フェンティーア議事堂
友人の中村とティータイムを楽しんだ周三は
下宿先で昼食を食べる為に
お昼前にカノレル雑貨店に帰宅した。
雑貨店には客が多い。
店が忙しいのでハウルとリアが
店番を交代して食べるのが習慣であった。
リアと一緒に周三は
店の奥の間のテーブルで昼食を取った。
献立は、フランスパンのような固焼きのパンを
厚めに切ってチーズやベーコンがのったものと
グラタン風スープとポテトサラダと
香草で風味付けされた厚切りの鶏肉のステーキだった。
デザートにはさくらんぼが出た。
「リアさんの料理はマジでおいしいっす。
俺、食べ過ぎて太っちゃいますよ。
それでも食べますけどね。」
口いっぱいに料理をほうばりながら周三はリアに言った。
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ。
すごくおいしそうに食べてくれるから
作るのに張り合いが出る。
遠慮なくどんどん食べてね。」
リアは笑顔で応えた。
「はい!沢山食べてモリモリと育ちます!
リアさん今日は俺、議事堂に
行かないといけないんですけど
どの辺に議事堂ってあるんですかね?」
「議事堂へ行く道は簡単よ。
店を出て、右に行くとすぐ大きな通りに出るでしょ。
その道を右にずっと真っ直ぐ行くと
大きなドーム状の屋根の立派な建物が見えてくるの。
それが議事堂よ。行けばきっとすぐにわかるわ。」
「そうですか。わかりました。
ちょっと距離がわからないから早めに出発した方が
いいかもしれないですね。
これからは用事が増える気がするので
予定に遅れないように
腕時計とか買わないといけないかなぁ。」
「そうね。でも時計は結構値段が高価なの。
もしよかったらハウルの持っている腕時計の中から
ひとつ差し上げましょうか。」
「いえ、何から何までお世話になるのは気がひけます。
お給料ももらっているので手頃な物を買いたいと思います。」
「あらそう。腕時計はモナセ商店街の宝飾店に置いてるから
暇なときにでも見に行ったらどうかしら。」
「そうします。
食事が済んだらさっそく宝飾店を見に行ってきます。」
周三は食事を済ませて
キッチンで食器のあと片付けを手伝ったあと
カノレル雑貨店の前の通りを
北に行った所にあるモナセ商店街の宝飾店に行った。
さすがに値段の高い商品を置いているので
店のたたずまいも高級な印象をうける。
店に入るとガラス張りのショーケースに
宝石類や装飾品が飾られており
周三は腕時計が飾られているガラスケースを覗きこんだ。
「何かお探しですか」と
店の主人らしき初老の男性に声をかけられる。
「いえ、時計を購入したいと思っているんですが
値段の相場がわからないので
ちょっと見に来たんです。」と周三が答えた。
「左様でございますか。
ごゆっくりご覧ください。
ショーケースに飾られているもの以外にも
店の奥に在庫がございますので
何かご注文がございましたら気軽に
お声かけください。」と言うと
店主はカウンターに戻った。
周三は値札を見比べながら
「うむ。確かにべらぼうに高いな。
よく考えたら
大量生産するための機械とかが
この世界に無いのかもしれない。
大量生産できないなら1つ1つ手作りだもんな。
値段が高いのは仕方ないか。」と納得した。
ガラスケースに陳列された時計は
宝石が散りばめられたものや
独特のデザインをした個性的なものまで色々とあったが
周三は長く使うならシンプルなデザインのものがいいなと
ある程度は買いたい時計の目算はつけた。
「次の給料が入ったら
安い物ならなんとか購入できるかな。」
購入は給料日の25日以降にすることにした。
周三は一度、カノレル雑貨店に戻って
自分の部屋のベッドで少し横になりくつろいだ。
少しウトウトしだした事に気付くと
上体を起こして軽く横に頭を振った。
「あかん。寝たら遅刻してしまう。」
周三は早めに議事堂に向かうことにした。
(1本道だから迷わないが
早く到着する分にはええやろ。)
のんびり歩いてるとドーム状の屋根が見えてきた。
その屋根の建物こそ議事堂である。
周三は議事堂の敷地の正面の入り口に立つと
警備員の男性が二人、入り口の両脇に立っていた。
周三は右側の警備員に話しかける。
「あのすみません。
議長と会う約束をしている田中周三といいます。」
「そうですか。わかりました。
確認しますので少々ここでお待ちください。」
そう言って警備員は入り口近くの詰め所に入ると
詰め所の中の職員に確認をとっている様子が見えた。
10分ほどして警備員は走って周三の前に戻ってきた。
「たしかにお約束を承っております。
