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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第八章【並び立つ者たち】
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第105話『聞こえる…』

生まれつき、世界は俺に均等ではなかった。

貧乏男爵家の、さらにその使用人の子どもとして産み落とされた瞬間から、俺の分け前は決まっていた。皿の数も、寝床の広さも、与えられる言葉の温度も。すべてが欠けていた。


だが俺には、ひとつだけ与えられすぎたものがあった。

――人の心の声だ。


目の動き、舌の湿り、指先の震え。

言葉と態度の隙間から、心の奥底にある醜い本音が覗く。子どもの頃からそれが見えすぎた。だから俺は苦しかった。母は「大丈夫」と笑いながら心の中で「生まれなければよかった」と呟く。村人は「よく働くな」と褒めながら「無駄飯食い」と舌打ちする。

俺にとって世界は、絶え間なく嘘を流し込んでくる牢獄だった。


男爵も例外ではない。

領民の苦しみには背を向け、自らの欲望だけを満たす。酒、肉、女。それが尽きれば苛立ち、拳を振るう。

夫人は冷たく、だが夜には俺を呼びつけるようになった。まだ子どもの俺に。

あの肌の熱と匂いを、俺は今でも忘れない。嫌悪より先に、胸の奥底で燃え上がったのは――破壊への衝動だった。


「ああ…そうだ…全部壊してしまえばいい」

そう考えるようになったのは、この頃からだ。


夫人を操るのは容易だった。

ほんの少し言葉を選び、心に寄り添うふりをすればいい。彼女は俺に傾き、やがて夫を殺した。

男爵家は取り潰され、俺は解き放たれたのだ。


街へ出て、俺はルシアンと出会った。

奇妙に派手な身振り、舌先三寸で人を騙す男。俺が筋書きを描き、彼が舞台に立つ。詐欺の興行は恐ろしくうまくいった。俺たちは最高の相棒だった。

だが、彼の欲は小さすぎた…


その場の金

その場の女

その場の喝采


俺が欲するのは違う。もっと大きな、もっと冷たい、もっと鮮やかな崩壊……崩れていく…音が聞きたい…


だから一時、彼と距離を置いた。

盗賊団に入り、頭目を手玉に取って組織を動かす。

盗賊団も面倒になった。だから壊す事にした…

公爵領でその盗賊団ごと罠にかけ、俺だけが生き残り、公爵の特殊工作員として拾われた。


任務で帝国中を巡る途中、ある古びた書庫で一冊の魔導書を見つける…


闇魔法


誰も解き明かせず放置されていたその本を、俺は読み切り、己の中に刻んだ。

影を縫い、心を縛り、存在を削る術――それは俺が抱え続けてきた衝動に、見事に噛み合った。



ルシアンとの再会は偶然だった。

相変わらず詐欺で食いつなぐ彼に、俺は言った。

「舞台を大きくしろ。信者を集めろ。教祖になれ」

彼は乗った。俺が書き、彼が演じる。

そうしてセオグラシア教団の炎が灯った。


さらに、俺はひとりの男を助け出した。名はゲオルグ。皇帝の反感を買い全てを失った男…力に飢え、復讐に渇いた獣。俺の計画に使える駒だ…

コイツは操る必要もない…自ら破壊へすすむようだ……


そして、俺は出会った!!


ソウマ――異郷人


ああ、ああ、ああ……なんて醜く、なんて美しい。

魔法も持たず、無力で!!


足元に転がる虫けらのようなのに。


なのに、世界を動かす音を立てる。歯車を噛み合わせ、景色を塗り替える、コイツだ!コイツが世界を狂わせる主人公だ!みつけた。


そうだ、贈り物をやろう…

俺の大切な本…



壊してやりたい!

息の根を止め、その眼から光を奪いたい。

けれど……もっと見たい。もっと。もっと…


仲間もいい!!コイツらの

笑う顔を。泣く顔を。

愛に縋る顔を。絶望に沈む顔を。

すべて見たい…



やっと幕が空いた……



崩壊が始まった…



聞こえる…



聞こえる…



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