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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第六章【見えざる刻限】
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第65話「熱気の中で」


街道の向こうに広がる畑を眺めながら、リーナが口を開いた。


「次に入るのはウォーレン子爵領だ。ここを抜ければアルノルト伯爵領はすぐだ。そこまで行ければ、公爵の直接的な妨害はぐっと減る」


「なるほど……子爵領には何か用事はあるの? ないなら一気に通過できるけど?」


 カイが汗を拭いながら問いかける。


「この暑さだから補給がどうしても必要だ。もともとウォーレン子爵領はアルノルト伯爵領とヴァルシュタイン公爵領の中間地点の宿場町でもある。それに……」リーナは少し声を落とした。


「ウォーレン子爵はもともと農業の盛んな領地を治めていて、中立派。だからアルノルト伯爵寄りだった。でも、ここ数年は公爵との距離が近くなっている――」


「ミスリルか?」俺が口を挟む。


「そう。禍石ばかりで不毛だと思われていた西の山から、ミスリルが出る可能性があるって噂だがおそらく本当だろう。おかげで公爵とも急に親しくなり始めてる」


「つまり、伯爵は子爵を味方に引き留めたいってことか」


「その通り。だから私たちに肥料の販売を通じて、交渉の糸口を探してほしいって頼まれてる」


 カイは「へえ」と低く唸り、肩に担いだ荷を少し持ち直した。


「農業と鉱山、両方握られたら……そりゃデカいもんな」


「交通の要所でもあるから、肥料の流通経路の確保にもなる。かなり重要な場所だ」


それにしても……


喉が焼けるようだった。水筒を口に運ぶが、中身はぬるま湯に近い。


「……これじゃ飲んでも余計に渇くな」カイが顔をしかめる。

「ほんとだよ。冷えた水が飲みたい……」コハルも舌を出している。

「冷えたエールならもっと最高だな」誰かがぼやき、全員が苦笑した。


「なあ、ソウマ」


 隣でタリアがにやりと笑う。


「作ろうぜ!あの、冷やすやつを。絶対みんなビビるぞ!!」


「……そうだな。オスト村を出るときに核の部分のシステムになる虚晶石とミスリルは持って来ている。だから仕組み自体はすぐに再現できる」


「問題は材料か」タリアが腕を組む。


「まともなものを作ろうと思うと、どうしても外側の箱が頼りないな」


「でもソウマ、この暑さだ。今は本格的なヤツじゃなくても、とりあえず冷えればいいだろ?」


 タリアが道具袋を叩いて笑う。


「確かにそうだな、一先ず冷たい飲み物を作るか」


リーナがそのやり取りを聞いて、ふと顔を上げた。


「……今までも冷却の魔道具は作られたと聞いたことがある。けれど、どれも大量のミスリルと維持に膨大な魔力が必要で、有力貴族くらいしか手に入れられない贅沢品だったはずだぞ」


「それは当然だ」俺はうなずく。


「魔力は起こす現象によってコストが変わる。氷を“生み出す”のはゼロから作る力だから、莫大な魔力を食う。だが俺たちが考案した冷蔵庫は違う。熱を箱から外に“逃がす”だけ。現象を移動させるだけなら、コストは桁違いに軽い」


リーナの瞳が一層輝いた。


「つまり、庶民でも手が届くかもしれない……しかもミスリルじゃなくて虚晶石が主原料」


 仲間の視線も集まる。冷たい水、冷えたエール――その一言だけで、炎天下の街道に小さな希望が広がっていった。


「氷を作る方式だと、氷の冷気がまわりに伝わるまでに時間がかかる。しかも氷そのものが魔力の塊で、その魔力を生み出し続けなくてはいけない。だから維持するのに膨大なエネルギーを食う」



俺は手元の板に魔力線を刻みながら、仲間に説明した。


「でもこの方式は違う。庫内の熱を直接外に吐き出す。つまり、水そのものが持っている熱を外へ追い出すんだ。だから一気に冷えるし、氷を発生させる必要がないぶん軽い」


「……なるほど。だから効率が桁違いなのか」リーナが感嘆の声を漏らす。


タリアが満足げに頷いた。


「思いついてしまえば理屈は単純。でも誰もその発想には気づかなかったんだよな」


「結局、俺たちも魔力コストを測れる装置を作れたから分かった事だからな。よし、もう冷えたぞ」


「ほんとか!早すぎる!飲ませて!!」


俺は蓋を開け、水筒を取り出した。


表面に白い曇りが浮かび、手にした瞬間から冷気が伝わってくる。


「……っ、すげえ……」

カイが思わず目を見張った。


水筒を傾けて口に含んだ瞬間、

彼は声を詰まらせる。


「冷えてる! ほんとに冷えてるぞ、これ!」


「ちょっと私も!」

コハルが奪い取るようにして口をつけ、

顔をほころばせた。



「はぁぁ……最高。生き返る……!」



サラも一口すすって目を丸くする。

「これなら夏に痛みやすい食材も守れそうね。薬草も長持ちするかも」


リーナは黙って水筒を手に取り、冷気を確かめるようにゆっくり飲んだ。喉を通る冷たさに一瞬目を閉じ、次に開いた瞳は商人の光で輝いていた。


「……これだ。これなら、誰もが求める生活の道具になる。通信は誰でも軍事目的を思いつくだろうが、これは違う。人々の暮らしを変える!」


「いいね!賛成だ!作ったものは広めなきゃな!」


タリアは賛成のようだ。


ソウマは少し思考を巡らせ、リーナに聞く


「公爵からの圧力が増すんじゃないか?」



「空飛んで逃げてきたヤツがそんな心配するな!」リーナは明るく返事をする


俺は肩をすくめた。


「それもそうか。ただし、材料の問題は残る。禍石、虚晶石と少量だがミスリルも必要だ。公爵領が握っている以上、安定供給は難しい」


リーナはしばらく考え込み、やがて小さく笑みを浮かべた。



「つまり……子爵領の協力がどうしても必要という事になるな」



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