この入り口から正面の大きな門に
入って頂きますと係りの者がおりますので
議長の執務室まで案内して頂いてください。」
そういうと周三に敬礼した。
建物の正面の階段を上ると
とても大きな扉が開いていた。
そこを入ると広いフロアになっており
正面中央の大きな階段の下に
黒色の正装をした中年の男性が立っていた。
その男性が周蔵に歩み寄ると
「失礼ですが田中周三様ですか?」と訊いてきた。
「そうです。田中周三です。」
周三ははっきりした声で答えた。
「ようこそお越しになられました。
わたくしはここの職員でございます。
議長の執務室までご案内します。」
周三は職員の男性に案内されるままに
大きな階段を上るとフロアの奥の扉の間から
議会とおぼしき空間が見えた。
フロアを右に行くと階段がありそれを上る。
扉がいくつもある廊下に出た。
「この一番奥が議長の執務室です。」
職員の男性が周三に言った。
職員の男性が一番奥の扉を軽めにノックした。
「誰だ。」
扉の向こうから男性の低い声が聞こえた。
「議長、田中周三様がお越しになられました。」
職員の男性が扉ごしに部屋の男性に言った。
「そうか。入って頂きたまえ。」
部屋の奥から方から返事が聞こえた。
「失礼いたします。」と職員の男性が扉を開けた。
広い部屋の奥に机があり60代くらいの男性が座っている。
周三が執務室に入る。
「私はここで失礼します。」
職員の男性は周三に会釈したあとに
扉を閉めて廊下を引き返していく。
「よくぞおいでなされた勇者様」
議長は大きな手振りで嬉しそうに周三に歩み寄る。
「はじめまして。わたくしは
フェンティーア都市国家国会議長をしております。
ザレム・マクシアと申します。」
議長は周三に挨拶して握手を求めてきた。
「田中周三です。はじめまして。」
周三はザレムと握手した。
ザレムは恰幅がよく
顔も頭髪も皮脂で照かっていた。
いかにも政治家という風貌だった。
「こちらにおかけください。」
議長に促されて周三は
部屋の中央に置かれたテーブルのソファーに座った。
向かいのソファーに腰を下ろしたザレムは口を開く。
「今日、お越し頂いたのは新しい勇者様が
この国についてお詳しくないと
教会からの知らせがあったからなのです。
この国についての説明を
ぜひわたくしがさせて頂こうと思った次第でございます。」
「議長みずから説明してもらえるなんて恐縮です。」
「いえいえ、恐縮する必要などありません。
なんといっても、この国は勇者の発祥の地ですので
この国の代表たるわたくしが勇者様に
フェンティーアについて説明することに
なんの不思議がございましょうか。
勇者様はこの国の歴史をどの程度ご存知なのでしょうか?」
「全大陸戦争までは一応は聞きました。」
「そうですか。
それなら全大陸戦争以降のお話をさせて頂きましょう。
全大陸戦争を勝利に導いた勇者カンベインは
全大陸戦争の終結後すぐに
この大陸の支配者の地位である皇帝への即位を
大陸全土の人々から願われたのですが
カンベインは皇帝への即位に興味がなく。
友人であるゲルグ・アルブルドを皇帝に推挙すると
カンベインは生まれ故郷のフェンティーアの領主におさまります。
フェンティーアはその当時は大陸の西の端のただの僻地でして
国とは呼べないほど貧しい漁村の集落に過ぎない場所でした。
領主となったカンベインは生家の横に小さな商社を創設します。
これがのちのカノレル海洋貿易会社の元となるのです。」
「カノレルって下宿先と同じ名前ですね。」
「いえ、カノレル雑貨店がカノレル海洋貿易会社の
元になるカノレル商店のあった場所なのですぞ。
カノレル雑貨店のハウル殿はカノレル家の前当主です。」
「え!?ハウルさんは
元は会社の社長さんだったんですか!?」
「そうです。雑貨店の経営はハウル殿の道楽です。
本当はこの国で一番の大富豪なのです。
カノレル雑貨店に置いてある商品は外国では
庶民が手をだせるような価格ではないのです。
ですから、観光客が多く買いに来るようですな。」
「それは知りませんでした。」
「そうですか。それでですね。
カンベインは商船を建造して海に出ました。
まず第二大陸に上陸したカンベインは
好戦的な孤高の魔人イフリートと出会います。
カンベインとイフリートは一対一で戦って
カンベインが勝利します。
イフリートはカンベインの強さに感動して
家来にしてほしいとイフリートは嘆願しました。
カンベインはその願いを断ると
代わりにイフラートと義兄弟の契りを結びました。
カンベインはイフリートとの関係を足がかりに
第二大陸との貿易を開始するのです。」
