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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第五章【絶望への序曲】
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第59話「揺れる煙」

昼を過ぎた街道は、行き交う人や馬車が目立つようになっていた。


 畑を終えた農夫が荷を積んで進み、旅の一座が歌を口ずさみながら通り過ぎる。人の気配が濃くなるにつれ、ソウマたちの緊張も少しずつ解けていった。


 彼らと合流した小さな荷馬車の商隊を率いていたのは――カイ。


戦う力だけでなく、商人としても着実に成長しているようだ。


「九九はもう完璧だぜ、先生!交渉はまだまだだけどな!」


 背丈も声も、数年前とは違っていた。だが、笑った時の無邪気な雰囲気は変わらない。


「カイは馬鹿正直ですぐに顔に出るからねー!交渉はあきらめてリーナさんに任せたら?」


「ミラにだけは言われたくねー」

「むー、そんな事ないもん!」

「ほら、ふくれっ面」


ミラが珍しく毒づくがカイも負けてない。もちろん冗談だが、ミラにとっては軽口をたたける唯一の存在がカイだった。それは久しぶりに再会した今も変わらないらしい。


「そういえば」

少しカイが真面目なトーンになる。


「リーナ姉は……ちょっと前に襲撃に遭ったんだ」

 馬車の中でカイが切り出した。


「足を少し怪我したけど、軽いものだから心配しないでくれ。今はコハル姉ちゃんが付きっきりで護衛してる。だから安心していい」


「……そうか」

 

俺は胸を撫で下ろした。リーナの顔を思い浮かべる。怪我と聞いてざわついた心は、コハルがそばにいると聞いて少し落ち着いた。


「それにしてもコハル姉ちゃんの武器、すごいよ。ムチ一本で盗賊を薙ぎ倒すんだから。まるで竜の尾みたいだった」


 カイは目を輝かせながら話す。


「ふふん! それ、私が作ったんだぜ!」

 タリアが胸を張って割り込んだ。


「身体強化と共鳴するように組んであるから、あいつに振らせれば凶器になる。自慢の一品だ」


「マジか! なあ、俺にも作ってくれよ!」

 カイが目を輝かせ、ぐいっと身を乗り出す。


「お前……ワンダリンググリムを一刀両断したんだぞ? 十分強いだろ」


 タリアが呆れ半分に笑う。


 だがカイは真剣な眼差しで首を振った。


「まだまだダメだ。俺はもっと強くなりたいんだ。みんなを守れるように」


 その声にこもった熱は、二年前に誓ったものと変わらない。いや、さらに増しているように見えた。


 タリアはしばしカイを見つめ黙ったのち、にやりと笑って頷いた。


「分かった。お前専用の武器、作ってやるよ」


「ほんとか!?」

 カイの顔がぱっと明るくなる。


 二人のやり取りを聞きながら、ふと口を開いた。


「……ひとつ気になる事がある。コハルのムチだが、あれを振るとき妙に好戦的にならないか?武器の影響もありそうだが…」


 タリアは眉を寄せ、少し考え込む。


「……実はな、私も少し気になってた。コハルの身体強化と共鳴させる仕組みを組み込んだことで、身体強化も爆発的に上がったが、そのせいで高揚感を増幅してるのかもしれない」


「そういえば……」カイが頷く。


「コハル姉ちゃん、普段はあんまり使わないようにしてるしな。けど試しに見せてもらったとき、確かにちょっと……戦うのが楽しい、みたいな顔してたかも」


 ミラは不安げに二人を見つめたが、ソウマは静かに息を吐いた。


(……やはり魔道具の副作用か?無視できないが、今は考えても仕方ないか)



---


 やがて街の影が現れた。


 夕暮れの空に黒々とした城壁がそびえ、その向こうからは人のざわめきが響いてくる。


「やっと着いたな……!」


 カイが嬉しそうに声を上げ、ミラもほっと息をついた。カイと合流して男爵軍に捕まるリスクがかなり下がったとはいえ、やはり街に着いたのは大きい。



 門前の検問所には列ができていた。旅人、農夫、商人――それぞれが荷を検められ、通行証を掲げて進んでいく。


 三人と商隊もその列に加わる。長い道のりの終わりに近づき、誰もが気を抜きかけていた。



 その時、ふと何気なく空を仰いだ。


 雲が赤黒く染まり、風が変わっている。鼻を刺すような匂いが一瞬漂った。


「……煙?」


 小さく呟いた声に、カイも顔を上げる。

「……あれ、火事か?」


 城壁の向こう、空へたなびく黒煙がはっきり見えた。


 ざわ……と列が揺れる。


 兵士が慌ただしく駆け出し、誰かが


「街の中で火事だ!」と叫んだ。


 安堵に包まれかけていた空気が、一気に緊張に引き戻される。


 燃え広がる火の粉の行方を追うように、俺は目を細めた。


鼻腔を突く焦げ臭さに違和感を覚えた。



ただの木材や布が燃える臭いじゃない。



油、あるいは薬品……これは人為的に火を広げるために使われた匂いではないのか?



(……偶然の火事じゃない。放火?)


ソウマの胸にざらりとした不安が広がる。



つい先日リーナが襲撃を受けた話を思い出し、背筋に冷たいものが走った。


(大丈夫だ、コハルもいるんだ)


そう自分に言い聞かせるほどに、どろりとした不安が全身にまとわりつき、嫌な予感に囚われる。


そして、それに呼応するように検問の列の動きは鈍くなり、それがさらに焦りを募らせていた。




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