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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第七章【契りと誓いの帝都】
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第91話「ただの散歩」

 リオネールの朝は澄んだ空気に包まれていた。


宿の前では馬車に荷を積み込む音、馬のいななき、商人たちの呼び声が重なり合っている。出発を控えた商隊の仲間たちはそれぞれの持ち場で動いていたが、その中でミラだけは少し落ち着かない様子を見せていた。


 胸の前で指を絡め、視線を下げて足元の石畳を見つめている。仲間に気づかれまいと笑みを浮かべようとするが、どうしても影が差してしまう。


 カイはそんな姿を横目でちらちらと見ていた。


声をかけたい。けれど、どう切り出せばいいのか分からず、まごまごしていた。


いつもなら何も気にせず声をかけられるはずなのに、今はその一歩が出ない。


 その様子を、コハルは敏感に察していた。すっとカイに近づき、獣のように耳を寄せる。


「……散歩にでも誘えば?」


「な、なにっ……!」


 カイは肩を跳ねさせ、思わず声を上げる。だがコハルは尻尾を揺らしてにやりと笑うだけ。


「今なら行けるだろ。ほら、早く」


 カイは顔を赤くしながらも、大きく息を吐いた。そして意を決して歩み寄る。


「な、なあ……ミラ。少し歩かないか? 出発まで、まだ時間あるし」


 ミラは驚いたように目を見開いた。すぐに唇を緩め、頬をほんのり染める。


「うん。じゃあ……行こうかな」



---


 二人で並んで石畳の小道を歩く。


 朝市の屋台からは、焼きたてのパンの香りや、香辛料の甘く刺激的な匂いが漂ってくる。行き交う人々の笑い声、遠くから聞こえる鐘の音――街は活気に満ちていた。


 そんな中でも、ミラの表情は時折曇った。足取りを少しだけ緩めて、小さな声を漏らす。


「ねえ、カイ……。最近、ソウマさんとリーナさん、なんだか前より距離が近くなった気がするの」


 胸の奥にしまっていた思いを、抑えきれずに吐き出す。


「……ごめんね。こんなこと言うつもりなかったんだけど」


 寂しさをにじませるその横顔を見て、カイは前を見据えたまま言葉を選んだ。


「そんな顔すんなよ。大丈夫だって。俺たちは一緒にいる。ミラは……ミラでいいんだ」


 その言葉に、ミラははっと顔を上げる。口元にわずかな笑みが戻った。


 屋台の前で足を止めた二人は、香ばしい匂いに誘われて串焼きを買った。


 焦げ目のついた肉を一口かじると、じゅわっと肉汁があふれ出し、熱さに顔を見合わせて笑い声をこぼす。


「やっぱり何も考えずに肉食ってるのが一番幸せだな!サイコーだ!」


「カイらしいね。でも...確かにそうかも。カイの食べてるのもおいしそう、ちょっとちょうだい」


「お、おう!うまいぞ!じゃあ、交換だな…」


「本当だ!おいしい!」



 そんな穏やかな時間の中で、ミラはつい言葉を零した。


「……カイ、ありがとう。結局、私は昔も今も…カイといる時が一番落ち着くなー」


 言った瞬間、頬が真っ赤に染まる。慌てて両手を振り、早口になる。


「ち、違うの! 変な意味じゃないから!」


「なんだよそれ」


 カイは呆れたように笑った。だがその笑顔は、抑えきれない嬉しさで満ちていた。



---


 少し離れた場所。通りの角の陰から、二人を見ていたのはサラとタリア、コハルだった。


「青春だねぇ……」


タリアが頬杖をつきながら、しみじみと言う。


「きゃー!若いって素敵!」


サラはわざとらしく胸の前で手を組み、

身をよじった。



「やっぱり人族は面倒くさい。好きなら好きでいいのに。あと、あの肉おいしそう」


コハルの恋愛観はかなり違うようだ。



サラが気になって聞いてみる。


「そういうコハルちゃんはどうなの?リーナに遠慮してない?」


「ソウマは好きだけど、私にとってはリーナの幸せが一番。私は優秀なオスの種がもらえればそれでイイんだけどなー、人族の女がそれを嫌がるのも知ってるからしないよ。リーナを傷つけたくない」


コハルは事も無げに言うので、二人は唖然とする。


「「種って…獣人族ってそんな感じなんだ…」」


「私からすれば人族の方が変。今、好きな人もいつか嫌いになるかもしれない。でも今が好きなんだからそれでいい。獣人族は時間と場所に縛られない。自由なんだ。私も兄弟がたくさんいるけど、みんな父親は違うよ。自分の父親は誰かも知らないし、興味もないな。でも、獣人族は国もない代わりに自分の家族を大切にする。私の家族はこの商隊!そしてリーナがボス!」


「分かったような、分からないような…」

サラが苦笑を漏らす。


タリアは肩をすくめて笑った。


「でも、コハルらしい答えだな。……うん、あんたのそういうところ好きだよ。しかも私はむしろ獣人族寄りだ!」


 その一言に、コハルは嬉しそうに尻尾を揺らした。



「私はやっぱり、紳士的で王子様みたいな人にエスコートしてほしいな」


サラは両手を合わせて祈るように語る。


『そんな男、いないだろ』

タリアとコハルの声が重なり笑いが広がった。



ここまで読んでくださってありがとうございます!



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