「あの~。
第二大陸って何にも無い場所って聞きましたが
何か商品になるものってあるんですか?」
周三はザレムに質問した。
「ええ、あります。魔石です。」
「ああ!魔石ってエネルギー資源って聞きました。」
「そうです。
高純度の魔石は第二大陸でしか摂れないのです。
その魔石を第二大陸と取引きしてるのはカノレルだけです。」
「それはすごいですね。儲かってしまうでしょうね。」
「とてつもない利益でしょうな。
魔石は魔力の結晶体です。
人間社会の暮らしを一変させる可能性を秘めている物質です。
しかし、流通量はそれほど多くはありません。
ですので市場では高値で取引されています。」
「なるほど。」
「カンベインは第二大陸の次に
第五大陸に上陸して妖精王と軍事同盟を締結して
不可侵条約と通商条約を結びます。
この同盟は第三大陸とではなく
フェンティーア都市国家と
第三大陸との同盟となっております。」
「では帝国は第五大陸とは同盟していないんですか?」
「そうです。帝国と第五大陸は国交を結んでいません。」
「へ~。そうなんですね。」
「元々、妖精王とカンベインは旧知の仲らしく
速やかに国交が結ばれて
妖精国の特産品である宝石や貴金属、薬草、武具などを
輸入する事が出来るようになりました。」
「もしかしてそれもカノレルが独占輸入販売ですか?」
「そうです。」
「それは儲かりますね。」
「はい。そののちにカンベインは
東の第四大陸に向けて航海にでます。」
「黒竜王を倒したカンベインが第四大陸に行ったら
竜たちがカンベインを襲ったりはしないんですか?」
「いいえ、第四大陸の好戦派閥である黒竜王の
残党は戦う余力は残っていませんでした。
全大陸戦争において飛竜だけで20万頭近くを失い
水竜も人間たちの抵抗により
第三大陸の東の海岸でかなりの数が倒されております。
水竜の背中に乗って上陸を試みた地竜は
水竜が人間の軍に撃退されて海に転落して
相当な数の地竜が海に沈んだといいます。」
「第四大陸は大変な損害ですね。」
「ええ、だから第四大陸に上陸したカンベインは
竜の抵抗などもなくすんなりと
火山の火口に住む古の竜バハオルトに謁見できたのです。」
「まだ竜王みたいな偉い竜が残っていたんですか。」
「はい。歴史書では竜王は
北に黒竜王、東に青竜王、西に白竜王、
南に紅竜王の四竜王がいると記されてます。
第四大陸中央の火山郡には古の竜が
多数眠ってるという伝説もあります。」
「そんなに強い竜が残っているならまだ戦えそうですよね。」
「それはどうでしょう。
黒竜王は最強の竜王でした。
その黒竜王をカンベインは一撃で倒したのです。
カンベインと戦うようなリスクを犯す理由は
他の竜王には無いでしょうな。
それに第三大陸侵攻は黒竜王の独断での単独行動でしたので
黒竜王に対して同情の声もなかったと伝えられています。」
「黒竜王の自業自得ですしょうが
なんだかちょっと可哀想ですね。」
「まぁそうかもしれませんな。
古の竜バハオルトと謁見したカンベインは
いきなりバハオルトに襲い掛かり
バハオルトを倒してしまいます。」
「え!?なんで倒したんですか?
ただ会いに行ったんですよね?」
「古の竜がカンベインの要求を拒絶したからだと
歴史書には記されていますが
現在の学者の間ではバハオルトが
ものすごく強そうだったから
ではないかという意見がありますね。」
「カンベインって
そんな自分勝手な理由で暴力をふるうんですか!?」
「カンベインは何ものにも
縛られない自由の人だったそうです。」
「なんだか自由すぎる気がします。」
「重症を負ったバハオルトは
人間というものが心から怖くなったそうで
もう一度、交渉に来るというカンベインに
直接、会わないために
バハオルトは自身の体の傷から流れでる血で
人間に似た生き物を作ったそうです。
それが竜人族と呼ばれる種族です。
竜人類という種族は
人間との交渉用にバハオルトに創造された生物なのです。」
「う~ん。なんだか竜が可哀想すぎますね。
第四大陸に行く事があったら
人間代表としてバハオルトさんに謝りに行こうかな。」
「そうして頂けたらカンベインも喜ぶかもしれませんな。
もう一度、交渉に来たカンベインに対して
交渉は竜人族の代表がバハオルトの代わりに
務めることになりました。
交渉は速やかに進んで
三竜王も合意の上の同盟を締結したことで
不可侵条約と通商条約が結ばれます。
それにより貴重な鉱物資源や
貴重な竜の鱗や竜の骨などが輸入される事になりました。」
「その同盟も帝国ではなく
フェンティーア都市国家との同盟なんでしょうね。
