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アルデバラン

 そうしている間に、さらに一人、二人と戦闘服の男たちが現れた。この二人のゴーグルは、赤レンズではない。


「該当者なしか。どうやらリベレイトではないようだな」


 赤いゴーグルの男は興味がなくなったように、僕を放り捨てると雪人に近づいた。

 後から来た二人が、倒れた雪人の両腕を広げるように抱えている。雪人が苦しそうな表情で、近づく男を見上げた。


「…アルデバランか……」


 男はそれに応えず、雪人の右手を取る。その指を動かし、雪人のウィンドウを開いた。


「や、止めろ……」

「雪人! お前ら、何をするんだ!」


 僕は上半身を起こして叫んだ。僕の声を無視して、ゆっくりと赤ゴーグルの男が、雪人の髪を掴んだ。


「自分の現状を知りたいか?」 


 男がウィンドウを操作する。すると、横の空間に画面が開いた。

 そこには寝ている雪人が魚眼レンズで映っている。雪人のフロート・ピットが映している映像だった。

 と、突然、アラームが鳴り出した。


「警告。着装者の身体に異常が感知されました。至急、ログアウトして救急措置をおとりください」

「うるさいな」


 男は警告の音を切った。アラームが鳴りやむ。魚眼レンズの先には、やはり戦闘服でうろついている男が二人写り込んでいる。二人とも、ライフル銃を抱えていた。


「お前の腹に、一発銃弾をお見舞いしたところだ。まあ、じきだろう。俺はその前に、お前からいただくものがある」


 男はウィンドウのアイコンを操作していたが、突然、その姿が消えた。


「止めろ……」


 二人の男に拘束されている雪人は、力なくうなだれた。

 僕の怒りが、限界に達した。


「クロノス・ブレイク」


 僕はクロノス・ブレイカーを発動すると、ストックしてあるミラリアに変換した。復元した脚で雪人の傍へ駆け寄ると、デリートモードにした剣で、止まっている状態の二人の戦闘服の首を撥ね飛ばした。


「雪人!」


 雪人も止まっている。何故だ? クロノス・ブレイカーを発動させたら、スカイ・エンダーも共振して発動する筈。

 そう思った瞬間、傍の空間から赤いゴーグルの男が現れた。手に、スカイ・エンダーの宝珠を持っている。


「そうか、お前はグラードだったのか」


 赤いゴーグルの男は、舌なめずりをすると笑いを浮かべた。


「クロノス・ブレイカーもいただくとするか」

「スカイ・エンダーを返せ!」


 赤ゴーグルが撃ってくるデリート・ガンの銃弾を、剣で斬り飛ばす。僕はその勢いのまま、デリート・ガンを持つ腕を斬りつけた。


 ガンを持ったまま腕が飛ぶ。赤いゴーグルの男は、もう一方の手でデリート・ソードを抜いていた。それを僕の腹部に斬りつけてくる。僕はそれを剣で受け止めた。


 光剣と剣がぶつかり合った瞬間に、僕は男へ横蹴りを入れた。男の身体が後方へ跳ぶ。その瞬間を狙って、僕は男へ斬りつける。男はそれを後方に転がりながら躱し、素早く身を起こした。


「お前……以前、戦ったな? そうか、あの時の…」


 男は納得したように頷きながら、笑いを浮かべた。


「なるほど…あの時の小僧はグラードだったのか…。謎が解けたよ」


 男はウィンドウをいじると、その姿を変えた。

 赤い丸目のゴーグルはそのままに、頭部は黒いバンダナで包んでいる。薄汚れた白のハーフコートを素肌の上に身に着け、首には猿とおぼわしき小さな髑髏を三つつないだネックレスをぶらさげていた。


「この格好の方がいいだろう?」


 この男を知っている。『トゥルー・ソード』で有名なアルデバランだ。アルデバランは、腰の後ろから二本の鉈を取り出した。


 両手に持った鉈は、焼いた後のように刀身が黒くなっている。アルデバランが向かってきた。僕は剣を構えて迎え撃つ。


 アルデバランが下から斬り上げてくる。が、それはこちらにギリギリ届かない間合いだ。僕はそれを見切り、僅かに上体を逸らすだけで、逆に相手を横薙ぎにしようとした。


 が、突然、何かが飛来してくる。慌てて打ち払うと、小さなナイフだ。その隙を狙ってアルデバランが斬りかかってきた。左の袈裟を受け止めると同時に、右の胴払いが来る。もう受け止める余裕がない。


 身を引いたが、胴を斬られた。鉈に見えてもデリート・ソードらしく、胴の前面部分が削り取られている。アルデバランは連撃で襲ってきた。両方の鉈で襲い掛かる猛撃は、防ぐのが精一杯だ。いや…防ぎきれない。


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