レナルティ
「いつ喰っても、日本の料理は美味いな」
「ここは中々のレナルティだね」
レナルテの中の感度の高さは、《レナルティ》という言葉で表現される。より多くのデータを取るのは、レナルティを高めるためだ。
レオが焼き鳥を食べながら僕に訊く。
「次のシリーズはどうするんだ? またゲストコラボでもするのか?」
「いや、今度はいつもに戻すつもりだけど 」
僕はアバターに紐づけできるAIを三体持っている。いつもはその三体で脇の登場人物を造り、物語に組み込んでいるのだ。が、それより気になることに、僕は口を開いた。
「――そろそろいいんじゃない? マリーネ、何か話があるんでしょ」
あ……という声のない顔をマリーネが見せた。その後で、思い切ったように口火を切る。
「実は……相談があって、今日、来てもらったんです」
「うん」
僕は隣のマリーネの顔を見た。
「今…プロのチームに誘われてるんです」
レオが驚きの顔を見せる。
「そうなのか?」
「はい。このチームなんですけど…」
マリーネはそう言うと、人差し指を擦り上げてメニューアイコンを出し、そこからファイルをアップした。僕らのテーブルの端の空間に、二次元画面が出現する。僕はそこに映し出されるパーティーの様子を注意深く見た。
「剣士・魔導士・格闘家・忍者・僧侶の五人編成で、僧侶だけ女性。全員がSSランクで……ビューはシンプルな攻略もの。けど……21エリアのこのモンスター、Xランクだね。よく倒してる、凄いな」
正直に言うと、僕らの力ではこのモンスターは攻略できない。それこそSSランクやXランクのキャラクターをレンタルしてこないと無理だろう。高ランクモンスターは、攻略するとボーナスポイントが高いので、プロプレイヤーは高ランクモンスターを中心に攻略する。
ノワルドで得られるポイントは、レナルテ内の仮想通貨であるレナルに換金できる。その時の相場というものはあるが、ゲームをして金を稼ぐこともできるのだ。高ランクプレイヤーはレンタル料も入るし、ゲットしたレアアイテムやレア素材を転売するなど、様々な収益法があるので、専念すればゲームだけでプロとしてやっていける人もそれなりに多いのである。
「彼らは前線チームなんだよね?」
「はい。まずトップ300に入るのは当たり前だって言ってました」
「ヒュー、凄いな」
レオが感心した顔で口にした。
『ノワルド・アドベンチャー』は、三つのゲーム会社が新作エリアを創っている。そのため4ヶ月に一回は新しいエリアが公開されるのだ。プレイヤーは課金すればそれまでのアイテムを持ち込めるが、新しいエリアは全員レベル1から始める。それから最終ボスを倒すレースが始まるが、ラスボスを早く倒した者ほど高いポイントを得ることができる。特にトップ10は高額ポイントなのはもちろんだが、300位くらいまでは高額ポイントと言っていい。その後から~1000位、2500位、~5000位、~10000位といった感じで、攻略ポイントは段階的に落ちていく。
その最初の300位に入るのはトッププレイヤーで、かなりの率でゲームを本業にしているプロプレイヤーだ。300位までの褒賞は総額で3000万レナル。5人チームなら1人当たり600万レナルにもなるわけで、これを年に三回行えば、年収は1800万レナルにもなるので、プロが登場するのも必然である。そういうプロはチームで活動してるのが普通で、それを前線チームと呼んでいる。
「彼らはこういう活動もやってます」
マリーネが別のファイルを開く。それは彼らがバンド活動をしている映像だった。ポップス寄りのロックだ、悪くはない。
「名前は『アルティメット・フレイム』ね」
僕はイケメンのボーカルの歌声を聞きながら、その配信元の名前を確認した。で、映像を消す。静けさが戻った。
「で、このチームから誘われてるんだね?」
「……はい。僧侶のラミアさんが脱退したそうで、治癒系支援メンバーを探してるというお話しでした」
「それで、マリーネはどうしたいの?」
僕は、一番肝心なところを訊ねた。が、それは形の上でだ。こういう話を持ちだす時は、本人の中では恐らく意志は固まってる。
マリーネは少し俯いて、言葉を発した。
「わたし……正直迷ってます。勝手なことを言ってると思います。けど、プロとしてやっていく事に魅力を感じてるんです」
「ううん。勝手な事とは思わないよ。もっと上に行きたい、って気持ちが出るのは当たり前だと思う。今のチームではプロほどの収益は出ないしね」
僕は渡りを出した。マリーネが顔を上げる。
「わたし、昼間は工場で作業をしてます」
突然のプライベートの告白に、レオも少し驚いた顔をした。