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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第八章【並び立つ者たち】
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第114話「尋問」


 孤児院の裏手。


 石畳の隙間から土が盛り上がり、二人の男は腰まで地面に埋まったまま拘束されていた。


 土はすでに硬化し、身じろぎ一つできない。

 そこへ、駆けつけたカイが飛び込んできた。


「……ミラは!?」


 ザイルが短く答える。


「攫われた。気絶させられてたから通信もできない。」


 その一言で、カイの中の何かが切れた。


「――なんでだよ!!」


 怒鳴り声が、抑えきれずに漏れる。


「なんでお前がついてて、こんな事になるんだよ!!」


 言ってしまってから、後悔が遅れてやってきた。だが、止められなかった。


 ザイルは一瞬だけ目を伏せ、

「……すまん」


 それだけを言った。


 その沈黙が、余計に胸を締めつける。

 そこへ、静かな足音が一つ。


「カイくん。ナイフを」

 ルッツだった。


 いつもと同じ穏やかな声。だが、目は笑っていない。カイは一瞬迷い、それでも腰のナイフを差し出した。


「なんだぁ?」


 拘束された男の一人が、乾いた笑いを浮かべる。


「おっさんがナイフ持ったところで、怖かねーよ。俺たちは何も喋らねぇ」


 次の瞬間だった。

 ずぶり、と鈍い音。


「――ぎゃああああああ!!」


 ルッツは一切ためらわず、男の手のひらにナイフを突き立てていた。


 叫び声が宿場町の壁に反響する。

 ルッツは表情を変えない。


「そうですか」


 淡々とした声。

「では、その信仰がどれほど深いか……見せていただきましょう」


 ぐり、とナイフが捻じられる。


「やめろぉぉ!!」


 悲鳴が、もはや言葉にならない。その光景を、カイは固まったまま見ていた。


 吐き気と、冷静さが同時に胸に湧く。

 ルッツは、ちらりとカイを見る。


「カイくん」


 声は穏やかだが、逃げ場はない。


「今、君がリーダーとしてすべき事は何ですか?」


 一拍。


「最善を尽くした仲間を責める事ですか?」

 

カイの耳に、別の声が重なった。


――『カイ。お前が現場のリーダーだ。

 だが、間違える事を恐れな。人を信じて、任せるところは任せるんだ。

 ……だが、責任はお前だ。いいな?』


 リーナの声。

 カイは、深く息を吸った。


「……ザイ」

 震えを押し殺す。


「すまない。取り乱した。お前のせいじゃない」


 ザイルは何も言わず、短く頷いた。

 ルッツはナイフを抜かないまま、続ける。


「では、もう一つ」


 静かに、しかし重く。

「ミラさんの数分と、この男たちの一生。あなたにとって、どちらが大切ですか?」


 カイは即答した。


「……答えるまでもない」


 その目から、迷いが消えていた。血の気の引いた目。拘束されたもう一人の男が、震えながら叫ぶ。


「す、すまん!!全部話す!!だから許してくれ!!」


 ルッツは、ようやくナイフを引き抜いた。


「結構」


血を払うように一振りしてから、穏やかに言う。


「では、一人ずつ別々に聞きましょう」


 男たちは必死に頷く。


「あとで、答え合わせをします」


 ルッツの声は柔らかい。

「……間違っていたら、自分たちがどうなるかはお分かりですね?」


 無言の肯定。ルッツは向きを変えた。


「ザイルさん。この手に穴が空いた方は、私たちで聞きましょう。向こうへ連れていきます」


 そして、もう一人を見る。


「こちらは――カイくん。任せましたよ」


 視線が、完全にカイへ託される。リーダーとしての、最初の“決断”。


 カイは、ゆっくりと頷いた。


 ミラを取り戻すために。


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