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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第六章【見えざる刻限】
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第81話「禍を喰む虫」

#81「禍を喰む虫」


 夕暮れの鐘が鳴り、街の門が重々しく開いた。砂塵をまとった馬車がゆっくりと戻ってくる。


御者台に座るザイルの顔は土埃で黒ずんでいたが、その瞳は確かに安堵の色を帯びていた。


馬に跨がるカイも片腕を振り、疲労を隠せぬ笑みを浮かべている。


 門前で待っていたリーナが真っ先に駆け寄った。


「……おかえり!無事で何よりだ」


 声が少しだけ震えている。返すように馬車の窓が開き、ミラの顔が覗いた。頬は汗と涙で濡れていたが、笑顔を無理やり作ってみせる。


「リーナさん! 全員、生きて帰れました!」


 その言葉に広場の空気が一気に和らぐ。ルッツも深く息を吐き、肩の緊張を解いた。


 馬車から降ろされたのは、治療を受けながらもまだ少し脚を引きずるタリアだった。腕には分厚い包帯。だが彼女の表情は明るい。


「ただいま、戻ったぞ。ちょっと派手にやられたけどな」


 ソウマが駆け寄り、思わず彼女の肩を支える。タリアは片目を細めて笑った。そして、腰に下げていた袋を突き出す。


「見ろ、こいつらだ。最高の土産だろ?」


 袋の中では黒い甲殻の虫たち――ロックキャタピラーが蠢いていた。ミラが補足する。


「虚晶石の濃度が濃い場所に集まる習性があるみたいなんです。タリアさんが確認しました」


 ソウマの目が大きく見開かれる。指先で一匹を摘み上げ、甲殻の輝きをじっと見つめた。


「……やっぱりか。仮説通りだ。これなら人工的に虚晶石を生成できる可能性が現実味を帯びてきた」


 低く呟いた声には興奮が滲んでいた。


 子爵にはまだ虚晶石の話はしていない。


あくまでもミスリルが必要と話しているため子爵の前ではまだ伏せるべき情報だ。ソウマもそれを理解しているから、話はそれ以上広げなかった。


 ダンカンが横から声を張った。


「おい、こんな虫のために俺の背中は穴だらけになったのか…さすがに複雑な気分だな」


 からかうような調子に対して、ソウマは真剣な目でタリアを見た。



(忌み嫌われてきた石を齧り取る生物。そこから生み出されるものが……)



「いや、これはただの虫じゃない。世界を変える可能性があるんだ」


 タリアも

「……ああ。もっとすげぇもん作れるぞ」


と興奮気味に笑いを浮かべる。



 サラがすぐにタリアの腕を診ながら小言を言う。


「その前に治療ね!うちの研究員さんたちは生傷が絶えないんだから」


 ミラも隣で何度も頷き、笑顔を隠そうともしなかった。


 その一方で、ルッツはじっとソウマを見つめていた。やがて静かに口を開く。


「ソウマ殿。この成果は必ず役立つ。だが同時に、これほどの技術は領一つでは守りきれません。背後に、もっと大きな後ろ盾が必要になるでしょう」



 ソウマは言葉を返さなかった。ただ心の中で、ルッツの言葉が現実になる日が近いと悟っていた。


 広間の窓から差し込む夕陽が、仲間たちの姿を朱に染める。疲労の色は濃いが、それ以上に再会の喜びが満ちていた。


 ソウマは胸の奥で呟いた。


(虚晶石の人工生成――道が見えてきた。だが次は……国家規模の勝負になる)


 長い影が石畳を伸びていく。その影の先に、新たな戦いの舞台が待っていた。

 


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