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開始早々、距離感は旅に出ました

今日も今日とて、昼休みがやってくる。


まるで昨日のことが夢だったかのように俺と静川さんの間に接触は無かった。


彼女はいつものように窓際で本を読み、俺はいつものように友達と笑い合う。


ふと、本当に昨日はあったのかと不安になって食事が進まない。


……確かめるにはきっと、また図書室に行く必要がある


「な、今日二年のクラスに行ってみようぜ!」

「お前は美人の先輩とお近づきになりたいだけだろうが、まあ行くけど。青空は?」


バスケで知り合った友人二人、いつも馬鹿やってるメンツで普通なら断る訳もないんだけど……


――さっき、静川さんが教室を出たんだ


「すまん、用事ある。たぶん、後数日は昼休み埋まってるわ」


席を立って図書室に向かう。……この胸の高鳴りが知りたくて、あの娘とまた話してみたかったから。


◆◇◆◇◆


――昨日帰った後私はずっと上の空のまま一日を終えた。


それはちょうど昼休みに図書室であった男の子に関係している。


私とは違って、背が高くて友達が多い。クラスの中心人物ではないけど影響力もある青空君と、手が重なってしまったあの時。


――そんな彼に、呼び止められてしまったあの時


気遣いがしっかりできて、一緒に本を読んでも何故か居心地も悪くない。


知り合ったばかりのはずなのに、まるでずっと前から一緒に居たように思えた。


気づかれないように横を見れば見るたび表情がコロコロと変わって、意外と可愛かったり。


時折見せる笑みに心がドキッとした。


それに――


「うぅ……」


持ってきた本で顔を隠す、きっと今の顔は……だらしない。


間違いだったんだ、きっとアドレナリンのせいなんだ。


彼の逞しい背中におぶられて、外廊下を駆けたあの昼が


――どうしても頭から離れない


教室に着いた私は扉の前で下ろされて、目を合わす。


息も絶え絶えで、それでも笑顔の耐えない彼に言われたんだ。


――また明日って。


昼ご飯は食べた、青空君はすぐそこに居るけど。友達が居て話すのが怖い。


だから、図書室で待とう


きっと昨日が夢じゃないことを祈って。


◆◇◆◇◆


図書室の扉を開けば、昨日と同じ席に彼女が座っていた。


妙にそわそわしていてふわふわの茶髪をくるくると指で弄っている。


この仕草を可愛いと思うのはもう末期なのか?


……落ち着け桔平。昨日の事を確かめに来ただけだろう。


「……こ↑んにちは、静川さん」

「あっ……」


やっべぇ上擦った、この空気耐えられないんだけど?だれか助けてー!


「うん……こんにちは、青空君」


――どうやら杞憂に終わったらしい、そう思ったの彼女の手元に昨日の【青い夏】が握られていたからだ。


だからきっと大丈夫なはず、隣に座れば小柄な彼女がより一層感じられる。


軽い花のような匂いが鼻腔をくすぐって、今の状況が現実なのだと脳に叩きつけられた。


「続き……読もうか」


静かに頷いた彼女を見て、昨日の続きまでページを走らせる。


……またしても始まる、無言の時間。でもやっぱり居心地が悪いどころか良いんだ。


捲って読んで、捲って読んで。たまに首が痛くなって首を鳴らす。


その度に静川さんはこちらを向いて申し訳なさそうな顔をするけど別に良いから気にしないで良い言った。


――今日もまた、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


「「あ……」」


二人の時間はもう終わりか。


二人の声が重なって、少し切なく感じる。


だから、横を見て約束する。


「また、明日読まない?」

「……うん!」


そう頷いた彼女は、少し嬉しそうだった。


まあそうこうしてると教師に怒られるので、彼女に背を向けて屈んだ。


「嫌じゃなければ、また後乗車はいかがですか?」

「ふふっ……ありがと」


多少は打ち解けられたかな?クスクスと笑う彼女が、ぎこちないながらも背中に乗った。


今日もまた、外廊下を駆け抜ける。


◆◇◆◇◆


「お姉ちゃん、どうしたの?ニヤニヤしてて気持ち悪い……」

「べ、別にいいじゃん……」


そう言って恥ずかしいから本で顔を隠す。さっきから口元のにやけが隠せない。


お母さんにはなんか暖かい目で見られるし妹にもバレバレ。


もう……!


このままだと毎日ニヤニヤすることに……!


でも、青空君と本を読むのは落ち着くし。この関係を私は手放したくない。


「――!――!」

「お姉ちゃんうるさいってばぁ!」


結局、妹にはせめて【青い夏】を読み終えるまでは我慢してもらうことになりそうだ。


――あ、そういえば青空君頻繁に首痛そうにしてる気がする。


別に良いって言ってたけど、どうしようかな……まだ数日だけど。いつもおんぶしてくれたり、細かい所でも彼は気をつかってくれる。


そしてそれはきっとこれからも


だから……少しぐらい、私も何かしてあげたいな


◆◇◆◇◆


「こんにちは、今日も読もうか」

「……うん」


なんか……横からじっと顔を見られてる気がするけど、まあ良い。


昨日の続きの二章後半から、読み進める。


読んで捲って、読んで捲って。


…………


…………やっぱり視線を感じる、しかも真横から。


横に居るのは誰か?それはたった一人で……横を見ればやっぱり満月のような瞳と目が合う。


「えーと……どうしたの?」

「――っ」


彼女の瞳が揺れて、右往左往する。


小さな体が揺れて、また揺れて、やがて覚悟決まったように――


「えっ?」


……膝に乗った


すっぽりと収まって、花のような香りが更に鮮明になる。


赤く染まったその顔が、上目遣いでこちらを見上げて言ったんだ。


「こ、これで首痛くならないよね?」


確かにちょうどいい位置で彼女の手にある本が見える、首も痛くならないだろうし格段に便利ではあるけど。


色々柔らかい、いい匂い=やばい


そもそも彼女がこんな大胆な行動に出るとは思っていなかったし……ああもう、なんか言わないと。


「……ありがとう――でもさ?距離感壊れてない?」


つい突っ込む俺に彼女の顔が更に赤く染まる、薔薇のように綺麗だ。


「……たぶん、どっか行っちゃった」

「そっかぁ……」


きっとこの少女は、見た目とは裏腹に決めた事は絶対にやるタイプなのかも……まったくもって離れる気配がしない。


あっ……


ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴り、凍りついた空気が動き出す。


本を閉じて元に戻し、無言で腰を落とせば彼女が乗る。


本格的に夏が来たのか、それ以外の要因か。


――妙に背中が熱かった


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