第114話「尋問」
孤児院の裏手。
石畳の隙間から土が盛り上がり、二人の男は腰まで地面に埋まったまま拘束されていた。
土はすでに硬化し、身じろぎ一つできない。
そこへ、駆けつけたカイが飛び込んできた。
「……ミラは!?」
ザイルが短く答える。
「攫われた。気絶させられてたから通信もできない。」
その一言で、カイの中の何かが切れた。
「――なんでだよ!!」
怒鳴り声が、抑えきれずに漏れる。
「なんでお前がついてて、こんな事になるんだよ!!」
言ってしまってから、後悔が遅れてやってきた。だが、止められなかった。
ザイルは一瞬だけ目を伏せ、
「……すまん」
それだけを言った。
その沈黙が、余計に胸を締めつける。
そこへ、静かな足音が一つ。
「カイくん。ナイフを」
ルッツだった。
いつもと同じ穏やかな声。だが、目は笑っていない。カイは一瞬迷い、それでも腰のナイフを差し出した。
「なんだぁ?」
拘束された男の一人が、乾いた笑いを浮かべる。
「おっさんがナイフ持ったところで、怖かねーよ。俺たちは何も喋らねぇ」
次の瞬間だった。
ずぶり、と鈍い音。
「――ぎゃああああああ!!」
ルッツは一切ためらわず、男の手のひらにナイフを突き立てていた。
叫び声が宿場町の壁に反響する。
ルッツは表情を変えない。
「そうですか」
淡々とした声。
「では、その信仰がどれほど深いか……見せていただきましょう」
ぐり、とナイフが捻じられる。
「やめろぉぉ!!」
悲鳴が、もはや言葉にならない。その光景を、カイは固まったまま見ていた。
吐き気と、冷静さが同時に胸に湧く。
ルッツは、ちらりとカイを見る。
「カイくん」
声は穏やかだが、逃げ場はない。
「今、君がリーダーとしてすべき事は何ですか?」
一拍。
「最善を尽くした仲間を責める事ですか?」
カイの耳に、別の声が重なった。
――『カイ。お前が現場のリーダーだ。
だが、間違える事を恐れな。人を信じて、任せるところは任せるんだ。
……だが、責任はお前だ。いいな?』
リーナの声。
カイは、深く息を吸った。
「……ザイ」
震えを押し殺す。
「すまない。取り乱した。お前のせいじゃない」
ザイルは何も言わず、短く頷いた。
ルッツはナイフを抜かないまま、続ける。
「では、もう一つ」
静かに、しかし重く。
「ミラさんの数分と、この男たちの一生。あなたにとって、どちらが大切ですか?」
カイは即答した。
「……答えるまでもない」
その目から、迷いが消えていた。血の気の引いた目。拘束されたもう一人の男が、震えながら叫ぶ。
「す、すまん!!全部話す!!だから許してくれ!!」
ルッツは、ようやくナイフを引き抜いた。
「結構」
血を払うように一振りしてから、穏やかに言う。
「では、一人ずつ別々に聞きましょう」
男たちは必死に頷く。
「あとで、答え合わせをします」
ルッツの声は柔らかい。
「……間違っていたら、自分たちがどうなるかはお分かりですね?」
無言の肯定。ルッツは向きを変えた。
「ザイルさん。この手に穴が空いた方は、私たちで聞きましょう。向こうへ連れていきます」
そして、もう一人を見る。
「こちらは――カイくん。任せましたよ」
視線が、完全にカイへ託される。リーダーとしての、最初の“決断”。
カイは、ゆっくりと頷いた。
ミラを取り戻すために。




