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宝石の騎士様1

 あれから幾年かが過ぎた。

 修道院に入ったのがミシェレア姉様が11歳、私が6歳の時。 そして、今や姉様は成人を迎えたうら若き19歳。私は14歳になり、いつの間にか8年の月日が流れていた。





「……ふぅ」


「ユエ、どうした?腹でも下したか?」


「下品なこと言うな。ただ、相変わらず美しい姉様に感嘆の息が漏れただけだ」





 隣で汗を拭う同僚を睨みつけると、下品なことをぬかした彼はまたか…と肩を竦めた。





「相変わらずお前の姉上至上主義には恐れ入るよ」


「は?ミシェレア姉様ほど、美しく、賢く、気品に溢れ、人格にも優れた…まさに全てにおいて天上の女神に愛されているといっても過言ではない方はいない。それを憧れず、尊敬せずにいられるか、馬鹿が」


「…はいはい。まぁー確かにお前の姉君はすっげぇ美人だし、俺みたいな傭兵上がりにも優しくしてくれる方だしなぁ」


「ふん、姉様ほど慈愛に溢れた方がいるか。」





 隣でのんびりと歩く男を鼻で笑い、厩舎へと向かう。隣で話しかけてくる男のせいで歩みが遅くなってしまったが早く厩舎から愛馬を連れてこなくてはいけない。





 今日は姉様にとって大切な、大切な日だからだ





「あぁ、…しかしなんとも腹立たしいことだがな…」



 憎々しげに呟いた声音は本当に微かなもので、それは風と共に何処かへ流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー…憎々しい事この上ないそれは、昨日の客人からもたらされたものだった。







「……は?もう一度、…もう一度聞かせて頂けますか姉様。今、なんと…?」


「あのね、私、婚約することになったの」





こんやく

こんやく

こんやく

こんやく

こんやく

こんや………婚約っ!!!!





「な、なななな…っ」


「いきなりで驚いたけれど、まさか私が婚約なんて。信じられないわ」




 ね?と可愛らしく小首を傾げる姉様は殺人的に綺麗だが、内容が内容すぎて肯定も否定もできない。というか脳に血が回らない。





「こ、こここ婚約というのは、その、男女が夫婦となり結婚することを前提とした誓いで…」


「もちろんよ。だから明日、誓いを立てにいかなくてはいけないみたいなの」


「ああああ明日ですか!!?」





 急すぎる話に頭が全くついていけないが、そんなユエリナの様子に気付かずに麗しい姉様は微笑みながら話を続ける。





「えぇ、お義父様からそのように伺っているの。明日には誓いのために出立しなくてはいけないみたいね」


「伯爵がですか…」


「伯爵ではなくお義父様でしょう?よそよそしい話し方しかしてくれないってお義父様、嘆いていたわよ?」


「そんなことはどうでもいいです!!そんな大事な話を私に一言も相談もなく……くっ、あの狸め」





 アルバティアン伯爵とは数年前にユエリナたちを養子として引き取った、この国でもそれなりに力をもつ貴族だった。切れ者だが少々変わり者と噂される伯爵は、市井で聖女と崇められるミシェレアに目をつけ、彼女を養女にしたいと修道院に打診してきたのだ。もちろん、ミシェレアも院長も悩んではいたが、彼が全面的に修道院を援助してくれるという話もあり、彼の提案にのることになった。

 初めはミシェレアを養女に、という話だったがミシェレアがユエリナも連れていきたいと伯爵に頼み、伯爵もユエリナを養女として受け入れることを二つ返事で了承してくれた。姉様と離れなくていいなら、ユエリナは誰の養女になろうがなるまいが気にしていなかったが、どうにもあの伯爵はユエリナにとっては面倒な性格をしていた。アルバティアン伯爵の広大な屋敷に連れられた頃から、「お義父様と呼んでくれ」と再三言われ続け、時には強行手段とばかりに部屋に閉じ込められ「お義父様と呼んでくれたら出してやろう」などとふざけたことばかりしてくる伯爵がユエリナは苦手だった。もともと、養女としてではなく、ミシェレアのおまけとして着いてきたと理解しているので”お義父様”などと呼べるわけもない。


