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episode2―アンダーグラウンド

挿絵って超憧れる。 でもお気に入りが4名だから絶対に来ないという事実。 虚しい。

 ――アンダーグラウンド。

 そこは屑を吐きだめた場所である。 脛に傷どころではない傷を負っている人間が寄り添う場所。

 刑務所に等しい場所であり、屑の楽園。 或いは小休止した紛争地帯。

 表の世界に戻れない人間が集まる人生の終着点。 或いは欲望の塊。

 其処は警察どころか国家組織全てが介入できない無法地帯となっている。 政府でさえも。 地の底では屑の中の屑が集められるだけあってそんな極々一般的に人の命が散る。

 その様な場所で何故国家が介入できないのか、それは単純にアンダーグラウンドの居るかもわからないトップと政府が癒着している為である。 権力者がアンダーグラウンドを支持しているのだ。 屑が多いということは、無法地帯ということは、単純に金になる。

 しかして無法地帯と言いつつ地下には地下の『法』がある。 それは地上と比べて無法に等しいというだけだ。 屑には屑なりのルールがあるのである。 ――例え一般人には見えずとも。

 政府が、国家が介入出来ずとも悪人の首には賞金が懸けられている為あっけなく死ぬ人間は死ぬのだ。 寧ろ、上へ出てこないだけマシと言える。

 上で人を殺されるより、屑通しで勝手に殺しあってくれたら万々歳という訳だ。

 そしてついでに賞金を懸ければ死んで欲しい奴は勝手に死んでくれる。 他でもない屑の手によって。 自分で復讐を遂げたいという人間もいるだろう。 だが、地獄の門は意外にも狭く、『資格』を要する。 地獄の門番は『資格』のないものは須らく出入りを拒むのだ。

 パスポートというものがある。 ソレを持っていなければ入る事は叶わず、また、出るには別のパスポートが必要となる。 入るのは簡単だ。 裏と繋がりがあれば直ぐにでも手に入る。 が、出るのは容易ではない。 此処では蜘蛛の糸を垂らすのは釈迦ではなく閻魔である。 何処にでも権力を持つ人間はいるもので、それは屑の掃き溜めだろうと違いは無い。 いや、寧ろ屑が多いからこそ権力も地上以上に力を持つのだ。

 そして、地上に上がりたいのならば、権力を持つか権力者と知り合いにならなければならない。 それだけで容易ではないことが解るだろう。 屑の権力者など、屑の中の屑が大半だからだ。 寧ろ、屑ではない方が異常だと言える。

 ちなみにアンダーグラウンドはいわゆるスラム街の上位交換――見様によっては下位交換――である為、世界を見渡せば幾度となく見つかる。

 尤も、地上のスラム街より遥かに下劣。 ――それでいて華やかではあるが。


 ――そして、何でも屋『ムーヴメント』の事務所も屑の集まり、地の底、地獄、穴倉、色々と呼び名があるが通称はアンダーグラウンド。 其処は地獄よりも地獄らしく、欲望がむき出しの地上に住む人間よりも人間らしい人間が住む、日が昇らない街、常夜の世界である。


「はあ……」


 やけに落ち込んだ様子を見せる直己。 ため息は喧騒に紛れて消える。


「何だ、またため息か? もう納得したんだから良いだろうに」


「ま、この町の喧騒にやられたんじゃ無いのか」


 紫煙を吐き出すデイヴ。 手には煙草。 何時も来ているアロハの胸ポケットにはこれまた何時も携帯している紙煙草の束と紅で魔法陣が描かれている銀のジッポが入っている。

 紙煙草は何故かむき出しで無造作に詰め込まれている。 煙草に拘りが無いのか紙煙草の長さがバラバラであったり、フィルターや紙の色が違ったりと中には葉巻煙草も存在していた。


