんかと言ってるだけや。
ピュアな心から出たピュアな台詞なんやで。」
そう言い訳したが冷静な口調で
言えたつもりだったが
なんだか墓穴を掘ってる気がした。
手のひらサイズの少女は俯いた。
「お兄さんの気持ちはうれしいけど駄目なの。
あたしにはご主人様がいるの。」
「そっか。それは残念だ。
今はそのご主人様を待ってるのかい?」
「うん。ぬしさまは商店街でお買い物をしてるの。」
「ふ~ん。じゃあ、君は商店街に行かないの?」
「あたしはちょっとお散歩してたの。
ぬしさまは絶対にここを通るから待ってようかなって。
もうここからだと商店街までは遠いから。」
「じゃ、一緒に待っていようか。
お嬢ちゃんジャガバターを食べるかい?」
そう言って周三はジャガバターを小さくちぎって少女に渡す。
「ありがとう。・・・・うん。おいしい。」
小さな少女が肩の上で周三に笑顔を向けた。
「あたしの名前はララーっていうの。
お兄さんのお名前は?」
「俺の名前は田中周三。
シュウとでも呼んでくれ。」
「うん。シュウって呼ぶね。」
「ああ、俺たちはもう友達さ。」
「初めて人間のお友達ができた。
あたしうれしい。」とララーは笑った。
周三がフェアリーのララーと
他愛の無い話をして過ごしていると
運河の小さな橋を渡るひとりの男性の姿が見えた。
その男性は
頭から顔にかけて布を巻きつけてかぶっている。
その男性を見て周三は
「あの人って砂漠の行商人さんかな。」とつぶやく。
「あの人がぬしさまよ。」とララーが言った。
ターバンのその男性は両手に買い物の荷物を抱えていた。
周三たちに目を向けると近づいてきた。
ララーが周三の肩からターバンの男性のところまで飛んでいく
ララーと男性が少し話をしている様子だった。
しばらくして、その男性が周三に歩み寄ってきた。
「はじめまして。
この近くで工房を構えて家具を作る仕事をおります。
名はロアンと申します。
ララーがお世話になったようですね。
ララーが見える人間なんてほとんどいないのに
あなたには見えるのですか。驚きました。」
ロアンは周三に挨拶をした。
周三はその男性を見ると
頭全体に巻きつけた布の間から見えるロアンの顔は
目鼻立ちが整っていてすぐに美男子とわかった。
周三はまじまじとロアンの顔を見つめてしまった。
周三はハっと我に返る。
「はじめまして、ロアンさん。
ええ、俺には、ララーは見えますよ。
俺の名は田中周三です。
カノレル雑貨店に下宿してる者です。」
周三の言葉にロアンはとても動揺した様子を見せた。
ロアンは動揺を抑えて息を整えた様子で笑顔を作った。
「あの有名なカノレルさんの家で
下宿をしているんですか。
カノレルさんにゆかりがあり
フェアリーであるララーが見える人間なんて
まるで伝説の勇者様のようではありませんか。」
動揺がおさまりきらない様子で声を出した。
「はい。俺は一応、勇者候補ですよ。」
ロアンの言葉に周三は軽い口調で応えた。
ロアンの顔が紅潮した。
買い物袋を地面に落とし
左の手のひらを自身の額にあてた。
「あははははは!」
上を向いたままロアンは笑い出した。
「取り乱してすみません。
そうですか。
もう次代の勇者は誕生していたのですね。
そうですか。そうだったんですね。」
ロアンは歓喜している様子だった。
少し落ち着きを取り戻したロアンは
「勇者様のご都合がよろしければ
お近づきのしるしに
私の自宅で夕食をご馳走したいのですが
いかがでしょう?」と誘われた。
ロアンの肩に乗るララーも
「シュウ、一緒にごはん食べようよ。」
と重ねて言ってきた。
周三は申し訳なさそうに首を横に振った。
「いえ、下宿先で夕飯が用意されてますので
今日は御馳走になれません。
もし、よろしかったら
明日にでもいいですか?」
「もちろんですよ。」
「では、ロアンさんのご自宅まで
今から案内して頂けますか?」と周三は提案した。
ロアンは頷く。
「ええ、もちろんです。自宅へはこちらです。」
自宅の方向を手で指し示すと西に向かって歩き出した。
周三はロアンのあとについていった。




