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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第六章【見えざる刻限】
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第80話「再会の声」

荒れた山道を馬車の車輪が軋みながら進んでいく。谷を抜け、岩場を離れた一行は、ようやく安堵の空気を少しずつ取り戻していた。御者台で手綱を操るのはザイル。馬車の前方ではカイが騎乗し、警戒するように周囲を見回している。


馬車の中の空気はまだ重い。

だが、血の匂いと汗の匂いに混じって、確かに“生きている”気配があった。



サラは治療を終えたばかりの手を握りしめ、信じられないものを見た顔で呆れ混じりにぼやく。


「……なんで、こんなに治ってるのよ。あれだけ禍石の濃度が高い場所じゃ、ヒールは半分も効かないはずなのに。」


ダンカンは肩を揺らして豪快に笑った。

「はは! 俺の筋肉が魔力を食ってんだろ。便利な体質だな!」


「バカ言わないで…」

サラは呆れたように続ける。


「言っとくけど普通の人なら死んでる傷よ。背中なんて穴だらけだったんだから。あんた、本当に人間?」


「それについては、全面的に私が悪かったよ。どうせ死ぬなら道連れにしてやろうと思ってな!」


 タリアはふざけながらも、ちらりと自分を守った背中に視線を向けた。そこには無数の古傷が刻まれている。幾度も無茶をして、それでも立ち続けてきた証。


 タリアは隣で横になり、左脚を伸ばした。ふくらはぎにはまだ布で巻かれた血痕が残っているが、表情には活気が戻っていた。


彼女の工具袋は無残に裂けている。だが、口元にはおどけた笑みが浮かんでいた。


「……へへ、工具袋まで壊されちまった。でもまあ、命は残ったから御の字か。ソウマのお土産もちゃんと持って帰れたしな!」


「もう!タリアも先生みたいな事言わないの!研究者ってこんな無茶するものなの?」


ミラは二人のやりとりを見て、小さく胸をなでおろした。タリアはいつもの調子――そう思えたのだ。


 

「まあまあ」

ミラが間に入るように声を出す。


手には小型の測定具を握っていた。青い光が脈打ち、針が少しずつ安定していく。


「……濃度が下がってきてる。これなら通信できそうです。ザイル、ちょっと止めてくれる?」


 

 ミラは背負っていた小さなケースを開き、掌に収まる通信機を取り出した。青白い魔石が淡く光を帯びる。


「……ソウマさんに、連絡します」


 ミラは姿勢を正し、魔石に手をかざした。


 ――しん、と空気が張り詰める。


 次の瞬間、石の表面に波紋のような光が走り、声が溢れ出した。


『ミラ! 無事だったか! 今どこにいる!?』


馬車の中に響く懐かしい声に、

ミラの胸が熱くなる。


「はい! 帰りの途中です。ダンカンさんとサラさんも合流しました。詳しいことは戻ってからお話しますが――全員、無事です!」


『……そうか。良かった……!』


 声の奥でリーナの安堵の吐息も混じる。ほんの一瞬だが、重苦しい空気がふっと軽くなった。


 だが、一人だけ目を丸くしていた者がいる。


「お、おい……おいおい! 今の声……なんだ!? 俺の幻聴か? ソウマの声が馬車の中に響いたぞ!?」


 ミラが慌てて説明をする。


「違うよ、幻聴じゃないの! これ、通信の魔道具なんだ。タリアとソウマさんが作ったんだよ」


「魔道具で遠くの声を? まじかよ……」


ダンカンは驚いた顔で

ミラとタリアを交互に見た。


タリアは目を輝かせて、

いつもの調子を取り戻していた。


「まだまだ! こんなの序の口だ。もっとすげえもん、これから作ってやるからな!」



 ダンカンはしばし口を開けたまま黙っていたが、やがて大声で笑った。


「お前、すげぇヤツだったんだな! 俺が命張った意味があるってもんだ!」




 そのやり取りに、ミラもサラも思わず笑った。馬車の中にわずかに灯る温もりは、戦闘の緊張を少しずつ溶かしていく。



---


 一方その頃、街組では。



 宿の机に広げられた地図の上で、ソウマとリーナは通信の終わりを見届けていた。


「……無事だったか。良かった」


 ソウマは深く息を吐き、額の汗を拭った。肩の力が抜ける。


 リーナは微笑みを浮かべて頷く。


「全員生きてる。それだけで十分だ。これで、こちらも腰を据えて動ける」


「そうだな。子爵様との話も、次の段階に進められる」


 ソウマの声には安堵と、静かな決意が混ざっていた。


 窓の外では、夕陽が街を赤く染め始めている。



――危機はまだ終わらない。

だが確かに、この瞬間だけは、街と探索組の心はひとつにつながっていた。



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