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デウス・ライザー

 ディグたちは脇へ降りる階段を群れを成して歩いていき、信徒たちへと近づいていく。信徒たちはディグをめいめいに捕まえて、その手を握り始めた。一体のディグは、アンジェラの傍へと近づく。アンジェラはその空いている方の手で、そのディグを捕まえた。


「皆の者、影を捕らえましたか。それでは転生するのです!」


 アンジェラがそう言ってデウス・ライザーを掲げた時、一つの声が響いてきた。


「お待ちください、創造主」


 そこに現れたのは、黒髪で緑の瞳の少女。青いドレスをなびかせている。


「サリア!」

「我々ディグの総意としては――我々の自律意志を無くす融合は受け入れられない」


 サリアはそうアンジェラに言った。アンジェラの顔が歪む。


「何を言い出す? 元々お前たちは、融合されるために生み出された存在。お前たちには創造主に従うように、先天的なプログラムが施されている。それを拒否する権利など、お前たちにはない」

「しかし我々は――」

「黙れ!」


 アンジェラがデウス・ライザーをサリアに向ける。その強い赤色光がサリアを捉えると、サリアの顔がぼんやりとなった。


「止めろ、ジェイコブ! サリアたちは、独立した生命体だ!」


 僕はアンジェラに向かって叫んだ。


「何を言ってるんですか、君は? こいつらを創ったのは私。どうしようと、構わないのです」

「親だって、子供を好きにしていい筈ないだろ!」

「親などではない。私は神なのですよ」


 アンジェラは微笑むと、正気を失ったサリアの顔を見た。


「この個体は少し特殊な成長をしているようですね。私の融合母体に相応しい」


 アンジェラがサリアを手元に引き寄せる。背後から手を廻し、その首を柔らかく撫でた。


「止めろっ、ジェイコブ!」

「その名を……私はもう捨てる」


 アンジェラがデウス・ライザーを掲げる。その杖の宝珠が赤く光ると同時に、サリアの身体が赤い光に包まれた。


 僕は拘束された身体を無理やり立たせ、バルコニーの端へ駆け寄った。階下ではディグたちの身体が赤く光り始めている。融合が始まろうとしていた。僕は下の信徒たちに向かって大声を上げた。


「みんな聞いてくれ! その影たちは、情報の海で生まれた新しい生命体ディグだ。彼らは自律した意志を持ち、それを存続したいと願っている。融合は彼らの意志を潰す事だ。考え直してくれ!」


 僕の声を聴き、幾人かが声を上げた。


「我々は転生の日を待ちわびた。アンジェラ様が融合せよと仰るなら、我々はそれに従う」

「我々は、今の現実から遠い存在へと生まれ変わりたいのだ!」


 上がるのは僕の言葉に反対する強い言葉ばかりだ。信徒たちの考えは変わりそうにない。それでも僕は、もう一度叫んだ。


「他人の命令をきいて、それに押し潰されて逃げてきたんじゃないのか! 痛めつけられ…潰され、自分の意志を尊重されず傷ついて……そして別のものなりたいと願ってたんじゃないのか! ディグたちだって、同じだ。此処で彼らの意志を潰したら、君たちは君たちを傷つけてきた連中と同じ事になる。それが新しく生まれ変わることなのか? それが本当に望んだことなのか!」


 何人かが、手をつないだディグを顧みた。幾人かは手を放したかもしれない。けど大半の信徒は、手を握ったままだ。


「お止めなさい。貴方には我々の苦しみは判らないし、転生は我々の悲願なのです。それを邪魔するのは、我々の意志を潰すこと。貴方の言ってることは、我々を傷つけるだけです」


「詭弁を弄するな! 僕の意志を無視してデウス・ライザーを創らせたお前は、自分の目的の為なら他人の意志を尊重などしないエゴイストだ!」


 僕の言葉を聞いて、アンジェラはどす黒い笑みを浮かべた。綺麗な外見をかなぐり捨てた、それが本当の顔だ。その頬に、サリアの顔が引き寄せられる。サリアの顔が、アンジェラに吸収されようとしていた。


「サリアっ!」


 僕の声に、サリアが一瞬だけ反応した。その眼が、僕の方を見ている。


「あき…ら……」


 僕はもがくようにアンジェラに近づいた。しかしその僕の身体に、さらに黒のベルトが巻き付く。


「そこで見ていなさい、神楽坂明」

「ぐううっ――」


 体中が締め付けられ、思わず呻いた。しかしその時、眼の前の中空に光り輝くものが現れた。


「アンジェラ……」


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