雪人の呼び出し
終わった。なんとなくぼんやりとしていると、不意に着信音が鳴った。
「ニア、誰からだ?」
「相良雪人さまです」
「なんだって?」
僕は跳ね起きて、メールをチェックする。ずっと前に登録した雪人のアドレスから、確かにメールが来ていた。メールを開く。
『至急会いたい。此処に来てくれないか』
文面はそれだけで、後はリンク先が貼ってあった。躊躇いもあったが、僕はフロート・ピットを被るとリンク先へ移動した。
目の前にあるのは、山々に囲まれた高原の丸木小屋だった。空は澄んで晴れわたり、緑は輝いている。小屋の前に佇んでいると、一階のバルコニーに人が現れた。雪人だ。
「雪人」
「明か。来てくれたんだな、ありがとう」
雪人はそう言って笑った。
サガとはこの前再会したが、雪人と会うのは三年ぶりだ。僕は懐かしさと嬉しさがこみあげてきた。
「どうしたんだい?」
「まあ、とりあえず入ってくれよ」
雪人は微笑むと、僕を小屋の中に迎え入れた。丸木小屋の中は調度品も木調で、自然の懐に抱かれているようだった。
「いいところだね。これが雪人のレナルテルーム?」
「ああ、故郷の高原をイメージしたんだ。ま、見かけより本当は狭いけどな」
木目がはっきりと判るテーブルと椅子が置いてあり、僕は促されて椅子に座った。椅子に座ると、真剣な顔をして雪人が口を開いた。
「おれは実は今、危険な立場にいる」
「そうなの? リベレイトの活動で?」
「そうだ。あるデータを入手したんだが、その時にウィルスを仕掛けられたらしい。例えるなら、匂いがついてまわるウィルスだ。おれがレナルテのどのワールドに行っても追尾されるような代物だ。それでレナルテでも、そしてリアルでも追われてる」
「大丈夫なのかい?」
雪人は首を振った。
「あまり大丈夫じゃない。それでお前にどうしても頼みたい事があるんだ」
そう言うと雪人は、一つのメモリーを差し出した。僕はそれを受け取る。
「これをリスティとグレタに届けてほしい。このフックで、今夜の17時以降に行ってみてくれ。そこがリベレイトの集合ワールドだ」
「ちょ、ちょっと待って」
僕は驚いて、雪人に訊き返した。
「リスティとグレタだって? 彼女らが――リベレイトなの?」
「そうだ」
雪人は可笑しそうに笑った。
「おれも最初は驚いたよ。まさかキアラがリスティたちとコラボしたり、同じパーティーになるなんてな。けど、そんな偶然も運命だったのかもしれない。頼まれてくれるか、明?」
「もちらんだよ、雪人。けど、君はどうするのさ」
「おれはしばらく逃――」
雪人はそう言いかけて、急に席を立った。椅子が勢いで音を立てて床に倒れる。直後、雪人は腹を両手で抑えながら、床へと倒れ込んだ。
「う……」
「雪人!」
僕は倒れた雪人に駆け寄った。
「雪人、どうしたんだ!」
その時、部屋に一人の男が突然現れた。
黒地の戦闘服をまとい、丸い赤レンズの嵌ったゴーグルを着けている。頭には黒いヘルメットを被り、口元は厚手のマフラーで覆われていた。そのマフラーを降ろした口元に、にやりと笑みが浮かぶ。
「残念だが、狩りは終わりのようだな」
戦闘服の男は、そう言うと雪人に近寄ってきた。
「だ、誰だ、お前は!」
そう叫んだ瞬間、僕は男の取り出した銃に二発撃たれた。驚いたことにそれはデリートガンであり、僕の腹に穴が開き、足が膝下から切断されて僕は倒れた。
「お前こそ誰だ? こいつの仲間か?」
男は倒れた僕の顎を持ち上げる。ゴーグルが僕の顔を映している。どうやら顔認証をしているらしかった。




