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傾国の女神  作者: 野津
2/11

BAD COMMUNICATION 2

 暇とホコリは腐る程あるが金はない!が代名詞の我が男爵家は、貴族の主催するダンスパーティーやその他の社交場に足を向けなくなって既に四半世紀弱が過ぎている。勿論、わたしも例に漏れずその家訓(?)を踏襲し、一度も公的な場に顔を出したことはない。何せ、年がら年中書庫や部屋に引き篭もって片っ端から本を漁り、昼夜を問わず読み耽っていたのだから。

 そんな根暗女の存在を、一体どこから嗅ぎ付けなさったんだ、国王陛下は。

 しかも、毎日何かしらと視線を合わせる度に不機嫌剥き出しで睨まれるのだから、勘弁して欲しい。一体わたしが何をしたと言われるのだろうか。身に覚えが全くないんですが。







 ……まあ、そんな女だから、妃にしても却って気を配る必要もないだろうってことなのかもしれないが、幾らそうだからって何も嫌いな女をわざわざ王妃にするこたないだろうに。初手から不機嫌丸出しで睨まれてたしね。

 そんなに嫌なら妃になんかするなよ!こちとら、名も実もある由緒正しいお生まれの他のお妃さま(勿論皆さんナイスバティな美人さんばかり。性格は鬼より悪辣だけどさ)たちから、毎度毎度憤怒と嫉妬と蔑視を投げ付けられて毎日が針のムシロなんだ。

 正妃就任以来、彼女たちからは、これまでに毛虫やら芋虫やらを頭上から散布されたり、部屋に呪いの投書をされたりと、思わず「ガキか」と罵りたくなるようなオリジナリティに欠ける古典的な、個人的にはもうひと捻り程欲しいなーと是非助言して差し上げたくなるような手荒い歓迎(もとい苛め)を散々受けてきた。

 全く、とばっちりもいいとこだ。そもそもわたしは妃になんか欠片もなりたくなかったのに(というか、考えたこともなかった)。

 それに、国王陛下も別にわたしのことなんかどうとも思っていない(寧ろ、激しく忌み嫌われていると思う)んだから、これ以上はもう本当にソッとしておいて欲しい。その証拠に、わたしは嫁いでこの方四年経つが、今まで一度たりとも陛下に伽を求められたことがないのだから。わたしにとっては非常に有難いことに。

 一応、月に一回、形式的にわたしの寝室を訪れられることになってはいるが、陛下はその度に寝台の上でカチンコチンに硬直し、真っ白に燃え尽きたハイズミの如く顔色を失くすわたしを不機嫌そうに睨み付けた後、「お前に手を出すつもりはない」と言われてこちらに背を向け、さっさと眠ってしまわれるのだ。初夜の時はさすがにその態度が理解出来ず、「何この放置プレイ」と思ってしまったものだが、今ではすっかりどうでもよくなった。

 ともあれ、この陛下の態度のお陰で、表向きには毎月定期的に陛下の相手をしている筈のわたしが一向に懐妊する様子のないことから、嫁いで四年が過ぎた近頃辺りから、めでたく『石女うまずめ王妃』の称号を獲得することが叶ったのである。――処女なんだから当然っちゃ当然だけどさっ。







 かくて、側室たちから陰湿な苛めを受け、諸侯からは後ろ指を差され、唯一の頼みの綱である夫からは冷たく見放され、哀れなわたしは毎夜枕を熱い涙で濡らすのであった。よよ――







 ……なあんてことは全くなく、わたしはこれ幸いとばかりに連日王宮に敷設された国内最大規模を誇る図書庫に入り浸り、食事、入浴、睡眠といった最低限の基本的生活習慣を行う場合を除き、完全に本の虫となって終始大好きな読書に没頭する悠々自適な日々を過ごしている。

 今では図書庫係りを勤めている皆さん方や政務資料を借りに来られる宰相や大臣といった重臣方ともすっかり顔見知りになり、雑談混じりにほのぼのとした日常会話を交わせる程の繋がりも得た。

 いやー、いい方ばかりなんだよね、本当に。さすがは大陸最大の版図を有する大国を一手に統轄する賢帝と名高い陛下を補佐し、支えておられる国内随一の頭脳集団、やっぱ莫迦はひとりもいないわ。

 わたしがちょうど彼等の孫娘さんくらいの年頃だということもあるのだろうけど、「王妃さまは実に勉強熱心な方ですね。毎日このようなところに来られるとは、感服致します」なんて頭を撫でられながら褒められたりして、かなり可愛がって貰っている。中にはお爺と同じくらいの年齢の方もいたりして、ちょっぴり嬉しい。

 幼い頃に二親をなくし、ジジイ手ひとつで育てられたわたしは、大のお爺っ子なのだ。なので、基本的に壮年以上の高齢の男性、特にじいちゃん大好き!である。

 やっぱり男は還暦過ぎてからだよ、うん。青臭い若造はお呼びでないわ。

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