「こんなのまだまだ序の口だろう。 だって、まだ赤い水溜り見てないし」


「物騒すぎるだろ、どんな町なんだよ……」


 直己の落ち込んだ様子に畳み掛ける様にして二人は言った。


「地獄」


 と、真顔でアイリーン。


「命の価値が一セントより安い街」


 デイヴは煙と一緒に吐き出した。 二人は至って真面目な顔と声音で言った為、益々直己は落ち込むこととなるのだが、二人は特に気にした様子もない。


「有り得ねえ……」


「まあまあ、そんなに落ち込むな。 大丈夫だって。 ――死んでもちゃんと埋めてやるから」


「ここ既に埋まってるけどな、穴倉だし」


 全く慰めになっていない言葉を言い放つアイリーン。 これで慰めているつもりなのだろうか。


「俺はなあ、健全な街に住みたいんだよ! 何で外を一歩歩いたら男に犯されそうになるんだ!」


 そう、直己がここまで落ち込んでいるのは、二人が目を離した瞬間に路地裏に連れ込まれたせいなのだ。 間一髪、犯される直前でアイリーンが助けたから良いモノの、後十秒遅ければ完全に尻を掘られて男として終わっていただろう。


「ま、まあ大丈夫だったから良かったじゃねえか」


 笑いを堪えて言うデイヴ。 笑いを堪えている為、その肩は震えている。


「そうそう、男と男がセ、性行為をしても気持ちが悪いだけだしな。 良かったじゃないか」


 何故か、性行為という言葉にドモるアイリーン。


「男に尻を掘られたら死んでも死にきれねえだろうしな! 良かったじゃねえかアイリーンがあと一歩のところで気づいて」


 笑いの波が収まったのか、デイヴの肩は震えていなかった。 ――デイヴは直己に背中を向けている。 顔がにやけているのかは直己に判断できなかったが、不自然に後ろを向いたため、絶対に笑ってやがると、直己は確信していた。


「護身用にスタンガンでも持って出歩いたら? 大丈夫、直ぐになれると思う」


 何時から持っていたのか、懐からスタンガンを取り出した。


「慣れたくねえ……」


 そう言いつつ、アイリーンからスタンガンを受け取る直己。

 ゲッソリとした顔と心底嫌そうな声音で言った直己を見てデイヴは遂に堪え切れなくなったのか人目も憚らず大笑いしたのだった。


「はあ……不安だ」


 直己の独り言はデイヴの笑い声にかき消されて誰の耳に届くことも無く消えるのだった。



 ◇



「一応スタンガンは持ってるけど……ホントに大丈夫かな」


 スタンガンを右手に持ち、心配そうに見つめる直己。 スイッチを入れると青い光が走った。 ――明らかに異常量と言わざる負えない発光であったが。

 ソレを見て再びため息を吐いたのは言うまでもない。


「私もいるんだし、大船に乗った気持ちいたら? 大丈夫だって多分」


「いや、その多分が怖いんだけどな」


 直己とアイリーンは町に買い出しに来ていた。 直己は本当に必要最低限のモノしか持ち歩いていなかったのだ。 それこそ、今着てる服を合わせて下着と服を二着づつしかないくらいに。

 流石にアンダーグラウンドに定着するならば他の服も必要だと直己はデイヴに給料を前借して町へと繰り出しているのだった。 ――ちなみにアイリーンはその護衛と町案内を含めていた。


「さて、服屋は何処に在るんだ?」


 並々と建っている建築物を眺める直己。 建物はビルからアパートまで外見や統一感を無視した並びである。 ビルの隣は飲み屋。 ソレまた隣はボロアパートと個々が勝手に建てまくった弊害がアリアリと見られた。 中には赤と白の縞模様の奇抜な建物まで見られた。

 道はアスファルトの至って普通の道路であった。 道路の真ん中には右と左を区別する白い線が引かれていた。 そして自動車が走っている。

 自動車はガソリンを撒き散らす過去の車から電力で動く現在の車まで。 流石に空を飛びまわったり宙を浮いたりはしない。 そもそもそんな効率の悪いものは開発されなし出来ない。

 道路に車が走っている。 その為当然歩道が存在する。 尤も歩道とは言ってもこれまた子供が白い線からはみ出さないように渡って遊ぶであろう極々一般的な白いラインが敷かれている。


