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勧誘員は誰か?

「すいません!」


 男性教師に注意されながらも、そのまま廊下を走り抜ける。隣のクラスまで来ると、教室を覗き込んだ。


「ケイト! 勧誘員が判った!」

「――本当?」


 ケイトの返事も待たずさらに走る。すぐにケイトが横に並んで走り始めた。


「何処に向かってるの?」

「図書館」


 やがて図書館に到着し、僕らは走りを止めた。静かに歩いて、奥へ進む。まえに会った席に、前橋公彦は座っていた。

 公彦が面倒くさそうに顔を上げる。僕は彼の傍に近づいていった。


「やあ」

「…誰だっけ?」

「倉坂アキラ。前に赤路学くんに連れられてきた転校生だ」

「そうだっけか」


 公彦は興味なさそうに、視線を逸らした。その彼に、僕は言った。


「デジタル・ニルヴァーナについて教えてほしいんだけど」


 僅かに彼の表情が動く。


「……何のこと?」


 彼がとぼけた時、もう一人の学生が図書館に飛び込んできた。滝川和樹だ。公彦の顔色が明らかに変わった。


「ちっ」 


 舌打ちをすると、公彦は席を立つ。そのまま背を向けると、ウィンドウを開き始めた。ログアウトするつもりだ。


「クロノス・ブレイク」


 クロノス・ブレイカーを発動させると、彼の時間が止まったように遅くなる。僕はフックを取り出すと、公彦に放り投げた。


「ブレイク・アウト」


 時間が戻り、公彦はウィンドウの中で操作して、ログアウトをする。公彦の姿が消えた。


「あ! 貴様ら、貴様らのおかげで逃がしたじゃないか! 何てことしてくれるんだ。あれほど不用意な行動をするなと言っただろう!」


 駆けてきた滝川が僕たちに怒鳴りつける。なんか彼はもうちょっとおとなしいキャラじゃなかったっけ? それともブチ切れキャラなのかな?


「此処にいた学生の事、知ってたんですか?」

「それは――」


 滝川が口ごもる。ケイトがここぞとばかりに口を挟んだ。


「知らなかったのね? アキラ、説明してあげなさい」


 何も知らないのに、よくそこまで偉そうな態度が取れるな。なまじケイトが美少女学生だから、妙な可愛さがある。


「前に一年と三年は調べたって言ってましたよね。あの学生は何年生でした?」

「いや……あんな奴は、この学校にはいない。登録のない生徒だ」

「そう。前橋公彦は、不正入学者だったんです」


 僕はケイトと滝川に説明した。


「僕は別件で学校中の生徒の名前を調べました。別に、普通にクラス名簿を取り寄せただけですけどね。その時、前橋公彦という名前がない事に気づいたんです。けど、彼とは図書館で会っている。彼は図書館にいるだけで、クラスには属してない。不法滞在者の生徒だったんです」


「それが判ってたのに、奴を取り逃がしたんだろう。奴が勧誘員なら、色々、調べてから接近すべきだったんだ」


 苛立ったような滝川の声に、僕は苦笑を浮かべた。


「ちゃんと追尾できるように、フックをつけときましたよ。もしかしたら、電子涅槃教の本部とかに逃げ込んでるかもしれない。追いかけましょう」

「さすがアキラ、抜け目ないわね」


 黙り込んだ滝川とケイトに、僕はフックを投げる。二人がそれを受け取ったら、僕は公彦のフックの後を追った。


   *


 移動して目の間に広がったのは、何処かの神殿の内部のような景色だ。大理石の太い柱が何本も立ち、壁にも窓にも豪華な意匠が施されている。


「誰だ、お前たちは?」


 周りにいた数人が声を上げた。白いガウンっぽい服を着ている。相変わらずの、新興宗教にありがちな衣装だ。多分、信者なんだろう。


「教祖アンジェラ様に逢いに来ました。お目通りを」

「アンジェラ様に、気安く合わせることなどできぬ。帰れ!」

「あれ、前橋公彦くんに勧誘されたんですけど」


 僕はとぼけて笑ってみせた。しかし教徒たちは目の前を塞ぐ。通せんぼをするという事は、ここはアバターでも接触できる空間という事か。


「ど、どうやって俺の後を追ってきた?」


 向う側から声がする。前橋公彦の驚いた表情が見えた。


「やあ、前橋公彦くん。遊びに来たよ」

「うるさい! お前たちが公安の人間だって事は判ってる。お前たちに話すことなど何もない。帰れ!」


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