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尽くし

昨今の天気は本当に可笑しい。




さっきまで熱かったのに、急に大雨が降り始め登校の邪魔をする。




傘持っててよかったけど、傘持ってないやつは災難だな。なんて思いながら通学路にある駄菓子屋を通りかかる。




最近は駄菓子屋も減ってきてこの辺では生きた化石なんて呼ばれているまあまあ有名な駄菓子屋だ。




かくいう俺も子供の頃は世話になった場所、今ならちょうど雨宿りしているやつもいる……




「あっ……おはよう」


「……おはよう」




静川さんが雨宿りしていた、なんてこった。




して、自分の脳内会議秒速終了




するしかないよな?そもそも今さらのようなものだ、おんぶしたり膝に座らせたり距離感は既にお無くなりになられてるんだから。




だから




「一緒に行く?」


「え……!う、うん!」




――相合傘ぐらい、大丈夫だと思いたい




とてとて、ちょこちょこ、と聞こえてきそうな歩幅で歩いてきて傘に入る静川さん。もう幾度と無く鼻腔をくすぐる花の匂いが、逆に心を落ち着けてしまう。




毒されてきたとでも言うべきか、ドキドキはしても、無言であっても。




居心地は悪くない。




◆◇◆◇◆




教室に入ればなにもなかったかのようにそれぞれの席に別れた。




相変わらず雨は振っていて、まともに登校できている生徒もまちまちと言ったところか。




雨の具合にもよるけど休校になるんじゃ……




そう思うと少し悲しくなった。




今日は、本を一緒に読めるのかな?




友人はまだ来ていない、教室に居る人もまちまちだ。




だから……良いんじゃないかな?




「静川さん、なに読んでるの?」




俺は、図書室以外の君も知りたいんだ。




「青空……君」




満月のような瞳を、ぱちくりとさせてこちらを見る静川さん。彼女は少し嬉しそうに、本を閉じた。




「恋愛小説、読んでた」


「……そっか」




すぐに途切れる会話、それを途切れさせまいと彼女はリュックを開きある本を取り出した。




【青い夏】俺達がいつも図書室で読んでいる小説だ。




「借りてたの、一緒に読も?」


「――うん」




断る理由なんて、あるわけない。




して、席を立ち上がる静川さん




「うん?」


「図書室、行こう?」




何故ここではなく図書室なのか、分からないながらも後を付いていく。




図書室にはいつものように人は居ない、いつもより静けさに磨きがかった図書室。




だからか、今は静川さんと二人なのだと余計に緊張を煽られる。




そして彼女はいつもの席、俺の席を引いて待つ。




「そ、そう言うこと?」


「うん……座って?」




昨日と同じく、膝に座るらしい。俺の膝のどこがいいのか分からない。




俺が席に着くとまだ少しぎこちなく彼女も膝《席》に座る。またしてもすっぽり収まる。




彼女は俺に顔を向けて、微笑んだ




「今日も、よろしくお願いします」


「……こちらこそ」




雨の音をバックに、本を読み進める。心臓がバクバクして、今にも破裂しそうだ。時間帯少し違うだけでこれなんだからおかしい。




……すぐ目の前に、膝の上に静川さんが座っている。雨がうるさいはずなのに彼女の息づかいが鮮明に聴こえてきた。




心臓も、雨も、俺も。全部うるさい




このまま手でも触れてしまえば、俺はどうなっちゃうんだろう……




生憎、答えは誰からも帰ってこなかった。






◆◇◆◇◆




結果としては休校なんかにはならず授業は無事に開始、今日もまた平和に昼休みがやってきた。




「よっ、さっきぶり」


「うん、さっきぶり」




俺と静川さんも案外打ち解けられたのだろうか、最初のように変に間が空いたりすることもあまり無くなった。




席に座れば彼女も膝に座る。今日もまた、いつもの読書タイムがやってきた。




読んで、捲って。そんな事を何回も繰り返していたらもちろん静川さんの事も結構分かってくる物だ。




どんなカタルシスがあっても表情にこそ出ないが、彼女の場合は手に出やすい。




怖いときは本を読む手が震えるし、嬉しかったり面白かったりするときは小指が動く。




他にも……




あれ?よくよく考えたら気持ち悪いぐらい静川さんの動きを見ている気がする。




これはいけない、完全に沼じゃないか




◆◇◆◇◆




昼休みはあっという間に終わり、またしても外廊下を駆けた後。そして授業を終えた放課後




バスケの練習に精を出す




シューティングのウォーミングアップがてらツーポイントを予備動作の少ないノーモーションと頭の上で一旦止めてから放つツーモーションを切り替えながらシューティングしていく。




シュート




シュート




シュート




昼間は静川さんと本を読んで、放課後はバスケ。それが今の俺の一日のルーティンだ。




「やっぱ青空はシュート上手いなあ」


「お前に言われたかねぇよ、レイアップ職人」




部活仲間と話をしながら水を飲む、スポーツドリンクもいいけどやっぱ水だな。




「ん?」




ふと、図書室から視線を感じて目を移す。




窓に映るあの人影は……静川さん?




あ、シュート外れた……




◆◇◆◇◆




「お疲れ~!」


「お疲れ」




部活も終わり部員達がぼちぼちと校門を通りすぎていく中、俺だけは校内に入っていく。




静かな外廊下を歩いて、図書室のドアを開けば彼女がいた。




「――あぁ」




朝の雨が嘘のようにいつもの席に座り晴れた空から覗く夕陽に照らされる彼女の横顔は、




綺麗だ




「青空君?」


「よ、よぉ」




席を立って、とてとてと歩いてくる




「どうしたの?部活は?」


「今終わったところだよ。静川さんこそ、こんな遅くまでどうしたの?」


「……私?私は図書委員だから、今日は居残り」




確かに机に整理していたのだろう本がならんでいる




「そうだったんだ、実はさっき窓越しに静川さんが見えてさ」


「み、見えてたんだ……す、少し気になってみてただけで別に深い意味とか無いから」




俺ではなく、自分に言い聞かせるように背を向けた彼女が本を本棚に入れていく。




少し上に本を入れようと背伸びをする彼女を見て――




「あ――」




助けずには居られなかった




本を持って背伸びした彼女の手と、それを押さえる俺の手




あっさりと、手が重なった。




呼吸が、乱れる。




「……助けが居るならさ」




――でも、壊したくないんだ




君とのこの関係を、一生続けていたいんだ。




「部活の後なら、いつでも手伝うよ」




――尽くそう




彼女のためなら、なんでもできそうなんだ。




……夕陽に照らされた彼女の顔が赤かったのは、きっと見間違いじゃない。




だって――俺だって同じ顔をしていただろうから。









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