表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第六章【見えざる刻限】
88/130

第83話「狂気再び」

アルノルト伯爵領へ出発するための準備もかなり整い、明日の出発となった。


「よし、工具を揃え直すぞ! この間ぶっ壊した分も補充しなきゃな」


 その勢いにダンカンが肩をすくめる。

「ったく……また物騒なもん買う気だろ。俺がついていってやる」


 タリアは肩越しに振り返り、にやりと笑った。

「お? 護衛ってわけか。頼もしいな、ダンカン!」


 そのやり取りにサラが割って入る。

「なら私も行くわ。薬草が切れてきてるし、補充しないと」


 さらにザイルも腰を上げる。

「どうせ荷物持ちは俺なんだろ? ほら、早く行こうぜ」


 結局、四人が街外れへと繰り出すことになった。



---


 石畳を歩きながら、タリアは工具の種類や改造案を楽しそうに話し始める。だが他の三人の頭の上には「?」が浮かんでいた。


「でな、この回転軸に細工すれば爆散じゃなく拡散にできるんだ。角度を調整すればほら、三六〇度に一斉射出――」


「……なあ、サラ。今の分かったか?」

「全然。私、薬草の煮出ししか知らないし」

「ザイルは?」

「さっぱり。俺、魔法一筋だからな」


 最後に視線を向けられたダンカンは腕を組み、きっぱりと言い放つ。


「全く分からんが、お前が楽しそうって事だけは、よく分かる!!」


タリアは一瞬呆気に取られ、

次の瞬間腹を抱えて笑った。


「ははっ! 何だそのマッチョ発言! 最高じゃねえか!」


 笑い声が石畳に響く。四人の空気は和やかで、日常の一幕そのものに思えた。



---


 しかし、人気のない通りに入った瞬間、空気が変わった。


 先頭を歩いていたダンカンが不意に立ち止まり、右手で後ろのタリアを制した。表情は一瞬で戦士のそれに切り替わっている。


「……止まれ」


 ザイルも眉をひそめ、すぐに戦闘態勢へ入る。そのただならぬ気配に、タリアとサラは思わず足を止めた。


 その直後、物陰から鋭い風切り音――矢が飛来した。


「チッ!」

 ダンカンが片手で矢を掴み、へし折る。


「ザイ!」「分かってる!」


ザイルが詠唱を終えると同時に、地面が隆起して厚い土壁が立ち上がった。


直後、金属の矢が数本――ドガガガッと壁に突き立つ。


矢じりが震え、石屑がぱらぱらと落ちた。もし一瞬でも遅れていたら、タリアとサラの喉を貫いていただろう。


「な、何だよこれ……!」タリアが叫ぶ。

「いいから黙ってろ!」ザイルの声が鋭い。



---


 裏路地の中から、ゆったりとした声が響いた。


「いやぁ、用心深いですねぇ。やっぱり後ろの土魔法使いさんから壊すしかなさそうだ」


 その声に、全員の背筋が凍る。


 姿を現したのは、黒布をまとい、傷跡だらけの仮面を付けた男――

まるで死んだはずの影が歩き出したかのように。

モルドだった。


---


 モルドは奇妙な弓具を構え、矢を連射する。ボウガンのような仕込み武器から、金属の矢が雨のように放たれた。


 ダンカンが前に出て両腕で叩き落とし、ザイルは土の盾を次々と展開して防ぐ。しかしモルドは決して距離を詰めてこない。遠距離攻撃に徹し、二人を翻弄していた。


「おらおらぁ! どうした肉壁! どうした土壁!」

 嘲る声と共に、金属矢が火花を散らす。



「……チッ!」


ザイルも反撃に移るが、ロックバレットは宙を裂くだけ、アースニードルは地面を穿っただけで終わる。


モルドは舞うようにかわし、嘲笑を投げかけてくる。


「やっぱり土魔法は遅いですねぇ!鈍い鈍い!」

矢がかすめるたびに、ザイルは奥歯を噛みしめた。

(くそっ……分かってる、速さじゃ勝てねぇ!――)


「遅い遅い! そんな鈍い攻撃、当たるわけないでしょー!」

 モルドはあくびでもするように笑った。



---


 しかし、ザイルの表情は崩れない。土壁の陰に隠れたタリアやサラに声は届かないが、冷静な光をその瞳に宿していた。


「……ダンカン、耳かせ」

「おう」


 耳打ちされた言葉に、ダンカンは一瞬目を見開き、すぐに口角を上げた。


「いいぜ。お前に任せる」


二人の息は驚くほど揃っていた。長年積み重ねた“現場の信頼”だけが作れる間合い。




---


 モルドは仮面の奥でにやりと嗤う。

「へぇ……何か考えがある顔だ。じゃあ、もっと遊んでやりますかぁ!」


 再び矢が放たれ、空気が震えた。


――戦いの幕は、まだ始まったばかりだ。

狂気は、まだ彼らを離さない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