第2話「最初の取引」
※この物語は毎日22時更新予定です。
石畳を歩く。
視線の端で、人々の目がわずかにこちらを避けるのが分かる。
服装がこの街の基準から外れてはいるからだろうか?異質は目立ち、目立てば標的になる。
早めに行動指針を決めたいが、
分からない事が多すぎて判断できない。
学生たちの話していた無双とはほど遠い状況というのだけははっきり認識できた。
そうしている間も、好奇の目にさらされる。
(まずは目立たないようにする事が先決のようだ。このままだと早々にトラブルに巻き込まれそうだ。)
そう決めた途端、悪い予感が的中したと考えざるをえない二人の男が路地から出てきた。明らかにこちらを見ている。
擦り切れた革鎧、腕には縄。
「おやおや、見ない顔だな」
言葉は笑っているが、視線は笑っていない。腰の短剣が光る。(近距離戦用。刃渡りは20センチほど。狙いは脅しと制圧か…)
「旅人かい? なら宿を紹介してやるよ。格安で、安全にな」
その“安全”という言葉の裏に、別の意味が透ける。
(選択肢は三つ。逃げる、戦う、従う。
腕の太さ、立ち位置、武器の間合い。
数値化するまでもなく、勝算はゼロだ。
治安はかなり悪そうだ。
逃げれば最悪背を刺されるか?…従えば……)
男の一人に肩を掴まれた瞬間、後ろから声が飛んだ。
「そいつはウチの客だよ!」
振り向くと、背丈のある女がこちらに歩いてきていた。薄着から見て取れるスタイルは男なら誰もが振り返ってしまうほどの美女だが、同時にナイフのような鋭い雰囲気を纏っていて、目は強く、笑っているのに一切の隙がない。
「おっと、リーナ姐さん……これは知らなかった。すみませんね」
男たちは互いに目配せし、肩をすくめて去っていった。
女――リーナは、ソウマを一瞥し、にやりと笑う。
「珍しい顔だね。あんた、ここじゃ浮きまくりだ」
(自覚はある)と心の中で返しつつも、
口には出さない。
「行こう。こんなとこで立ってると、骨まで売られるよ。あんた、名前は?」
そう言って歩き出す。
(骨まで――。
比喩だろうが、あながち冗談ではなさそうだ)
「ソウマ・アサクラ」
ソウマは名前だけを告げ、一歩、彼女の後をつけた。
足元の石畳は、中央が磨耗して滑らかになっている。長く、多くの人が歩いた証拠だ。
彼女が信用できるかは分からないが、先ほどの男たちと裏でつながっている可能性は低そうだ。油断なく観察する。
すると、リーナはまた振り返り、口元をわずかに上げた。
「なかなかいい目をしてるじゃないか。油断のない目は、商売相手を測るのに似てる」
「私はこう見えて商隊のリーダーをしている。ひとまず、うちの商隊のとこまで来い」
しばらく歩くと荷馬車が見えてきた。思っていたよりも大きい商隊だ。
「……助けは貸しだ。返すつもりがあるなら、ひとつゲームをしようじゃないか。賭けてもらうのは、あんたの命だ。」
その獰猛な笑顔を見て、この世界で生き残るのは、思った以上に簡単ではないと痛感するのだった。
次話もこのあと公開されています。




