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学園の転校生

 頭を下げると、わっと教室が沸いた。その時、隣の教室のどよめきが聞こえてきた。恐らく、ケイトが転校生として紹介されたのだろう。こちらの教室で、囁き声が聞こえる。


「隣に来た転校生、赤毛の外人美少女だってよ」

「マジで? うわぁ、そっちがよかったあ」


 すみませんね、普通の男子高生で。まあ実際、高校生のケイトは、絶句する程の美少女だったけど。


 『プラトニック学園』は、学園シュミレーションというタイプのゲームという事だった。まずログインすると、自分の姿をスキャンされた後、高校時代にまで年齢遡行したアバターが提示される。ただし絵柄は少女漫画風で、僕も前髪サラサラの凄い美少年だった。ので、僕はそのまま行く。


 その自分を年齢遡行させたアバターを使ってもいいが、全然、別のアバターを使うこともできる。男女も変えられるし、顔も体形も声も好きに選ぶことができる。制服はブレザー型のプラトニック学園の制服があるが、それ以外のものを選択してもいい。転校前の制服、という扱いになるそうだ。


 学園では何をしても構わないが、禁則事項がある。それはセックスの禁止だ。していいのはキスまでで、それ以上の行為はプラトニック学園では校則違反らしい。まあ実際、そういう機能のないアバターという事なんだろうけど。


「それじゃあ、窓際の後ろから二番目の席に座って」


 なんか、あの位置って感じだね。僕は言われた通り、席に座る。すると授業が始まった。


 ちなみに授業も本当の高校生の学習内容である。が、授業時間は短い。プラトニック学園では24時間経つと、三日経つように時間割が組まれている。つまり一日が8時間なのだ。で、一日につき1時間ずつメンテナンス時間がある。ので、実質7時間が一日。0時から7時までが一番早い時間で、8時から15時が次。16時から23時が最後の時間枠という訳である。


 僕たちがログインしてるのは8時からの枠だ。7時間のうち、後ろ2時間は放課後になる。そして5時間の中に昼休憩が一時間ある。授業3時限の後に昼、そして午後の授業一時限という事になってるのだが、授業は一時間のうち20分。残りは授業の合間の放課という事になる。つまり、授業はメインではなく、放課がメインという事なのだ。


 で、一時限目が終わると、早速、転校生の僕の元へクラスメートの視線が集まってきた。まず、前の席の男子が話しかけてくる。


「オレ、相葉キヨシ、よろしくな」


 少女漫画だったら、ちょっと明るくやんちゃなクラスメートという感じだろうか。ネクタイは緩めにして、髪は少し茶髪気味の短髪。にっかりと笑うと、大きく歯が見えるタイプだ。


「ねえねえ、前の学校で剣道強かったんでしょ?」


 そう言って話しかけてきたのは、隣の席の女子だ。こちらもちょっとブラウンのふんわり巻き毛で、お洒落とか恋愛とか好きです、という感じの雰囲気だ。名前は……


「あたし、加藤くるみ。こっちでも剣道やるの? それとも別の部活やる?」

「あ……いや、どうしようかと」


 そう、実はプラトニック学園は転校前に、自分の設定をする事ができる。それで僕は『特技・剣道。成績・地方大会3位』とか書いたのだ。無論、これは事実ではなない。僕はそんなにいい成績も出してないし、転校すると同時に剣道も止めてしまった。これは僕の「そうありたかった過去」の事績だ。


 ちなみに実績はどんな設定でもできるので、全国一位とかでも構わないようだ。しかしあんまり高い成績をつけると、実際の放課後の部活動の際、実力のなさが露呈するので止めた方がいいと注意があった。


「じゃあ、サッカーやろうぜ、サッカー」

「何を言ってるんだ。是非、ボクと一緒に演劇をやらないか?」


 あっという間に周りの人だかりが騒ぎ出す。まあ、転校生というのはお祭りのネタみたいなものだ、仕方ない。僕の意志はそっちのけで、色々な話が盛り上がり始めた。僕はそれを笑いながら見ている。

……ふと、こんな転校生になりたかった、と思った。僕が転校した時は、東成市からの転校生という事で、最初から僕は敵意に囲まれていた。その後に続く無視と嫌がらせ。学校時代にいい思い出なんかない。


 そうか。このゲームは、そういう『失われた過去』を取り戻すゲームなのだ。この学園では度を超えたイジメ、嫌がらせをするとゲームから退場になると注意があった。恋愛ものの中にある『嫉妬からの嫌がらせ』くらいはともかく、深刻なイジメになると『楽しい学園生活』というゲームの主旨から外れるという事だった。


 僕の周りの喧騒とは別に、離れたところから僕を見ている視線に気が付いた。真っ直ぐな髪をポニーテールにした少女。黒目がちの大きな瞳を静かにこちらに向けている。僕と目が合うと、彼女はすっと視線を躱した。


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