「服屋ならこのまま真っ直ぐ行ったら直ぐにつくよ」


 ぶっきら棒に言うアイリーン。


「それにしても、本当に騒がしいな」


 飲み屋から銃撃音が聞こえたり、アパートから悲鳴が聞こえたりと、喧騒の様子は幾分常識外れであるが、屑の吹き溜まりではソレが日常であり、常識であった。


「こんなもんだって。 上でもラスベガスとかは夜になると凄いだろ?」


 そんなことをのたまうアイリーンであったが、明らかに騒ぎの理由が違う。

 ――アイリーンはラスベガスなどに行ったことは無いのだろうか?

 直己の脳裏に疑問が掠めるが、話が逸れる為同調することにした。


「別にラスベガスじゃなくても都会は凄いけどな」


「そうそう、だからそんなもんだって。 ここはソレに命の危険とか銃の発砲音とかが追加されるだけだから」


 寧ろ喧騒の4割程がソレである。 極一般的に騒がしいのだが、どうしても印象はそちらの方が強くなってしまうのだ。


「いや、十分におかしいぞ、ソレ」


「と、ついた。 ここだ」


 アイリーン先導で着いた場所は如何にも服屋、といった感じだった。 店頭に飾られている可愛い気のある服。 ガラスの壁に阻まれたディスプレイの中にオシャレな服をマネキンがポーズをとっていたりと地上の服屋とは何の変りもない服屋然とした建物だった。


「珍しいな、こんなにも地上と似た服屋があるのか」


「ま、此処のオーナーは酔狂なバカだからな」


 自動ドアが開き、二人は店内に入る。 店内には人がチラホラと見かけるが、直己はそれよりもゴツイ身体をした男が目の前に立って愛想よく笑っているのが気になった。


「誰、あれ」


「オーナー。 ちなみにゲイ」


「ひい!?」


 ゲイという言葉を聞いてブル、と震えて怯えた声を出す直己。 完全に犯されそうになったのがトラウマになっているようだった。

 オーナーはこちらに気づいたのか、歩いて近寄ってきた。


「あらいらっしゃい。 アイリーン。 そこの良い男は?」


 ゲイだというオーナー。 女口調の言葉とは裏腹に姿は完全にオッサンである。 髪は剃っているのか禿げているのかスキンヘッド。 そして服はタンクトップにジーパン。 タンクトップの中は隠し切れない筋肉。 髭は生えていないがマフィアもかくやと言った強面。 襲われれば一たまりもないであろう。 ――これでゲイと言われれば完全にトラウマである。


「ああ、コレは家の新社員。 今日はコイツの服を買いに来た」


「ちょ、止めろアイリーン!」


 アイリーンの背中に隠れてコソコソやっている直己を無理やり引っ張って前に出すアイリーン。 当然直己は嫌がって喚いた。


「何で隠れてんのよ」


「ああコイツ――」


「五月蠅いわね、犯すわよ」


 訳を話そうとした瞬間、オーナーは喚いていた直己にイラついたのか凄い形相で睨んで言った。


「ひい!?」


 先日の事が完全にトラウマになっている直己は悲鳴を上げて必死に逃げようともがいた。 ――が、アイリーンの腕力は凄まじい為、全く意味をなしていない。


「コイツ、此処に来てからすぐ、ゲイにヤられそうになったんだよ。 それ以来ていうか――今日が一日目だけど、おかまとかゲイがトラウマになったみたい」


「あら、それは災難だったわね。 大丈夫よ、客の迷惑な事をしない限りは犯したりしないから」


「全く安心出来ないからソレ!」


 一応、もがくのを止めた直己を見てアイリーンは降ろした。 まだ出歩いてから30分もかかっていないというのに、直己は既にヘトヘトに成っていた。 ――疲れの大部分は直己が暴れたのが原因であるが。


