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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第三章【知の灯】
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幕間【隣り合わせの差別】

黒いミスリルは、順調に売れていた。


 だがその日、商隊の店先に立ったのはまだ二十そこそこの若い農夫だった。


「必ず来年払うから……今年だけ分けてもらえませんか!」


 土に荒れた手はひび割れ、爪の間に黒い泥がこびりついていた。


 袋を握りしめる力で関節が白く浮き出ている。声は裏返り、今にも涙がこぼれそうだった。


 けれどリーナは即座に首を横に振った。


「駄目だ。信用しない訳じゃないが、今は“今払える者”にしか売れない」


「でも……! 隣の畑に負けたら、もう立ち直れないんです!」


 声は震え、必死に縋りついていた。


 隣にいたカイの拳が震える。

「リーナさん、少しくらい……」


 しかし彼女は冷ややかに言い切った。


「“少しくらい”を許したら、次に並ぶ誰かが“なぜあいつだけ”と不平を膨らませる。その瞬間、その商売は信用を失い、死ぬんだよ」


 農夫は悔しそうに唇を噛み、足取り重く去っていった。


 カイはじっと背を見つめ、拳を握りしめる。


「……あんなの、間違ってる。俺たちは助けるために――」


「間違ってるよ」

 リーナの声は、思いのほか柔らかかった。



「——商売だから、自分たちには売り先を決める権利がある。女なんかに商隊を率いるのは無理だ。異郷人なんて魔法ができないクズだ。……」


「みんなそうやって、他人にレッテルを貼り、自分は正しいと振る舞って、悪びれもせず差別し傷つける――その刃は無邪気な笑顔の形をしてる」


「そうでもしないと正気を保てないのかもしれないな。差別はそこらじゅうに隣り合わせに存在するんだ…」



 カイは言葉を失った。


「村人は“貴族は勝手だ”って言うけど、貴族だけじゃない。人間は勝手なんだ。……でもね、それを当たり前にしちゃいけない」


 リーナの目は真剣そのものだった。

「だからこそ私は、いつも心に刻んでる。自分だって差別してるんだって。そうしなきゃ、無自覚に人を傷つける側になるから」


 彼女の声には迷いがなかった。

「矛盾を抱えたままでも、私は進む。商隊を大きくして、いつかそれを覆せる力を得るために」


 カイは強く拳を握り、息を呑んだ。


 悔しさが胸の奥で燃える。

 ――いつか必ず、と誓いに変わっていった。


「……だけど、やっぱりあんなの納得できない! だから強くなって、俺のやり方で誰かを救えるようになる!」


リーナはじっと彼を見て、ふっと笑った。

「……いい顔するようになったじゃないか」


「えっ?」


「ちょうどいい。今度の小さい商隊、あんたに任せるよ」


カイの目が丸くなる。

「え、えぇっ!? 俺が!?」


リーナは肩をすくめ、軽く言い放つ。


「私だって矛盾だらけさ。でもね、矛盾を抱えてでも前に進むのがこの商隊だ。……だから、やってみな。失敗したら笑ってやるけど、本気で期待してるよ」


一瞬ぽかんとしたカイだったが、すぐに拳を握りしめ、強く言い切った。


「……上等だ! 絶対にやり遂げる。リーナ姐の期待も、俺の誓いも――全部背負って証明してみせる!」




明日14時に第四章スタートです!


よろしくお願いします!

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