ユエリナは、彼のことを「伯爵」と呼ぶようにしているのだが、それゆえに彼の伯爵がいかにしてユエリナに父として認めてもらおうかと常日頃、メイドや執事たちに相談しているのはまた別の話だが・・・。


とにかく、ユエリナは姉と引き離さずに自らも引き取ってくれた伯爵に感謝しているし、何よりものす素敵な姉を養女にしようと決めたその英断に否定することなど何もない。おかげで、ミシェレア姉様は、学校ではなく貴族たちが通う学院にも通うことができるようになった。学校は、一般的な読み書きや計算、国の歴史を学べるのに対して学院では、さらに専門的な知識や、剣、乗馬、魔術などを学ぶことができる。学校よりも四年間長く修身する義務があり、貴族の子弟たちはたいてい12歳から学院に通うようになる。学院に通う前は、家で家庭教師をつけていたりするので、学院に通う頃にはある程度の教養は身につけられているのが通常だ。姉様は、引き取られて僅か半年で貴族たちが習う教養(読み書きや計算だけでなく、テーブルマナーやダンス、乗馬など) を身につけていらした!さすが姉様!


そういうわけで、無事に伯爵夫妻のお墨付きをもらって(伯爵には、5歳年下の美しい奥方がいる!)姉様は、義兄と同じ学院に通うことになった。

あ、養女にしてもらったのだが、伯爵にはちゃんと奥方も息子もいる。奥方の、シャロン様はたおやかな美しい方で突然できた義娘にも分け隔てなく愛情を与えてくださる素晴らしいお方だ。義兄も、義妹に最初は戸惑っている様子だったが、拒絶はしないでいてくれた。むしろ、可愛がって下さっている。特に突如貴族となって学院に通うことになったミシェレア姉様を色々助けて下さったらしい。


本当に伯爵家の方々は使用人のかたたちも含めて好い人ばかりだ。それもこれも、姉様の人徳のなせるわざ。私の人生最大ともいえる幸運はやはり姉様の妹として生まれてきたことだろう。本当に私の姉様は・・・おっと、話がそれてしまう。


そんなわけで、学院も修身し終えて社交界にもデビューを果たした姉様は(社交界デビューのときは、本当にすごかった!誰もかれもが姉様の清廉された麗しき美貌に目を奪われて、私も義兄(ジェイリースト)も、害虫退治に勤しまなければならなかったほどだ。まったく、姉様は女神の現身ともいえるようなお方だから、目を奪われてしまうのも仕方ないことではあるけれど。華々しい社交界デビューのおかげで、その翌日から縁談の嵐だった。それが1年前のことだが、それに劣らぬくらい今もミシェレア姉様への縁談話は多く伯爵家に来ているらしい。まあ、姉様には秘密裏に伯爵と義兄が縁談を処分していたのだけど。


確かに姉様は美しい。心も容姿も。ミシェレア姉様を妻にと望む者は多い。だけど、私はミシェレア姉様にはこの世界で一番の幸福者になってほしいのだ。小さい頃から、私たちの太陽であり続けてくれた姉様。そんな心優しい姉様には、姉様を一番に考えてくれて、姉様が望む人と付き合ってほしい。それが、妹心というもの。ミシェレア姉様に、お慕いしている方がいるというのなら、全力でその恋を応援(まあ、応援などしなくてもミシェレア姉様のことを好きでない人なんていないと思うが) するつもりだった。それが、いつになるか分からないにしても、だ。

それなのに・・・・・



「うふふ、明日には出発ね。どんな方なのかしらね」





うっとりと微笑むミシェレア姉様は、なんて華麗な・・・・って、ちがう!!

な、ん、で、姉様がいきなりこんにゃ・・・ではなく、婚約??それよか!一番大切なことがあるだろう!!




「ミシェレア姉様、その、幸運な男、ごほん。姉様と婚約する殿方はどなたですか?」





変な噂がされている奴だとしたら、闇討ちしてこよう。と、物騒な考えをしながら、姉様の言葉を待つ。ミシェレア姉様は、かわいらしく手を叩いてにっこりと微笑んだ。






「この国の王子様、シルフィール殿下とよ」










・・・・・・・・はいいいいいいいいいいいい???!


















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