「さて、と。 貴方のような色男には色々着せてあげたくなっちゃうわね、如何しようかしら?」


 浮かれた声で丁寧に畳まれている服を漁るオーナー。 非常に楽しそうなので、二人は放っておくことにした。


「ちなみに、あのオーナーの名前はジェイソン。 本人はジェーンと呼んでほしいらしい。 趣味は男漁り」


「うわ、あんまり近寄りたくねえ」


「大丈夫だ、客に手を出したりしないから」


「そうか、それは安心して良いのやら駄目なのやら……」


 そうこうしている内にジェイソンが服を抱えて戻ってきた。


「色男には色々着せたくなっちゃうから一杯持ってきちゃったわ。 次いでにアイリーンも買っていきなさい。 貴方に似合うのを持ってきたから」


 服の山の中には女の服も交じっていた。 アイリーンが普段好んで着る服は大体ジーパンとTシャツというラフな格好である。 しかし、ジェイソンが持ってきたのは明らかな女の子した服。 かなり際どいミニスカートやら黒いゴスロリやら。 フリフリの付いたワンピースなど確かに似合うだろうが、ソレをアイリーンが着るとなると非常に違和感がありそうだった。 そんな服を見て顔を引きつらせるアイリーン。

 直己はポツリと言った。


「……似合いそうだな」


「でしょ! 貴方話が合うわね。 名前は?」


「桜井直己。 アンタの名前はさっきアイリーンに聞いたよ。 ヨロシクジェイソンさん」


「んもう、ジェーンて呼んでよ」


「いえジェイソンさんで」


 盛りやがる二人に冷水を浴びせられた様な雰囲気で遮る存在がいた。


「おい、私は絶対に着ねえからな」


 仏頂面で返すアイリーン。 口調も心なしか悪くなっていた。


「「えぇ〜」」


 心底残念そうな声を出す二人。


「え〜じゃない! 大体なんで意気投合してんだよ。 ナオ、お前ゲイがトラウマじゃなかったのか!」


 アイリーンの指摘に何を馬鹿なと言った笑いを見せ言い放った。


「全然」


 変わり身が早すぎるだろ、とアイリーンは思った。 指摘しようか迷ったが、二人の態度に流され口にする機会が消え去ってしまった。


「さて、着てみましょうか。 良いわよゴスロリ、ミニスカート、女の子した服装。 さあレッツお着替え――」


「死ぬか?」


 銃口をジェイソンと直己に向けるアイリーン。 二人はホールドアップし(両手を上げ)た。


「やあねえ。 冗談よぅ」


 笑って手首をパタパタと振るジェイソン。 直己にはその姿が何故かとても男前な笑いに見えた。


「似合うと思ったのだが……残念だ」


 直己の言葉にアイリーンの米神に青筋が浮かんだ。


「ホントに死ぬか?」


 アイリーンは両手に持つ銃を直己に向けた。


「冗談だって。 いや本当に」


 流石にまずいと思ったのか冷や汗を掻いている。


「全く、いい加減止めてくれ。 毎回ここに来る度にお前の趣味につき合わすのは」


 ため息を吐いて銃を直すアイリーン


「あら、素材が良いんだから私の存在意義に懸けて勧めるのは当たり前よ」


「実際、似合いそうなモノばかりだったしな」


「そう思う?」


「そう思う」


「だから止めてくれ……」


 二人が顔を見合わせて言い合うのを見て頭を抱えるアイリーンだった。



 ◇



「意外にいい人だったな」


 店を出た二人は道を歩いていた。

 直己は両手に服の入った紙袋を下げている。 一方アイリーンはというと、俯いてダラダラと歩いている。 先程のゲイに対する怯えは何処に行ったのだと問い詰めたい気分に襲われるアイリーン。 だが、問い詰める元気がない。


「勘弁してくれお前のせいで散々だ。 もう疲れたよ。 さっさと帰りたい」


 泣き言を言うアイリーンの目は何処か虚ろである。


「ま、そういうなよ。 実際似合うんじゃ――」


 言葉を最後まで言わず、茫然と言った様子で何処かを見ている直己。


「ん? どうした」


 アイリーンは質問しつつ下に向けていた顔を直己の顔へと向けた。


「行き倒れだ。 珍しく血を流さずに倒れてる」


 直己の指し示した方向を見ると何故か古典的な黒と白の縞模様の囚人服を着た白人の男が道に倒れていた。 日常的に死体を見かけるアンダーグラウンド。 そのため死体と判断する人間が多いのだろう。 誰も助けに入ろうとはしない。 仮に生きていると分かったとしても、助けようと手を差し出す人間の方が少ない。


