第93話「繋がる声」
昼下がりの街道。馬車の揺れに合わせて水晶片が淡く光る。通信機の試作は移動中の訓練として始まっていた。
あとから参加したルッツは予想通り、すぐに使いこなせた。やはり問題はバトル三人組。
俺の発案で、全員を覚えるのは諦めて、一人だけ覚えればいいという事になった。
ダンカンはタリア。カイはミラと、コハルはリーナだ。
それぞれの接続先となる人が講師になって教えていくことになる。
「お前、本当に馬鹿だな……」
タリアが呆れたように言い放つ。
「なんだと!言わせておけば!なんかコツとかねーのか!」
ダンカンは頭を掻きむしり、額に汗を浮かべる。
「そうだな。オウムだって一万回話しかければ言葉を覚えるんだ。回数だ、根性だ!」
「よっしゃー!やってやる!見とけ!」
タリアが肩をすくめる。
(……本当に単純だな。簡単に騙せそうだ。今度、試しに騙して酒を奢ってもらおう…)
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「カイ、どんなとこが分からない? ほら、魔法陣がこうでしょ……」
ミラはカイが手に持つ水晶を指でなぞりながら説明する。その横顔を、カイはつい凝視してしまった。距離は近く、肩が触れ合う。
「どこ見てるの? ちゃんと聞いてる……?」
「聞いてる!」
カイは慌てて目を逸らす。
「カイなら大丈夫。会わなかった二年間であんなに努力して、びっくりするくらい強くなったじゃない!すぐ出来るよ!」
真っ直ぐな励ましに、カイは姿勢を正した。ミラに失礼だと思い直し、今はこの通信一点に集中し始める。
「……よし、まじめにやる。集中だ」
その横顔の真剣さに、今度はミラが胸を高鳴らせて目を逸らした。
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リーナはコハルの手に水晶を渡す。
「コハルは感覚派だからな。無理に理屈を追うな。私と繋がるイメージで、図形として覚えろ」
「なるほど!! できる気がしてきた!」
コハルは目を輝かせ、しっぽを揺らす。
数分後――。
「繋がった! リーナと声が繋がったぞ!」
意外なほどあっさりと成功し、コハルは飛び跳ねて喜んだ。
「なんだ、できるじゃないか。他のヤツもついでに覚えるか?」
「別にいい。あとはソウマだけでいいかな」
「……ソウマに無駄に話しかけるなよ」
リーナは苦笑しながらも、どこか満足げだった。
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馬車の中に笑い声と真剣な声が混じる。新しい力を試すその時間は、ただの訓練ではなく、仲間を繋ぐ確かな絆を深めていた。
賑やかな訓練の空気の中で、俺は掌の水晶を軽く掲げる。
(これでいいんだ。声が繋がっている限り、誰も一人にはならない)
「……俺は基本的に受信専門でいく。魔力量が少ないから、発信は基本的にできない。けど、緊急時なら虚晶石の魔力を使って発信することは可能だ」
タリアが頷き、水晶を指で回す。
「それで十分だな。発信はこっちでやる。緊急時に虚晶石無しでも簡易で発動できる方法も考えておくか。」
ザイルが肩を組むように笑った。
「だな。先生は前に出る訳じゃねえし、基本単独行動はないから大丈夫だろ」
「……でも」
ミラが不安げに口を開いた。
「もしソウマさんが狙われたら?」
その言葉に一瞬だけ沈黙が落ちたが、俺は小さく笑って答えた。
「ミラ、そういう時のための魔道具でもある。それに、その時は俺も戦う。剣術も覚え始めたしな。あとは、この本にあった“魔法陣への干渉”だ。弱いままでいるつもりはない。最悪の場合、時間稼ぎに徹して誰かの助けを待つ」
静かな決意の声に、
仲間たちは目を合わせてうなずいた。
「そもそもこの魔道具の最大の強みは、戦闘じゃない。遠くにいる仲間とも、即時で情報共有ができる事だ。帝都に入ってからも情報収集が数倍速く、しかも安全になるだろう」
「よーし!」
ダンカンが拳を突き上げる。
「だったら俺も根性でこの数字地獄を覚えてやる!絶対成功させてみせるぞ!」
「……だから脳筋はそういう気合いばっかりなんだよな」タリアが呆れつつも笑う。
馬車はきしみを上げて進み続ける。
通信機の訓練は失敗も多いが、笑い声と叱咤激励に満ちていた。
その輪の中心で、俺は静かに水晶を見つめる。
(必ず役立てる。誰も犠牲にしないために)
「タリア、ここまで小型化できたからイヤリングにしよう。手もふさがれないし、耳についていれば手に取るよりも動作として不自然じゃない」
「いいね!この商隊の象徴になるようなイカしたイヤリングにしようぜ!」
俺の言葉に仲間たちはざわめき、タリアが「いいね!」と笑った。
こうして小さな水晶は、やがて商隊を象徴する〈繋がる声〉の印へと姿を変えていくのだった。




