⒑、デジタル・ニルヴァーナ ヤンキー走る!
ストーリー・ビューのシナリオを書いて夜更かしをし、、僕は『プラトニック学園』には二限目から入った。
「おい、アキラ、襲いから心配したぞ」
授業が終わると、疾風マサオがそう話しかけてくる。僕はマサオに言った。
「マサオ、今日が期限だ。美那さんが誰か判った?」
「おお、判った。…と、思う」
マサオが少し不安げに言う。僕は頷いて、クラスメイトを見回した。
「マサオ、美那さんは誰?」
マサオは黙って歩き始める。そして、一人のクラスメイトの前で立ち止まった。
「お前が美那だ」
突然の宣言に驚愕の表情を見せたのは――クラス委員長の赤路学だった。
「な……何を言ってるんだ、君は?」
学は眼鏡の奥の眼を見開きながら、動揺した口調でそう言った。
「お前が美那だろう? とぼけなくてもいい。オレには判ったんだ」
マサオは真面目な顔で、学に言った。学は思い直したように平静に戻ると、マサオを睨みつけた。
「君に判る筈がない。どうせ、そこのアキラにでも教わったんだろう? 君は、社員の神楽坂さんでしょう?」
学は僕を見て、そう問い正した。僕は黙って頷いた。
「ほうら! やっぱり1人でぼくを見つけることなんてできないんだ」
「最初は全く判らなかったよ」
マサオはそう、ゆっくりと話し始めた。事態の異常さに気付いて、クラスメイトが注目し始めてる。けど構わず、マサオは言葉を続けた。
「一生懸命になって女子から探してたんだが判らなかった。みんな美那とは違う感じがしたんだ。けど、アキラに言われた事を思い出したんだ。『女子とは限らないよ』ってな。それで、男子の様子も観察した。そしたら、よく見たら委員長が美那の雰囲気にそっくりだったんだ。うまく言えないけど、話し方とか仕草とか……。それで判ったよ。――けど、アキラは学が美那だって、眼をつけてたんだろう? よく判ったな」
「まず学校中の生徒の名前を見て、少しの改変で近くなる名前を捜したんです。けど、そういう感じの名前がなかった。それでKAZAMA MINAのアナグラムをいじったんですよ。けど、これもピッタリ合う名前はなかった。けど、ふとAKAZI MANABは近いと思った。それで『美那』を『ビナ』と読んだら、アナグラムが合う事に気付いたんです。で、多分、彼だろうと」
学の眼が驚きに開かれる。僕は学に言った。
「確かにヒントはあげた。けど、マサオは自力で君を見つけ出したんだ。マサオが君の事を、本当に大事にしてきたからだ。君の方も、それに応えてあげてもいいんじゃないかな」
「嫌だ! ぼくは……現実に戻りたくない!」
学は両手で顔を覆って叫んだ。マサオがそこで声を上げる。
「どうしてだ? どうしてそんな事を言うんだ? オレに話してくれよ」
手を開いて指の隙間から、学がマサオを見つめる。けど、その眼が潤むと、学は駆けだした。
「美那!」
学は教室の外へと走っていく。僕はマサオに言った。
「マサオ、追わないと」
「アキラ、一緒に来てくれ!」
いや、そこは親子の話し合いが必要な場面じゃ…。
「オレじゃあ、あいつの話を聞いてやれる自信がない。頼む、一緒に来てくれ!」
「仕方ないな」
僕はそう答えて、マサオと一緒に走り出した。
学はグラウンド傍の通路まで駆けてきていた。一気に走って息が上がったらしい。木陰で学は、幹に手をかけて俯いていた。
「美那……」
「その名前で呼ぶな!」
学が苛立った眼で、呼びかけたマサオを睨む。マサオは一瞬怯んだが、抗してもう一度呼びかけた。
「そんな事言ったって、お前は美那だ。それは変えようがないじゃないか」
「その価値観が嫌なんだ!」
学は顔を上げると、マサオにくってかかった。
「いつだって現実が大事で、変えようがないものと思ってる。そんな奴に、ぼくの気持ちなんか判らないさ」
「確かに判らない。だから、お前が何を考えてるのか、聞かせてくれよ」