「日常茶飯事だ。 さっさと次に――ておい」


「大丈夫ですか?」


 アイリーンの言葉を聞かずに近づき声をかける直己。 アイリーンはため息を吐きつつその行き倒れに話しかけた直己の元へと近づいた。


「め……飯を」


「本当に行き倒れみたいだな」


「はあ……お前はお人よしか」


 今日何度目になるか解らない程頭を抱えたアイリーンは頭痛薬を買おうかと真剣に検討していた。 アイリーンの苦難は続く。



 ◇



「いや〜助かりましたよ。 危うく餓死するところでした」


 丸型のテーブルには皿が山積みになっていた。 幸い安い店――なのだが、ここまで食べると流石に額が大きくなっている。 直己は虚ろな目で財布の中身を見つめていた。


「自業自得だ馬鹿め」


 そんな姿の直己を見て呆れる様に言うアイリーン。 男は流石に気まずくなったのか、頬を掻いて明後日の方向を向いていた。


「ああ……貴方のお名前は?」


 何とか立ち直ったのか、虚ろな目に活力が戻りつつある直己。 ――しかし目は濁っている。


「……」


 答えない男の姿を見て、何か訳ありかと考え、直己は自分から自己紹介を口にした。


「俺の名前は桜井直己。 普通の日本人だ」


 普通を強調して言う直己は暇そうに肘をテーブルに立てて頭を手で支えているアイリーンを肘で突いて自己紹介を促した。 アイリーンは面倒臭そうに最低限の事だけを口にした。


「アイリーン・クラーク」


 適当過ぎるその自己紹介に呆れる直己だったが、囚人服を着た男は笑いながら諌めて言った。


「そうですね、エフ。 うん、私の名前はエフです」


 明らかな偽名であった。 『F(エフ)』という名前は頭文字なのかそれとも全く関係ないのか、どちらにせよ囚人服を着ている時点で碌な人間ではないのだろうが、振る舞いや言動からはそういった面を見せない男でもあった。

 どちらにせよここには一般的に屑と呼ばれる人間くらいしかいない。 つまりはそういった考察は余り意味をなさないのだ。 だが、直己にとってはそれら全てがどうでも良かった。 何故なら――


「そうですか。エフさん。 何時かここの代金返してくださいよ」


 荒んだ目で睨んで言う直己。 直己の据わった目で睨まれ、エフは頬を引きつらせた。


「え、ええ。 それは勿論。 必ず返します」


「連絡先は何でも屋ムーヴメントまでヨロシク」


 直己はテーブルの横に置いてあるナフキンにムーヴメントの住所と連絡先を書いて渡して立ち上がった。


「さて、それじゃ帰りますか」


 二人は立ち上がり――アンダーグラウンドでは食い逃げが一般的な為、料理は金を払ってから来るのだ。 つまり既に支払済みである――今だ料理が少し残っているエフを置いて去っていくのだった。


「で? 次は何を買う気?」


 アイリーンの質問に素っ気なく言った。


「もう金が無い」


「あー……了解。 帰るか」


「応」


 結局、服を何着か買っただけで金を殆ど使い切った直己だった。



 ◇



「どうした? 服しか買ってねえじゃねえか」


 何処から持ってきたのか、今朝方には無かった大きな段ボールに腰かけているデイブ。 口には煙草を咥えている。


「お人よしのナオ君は哀れな哀れな行き倒れ(子羊)ご飯(パン)奢って(恵んで)財布の中身(自分の分)が消え失せたのだった」


 何故かモノローグ調で説明するアイリーン。


「馬鹿だろ」


 冷静に突っ込むデイヴに直己は肩を落としたのだった。


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