青い夏
高校一年の初夏、まわりとの人間関係。クラスでの上下間系などがある程度固まった頃。
バカ言って騒げる友達はできたし、他のクラスメートとも関係が悪いわけでもない。部活はバスケを選んで、ほどほどに頑張って。
不満はあまり無い……いや、あると言えばある
高校生と言えば思春期の真っ只中。俗に言う恋に恋をする奴らが大量に居るし、そう言う話しも日々尽きない。
だからその熱気に当てられたんだと思う。彼女が欲しくなった。
決して友人に彼女ができて嫉妬しているのではない。
……少しはあるか
でも俺自身特段女子にモテる程顔が良いわけ無し
女子を自在に楽しませる話術も無し
つまり論外
そして一番大切なこととして……相手が居ない。
居るわけ無いよなぁ……そもそも高校デビューからまだ数ヶ月だぞ?彼氏彼女ができる方が異常だと思う。
――それに
好きって、そう軽い物じゃないと思うのは。俺だけ?
◆◇◆◇◆
『図書室では静かに』
昼休み、昼御飯を食べ終え。足を運んだのは既に何回も見た張り紙の張られたドアの先にある図書室、入るとすぐに本棚の物色を始める。
恋愛小説が好きだ、日常が過ぎていくなかで少しずつ距離の縮まっていくような小説が。
それはきっと、恋に恋してるからではない。そんな純粋で裏切らない愛が、好きが。小説には存在しているから。
――ふと気になった本があったので、手を伸ばす。腰当たりにある、『青い夏』と書かれた本。
――伸ばした手は、かすかな体温を宿す手に重なった。
「えっ」
「っ!」
始めて見た印象は『小さい』、自分の半分……いや半分以下に見えるな。
小柄な少女のネクタイは赤い。俺と同じ一年生、さてここで脳をフル回転させよう。
目の前で丸い茶色の瞳を揺らしながら、ポカンとする美少女に。俺は心当たりがあるのかと。
「――あぁ、静川さん……?」
思い出した、席は確か一番後ろの窓際。クラスでも存在感はかなり薄く、たまに青空を横に本を読んでいる。
にしても……近くで見ると、意外とかわいいな。
「あ……え、と。」
脳のロードが終わったのだろう、小さく声を出しながら本から、いや俺の手からその小柄な手を離したのが彼女だった。
怯えた様子で、後ずさる。そんな彼女をそのままにしていいのか?
「……待って」
答えは否だ、この謎に保護欲がそそられる美少女を放ってはおけない。
彼女の動きが止まる、先ほどは違い。困惑した様子で。
だからこそ、気が狂ったのか俺は……
「一緒に、読まない?」
手を重ねてしまった、ある種の運命を引き起こした本を片手に、提案していた。
◆◇◆◇◆
「……」
「……」
なんて事をしてしまったんだ……
図書室には他の生徒も居るはずなのに、すごく気まずい。
当の静川さんも席に座って微塵も動かないし、完全に蛇に睨まれた蛙状態。
さてどうしたものか……
「あの……本」
と思っていれば向こうから動いてくれた、いつまでも待たせるのも行けないしと。本をテーブルに置いて開いて影にならない程度に屈んで読み始める。
俺は別に読むのが遅いわけでも早いわけでもないと思う。
俺が1ページ読み終わった後も彼女は微動だしにしない……次は俺が声をかけるべきだろう。
「静川さん、ページ読み終わったら言ってくれれば捲るよ?」
静川さんは顔を少し動かしてこちらを見る。身長差のせいで上目遣いになって……かわいい。
「うん、ちょうど今読み終わったところ。……あ、青空君は?」
「俺も今読み終わったところ、じゃあ捲るね」
次のページを開いて、読み終わって、また静川さんに聞く。そうしてると自ずと気づくものだ。
俺と静川さんの1ページを読み終える速度はあまり変わらない。同時と言って良いほどに。
つまりどう言うことか言うと。
――そろそろだな
本をまた捲る、静川さんはなにも言わない。それはとっくに読み終わっているからである。
以心伝心、と言えば良いのだろうか。関わったばかりにも関わらず本を読むスピードと言う点においてはある程度分かって気がする。
双方喋りはしない、でも居心地は悪くない。本に集中できて、途中からは交互に本を捲っていく。
案外、いや存外にこの一時は良い。一人で読むよりも遥かに。
小説は10章もあり今はちょうど一章のクライマックスだ。
人を愛せない少年が、とある夏に出会った少女と一緒に好きと言う感情を学んでいく物語。
急に居なくなった少女の事が頭から離れない、心が痛い。そんな感情に少しずつ気づいていき、少年は……
次のページで山場を迎えるかもしれない。そう思うと無性に喉がなって、すぐとなりに居る彼女も同じようになっていることに気がつかなかった。
さすがに数十分屈んでいると首が凝るな、首を上にあげて一回転させる。
ポキポキと音がして解放感が押し寄せた。さあ、次のページに――
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「そ、そんなお預けありかよぉっ……!」
また明日読みに来れば良いのに、少しオーバーなリアクションを取る俺に。《《微笑み》》かける少女が居た。
ふわふわの栗毛が横で揺れて、その満月のように美しい瞳がこちらを見据える。
はじめの恐怖も、戸惑いもなく。少し広角が上がった唇を見れば微笑んでいるのが目に見えた。
「……また明日、読もう?」
……不躾にも程があるかもしれない。始めて喋った娘にこう思うのは違うかもしれない。
でも、思ったんだ。
震えた指を押さえながら、なんとかひねり出したとでも言わんばかりに期待した表情でこちらをみる目の前の少女が、愛おしいと
――断れるはず無かった
でもよくよく考えればみとれてる暇などない、昼休みはとっくに終わっているのだ。
「じゃ、また明日!」
急いで図書室を出ようとして、後ろへ振り替える。
先ほどまで一緒に居た少女は、小さい。きっと俺以上に早くはないし、歩幅も小さい。
少ししょんぼりした顔をしていて、またあの微笑みが見たくなって――
少女の目の前に行って、後ろを向いて屈む。
「抵抗がなかったら、どうぞ」
少し大胆だったかもしれない、気持ち悪いと思われたかもしれない。いつまでも返答のない背中の少女から逃げるように腰をあげようとしたとき。
背中に、軽いなにかが乗ったのを感じた。……杞憂、だったみたいだ。
まるで紙のように軽い彼女を背中におんぶして雨が振ったばかりなのを示唆するように湿った地面が見える外廊下を走り抜けていく。
雨の後の独特の匂いが鼻腔をくすぐって、同時に夏の暖かな匂いが混ざっている。
――青い夏の匂いがした
小説初心者です。距離感壊れた激甘ラブコメ成分が不足してたので自分で書くことにした処分です。
感想や至らない点、おいおいこの小説クソすぎるだろって点は是非とも教えていただけると嬉しいです。