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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第七章【契りと誓いの帝都】
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第98話「妙案」

 アルノルト邸の応接間には、重い沈黙が満ちていた。議会から戻ったアルノルトが、リーナたちを前に腰を下ろす。


 様々なアイデアが必要との事で、商隊の主のメンバー、そしてウォーレンとハルトヴィッヒも同席している。夜の帝都は不穏なざわめきに包まれているが、それ以上に、この場の空気は張り詰めていた。


「……ヴァルシュタイン公は、技術者を公の場に引きずり出すつもりだ」


アルノルトが低い声で切り出す。


 議会での一連のやり取り――あの老獪な笑みと提案の真意を、誰もが理解していた。


 貴族たちの興味と敵意が一斉に集中する。技術を奪うか、潰すか。どちらに転ぶとしても、危険な場になるのは明白だった。


「そんなこと……絶対にダメです!」

リーナが即座に声を上げた。


「ソウマをそんな場所に立たせるわけにはいきません!」


 その強い言葉に、アルノルトもうなずく。


「同感だ。彼を矢面に立たせるのは、あまりに危険すぎる。だが――代わりの“技術者”が必要になる」


 視線が、自然とタリアへと集まった。


「……えっ、ちょっと、待ってよ」


タリアは両手をぶんぶんと振った。


「いや、いや!私は絶対に無理!! お貴族様の会話なんてできない! ボロが出ちまうよ、勘弁してくれ!」


 アルノルトはタリアの様子を見て、静かにリーナへと視線を送る。


 リーナも苦笑して小さく頷いた。


「頭はいいんですが……そういう場の腹芸は、タリアには無理です」


「だろ!!」とタリアが安堵の声を上げた。


「そりゃ、私だってソウマを守ってやりたいけどさ……逆に変な事になっちまいそうだし、すまん」



「私が出席します」


 次にリーナ自身が出ると申し出た。

だが、すぐに否定される。


「君なら確かに貴族とも渡りあえる。だが、おそらく公爵側も技術者を用意するだろう。詳細な話をぶつけられたとき、太刀打ちでない」


アルノルトの言葉に、リーナも悔しそうに唇を噛んだ。


 場が再び重苦しく沈む。


 アルノルトは一呼吸置き、全員を見渡した。そして、ためらいなく口を開いた。


「――ソウマ殿。リーナ殿と結婚しなさい」


「……えっ」

「なっ……!?」


 部屋の空気が一瞬、爆発した。リーナは思わず立ち上がる。


「アルノルト様、な、なぜそのようなことを急に!!」


「リーナ殿の準男爵位は、議会で事実上決まった」

アルノルトは淡々と続ける。


「完全な防壁ではないが、“異郷人”単独よりも、準男爵位を持つ者の配偶者のほうがよほど扱いが違う。……少なくとも、あの場で貴族たちに好き勝手はさせない“盾”にはなる」


 ルッツが「なるほど……!」と小声で感心し、ウォーレンとハルトヴィッヒも深く頷いた。


「確かに、理にかなっている」

「政治的な効果は大きいでしょうな」


 場の空気は一転、祝福めいたざわめきに包まれた。




 だが――当の二人とミラだけは、明らかに複雑な表情だった。


「なんだ?私はこう見えても長年、貴族として多くの人間を見てきた」


アルノルトはゆったりと椅子にもたれ、

微笑を浮かべた。


「人を見る目には自信がある。……君たちはもう、そういう関係なのだろう? だからこその提案だ。何を迷うことがある」


「っ……!」


 ソウマとリーナは目を合わせ、同時に視線を逸らした。

 リーナの頬はわずかに赤く染まり、俺は少し気まずくなり頭を掻いた。


「……少し、時間をください。急に結婚となると……色々と、考えたいことが……」


「いいじゃねえか!別にその話がなくても結婚しちゃえよ!」


タリアが乗っかって祝福ムードになる。

ダンカンも同じ意見だ。


「しみったれた話ばかりで疲れてたとこだ!最高じゃねえか!」


「リーナ、おめでとう!」

コハルはもう祝辞だ。


「だから、まだ少し考えるって言ってるだろ!」

リーナは普段見せないほど動揺を隠せない。


それを見てザイルがここぞとばかりに攻める。


「めでたいな!これはお二人さんの子どもを拝むのもそう遠くなさそうだ!」


それを聞いたリーナが顔を真っ赤にしてザイルの頭を思いっきり叩く。


「ザイ!調子に乗りすぎだ!!殴るぞ!」


「もう殴ってるじゃねえか!痛ってえな!良かったじゃねえか、こんな暴力女でも相手が見つかったんだからよ!!」


「もう!貴族の方がいらっしゃるのに!やめなさい、あんたたち!」


とサラもザイルの頭を叩く。


「何で俺ばっか……」


広間はひとときの祝福と笑顔に包まれた。



「とにかくだ」


アルノルトはうなずき、再び真剣な表情に戻った。


「これはあくまで一つの策だ。完全ではない。もっと良い対策があれば、それに越したことはない」


 重苦しい空気は残ったままだが――それは、戦略を立てる者たちの沈黙だった。


 一週間後、ヴァルシュタインとの“対面”を前に、彼らは重大な選択を迫られていた。


一週間後、答えは否応なく示される。





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