真田真希とランチ
昼休憩になると、真田真希が僕のところへやってきた。
「アキラくん、お昼一緒にどうかな」
そう言うと真希は微笑んだ。おーっ! と、周りで歓声があがる。
「あ…うん、いいけど」
僕は少し動揺しながら、そう答えつつキヨシの方を見た。
「バカ、オレたちの事なんて気にすんなよ。ほら、行って来いよ」
そう言ってキヨシが僕を立たせて、真希の前に突き出す。真希が微笑みながら、先に立って歩いていく。僕は後を追った。
「ごゆっくり~」
背後から、くるみの声がした。
真希の隣に並んで、廊下を一緒に歩く。
「会って二日目なのに、馴れ馴れしいって思ってる?」
「ううん、全然。ただ真希さんて、男子とあまり仲良くしない人だって聞いたから、意外だなって」
僕の言葉を聞くと、真希はくすぐったいように笑った。
「それはね、仲良くしたい男子がいなかったから」
それって――。
“明の流動的影響力は、彼女に好意を持っている”
サリアの声がした。言われなくたって判ってるよ、そんな事は。高校生の時には、こんな風に女子と喋った事なかったんだ、仕方ないだろ。
他愛もない会話をしながら、真希は僕を学園の裏手の庭の中へ連れてきた。程よい木陰ができる樹林の中で、芝が覆う一角に真希はシートを敷いた。二人でそこに座る。と、真希は持っていた鞄からお弁当を取り出した。
「うわ、お手製?」
「ふふ、いやね。そんな訳ないでしょ。『お手製弁当』って名前の商品」
「そっか、そりゃそうだ」
学園はあっても自宅があるわけじゃないんだから、当然だ。
「けど、お手製のつもり。で、食べてね」
「うん。いただきます!」
僕はそう言うと、おにぎりを頬張った。
「うん、美味しいよ」
真希が嬉しそうに微笑んだ。僕らは淡い陽射しの中で、緑の輝きを見ながらお弁当を食べた。他愛もない話をして笑った。
不意に、真希が言った。
「…アキラくんてさ、多分、本当に若いんだよね」
「え?」
「30代…もしかしたら、20代だったりして」
独り言のように呟いた真希に、僕は訊いてみた。
「そういう真希さんは、幾つなの?」
「女の子に歳は訊かない」
真希は微笑んでそう返した。
「あ、ごめん」
「ううん。私が言い出したんだから謝らないで。ね、アキラくんが使ってる技は何?」
「あれは剣術。…の応用みたいな感じかな。最初にやったのは剣道だったけど、その後に剣術を教わった事があるんだ」
「そう。剣道の試合で使ったら怒られそうだけど、けど実際に戦ったら凄く強いと思った。凄く楽しかった」
そう真希は微笑んだ。また、僕の胸の中でどきんと音がする。
「相手になれたなら、嬉しいけど」
「私ね――」
真希の瞳が、僕を真っすぐに見つめた。その剣風と同じ、真っすぐ中心に斬り込んでくる瞳だ。
「アキラくんみたいな人を待ってたの。…ううん。アキラくんを待ってたのかもしれない」
「真希……さん」
僕は胸の高鳴りを意識しながら、真希を見つめ返すことしかできない。真希は嬉しそうに微笑んだ。
*
お昼を一緒に取った後、そのまま一緒に教室に戻るかと思いきや、真希は「先に戻ってて」と言って姿を消した。そのまま午後の授業には姿を見せなかった。
やがて放課後になる。僕は剣道部に行くかどうしようか迷っていると、真希が現れた。
「あ、真希さん」
僕の方に歩いてくる真希に、僕は呼びかけた。真希は微笑みで返す。
「ごめんね。じゃあ行きましょ」
「うん……」
その笑顔が何故か疲れたように見える。僕はちょっと気になりながらも席を立った。