取引はカノレルが独占販売ですか?」
「おっしゃるとおりです。」
「儲かりますね。」
「はい。それによってこの国は大いに繁栄する事になりました。
領土は小さいですが経済大国に成長しました。
フェンティーア経済大国に成長させたカンベインは領主を辞めて
フェンティーアを民主議会制の国家に作り変えます。」
「カンベインがカンベインの個人的な力で
豊かな国に成長させたのに
なんで政権を国民にゆだねたのでしょうか?」
「歴史書では、
自分を探す旅に出るためだと記されています。」
「ぶっっっ(笑)歳いくつやねん。って
思っちゃいました。」
「カンベインは第三大陸の自由の象徴なのです。」
「そうですか。そういう自由でいいんですね。」
「国家は国民の物になりました。
カノレル海洋貿易会社は
カンベインの養子となっていた皇帝ゲルグの三男の
ファインが継ぎます。
ファインの末裔がハウル殿なのです。」
「カンベインには実の子供はいなかったのですか?」
「歴史資料にはそのような記述が
無いのでいなかった事になっています。」
「今はハウル殿のご長男が当主を務めておられており
カノレル海洋貿易会社を経営されておられます。」
「なるほど。とても勉強になりました。」
「この国は勇者発祥の国ですので勇者になられる方を
フェンティーア都市国家は国をあげて全力で応援いたします。
要望があればなんでも国民の代表である国会議員一同が
全力でお応えする所存でございます。」
「ありがとうございます。とっても心強いです。」
「では、こちらの部屋へどうぞ。」
そう言ってザレムはソファーから
立ちあがると隣の部屋へと
つながる扉を開けて中に入った。
周三も言われるがままに
隣の部屋に入ると、
そこには無数の鎧が陳列されていた。
「この中からどれでもお選び頂き
いくつでも持って帰って頂いてかまいません。
勇者には格好の良い鎧が必要ですからね。
わたくしが独自のルートでご用意させて頂きました。」
ザレムは自慢げにどうぞどうぞと大げさな身振りで
欲しい鎧の選択を周三に促した。
陳列された鎧には金の豪華な装飾のついた鎧兜や
東洋風の刺繍が散りばめられた鎧や
シンプルな西洋鎧や
鎖帷子や皮の鎧などさまざまな形や種類の鎧が
所狭しと木の人形に着せられ並べられている。
周三は一通り見て回ると
「どれも重たそうですね。俺は体力が無いから
動きやすそうなこの鎧にします。」
周三はある鎧を指差した。
「それは!」と驚いた表情でザレムは涙ぐむ。
ザレムは懐からハンカチを出して涙をぬぐいながら
「その鎧こそカンベイン愛用の鎧なのです。
都立博物館から先ほど運ばせておきました。
ほんの私の遊び心だったのですが
カンベインの鎧を選んでくださるとは
やはり田中様は真の勇者さまですな!」
ザレムは涙を流して感激していた。
ザレムとは心に温度差のある周三は
「じゃ、これを着て帰ってもいいですか?」と
あっさりした様子で言った。
そのとたん。
ザレムは急に申し訳なさげな表情になり口を開く。
「大変言いづらいのですが
この鎧はわが国の国宝なので
お持ち頂く訳には参りません。
これは、あくまで私の遊び心ですので
どうか別の鎧をお持ちになってください。」
ザレムは周三に対してがっかりな発言をした。
カンベインの鎧は薄い金属の板で出来ており
使い古したような深みのある銀色だ。
部位は体を覆う胸甲板と背甲板のみで
肩甲と篭手は左腕にしかない。
左腕の篭手に
小さな円形の盾が申し訳なさ程度についている。
「あの~カンベインの鎧がいいんですけど。」
諦めきれない周三がザレムに言った。
「わかりました。
そうおっしゃるのもわかります。
わたくしはそれも予想しておりまして
レプリカをちゃんとご用意しております。
しかし、製作が今日までに真に合わず
明日以降にご自宅に
お届けする形でもよろしいですか?」
「じゃぁそれでいいです。
あと色の要望も聞いてもらえますか?」
「はい。何色でも塗装させて頂きますよ。」
「水の都にちなんで海のように
透き通った蒼の印象に仕上げてください。」
「海のように透き通る青ですね。
わかりました。
そう業者に伝えておきますぞ。」
ザレムは胸を張って言った。
「ありがとうございます。
ではこれで俺は帰ってもよろしいのでしょうか。」
「ええ、貴重なお時間を割いて
ご足労頂きありがとうございました。
これからもこのザレムとフェンティーアを
なにとぞ、よろしくお願いいたします。」
ザレムはまた握手を求めてきた。
「こちらこそこれからもよろしくお願いします。」
周三はザレムと握手を交わした。
今日は月曜日だったのですね。




