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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第七章【契りと誓いの帝都】
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第104.5話「恋と酒と帝都の夜」

 帝都滞在最後の夕方。陽が傾き始め、石畳の街路に橙色の光が長い影を落としていた。


 昼の喧騒をそのまま引きずるように、通りのあちこちで屋台の灯がともり、香ばしい肉の匂いと甘辛いソース、香辛料の刺激が入り混じって風に乗って流れてくる。行き交う人々の声は賑やかで、祭り前夜のような高揚感が街全体を包み込んでいた。


 宿舎の前で、カイが拳を握りしめた。


「……よし、行く!」


「どこにだよ」


 ザイルが面倒くさそうに肘をついて壁にもたれかかる。


「ミラを……夜の帝都に連れ出す! いや、これはデートだ!」


 カイは妙に真剣な顔だった。


「……やめとけ」


「なんでだよ!」


「お前なぁ……帝都舐めんな」


 ザイルの苦い顔も聞かず、カイは勢いよく宿舎に入り、ミラを半ば強引に誘い出した。ミラは少し戸惑いつつも、夜の街並みに興味津々といった表情で、素直についてきた。



---


 二人は屋台で串焼きを買い、通りを歩き、ちょっとした土産屋をのぞき――。

 カイは内心ドキドキが止まらない。ミラが楽しそうに笑うたびに、胸の奥がじんわりと熱くなる。


 だが、帝都の夜はそう甘くなかった。


「……ちょっとお手洗い行ってくるね」

 とミラが屋台の裏へ消えたその数分の間に――


「やあ嬢ちゃん、ひとり?」

「君、地方の子だろう?案内してあげようか?」


 気づけば、周囲には軽く3人のナンパ男が集まっていた。


「なっ……!! おい! そこ、俺の仲間だ!!」


 カイは慌てて割って入り、威嚇するように肩を広げた。


「なんだよ、男連れか?」


 地元の若者特有の圧。カイは即座に睨みを返し、魔力を滲ませた一喝でようやく撃退。


 その後も、串焼きを並んで食べているだけで二度ほど声をかけられ、最終的に――


「……疲れた……」


 宿舎に戻ってきた頃には、カイは肩をぐったり落としていた。



---


 玄関前で待っていたザイルが、呆れ顔で迎える。


「……だから言っただろ?」


「……帝都、恐るべしっ……!」


「お前、分かってねぇな……」


 ザイルは大げさにため息をつき、指を一本立てた。


「いいか。そもそも――うちの商隊の女のレベルが高すぎるんだよ」


「は?」


「リーナ、タリア、コハル、サラ、ミラ……全員美女だ! 帝都でもあれだけ揃うのは珍しいぞ。お前は目が肥えてんだ」


 カイは無言で頷く。確かに、それは否定できなかった。


「だがな――他の四人とミラには決定的な違いがある!」


 ザイルが身を乗り出す。カイはごくりと唾を飲み込んだ。


「……な、何だ?」


「ミラは、美女の中でも圧倒的に声をかけやすい!!」


「――!!」

 カイは息を飲んだ。


「想像してみろ。全員が知らない女だったとして、街角で話しかけるとしたら……」


 ザイルの言葉に、カイの脳裏に情景が浮かぶ。


 リーナ:『なんだ少年、暇なら仕事でもしてろ』

 コハル:『弱いヤツ、嫌いだから』

 タリア:『バーカ! 一昨日きやがれ! ギャハハ!』

 サラ:『……何かよう?さようなら』


 そして――ミラ:『はい、なんでしょうか?』と微笑む。


「…………なるほど」


 カイは思わず納得の声を漏らした。


「言っとくがな……ミラは競争率一位。しかもダントツに!そこんとこ、勘違いするなよ」


 ザイルの一言に、カイは頭を抱えてその場に崩れ落ちる。


「うおおおおお……!!」


カイはその場に崩れ落ちた。



---


「何やってんだお前ら」

 そこへタリアが姿を現す。作業着を脱いで軽装に戻った姿だ。


「……彼は今、落ち込んでる。そうっとしといてやれ」

 ザイルが深刻な顔で答える。


「はあ?」


 と、そこへ次はおめかしをしたサラが通りかかる。控えめな化粧とドレス風の服に、二人は思わず目を見張った。


「……エルとの約束?」


 サラは少し照れながら、こくりと頷く。そして嬉しそうに足早に去っていく。


タリアが目を細める。「……何回目?」


「四回目だ! これは騙されてるだろ!」


「いや、エルはその辺もしっかりしてる。興味のない子を何度も誘うような奴じゃない」

 タリアがニヤリと笑う。

「これは――本当に脈ありかもな」


「うおおおお!」

 ザイルが頭を抱える。


「何やってんだお前」

 タリアが呆れると、カイがニヤリと返す。


「……彼は今、落ち込んでる。そうっとしといてやれ」



---


 そこへ、背後から大きな声。


「タリア! 今日も飲みに行くぞ! 今日こそは!!」


 ダンカンだった。目が血走っている。


「私はただで酒が飲めるし、別にいいぞ」


「ぐぬぬ……今日こそは……! あの約束、覚えてるだろうな!」


「なんだぁ? 僕ちゃんはそんなにご褒美が欲しいんだな」

 タリアが艶っぽく顎を撫でて挑発する。


「勝利の美酒を飲みながら、お前を抱いてやる!!」


 その目はまさに戦士の眼光だった。


「じゃ、行ってくるわ」

 タリアはひらりと手を振り、カイとザイルの横を通り過ぎていった。



---


「……しかし、ダンカンより酒強いって、どんなだ?」

 カイがぼそっと呟く。


「先生が言ってたけどな……タリア、酒を解毒する魔道具持ってるんじゃないかって」


「え?もしそうなら、絶対勝てないじゃん……」


「カイ、よく見とけ。あれが――色香にほだされた男の末路だ……俺たちは男だけで飲みに行くか!」


「そうだな!」


カイとザイルは別の店で飲むことにした。





—-「だけどよー、カイ」


お酒もずいぶん進み、ほろ酔いのザイルが話し始める。


「俺たちも、あれくらいバカになった方がいいのかもな….」


「少なくとも、あの積極性は大事だな….」




—————



 その夜、ダンカンは予想通り酔いつぶれた。


「まいどあり〜」

 勝ち誇るタリアの声が夜風に響く。


「なぜだ……なぜ勝てない……」

「それは、僕ちゃんが弱いからですよー(酒じゃなくて頭がな)」とタリアがぼそっと突っ込んだ。



(……ソウマはたぶん気づいてるだろうな。やっぱり男は、頭が良くないと張り合いがないなー)


そろそろ帰ろうと、そっと席を立つタリア。

テーブルに突っ伏しているその背中の服の影から、傷跡が見えた。自分を庇って負った傷跡だ。


「こんなに頑張ってんだから、参加賞くらいはあげようかな」


そう言って、そっと頬に口づけをする。



ひとりで帰るタリアは、月を見上げてご機嫌で小さく笑った。


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